BTS「グラミー賞の前と後」ARMYと共有した希望と痛みの正体 | FRIDAYデジタル

BTS「グラミー賞の前と後」ARMYと共有した希望と痛みの正体

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オンラインでグラミー賞授賞式のレッドカーペットに参加するBTS 写真:Yonhap News Agency/共同通信イメージズ
オンラインでグラミー賞授賞式のレッドカーペットに参加するBTS 写真:Yonhap News Agency/共同通信イメージズ

BTSのファンにとって、2021年3月14日(米LA現地時間)に開催された第63回グラミー賞授賞式は「あり得ないかもしれないけれど、ひょっとしたら受賞するのではないか」という夢と希望だけでなく、BTSがこれまでに受けてきた差別や痛みをも共有する、最高にエモーショナルなイベントになった。

「Dynamite」が、第63回グラミー賞の「最優秀ポップデュオ/グループパフォーマンス」にノミネートされたことが発表されたのは、2020年11月24日(米LA現地時間)のこと。ノミネート作品発表当日、深夜にも関わらず「その瞬間をARMY(BTSファンの呼称)と共有したいから」と、V LIVEに登場したRM、V、JIMIN、JONG KOOKと同じように、発表の瞬間にテレビの前で歓声を上げたファンも多かっただろう。

残念ながら受賞することは叶わなかったが、ノミネーション発表後から初単独パフォーマンスを披露した授賞式までの約3ヵ月半に及ぶ気運の高まりは、JIMINが「特別な経験」と称した通り。

その約3ヵ月半を振り返りつつ、グラミー賞受賞式での「Dynamite」圧巻パフォーマンスが世界に向かって“何を”発信したのかを考察する。

共にグラミーに挑んだBTSとARMYの一体感

「絶対に(賞を)獲るんだと思っていたから。逃したと知ったら、気分が落ち込んじゃって」

2021年3月21日放送のTV番組「はやく起きた朝は」で、BTSファンを公言しているタレント・磯野貴理子の発言に、共感の声が挙がった。SNSでも同じように「がっくりした」「呆然としている」といったコメントがさまざまな言語で呟かれ、そのツイートの多さと流れの速さに、世界中のARMYたちがどれほどBTSの受賞を願っていたのかを実感した。

BTSはこれまでに、アメリカ3大音楽賞である「ビルボード・ミュージック・アワード(BBMAs)」と「アメリカン・ミュージック・アワード(AMA)」でそれぞれ受賞歴があり、残るは「グラミー賞(Grammy Award)」だけとなっていた。第61回グラミー賞授賞式(2019)にはプレゼンターとして登壇し、第62回授賞式(2020)はリル・ナズ・Xとのコラボステージに参加していたが、ノミネーションは初めて。

「Dynamite」は「Billboard Hot 100」で初登場1位&2週連続首位&通算3回の首位を記録した上に、当時連続TOP50入りの記録を伸ばしているワールドヒット曲とあって、多くのファンが期待に胸を膨らませたのだ。

ノミネート発表後から年末年始にかけては、「Melon Music Awards 2020」や「2020 Mnet ASIAN MUSIC AWARDS」、「2020 KBS歌謡祭」、「2020 SBS歌謡祭」、「第35回ゴールデンディスクアワード」と、アジア各国で立て続けに音楽賞の授賞式が開催され、メンバーは出演に、ファンは出演番組を追うのに大忙しだった。

メンバーのソーシャルメディア活動が活発だったことに加え、12月4日にJIN、クリスマスを挟んで12月30日にVの誕生日があり、BTS関連のSNSはどこを覗いても連日お祝いムードに沸いていた。テレビでもラジオで頻繁に「Dynamite」が流れ、新規ファンが一気に増えたのもちょうどこの頃。

先輩ARMYたちは彼らが歩んできた道のり、人間性のすばらしさ、楽曲の解釈などBTSの魅力を伝え広めたため、多くの新規ファンがBTSにのめり込んでいったように思う。

熱気に包まれていたのは、日本だけではない。アメリカのCATVチャンネル・MTVは、伝統のアオースティックライブシリーズ「MTV Unplugged」の特別版への出演をBTSに依頼。2月24日に放送された「MTV Unplugged Presents:BTS」で披露した歌声の美しさ、とりわけ英ロックバンド・コールドプレイ「Fix You」のカバーがすばらしいと世界中で賞賛され話題になった。

自分たちの作品を守る姿勢が強いといわれるコールドプレイがカバーを許可したこと、またコールドプレイ側がBTSのカバーを「とても美しい」と讃えたことで、BTSが歌とパフォーマンスの実力、人々を魅了する美貌と知性を兼ね備えた存在であることが世界に認められた出来事として、多くの人の記憶に刻まれた。

