統合失調症だったハウス加賀谷が、SNSで質問に答え続ける理由

「人生終わった」16歳が、芸人になって生きた30年と、これからのこと【後編】

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毎日、質問の答えを探している

新宿で行われたライブ。松本キックさんの乾いた間合い、ハウス加賀谷さんの熱と衣装は変わらない。ふたりは「松本ハウス」であり続ける

「鬱の人が、早くよくなってバリバリ働きたいっていうの、不思議ですよね。職場が原因で鬱病になったのにね」

心の病で長く休養をしていたお笑い芸人のハウス加賀谷さんはこう言って、ほんとうに、心から「不思議」そうな顔をみせた。

テレビ番組『電波少年』や『ボキャブラ天国』で人気絶頂だった1999年、お笑いコンビ「松本ハウス」の加賀谷さんは統合失調症を発症し、舞台に立てなくなった。入院生活、退院後の療養。10年を経て、コンビは復活する。今は「松本ハウス」として活動するとともに、SNSの「質問箱」での回答、フォロワー1万6000人のTwitterの発言が注目を集めている。

ひとりで新宿を歩いているとき、目の前でホームレスと思われる男性が倒れた。1月18日にそのことをつぶやいたツイートに、1万件を超える反応が寄せられた。

「あのときはびっくりしました。僕が歩いていたら、目の前でおじさんがバタッと倒れたんです。そしたら、側を歩いていた人がヒュンと横に飛んだんです。ヒュン、と。そのあと、みんなおじさんをサッサとよけて歩いていく。『あら~』と思って。肩を貸して起こしてあげました。

冷静に考えたら、新型コロナがはやっている時期なので、僕も軽率だったかもしれません。でも、あんなに人がいて、みんなよけて歩くなんて……。おじさんが倒れたことより、そっちのほうにびっくりしました。で、そのことをツイッターにのせたんです」

倒れた男性は、しばらくして目を覚まして歩きだしたので、その場で見送ったという。

「僕のツイッターには、いろいろな意見がきました。『善いことしたのを誇っているようでムカつく』みたいな意見もあって。僕、ほんとに驚いたから呟いたんですけど。いろいろな人がいるなと思いました。

目の前で人が倒れたら、大丈夫ですかって声をかける。そのことが、こんなに大ごとになるとは、です」

加賀谷さんは、それについて「いろんな人がいるな」以上のことは、言わない。

「新宿おじさん事件」でフォロワーが増えた。質問箱の回答に泣けるというファンも多い

重い質問には1日かけて「答え」を探す

SNSの「質問箱」には今、毎日いろいろな質問が届く。

「否定的な意見ももらいます。そういうのを読むと、正直ダメージは残りますでも、僕なんかの答えを求めている人も多いから」

コロナ禍の制限がかかる以前は、「統合失調症の当事者」として講演会などに招かれ、松本ハウスの漫才を披露したあと、質疑応答も受けていた。会場に足を運んでくれた、この病気に悩む当事者や家族の質問に対面で答えてきた。

「直接お会いする機会が、なくなってしまって。質問は、たとえば『陰性症状がいつまでもおさまらないんですけど、どうしたらいいでしょうか』みたいなものがあって、それに答えることがすごく大事だと思ってました。だから、質疑応答ができなくなってしまった代わりに『質問箱』っていう仕組みを知って、利用することにしたんです」

これまで加賀谷さんに届いた質問は4600件を越えた。最近は1日に20件、30件の質問に答えることもある。昨年2月に始めて1年。毎日、ずっと、質問に答えている。

「質問のなかには『こういうバンド知ってますか』というような軽いものもあって、そういう質問にはすぐ答えることができるんですけど、重い質問もあるんです。

重い質問には、すぐに答えられません。しっかり考えて、答え方も考えて、椅子に座って書いています。

どんなふうに答えればいいのか、1日中考えていることもあります。散歩に出かけて、歩きながら考えたり。深刻な質問をもらうと、ずっと頭の中でそのことを考えてます」

届いた問いには、考え抜いて「必ず答える」という加賀谷さん。

「僕なんか、そんな偉そうなものではないんですよ。でもね、経験者だからわかるっていうこともあるんです。

不安や悩みで頭がいっぱいになっていると、どうしても視野が狭くなるんです。自分の思い込みにとらわれていることが多いから、ちょっと視点を変えたりして、その思い込みをほぐしてあげるように答えます。凝り固まった思考をほぐすお手伝い、です。

