『ザワつく!金曜日』に見る、「サバンナ高橋」のスネ夫的仕事術 | FRIDAYデジタル

『ザワつく!金曜日』に見る、「サバンナ高橋」のスネ夫的仕事術

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「太鼓持ち芸人」から「猛獣使い」に!

長島一茂、石原良純、高嶋ちさ子の3人によるトークバラエティ『ザワつく!金曜日』(テレビ朝日系)が、今や一番安定した人気番組となっている。ここまでの人気番組になると、番組開始当初は誰が想像しただろうか。

振り返ってみると、最初は2018年10月に水曜深夜に放送されていた『ザワつく!一茂良純時々ちさ子の会』で、深夜だからこそできる言いたい放題・やりたい放題だと解釈していた。

しかし、それが2019年4月に『ザワつく!金曜日』と改題し、21時台に昇格。さらに、2019年10月の改変の目玉として金曜19時台に異動してからは勢いがますます加速し、10月4日放送の3時間スペシャルでは、番組平均視聴率15.1%を記録。また、昨年11月第2週(9~15日)には通常回で世帯視聴率14.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)を記録し、『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)の放送がなかった週とはいえ、『世界の果てまでイッテQ!』や『笑点』(ともに日本テレビ系)を上回り、トップに躍り出たことが話題になった。さらに、今年1月22日放送回では、番組歴代最高となる世帯視聴率15.6%を記録している。

今は個人視聴率や、SNSなどの反響など、様々な指標があるとはいえ、それにしても強い。なぜこんなにも強いのか。

高嶋ちさ子の息子に「あの人だけ仕事してる」と評価されたサバンナ・高橋茂雄(イラスト:まつもとりえこ)
高嶋ちさ子の息子に「あの人だけ仕事してる」と評価されたサバンナ・高橋茂雄(イラスト:まつもとりえこ)

その理由として、長島一茂、石原良純、高嶋ちさ子という3人の“お坊ちゃん”“お嬢ちゃん”育ちならではの言いたい放題・やりたい放題の奔放ぶりの面白さがよく指摘される。 

凡人には想像もつかない勝手気ままぶりには、驚き、ときに呆れ、とにもかくにも笑ってしまう視聴者が多い。クセになる刺激物のようでもある。しかし、その刺激物を安全に食べられる状態に仕上げているのが、実は司会進行を務めるサバンナ・高橋茂雄ではないだろうか。 

高嶋ちさ子の息子が番組観覧に来た際、高橋について「あの人だけ仕事してる」と言ったというエピソードは実に秀逸だ。また、ちさ子よりもさらに勝手気ままな実父・弘之氏が令和最初の大晦日放送回にサプライズで登場した際には、高橋に対して「あなたの進行が素晴らしい」「テレビで観るよりかっこいい。冷めた顔がいい」などと絶賛する場面もあった。

実際、サバンナ高橋という“猛獣使い”がいてこそ、初めて成り立っている番組だと思う。

しかし、かつては高橋といえば、強い人にくっついてヨイショする、自他ともに認める「太鼓持ち芸人」だった。『雨上がり決死隊のトーク番組 アメトーーク』(2008年11月6日放送分)では「たいこ持ち芸人」をメインでプレゼンする立場で出演。どうすれば先輩が喜び、気持ちよく帰ることができるかを熟知している”プロの太鼓持ち“として「人生でおごってもらった総額計算したら、4000万円くらい」という徹底したテクニックを披露し、共演者・視聴者たちを圧倒していた。この時点では”吉本興業の伝統を熟知するプロ“としての太鼓持ちテクニックが感心され、DVD6にも収録される人気企画となっていた。

さらに、同番組で同年9月に放送された「中学の時イケてないグループに属していた芸人」回や、「おなかピーピー芸人」(2009年5月28日放送分)などにメインで出演。トーク力が高く評価される一方で、立ち回りの上手さや、「太鼓持ち」ぶりが、徐々に嫌われ始める。例えば、一時期、ヤフー知恵袋に「サバンナの高橋がむかつきません?(中略)TVで見ていても、ごますり感が出過ぎて自分でごますり~っていっててもカチンときます」(2010年11月11日)、「サバンナ高橋 皆さんはサバンナ高橋のことをどう思いますか? 自分は嫌いです と言うかあの顔としゃべり方、太鼓持ち全てが生理的に受け付けません」(2012年1月24日)などの投稿がされるなど、「嫌い」というつぶやきがネット上で多数見られる状態にあった。

おそらく人気番組への露出が増え、注目度が高まることで、ある意味、「出る杭」になり、太鼓持ちぶりが疎まれるようになった面はあるだろう。また、様々な番組で先輩芸人たちが批判の的になった影響もあるかもしれない。

詳述はここでは割愛するが、2010年頃から高橋が太鼓持ちしていた先輩芸人たちが批判を浴びる件が頻発する。たとえば、千原ジュニアの美術館フリスククレーム騒動や、千原ジュニアと木村祐一の女性へのカチカチ鶏肉投げつけ騒動など。本人たちが笑い話として語ったエピソードが、世間との認識のズレから大いに炎上した。一時はかなり売れっ子だった彼らのイメージダウンにつながったことは否めないだろう。そんな彼らもまた、当時、ダウンタウン・松本の太鼓持ち(腰巾着)と言われ、アンチスレなどが大量に立っていた。

高橋がテクニックを自ら語り、笑いとして昇華させていた一方で、「太鼓持ち」に対する世間のネガティブな捉え方は依然として強かった。

立ち回りの上手さや、先輩、強い立場の者を立てるテクニックが、裏目に出たかたちである。

しかし、そんな強い人の顔色を伺う“スネ夫的な能力”が、これまでのどの番組よりも上手く生かされ、見事にハマったのが、『ザワつく』だ。 

なにしろ相手のジャイアンぶりは、一朝一夕で作られたものではなく、おそらくこれまで出会ったことのない未知のレベルである。それも、“軍団”の子分ポジションとして、身内である上の人の顔色を伺う行為とは違い、「司会」と「番組の主役であるレギュラー出演者たち」という関係性で、”猛獣“たちと対峙しなければならない。しかも、一度に3人を相手にするのだから、並大抵のエネルギーやスキルでは務まらないだろう。

芸人に限らず、軍団や集団、先輩と後輩という近い間柄のひとつのかたまりが、知らず知らずのうちに作られる内輪ルールによって、世間の価値観からズレていくことは意外とよくあるもの。しかし、それぞれ別の方向に暴走する油断のならないジャイアンたちを制止し、フォローし、ときには自らがエサとなってイジられるという自己犠牲も伴いながら、番組を進行していくのは、究極の「スネ夫」芸だと思う。

ジャイアンを3人揃えたとき、司会を誰にするか。MCもサブMCもできる器用さ、視野の広さ、細かなボケなども全部拾ってくれる丁寧さなどから、抜群の信頼を得ていて好感度も高い麒麟・川島明などをすぐに思い浮かべる人は多いのではないか。

しかし、番組を観ていくと、結果的に、高橋茂雄よりあの3人をうまく扱える芸人がいる気はしない。

長年培われた「スネ夫的」な太鼓持ち能力が、サバイバル的な『ザワつく』の司会によって、“猛獣使い”の名人芸に昇華した。そんな高橋自身も凄いが、あのポジションに高橋を抜擢した人物の先見の明を改めて感じてしまう。

  • 田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

  • イラストまつもとりえこ

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