2月18日にJ-HOPE、3月9日にSUGAの誕生日を経て、3月14日の授賞式に向けてさらにブームは過熱し、芸能人やアナウンサーが次々「Dynamite」のダンス動画や歌ってみた動画で多くの「いいね!」を集め、それがニュースになる毎日。テレビ放送局も積極的にBTSを取り上げ「K-POP初のグラミー賞ノミネート、アジア人の快挙なるか!?」と持ち上げるたびに、「ひょっとしたら」という期待がますます大きくなる。

きっとBTSのメンバーたちも、ARMYの反応やメディアの評判を見聞きして、秘かに胸を高鳴らせていたに違いない。そう感じるほどに、BTSとARMYの気持ちは一体化していた。BTSは自分たちを推してくれたARMYのために、ARMYは自分たちに幸せを与えてくれたBTSのために、共にグラミーに挑んた。そんな風に、約3ヵ月半にわたる“推し”との強烈な一体感を味わえたことは、BTSを応援していた人にとって本当に稀有で特別な経験になったはずだ。

2021年3月15日はまさにARMYがBTSに、BTSがARMYになった日と言えるだろう。

数値で示されたBTSとARMYの愛と絆

BTSにグラミー賞を獲ってもらいたいという世界中のARMYたちの気持ち、そして熱の高さがダイレクトに数字で示されたのが、次々と記録を塗り替えていくYouTubeのMV再生回数だ。

「Dynamite」は2020年9月末に4億回、12月21日には7億回、そしてグラミー賞が目前に迫った2021年3月10日に9億回を突破。2021年2月には、「Dynamite Choreography ver.」の再生数も1億回を超えている。

記録更新は「Dynamite」だけにとどまらず、「Life Goes On」が2020年12月5日付けのビルボードのメインシングルチャート「Hot100」で1位を記録、2021年3月27日に3億回再生を突破している。さらに過去の楽曲にも注目が集まり、「Boy With Luv(feat.Halsey)」が1月13日に11億回、「DNA」が2月11日に12億回、さらに2016年公開の「Blood Sweat & Tears」が2月21日に7億回を超えるなど、3月31日現在、1億回以上の再生回数を超えたBTSの楽曲は32本に登る。

前述の「AMA」はファン投票、「BBMAs」はアルバムとデジタル楽曲の売り上げ、ストリーミング回数、ラジオ放送、ツアー、SNSエンゲージメントといった、目に見える“数値”に基づいて受賞者が決まるため、ARMYたちの “ファンダム”の力がダイレクトに結果に結びついた。

ところがグラミー賞は、全米レコード芸術科学アカデミー(NARAS)に所属する、約1万3000人の会員の投票によって選考・受賞が決定されるため、“ファンダム”の影響力はそれほど強くない。にも関わらずノミネートされたということは、少なくともBTSが、NARASの会員が無視できないほどの存在になったという証拠だ。

その礎を築いたのは間違いなくARMYであり、メンバーたちも折に触れて「ARMYがいなかったら、自分たちはここまでになっていない」、「ARMY愛しています」と発言し、常に感謝と愛情を示している。自分たちの愛情が彼らにきちんと届いていること、そしてあらゆる機会を通してその愛に応えてくれる姿を見て、ARMYはますますBTSへの愛情を深めていくのだ。そういう意味で数多の音楽賞の受賞は、BTSとARMYの愛の結晶であり、絆の証明だと捉えることができる。

受賞こそ逃したが、初単独パフォーマンスを行ったグラミー賞授賞式でも、ARMYの力が遺憾なく発揮された。グラミー賞の公式サイトで行われた「最も楽しみなアーティスト投票」では、88%の票を集めて他の出演者を圧倒。また、授賞式をLIVE配信したグラミー賞公式YouTubeチャンネルには、BTSを賞賛するコメントが多数書き込まれた。

Twitterでは、「#LightItUpBTS」「#BTSOurGreatestPrize」のハッシュタグがトレンド入り。「Dynamite」の全米でのセールスは、授賞式当日に10,500セールス(前日比2,748%増)と最も売れた楽曲となり、3月21日付けのビルボードヒットチャートのランキングで7位と、TOP10に復活。授賞式の2日後には、BTSの韓国語版のアルバム16枚すべてがiTunesでチャート入りを果たし、「Dynamite」のYouTube PremieresでのMV同時視聴者300万人というギネス世界記録を打ち立てた。

ファンとアーティストが互いに愛情をストレートに表現した結果が、こうした数々の記録や音楽賞の受賞だとしたら、これほど幸せな関係はない。

グラミー授賞式後に配信されたV LIVEでは、メンバー全員がARMYに対して本当に愛のこもった言葉を次々と口にした。一言一句すべてに感動したが、特に印象に残った発言がこちら。

