「構えたミットは動かすな」は本当?間違いだらけのキャッチャー論 | FRIDAYデジタル

「構えたミットは動かすな」は本当?間違いだらけのキャッチャー論

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ファンの間でも意見が割れて白熱しがちなキャッチャー議論 

写真は、選手兼任監督時代(1977年)の名捕手・野村克也。卓越した頭脳と理論で長年活躍。現役引退後は監督として古田敦也を育て、ID野球で野球界全体に革命を起こした(写真:アフロ)

近年、さまざまなデータ収集技術の向上によって、日々新しい技術や理論が誕生する野球シーン。アメリカのメジャーリーグ(MLB)から伝わる最新理論や指標、日本独自の技術論なども続々と登場し、監督や選手が取り入れるのはもちろん、ファンもその理論から導き出される新しいプレースタイルや指標を参考にしつつ、観戦したり、ファン同士で議論を戦わせるという楽しみ方も定着してきている。

そんな中、特に議論が白熱するのが“キャッチャー論”だ。配球やリード、投球や打球の処理をはじめ、なにかと仕事が多く、守備の評価が難しいこのポジションも、近年のキャッチングに代表される技術革新、緻密な統計に基づく指標の登場などで、ファンからの評価や注目のされ方にも変化が現れている。

一方で、野球のポジションの中でも特に専門性が高いキャッチャーは、その分、指導できる人材も少なく、特にアマチュアでは間違った教えや“常識”が生まれやすいポジションでもある。そのため、ファンの間でも擁護派と否定派が真っ二つに別れるプレーが数多く存在する。一体、なにが本当でなにが間違いなのか――。

とかく誤解が生まれがちなキャッチャーについて、現役選手として最新論を学びつつ、小学生から大学生まで幅広く指導もしている緑川大陸さんに、自身のプレーや指導、観戦などを通じて感じた“間違いだらけのキャッチャー論”を解説してもらった。

「構えたミットは動かすな」は本当か?

緑川大陸さん。高校時代、アメリカで学んだコーチからフレーミングなどの最新技術、理論を学んだことをきかっけに、キャッチャーに開眼。現在は野球チーム「qoonins(クーニンズ)」でもプレーしながら、野球スクールなどでコーチをしている

ピッチャーが投げるとき、キャッチャーは構えたミットを一度下げて予備動作に入るのがほとんどだが、中には構えたミットを捕球まで動かさない(ミットの捕球面をピッチャーに見せ続ける)スタイルのキャッチャーもいる。

このミットを捕球まで動かさないスタイルこそ、キャッチャーのあるべき姿であるという論調も近年では少なくない。このスタイルの違いについてのメリット、デメリットはあるのだろうか。

「捕球面を見せ続けるのは、ピッチャーに“的”を見せ続けられるので、その方が投げやすいというピッチャーにはメリットはあります。ただし、メリットはそれだけ。逆にデメリットが多くなります。 

構えたところにボールが来なかった場合、特に変化球はボールを追いかけるように捕球することになります。ボールを追いかけて捕ると、ミットが外に流れたり、地面についてしまったりします。そうすると、せっかくストライクゾーンを通過した投球でも、捕球したミットがストライクゾーンを外れてしまうと、経験上ボールと判定されてしまうことも多いです」

ストライクゾーンを通過しても、ミットが流れてしまうとボールと判定されてしまうことも。できれば予備動作を作り、ボールの軌道上に先にミットを入れておきたい

緑川氏によると、擁護派も多いこの捕球面を見せ続ける構えのメリットはあまりないようだ。一方、ミットを下げて予備動作を入れることのメリットは多いという。

「捕球時にリラックスでき、投球に対してタイミングが取りやすくなります。変化球などに対しては、ボールの軌道に先回りできて、軌道に対してスムーズにミットを入れることができます。また、どれだけ速いボールでも、投球は下に落ちるので、予備動作を入れることで低めの球もスムーズに軌道に入れることができるというメリットもあります。 

構えたミットを下げる、下げないはピッチャーと話し合って、ピッチャーが『捕球面を見せ続けてくれた方が投げやすい』と感じている場合は動かさない方がいいと思います。逆にピッチャーがどちらでも気にならないようだったら、予備動作で下げた方がいいですね」

さらに、構えたミットを下げる予備動作は、フレーミングにも重要だという。フレーミングは、MLBをはじめ日本のプロ野球、近年では高校野球などのアマチュアでも取り入れられている捕球技術。

現在のキャッチャーの必須技術である一方、ミットを動かしながら捕球することから「ミットずらし」や「ボールをストライクにするために審判を欺いている」といった批判もあり、賛否両論となっている。

