Zeebraら参加 音楽業界にトドメ刺す愛知「密フェス」の大罪
怨嗟の声が渦巻いている――。
千葉市が9月18、19日に開催予定の音楽フェス「スーパーソニック」(ZOZOマリンスタジアム)の後援取り消しを決めた。
新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、千葉県の熊谷俊人知事は延期を求めていたが、主催者側は各日約1万3000人分のチケットが販売済みであること、直前の延期・中止による損害の大きさなどから、予定通り行うことを通達。これを受け、千葉市は9日付で「後援」を取り消した。
スパソニ側はアルコール類の提供・持ち込み禁止を徹底。来場者には直帰を訴えるなど、入念な感染対策を提示していたが、受け入れられなかった。
背景にあるのは、言うまでもなく、ラッパーのZeebraらが出演した先月29日の野外フェス「NAMIMONOGATARI2021」(愛知県常滑市)だ。酒類提供、ノーマスク、さらにはアフターパーティーとやりたい放題で、案の定、イベント参加者の間でクラスターが発生した。
あまりにもお粗末な対応に、同フェスには批判が殺到。Zeebraはイの一番に
「ヒップホップシーンを牽引する立場として責任を感じています。誠に申し訳ありませんでした」
と謝罪したが、メディアでは主催者側との“関係”が疑われ、大きく株を下げている。とはいえ、彼は目立つ存在だから言われてしまうわけで、やはり元凶は主催者だろう。調べれば調べるほど、違和感しか残らない。
主催したイベント会社「オフィスキーフ」(名古屋市)は資本金50万円ほどの小さな会社で、8000人規模のイベントを仕切るには人手が足りなかったという。同社はイベント事業のほか、昨年夏から新型コロナウイルス感染症対策用の光触媒コーティング事業を行っていた。それでいてクラスターを発生させたのだから目も当てられない。
「事後対応も最悪。フェスの公式サイトでは謝罪文が発表されましたが、オフィスキーフのHPは閉鎖され、電話もつながらない。常滑市の職員も『こんなことってあるのか!』と怒っていました」(スポーツ紙記者)
主催者サイドは周囲に「大赤字だ」と吹聴していたそうだが、ドロンしたため真相はわからず。全国紙社会部記者からは
「手口としてはグレーな社会勢力のやり方に近い。もちろんそうと決まったわけではありませんが…」
という声も聞こえてくる。
同フェスをめぐっては、今月2日にコンサートプロモーターズ協会、日本音楽制作者連盟、日本音楽事業者協会、日本音楽出版社協会の音楽4団体が共同の非難声明を発表。そこには
《音楽業界が過去1年半に渡り、国や自治体などと築いてきた信頼関係を破壊し、医療従事者や関係当局の苦労を台無しにする暴挙》
と厳しい文言が並んでいた。
「つまり業界全体で激怒しているという意志表示です。出演したCIMBAら一部アーティストは慌てて医療基金に寄付を行っていましたが、そうでもしないと、業界から今後厳しく対応される可能性がありました」(前出・スポーツ紙記者)
それほどの大チョンボなのだ。前出のスパソニも“密フェス”の一件がなければ
「県があそこまで要請してくることはなかった。千葉市の後援が取り消されることもなかった」(音楽関係者)
と言われる。
レゲエ歌手としても活動する鈴木紗理奈は、まさにそのアオリを受け、18日に出演予定だった「渋谷レゲエ祭2021」を辞退した。紗理奈はインスタグラムで
「初開催から十数年に渡り出演させて頂いてきたという経緯と、そんな方達が苦しい思いをしてきた事への個人的な思いもあり決断が今になってしまいました」
と悩みに悩んだ様子。「本当にごめんなさい。どうかご理解いただけたらと思います。心を込めて」と結んだ。
コロナ感染者数はじわじわと減少傾向にあり、年内にもワクチン接種者の旅行が解禁されるという話もある。だが、音楽業界だけは“密フェス”の尻ぬぐいでそれどころではない。コロナ禍でただでさえ厳しいなか、このままではダメ押しになりかねない。
- 写真:共同通信