「僕たちの名前が出るだけでなくARMYの名前も一緒に出て、僕達が一緒に歴史を描いていくのだと思うと、本当に嬉しい」(JIN)

「賞は今度もらったらいいから」(SUGA)

「振り返ってみれば、僕たちは受賞よりもパフォーマンスがしたかったみたいだ」「やっぱりBTSは一発ではNO,NO」(RM)

「今年はもっとがんばって、良い姿をお見せするために突っ走ってみたい」(J-HOPE)

「来年もグラミー賞に出られるように一生懸命がんばります。だからARMYのみなさん、もう一度だけ助けてください」(V)

「ARMYの皆さんの応援と愛の大きさが、どれほどのものかわかった。ARMYは本当にすごい。感謝している」(JONG KOOK)

「本当に幸せで光栄な1日だった。これからが重要だと思う。早く会おう。皆、愛している」(JIMIN)

いや本当、ARMYは愛されていますね!

続く「アジアンヘイト」における痛みの共有

BTSのグラミー賞受賞式出演は、ARMYたちに幸せな経験だけでなく、人種差別に対する怒りと悲しみ、痛みの経験をもたらすことになった。

授賞式を終え、前向きなメンバーたちの言葉に「これからもっとBTSを応援していこう」とARMYたちの気持ちが新たになったのも束の間、3月16日(米現地時間)に米エンターテイメント企業「Topps Company」が発表した、「2021 Topps Garbage Pail Kids: The Shammy Award」という、2020年グラミー出演アーティストを描いた記念カードのBTSの風刺画が「差別的だ」と炎上する事態が起きたのだ。

メンバーたちをモグラ叩きゲームのモグラに例え、傷だらけの顔を穴から覗かせた様子を描き、グラミー賞の受賞トロフィーをハンマーに見立てたイラストは、暴力的で人種差別的だとファンから非難され、CNNやUSAトゥデイなどのメディアも批判的なニュースを報道した。

英語圏のARMYから世界中のARMYに向けて、Twitterで「Topps Company」に対する抗議メールの送信を呼びかけがあり、多くのARMYが呼応したため、ハッシュタグ「#Racismals Not Comedy」がトレンド入りした。こうした抗議の声を受けた「Topps Company」は、3月17日にSNSで謝罪声明文を発表し、BTSのカードの販売を中止。ARMYは、問題のカードを無批判で取り上げたWebメディア「Pop Crush」に対しても非難の声を挙げ、謝罪記事を出させている。

BTSの風刺画を巡る事態は、これで一応収束した。しかしアメリカ国内では以前から、アジア人、アジア系アメリカ人に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が多発しており、3月16日には米ジョージア州アトランタで、韓国や中国からの移民女性6人を含む8人が射殺される痛ましい事件が発生。この犯罪に対し、「#Stop AsianHate」というハッシュタグで、オバマ元大統領や歌手のリアーナ、俳優のグウィネス・パルトウら著名人たちが、SNSで抗議の声をあげているが、その後もアジアンヘイト事件は後を絶たない。

この事態を受け、BTSは3月30日に、Twitterアカウント@BTS_twtで、人種差別に反対するメッセージを発信。「愛する家族を亡くした方々に慰めの言葉を伝えます。そして悲しみとともに心からの怒りを感じます」と綴り、かつて自分たちが受けた差別について言及。「僕たちは人種差別に反対します。私たちは暴力に反対します。私、あなた、僕たちはみんな尊重される権利があります。僕達も一緒にやっていきます」と抗議し、“若者に対する抑圧や偏見を止め、自分たちの音楽を守り抜く”という“防弾少年団”のコンセプトを貫く、強い姿勢を示した(https://twitter.com/BTS_twt/status/1376712834269159425)。

グラミー賞でBTSに注目が集まったことが彼らに対するヘイトにも発展し、BTSを誹謗中傷するコメントが増加しているという。所属事務所であるHYBE(旧名:Big Hit Entertainment)は、アーティストの権利侵害に対して毅然とした態度で法的対応を取ると公式に発表し、所属アーティストを守り、戦う姿勢を見せている。

人種差別を肌身に感じる機会が少ない人でも、“推し”がヘイト攻撃の的にされていることで、差別問題を“自分事”として捉える意識が芽生えてきているのではないだろうか。

Twitterには「BTSが攻撃されて悲しい」「勇気を持って声明を出したBTSを攻撃しないで」と訴える人、BTSの行動に賛同し「#Stop AsianHate」のタグをつけて抗議の声をあげる人がたくさん出てきていることが、素直にすごいと思う。喜びだけでなく、痛みをも分かち合い、共に歩んで行くBTSとARMY。2020グラミーを経てその愛と絆はますます強まり、世界を変える大きな潮流を生み出していくだろう。

  • 取材・文中村美奈子

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