草野球のキャッチャーが、千賀、マエケンの球を受けるまでの物語 | FRIDAYデジタル

草野球のキャッチャーが、千賀、マエケンの球を受けるまでの物語

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出場が叶わなかった甲子園、ケガでレギュラーになれなかった大学時代…

プロ野球の開幕を間近に控え、世間の野球熱も盛り上がりつつあるこの時期。プロだけでなく高校野球や大学野球のほか、河川敷や各地の球場で素人が楽しむ草野球が行われているシーンもこれから多く見かけることになるだろう。近年では「草野球YouTuber」なども人気で、草野球のすそ野は広がりつつありそうだ。 

そんな草野球でプレーしつつ、プロ野球選手の投球を受ける草野球のキャッチャーがいる。その選手の名前は緑川大陸(みどりかわ・ひろむ)。 

岡山県の強豪校・関西高、立正大でプレーした経験の持ち主だがプロ経験はない。大学卒業後は、モデル・俳優として活動しつつ、趣味で草野球を続けていた彼だが、なぜか2021年1月には福岡ソフトバンクホークスのエース、千賀滉大の自主トレに帯同し、一緒に参加した石川柊太(ソフトバンク)、梅津滉大(中日)といった選手の投球も受けている。 

ほかにも、元プロ野球選手やときには現役選手が登場する『炎の体育会TV』(TBS系、隔週夜7時放送)の野球対決企画の際はキャッチャーとして出演し、タレント・武井壮がMLB投手の前田健太と対戦するYouTubeの企画でもキャッチャーを務めるなど、アマチュア選手とは思えない活躍ぶりを見せている。 

いったいなぜ、草野球選手がプロの自主トレに帯同するまでになったのか。 

緑川大陸。1991年生まれ、名古屋市出身。岡山・関西高校、立正大学の野球部でプレー。卒業後はモデル、俳優として活動。軟式野球チーム「クーニンズ」に所属(撮影:杉山和行、撮影協力:アメリカンスタジアム バッティングセンター)
緑川大陸。1991年生まれ、名古屋市出身。岡山・関西高校、立正大学の野球部でプレー。卒業後はモデル、俳優として活動。軟式野球チーム「クーニンズ」に所属(撮影:杉山和行、撮影協力:アメリカンスタジアム バッティングセンター)

モデル・俳優として活動していた緑川が注目されたきかっけはYouTuberの草野球チーム「クーニンズ」に加入したことだ。

高校、大学とキャッチャーとしてプレーした緑川の捕球時にミットが流されない“ビタ止め”キャッチング技術が同チームのYouTubeチャンネルで紹介されると、草野球愛好家の間では知られる存在となり、対戦相手からも声をかけられる機会が増えていった。

その後『炎の体育会TV』関係者の目に留まり、見事“正捕手”に抜擢される。

番組では元MLB投手の岡島秀樹(元レッドソックスほか)、マック鈴木(元マリナーズほか)、井川慶(元ヤンキースほか)、高橋尚成(元メッツ)をはじめ、成瀬善久(元ロッテ)、新垣渚(元ソフトバンク)らそうそうたるメンバーの投球を受けるなど、草野球のキャッチャーとしては特殊な体験を重ねる。

放送中には解説の槙原寛己(元巨人)や里崎智也(元ロッテ)がキャッチングの上手さに言及する場面もあるなど、「なんかキャッチングが上手いキャッチャーがいる」と徐々に注目を集めていった。

「番組内で里崎さんにキャッチングを褒められたのはとても嬉しかったし、自信になりました。 

僕は高校時代、甲子園には出場できませんでしたし、大学時代はケガでレギュラーになれなかった。特に甲子園は、出場したい一心で名古屋から岡山の高校に行ったのに、3年間で一度も出られず、出場した選手に対してコンプレックスがありました。 

でも、今はすごい方々のボールを受けて、ようやく(甲子園に出た)彼らに追いついた気持ちです(笑)」(緑川大陸 以下同) 

またある日、友人から「武井壮さんがYouTubeの撮影でキャッチャーを募集しているよ。立候補したらどう?」と連絡があった。確認すると締め切りギリギリ。すぐにSNSのダイレクトメールで立候補すると武井本人からキャッチャーを任せたいと返事が届いた。

『炎の体育会TV』でティモンディ・高岸の投球を受ける緑川。これまで、そうそうたる選手のボールを受けてきた(写真:番組提供(C)TBS)
『炎の体育会TV』でティモンディ・高岸の投球を受ける緑川。これまで、そうそうたる選手のボールを受けてきた(写真:番組提供(C)TBS)

「武井さんが僕のことを知っていてくれたようで、すぐに連絡をもらいました。

そして、その内容というのが元ソフトバンクの斉藤和巳さんに武井さんが変化球を教えてもらうというもの。そこで武井さんだけでなく、齋藤さんのボールを受けることができました。 

斉藤さんは引退したとはいえ、すごいスピンのボールでした」

その後、同じく武井壮のチャンネルで現役MLB投手、前田健太との対決企画でもキャッチャーを任され、「1991年生まれの僕にとって、1988年生まれ世代の選手は大スター」という前田のボールを受けることにもなった。

前田が三振を取りに行った外角低めのストレートを得意の“ビタ止め”でしっかりストライクにすると、前田も思わず「ナイスキャッチング!」と叫ぶほどだった。

憧れのイチロー氏と共演も怒られる。その理由とは?