「フレーミングというのはそもそも、投球に対してミットが負けない、流されないよう、球の軌道に沿って捕球する技術です。これをすることでストライクかボールかギリギリの投球がストライクになりやすく、結果的にストライクが増えたり、試合に影響が出たりするとMLBのさまざまなデータで出ているんですね。 

だからMLBのキャッチャーはこぞってフレーミングを取り入れるようになりました。日本でもその価値が認められているから、現役の選手も取り入れているんです」

ただ、多くのキャッチャーが取り入れているフレーミングも、ファンからすると不要論もあり、なにより「審判を欺く」というイメージが強い。

「『ボールをストライクにするような、審判を欺く行為をしてはいけない』という意見は多いですね。『ボールはボール。ストライクに来た球だけをストライクとコールしてもらうべき』などとも言われますが、ストライク、ボールを判断するのはキャッチャーではなく審判です。 

ストライクゾーンギリギリの投球をキャッチャーがボールと判断して諦めてよいのでしょうか? キャッチャーはピッチャーのため、チームのため、1球でも多くストライクを取るためにプレーしなければいけません」 

審判を欺くことはしてはいけないという論調でフレーミングを否定する意見もあれば、一方でそもそも審判は、ベースを通過した時点でストライク、ボールを判断しているので、捕球時のミットの位置を見ていないという意見も多い。

「『審判が捕球を見ていない』というのは違うと感じています。たとえば逆球が来て、ストライクゾーンを通過して見える場合でも、キャッチャーのミットが流れたり、捕れなかったりした場合、ボールと判定されることもよく見られます。本来なら、ストライクゾーンを通過していれば捕れなくてもストライクになるはずです。 

しかし、捕れないことでボールにされるケースも多い。ということは、審判も捕球を参考にしているということではないでしょうか。審判の中にはミットを見ていないという方もいますが、その人が『キャッチャーは審判に見やすい捕り方をすればいい』と言ったりもします。キャッチャーからすると『え⁉ じゃあ捕球も見ているじゃないですか!』となりますよね。 

ギリギリの投球をキャッチャーがボールと決めて捕ったら、審判からすればとても助かります。なぜなら、キャッチャーがボールだと教えてくれているのですから。キャッチャーにはピッチャーやチームのために、ひとつでも多くのストライクを取ることが求められます。それに適したキャッチングを点差や試合展開、カウントに関係なく、コツコツ積み上げていくのがフレーミング。 

私からすれば『ストライクがどうしてもほしい、ここぞというときだけ、ミットをビタっと止める』という方が審判を欺いている印象があります」

片膝をつけて構えているのは「楽をしている」からではない! 

城島健司。日本人選手として初めて、MLBでキャッチャーとして出場。強肩強打を生かした活躍を見せた。写真は、2006年3月23日にアリゾナ州ピオリアのピオリアスポーツコンプレックスで開催された春季キャンプ中の城島健司(写真:アフロ)

キャッチャーの捕球に関しては、ミットの動きだけでなく、その姿勢に関してもさまざまな意見がある。

そのひとつが、片膝をついて構えること。キャッチャーによって、膝をつかずにしゃがんだ状態で構えるタイプと片膝をついて構えるタイプがあるが、後者は“楽をしている”という見方もあるようだ。

「キャッチャーの構えで『片膝をついているのは楽をしている。特にランナーがいる場合は膝をつけずに腰を上げるべき』という指導は多いですね。私の考えでは、片膝を地面につけて構えてもOKです。そもそも、膝をついていてもちゃんと構えれば楽ではありません。 

また、ランナーがいないときは片膝をついて、ランナーがいると片膝をつかないというスタイルのキャッチャーも多いと思います。膝をついていない方が、ワンバウンドの投球や盗塁に対処しやすいという考えです。ただそれは、慣れの部分も多く“片膝をつかない構えからセカンド送球をする練習しかしていない”という理由も大きいと思っています。 

片膝をついた状態でセカンド送球や一塁牽制ができれば、膝をついたままでもいいんです。その練習をどれだけのキャッチャーがしたことがあるでしょうか? 今までこうだったから無条件でそうする、というのではあまりに自由度が低すぎます。片膝をついた状態の方がブロッキングしやすい人もいるでしょう。ランナーがいるから膝をつかないではなく、自分がプレーしやすい形など、あらゆる可能性を探っていくのも大切な練習です。 

また、これもフレーミングの観点になりますが、フレーミングは低めのキャッチングが大切なので、自分の構えを低くしなければなりません。その場合、片膝をついた方がより低く構えることができます。その重要性が証明されたので、MLBでは片膝をついて送球やランナーに対応するキャッチャーも多い印象です。日本でも身体能力の差とあきらめるのではなく、いろいろと練習やチャレンジをしてほしいと思います」

右利きの場合、多くのキャッチャーは左膝をつくが、MLBでは右膝をつくキャッチャーも。こうすることで、一塁側へのフレーミング、三塁側のブロッキングに好影響をもたらす

ワンバウンド投球は必ず体で止める?

