我慢の展開から、新たな恋の予感も 『まんぷく』15分の巧みさ

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して 第5話

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介。人生の酸いも甘いも噛み分けてきた男が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、週ごとに内容を振り返る。今回は大人気放送中の『まんぷく』第10~11週から。

NHK連続テレビ小説「まんぷく」公式サイトより

博多華丸の顔色も曇る我慢の展開

ニッポンジンの生活習慣にどっぷりと摺り込まれた15分という時間尺。数字的に見れば国民の5人にひとりが、『朝ドラ』という習性に支配されていることになる。

全150話の物語には中だるみやイライラした展開はつきものだが、それでも視聴者はテレビから離れようとしない。「今日こそは劇的な展開があるかも」「そろそろ明るい兆しが見えるかも」と、しばらく続くもやもやから抜け出させてくれと画面に願う。

しかし物語にはさらなる試練がふりかかり、もやもやを解消されないまま『あさイチ』へとスイッチする。朝ドラ受けをする博多華丸大吉の顔色もいささか曇り、それでも「明日こそは!」と視聴者心理に寄り添いながら、華丸は立ち籠めた暗雲を渾身の顔芸で振り払う。

牢獄のなかでも折れない萬平の心

第10週は、まさに我慢の展開だった。進駐軍に連行された萬平(長谷川博己)たちは週6話のほとんどを牢獄で過ごす。『たちばな塩業』の社員たちが魚を捕るために海に投げ込んだ手榴弾が、進駐軍への反乱行為と見なされたのだ。

運悪く『たちばな塩業』の床下からは20個以上の手榴弾が見つかり、入社したばかりの真一(大谷亮平)や、世良(桐谷健太)までもが逮捕され、軍事裁判にかけられかねない状況に。萬平は進駐軍のビンガム(メイナード・ブラント)らに執拗な取り調べを受けるが、信念を貫きダネイホンづくりの本意を伝える。

「戦争で大勢の人が死にました。今は栄養失調で苦しむ人たちが街にあふれている。誰かが彼らを救わなければならないのです」

表情を崩さないビンガムに萬平は声高に言った。

「あなたたちとまた喧嘩しようなんて、そんなつまらないことを考えている暇はない」

後日、進駐軍が手榴弾で本当に魚が捕れるかどうかを検証したが、魚は一匹も捕れず、反乱罪の疑いは益々濃くなる。

「そしたら誰に投げるの? あなたたちに向かって投げるつもりでやったって言うんですか? 私の夫は絶対にそんなことはしません!」

現場に立ち会った福子(安藤サクラ)が涙ながらに訴えた。

一方、牢獄では萬平が社員たちの前で腹を括る。

「今は何もかもが裏目に出ているが、そんなことは仕事でもあっただろう。僕たちはそれを乗り越えてきた。僕たちは仲間だ。ひとつになって戦う仲間なんだぞ」

もはや学校の朝礼か一時間目か、いや、これはもう説法だ。どれだけ深い闇が続こうと、仲間がいればやがて光は射す。馴れ合いの友ではなく、社会を生きぬく仲間がいればなおさらだ。

萬平の無実を証明しようとする人々が進駐軍を訪れる。大阪歯科医師会の理事職に就いた牧(浜野健太)は、そのしかるべき立場から萬平の人間性、信頼性を語り、かつて萬平を無実の罪に陥れた加地谷(片岡愛之助)は、過去を洗いざらい話し、萬平のおかげで人生をやり直せたことを力説した。

知らず知らずのうちに萬平たちに心を動かされるビンガム。日をあらため、時間をずらし、再度検証のため、海に手榴弾を投げると大量の魚が海面に浮かび、萬平たちは無事釈放された。

いよいよインスタントラーメンの匂いがしてきた

第11週。進駐軍に連行されたことで、専売局から取り引きを控えられた萬平たちは、塩づくりをやめ、ダネイホンづくりに専念し、会社名を『たちばな栄養食品』に変更する。

ダネイホンを一般人にも購入してもらうために、味を改良しようと悩む萬平たち。すると福子が、鈴(松坂慶子)との何気ないみそ汁のやりとりから、昆布をダネイホンの原料に使うことを思いつく。昆布はまさにうってつけの食材だった(インスタントラーメンづくりへの軌道がぷんぷん匂うぞ)。