一方、芸能活動として、2019年にイチロー氏が出演するCMのオーディションを受けている。オーディション内容は「キャッチボールの実技試験あり。あればグラブを持参」とあり、緑川はキャッチャーミットでオーディションに臨んだ。キャッチャーミットを持参したのは彼ひとりだったという。

結果、見事合格し、エキストラとしてではあるがイチロー氏とCMで共演を果たした。

「名古屋出身の僕にとって、イチローさんは子どもの頃からの憧れの人。 

地元に『イチロー杯』という少年野球の大会があって、決勝まで行くとイチローさんが来てくれて会えるんです。僕もイチローさんに会いたくて、帽子のつばの裏に『イチローに会う!』と目標を書いて大会に臨みました。 

そのときは決勝まで行けなかったのですが、その思いがCMでようやく叶って。撮影のときにイチローさんにそのことを伝えたら『(帽子に書くべきは)イチロー“さん”に会うやろ! そういうところがアカンから負けたんや(笑)』と怒られました(笑)。 

そのCMもイチローさんの引退試合を観に行った東京ドームのオーロラビジョンで流れたんです! もう、感動して泣きました!」

もともとは芸能活動をメインにしていた緑川の転機となったのが2020年の新型コロナウイルスの影響だ。

舞台やCMなどの活動、オーディションが軒並みできなくなっている中、草野球のチームメイトも指導している野球スクールに興味を持ち、自分もスクールで教えるようになった。

このスクールでは主に小中学生に基礎的なことを教えるのだが、キャッチャーという専門的な技術を教えることができる緑川の指導が評判となり、いまでは多くの生徒に教えるように。

中でも、緑川が得意としているのは、近年メジャーリーグのキャッチャーの間で定番テクニックとなっている「フレーミング」。これはストライクゾーンギリギリの投球をきっちりストライクにするための捕球技術だ。

「僕の高校時代の捕手コーチが、アメリカで野球を学んだ方で、高校時代からフレーミングなどの技術や理論を学んでいたのがよかったです。 

これからの時代、フレーミングができるキャッチャーはレギュラー争いでも有利になる。こういった技術や基礎をしっかり教えていって、この技術を普及したいです」

野球スクールで子どもたち相手に指導。中でもキャッチャーの指導が評判を呼び、多数の生徒を指導している。「フレーミング」の技術も伝授(撮影:杉山和行)
野球スクールで子どもたち相手に指導。中でもキャッチャーの指導が評判を呼び、多数の生徒を指導している。「フレーミング」の技術も伝授(撮影:杉山和行)

今では東京・世田谷区のバッティングセンターで行うスクールのほか、スマートフォンをなどを利用してリモート指導も行っていて、その中には甲子園出場経験もある強豪校も含まれている。

そんな指導をしている間に、芸能活動と野球の活動が逆転。

2020年にはすっかり少年野球への指導や“捕手業”がメインになった。そして、そんな2020年も終わろうとしていたころ、ソフトバンク・千賀からのオファーがあった。

「千賀投手のマネージャーさんから連絡があって、1月の自主トレに来てくれないか、と。 

断るわけもなく、二つ返事で参加させてもらいました。 

プロの中でもトップレベルの千賀投手ですが、その野球に対する考え方や自分の技術を他チームの若い選手にも惜しみなく教えている姿が印象的でした。僕も最新のトレーニング方法や理論を学んで、大変勉強になった2週間でした」 

ソフトバンク・千賀(奥)の自主トレでキャッチボールをする緑川さん(写真:本人提供)
ソフトバンク・千賀(奥)の自主トレでキャッチボールをする緑川さん(写真:本人提供)

その自主トレに帯同していた関係者からこんな話を聞いた。

「今、プロ野球の世界でも、プロ経験がなくても、トレーニングコーチなどで外部の専門家を取り入れる傾向になりつつある」

この言葉を聞いて「なにか新たな道が見えたような気がしました」と緑川は言う。

ただ、野球が好きでやっていた草野球。その一介のキャッチャーだった選手が、気づけばとんでもないことをやるようになっていた。草野球も真剣にやっていれば、いろいろな道が開ける――。時代と共に野球のあり方も変わろうとしているらしい。彼は図らずもその一例となって“捕手業”を続ける。

  • 取材・文高橋ダイスケ

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