キャッチャーの重要な仕事のひとつが、ワンバウンドの投球を後逸しないようブロックすること。ほとんどのキャッチャーは多くの時間をこのブロッキング練習に費やしている。ワンバウンドを体で止めるのは、失点を防ぐうえでもかなり重要なはず。 

「もちろん、ワンバウンドに対するブロッキングは重要です。ただ、体で止めることの意味をはき違えている選手や指導者が多いのも事実です。昔から体で止めることを徹底しすぎたため、体で止めること自体がアピールになってしまっていることも多く見られます。ランナーの進塁を防ぐのが目的で、その手段がブロッキングなのに、練習のためのブロッキング、監督が納得するためのブロッキングになってしまっている選手も見られますね。 

それに体で止めても進塁を許したら意味がありませんし、なんでもかんでもブロッキングをしてしまうと、ピンチは防げますが、アウトにするチャンスは生まれません。 

例えばランナー一塁の場面でブロッキングをした場合、進塁を防ぐ可能性は高いですが、飛び出したランナーをアウトにできる可能性は低くなります。そこで、ワンバウンドをミットだけで捕った場合、盗塁にも対応できますし、一塁送球で飛び出したランナーをアウトにできる可能性も上がります。なんでも体で止めようとするのは、昔からそれがよしとされていたからなんです。

ランナーが塁上にいても、ワンバウンド投球をミットだけで捕りにいく場合も多いという緑川さん。捕球後すぐにスローイングに移行できるため、盗塁や飛び出したランナーに対処しやすくなる

また『ハンドリングよりもブロッキングの方が確実にワンバウンドを止められる』という考えもありますが、それは圧倒的にブロッキングの練習量が多いから。ハンドリングの練習も同じくらいすれば、同じ精度でワンバウンドを処理することができるようになります。これは、内野手を例に考えてもらえれば分かりやすいと思います。 

一昔前の内野手も強いゴロを両手でしっかり捕りにいって、結果的に体で止めていれば、たとえセーフになったとしてもよしとされていました。逆に難しい打球に対して片手で勝負しにいってセーフになると『軽いプレーをするな!』と怒られたものです。 

でも、勝負した結果、アウトになる場合だってありますし、同じ打球でアウトにできる可能性があるなら、そちらで“勝負”するのは当然。近年ではアマチュアでも、内野手がギリギリのタイミングの打球を逆シングルや素手で処理をして勝負するプレーがきちんと評価されるようになりました。それなのに、キャッチャーの勝負はまだまだ怒られることが多いと感じています

そういう状況なので、ワンバウンドの投球に対してはブロッキングの練習がほとんどで、ハンドリングで処理する練習をほとんどのキャッチャーができていません。キャッチャーにはブロッキングと同じくらい、ハンドリングの技術も重要です。ブロッキングとハンドリング、その両方をしっかり練習するように子どもたちには指導しています」

緑川さんは軟式野球のクラブチームでプレーする現役捕手でもある。指導のほか、自身がプレーする中でも、最近特に感じていることがあるという。

「自分がキャッチャーをやっていて思うのは、ピッチャーや野手に比べて見せ場が少ないということ(笑)。その原因の多くは“自由度の低さ”だと感じています。 

キャッチャーが一塁牽制や二塁牽制で送球すると『キャッチャー投げたがり! 目立ちたがり!』という声も聞こえてきますが、アウトにするためのプレーで投げても、目立ってもいいじゃないですか! ひとつのアウト、ひとつのストライクを取るために、投球に対してミットを下げてから捕ったり、右でも左でも片膝をついて構えたり、ワンバウンドをハンドリングで処理したり、牽制を投げてもいいんです。 

“キャッチャーとはこういうもの”という考えにしばられず、いろいろな可能性を探って練習をするのが大切です。キャッチャーはもっと自由であるべきです!」

古くはリードや配球が見直され、近年ではフレーミングが取り入れられるなど、少しずつではあるが進化を遂げているキャッチャー論。

「キャッチャーにも自由を!」と考えながら子どもたちに指導する緑川さんをはじめ、新しい理論、さまざまなスタイルに挑戦する指導者や選手が増えれば、これまでに見たこともないようなプレーをするキャッチャーが登場するのも時間の問題だ。そうなると、ますます議論が白熱しそうだが、それも野球の醍醐味。これからはキャッチャーが野球の話題をリードするポジションになるかもしれない。

  • 取材・文高橋ダイスケ撮影杉山和行撮影協力アメリカンスタジアム

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