『アカデミー賞』ビンタで思い出す大島監督と野坂さん壇上殴打事件
芸能リポーター・石川敏男の芸能界”あの出来事のウラ側は……”
《芸能リポーター・石川敏男の芸能界”あの出来事のウラ側は……”》
「パチーン!」右の平手打ちが、相手のほほを直撃。会場は一瞬、静まり返った。
プロレス会場じゃない。世界的権威ある『第94回のアカデミー賞』授賞式会場だ。
アメリカ・ロサンゼルス。叩いたのは、俳優のウィル・スミスさん。叩かれたのはMCを務めていたコメディアンのクリス・ロックさんだ。原因はロックさんが、脱毛症で悩むスミスさんの妻、ジェイダ・ピンケット・スミスさんに関して、侮蔑的なジョークを言ったことだ。
「妻の名前を口に出すな」
と、怒り心頭。その後、映画『ドリームプラン』で主演男優賞を受賞したスミスさんは
「アカデミー、他の候補者に謝罪しなければいけない」
「私は人生の中で、人々を愛さなければいけない。虐待されても悪口を言われても軽蔑されても慣れなければいけない」
と、暴行行為を反省し、涙ながらに謝罪した。だが、妻に対する愛情の深さを感じさせた。
それで思い出したのが、今から30年以上前の出来事だった。
‘90年に映画監督の大島渚さんが、女優で妻の小山明子さんとの結婚生活30周年パーティーを開いたときのこと。
そろそろ会もお開きになるという時間。約1500人のお客さんを前に、作家の野坂昭如さんが壇上に立った。センターマイクの前で、手に持った紙に書かれた祝辞を大声で読んだ。
「ありがとうございました」
と挨拶で締めたあと、大島さんが近寄り野坂さんに頭を下げた瞬間だった。大島さんの左あごに、野坂さんの強烈なアッパーカットが飛んだ。
大島さんが掛けていた眼鏡も飛んだ。大島さんがよろけて2、3歩下がり、崩れ落ちるように見えたが、今度は右手にマイクを持っていた大島さんが、野坂さんの頭を
「ボコッ!ボコッ!」
と2回殴り返した。ステージ上は大波乱。和服姿の小山さんが慌てて止めに入るという混乱。会場の客も訳が分からず騒然としていたね。
和やかに繰り広げられた結婚パーティー。最後の最後に飛び出した出来事は、当時の記者の間では「前代未聞」と語り継がれてきた。
理由は、挨拶の順番の問題だったらしい。当時、結婚を祝う会の幹事は
「早い時間から会場に来ていた野坂さんは、もっと早く祝辞を述べる時間が来ると思っていたらしいですが、いつまでたっても順番が回ってこないということにいら立ちがあったのかも」
と、言っていた。
「大島さんが、早く来ていた野坂さんが帰ってしまったと思っていたことも事実。だから、順番が野坂さんに回らなくなった。いることに気が付いた大島さんが慌てて、野坂さんに登壇してもらった」
という経緯があったとは、もう一人の関係者。でも、間違いなく野坂さんは酔っていた。
シャイな野坂さんは、友人のパーティーのために和歌を6遍も用意。ウイスキーのダブルを10杯以上飲んで待っていたとも聞いた。
「悪いのは僕です」
と、会場のマイクですぐに謝罪した大島さん。酔っていた野坂さんは
「わざと俺を忘れただろう」
と、わめき散らしたが、関係者に引きずられるように会場を後にした。
今でも続く『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)で意気投合していた二人のステージ上での喧嘩。すぐに仲直りしたようだが、小山さんは当時
「どちらも子供みたいでしたよね。でも、あんな魅力的な男たちは、なかなかいないでしょ。どちらも大酒のみで、やりたいことを貫いてきた。スケールの大きな男たちです」
と、笑っていた。それにしても、あの殴り合いは小山さんがいたから、深刻な問題にならなかったんだろうな。
大島さんは‘13年に80歳で没。野坂さんは2年後の‘15年に85歳でこの世を去った。あの世で会うことはないという人もいるが、ふたりは今でも仲良く大酒を食らっているんだろうと思うけどね…。
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- 文:石川敏男(芸能レポーター)
- 写真:REX/アフロ
芸能レポーター
‘46年生まれ、東京都出身。松竹宣伝部→女性誌記者→芸能レポーターという異色の経歴の持ち主。『ザ・ワイド』『情報ライブ ミヤネ屋』(ともに日本テレビ系)などで活躍後、現在は『めんたいワイド』(福岡放送)、『す・またん』(読売テレビ)、レインボータウンFMにレギュラー出演中