たとえば『統合失調症になってお先真っ暗です』という人には、『いやいや、あなたの人生は、あなたが感じて、作って、育てていくものですから、最初にそんなに決めつけないで』とか。

不思議なんですけど、職場の人間関係が原因で、心の病を発症された方がいらっしゃいますよね。で、闘病されますよね。その方に、『これからどうしたい?』と聞くと、多くの人が『早く職場に復帰して、バリバリ働きたい』と言うんです。そこで鬱になったり、統合失調症になったのに。わざわざ元の職場に戻らなくてもできることはたくさんあるのにね。だから『バリバリしなくても、いいんじゃないですか』そんなふうに答えてます

「列車に飛び込む人は、人の迷惑を考えないのか」という質問に加賀谷さんは、こう答えた。

「もしかして貴方は死を間近に考えたことがないのではありませんか? 死ぬに当たって重要に思えてしまうのは、如何(いか)に迷惑をかけないかではなく、如何に確実に死ねるか、になると思います。

おそらく飛び込まれる方々はみなさん迷惑をかけることは百も承知だと思いますよ。 人に迷惑をかけて自殺するなんてけしからーん!ではなく、如何に自殺を考える人の気持ちに寄り添えるかが大事なのではないかと思います」(「質問箱」より)

小さな目標をひとつずつクリアして、復活の道へ

そういう加賀谷さん自身、お笑い芸人に戻りたくて戻ってきた。

「そうですね。だけど、芸人は芸人でも、仕事量に雲泥の差がありますから。最初は『あわよくば』と思っていたんです。でも、そんなに甘いものじゃないから」

退院してすぐお笑いの世界に戻ったのではなかった。喫茶店や回転寿司店、建築現場で日雇い仕事、アパレル関係でアクセサリー作りなど、いくつものアルバイトを経験して、「社会でやっていけるかも」とほんの少し自信をつけてから、相方の松本キックさんに「またやりたい」と連絡したのだ。

「あとから知ったんですけど、目標にいきなりぶつかっていかないで、小さな成功体験を積んで、最終的に目的に到達するという方法があるらしいんです。スモールステップ法といいます。知らず知らずのうちにそれを実践してたんですね」

目標を細分化して、簡単なことから達成していく「スモールステップ法」は子育てから人材育成まで幅広い分野で使える手法という。加賀谷さんはそれを取り入れていた。ひとつ、ひとつ。長い地道な努力の10年、そして30年だった。

統合失調症に「完治」はないけれど「不幸の先取り」はしない

「治った、というわけではないんですよ。統合失調症は完治ということがないんです。復活したあとも、今から3~4年前に大きく体調を崩して、1年に4回入退院を繰り返したことがありました。今も薬を飲んでいます。

また体調を崩すようなことがあるかもしれない。でもね、この先何が起こるかわからないってのは、だれも同じですよね。だれだって、この先、病気になるかもしれない、怪我をしてしまうかもしれないです。まだ起こっていないことを心配しても仕方がない。不幸を先取りしないで、今できることをやればいいんです」

悩んでいる人にメッセージを発していくこと、そして漫才を続けたいという。

「松本キックさんとの漫才は体が動かなくなるまで続けたい。昔みたいに売れて、仕事がたくさんなくてもいいんです。忙しいのはたいへんですから(笑)。漫才は続けたい。あとは本を読んだりする時間があればいいです。僕はそんなに欲張らないです」

ハウス加賀谷さん。17歳でお笑いコンビ「松本ハウス」としてデビューして、長いブランクを挟んで今年で30年。信頼する相方、松本キックさんとは、プライベートでは会わないという。ライブの終演後は、さっさと別々に帰っていく。そうして松本ハウスの活動は「体が動かなくなるまで」続くのだ。16歳のとき「人生終わった」と思った加賀谷さんは、2月の誕生日で46歳になる。

相談に答える視線の確かさには、理由があった

<ハウス加賀谷:1974年、東京生まれ。相方の松本キックさんとのコンビ「松本ハウス」は、長い休止期間を挟んで結成30年になる。お笑い芸人として舞台に立つほか、松本ハウスTwitter(https://twitter.com/matsumotohausu)や、質問箱での誠実さが注目を集めている。発症から復活までは著書『統合失調症がやってきた』(松本ハウス/幻冬舎文庫)に詳しい>

  • 取材・文中川いづみ撮影tenhana

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