昆布を使用したダネイホンの試食会は好評で、これを期に世良が東京進出を打ち出した。かつて萬平を騙した世良に疑念を持ち、東京を嫌う鈴が猛反対するが、またしても咲(内田有紀)が夢枕に現れ鈴を説得し、萬平は思いの丈を福子に告げる。

「世良さんはうさんくさくて調子にのるところがあるけど、僕はどうしても嫌いになれないんだよなあ」

裏切られても、利用されても、人を信じる天性のお人好し。その清い心が萬平の魅力だ。そこに福子は惚れ、社員たちは道を伴にする。

東京進出に際し、萬平自らがモデルとなった看板を掲げ、福子がナレーションを務めた宣伝放送により、ダネイホンは即座に売れ有名デパートとも取り引きがはじまる。その恩恵から社員の堺(関健介)ら6人は夜学に通わせてもらうことになる。それは戦争により学校に行くこともままならなかった堺たちに、教育を受けさせてやりたいという福子の願いからだった。

朝ドラにおける松下奈緒の安心感と安定感

一方、真一とともに東京支社を任されることになった神部(瀬戸康史)は、タカ(岸井ゆきの)と遠距離恋愛になるはめに。泣きじゃくるタカに、「毎日手紙を書くから」と指切りをしてなだめる神部。それにしても、なぜ指切りという曖昧な儀式がまかり通るのだろう。ただ指切りをしてひと安心しながらウシシと腹で笑い、そのあとに約束を破った時の心の痛みといったら……絡め合った指と指には、見えない不思議な糸が巻かれたとしか思えない(と筆者は思う)。

指切りはしていないが、高校を出たら神部と結婚してもいいと言っていた忠彦(要潤)が、「大学に行け」とタカに言い出し結婚を引き延ばそうとする。神部と結婚させないための手段だと荒れるタカを、母の克子(松下奈緒)がそっとなだめる。

さすが朝ドラヒロインの先輩、ゲゲゲの女房の安定感と安心感は半端ない。福子が悩んだり心が乱れたときには、そっと気持ちを鎮めてくれる火消しの天才。鈴の娘でありながら、時に鈴を子どものようにあやす克子と咲は、物語において絶対的な守護神なのだ。

「萬平さんの夢が叶ってきましたね。世の中の役に立つ仕事がしたいっていう夢が」

「僕の夢じゃない」

「え?」

「僕と福子の夢だ」

神部とタカに負けるものか。ここにもとびきり純粋な恋人同士がいる。夫婦になり、より一掃、深い恋心を交わすふたりが。

順風満帆な『たちばな栄養食品』に暗雲がたちこめる。ダネイホン人気に乗じてまがいものが登場したのだ。その販売元に世良と真一が乗り込み今回の件は解決したが、新たな危機が萬平と福子を襲った。萬平がまたしても進駐軍に逮捕されたのだ。堺たちに渡していた夜学の奨学金が給料に当たるとみなされ、その分の税金を納めていないと所得税法違反に問われたのだ。

翌日、萬平は起訴され軍事裁判にかけられ、重労働4年、罰金7万円の刑が課せられた。事件の裏側に匂う偽ダネイホン販売会社の面々……第二子を身籠ったばかりの福子と萬平は、『まんぷく』史上最大の窮地に立たされる。こんなときには萬平さんじゃなくて、やっぱり福ちゃん頼みだと視聴者はわかっている。

あぁ、今週(第12週)が怖い。でも福ちゃんならきっとやってくれる。咲姉ちゃん、克子も頼んだぞ。鈴さんは、相変わらずの感じでピリリとした空気をふわっとさせてくれ。頼むぞ、三姉妹+ぶしむす母!

そうそう、新たな恋の予感も漂いはじめましたね。大衆食堂『やまね』の美代子ちゃん(藤本泉)。郵便ポストの投函口で手と手が、ふっ♡ 神部さん、大丈夫ですか? ラーメン大盛りを注文するあたり、インスタントラーメンづくりへの伏線も忘れない抜け目なさ。美代子のまなざし、小さなため息……。タカちゃんは神部に針1万本飲ませるのだろうか?

シリアスな展開を余儀なくされたストーリーに、このような恋の宿題を挟み込むところが実にすばらしい。情けなくて笑える二枚目キャラを確立した忠彦役の要潤のさらなるオタオタぶりも楽しみである。

前回『朝ドラ』に恋して 第4話(第8~9週)はこちら

初回『朝ドラ』に恋して 第1話(第1~3週)はこちら

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中

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