ウエストランド井口が語る「いま若手芸人が抱える危機」 | FRIDAYデジタル

ウエストランド井口が語る「いま若手芸人が抱える危機」

~飲みニケーションが芸人をオモシロくする~

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撮影:柏原力

「今の芸人はつまらない」

ネタの話ではなく、モチベーションの話だ。お笑い芸人にとって仕事の後の「飲みの場」には意味があるとM-1グランプリ2020ファイナリストである「ウエストランド」の井口浩之は説く。芸人仲間を中心に「ビール部」を立ち上げ、自らも飲みニケーションを積極的に行う井口の行動の裏には、実は深い理由があった。

■「愚痴漫才」はこうして生まれた

井口がお笑いの世界を意識し始めたのは小学校のころ。非常にまじめな性格だったらしく、サッカー倶楽部の活動中にふざけていた友人を注意した際に「お前めちゃくちゃ突っ込むな!」と言われたのがきっかけで「ツッコミ」に興味を持ち始めた。

「大のTVっ子でお笑い番組もめちゃくちゃ見てました。当時は『吉本(興業)』くらいしかないって思っていたんですけど、例えば『ボキャブラ天国』では『爆笑問題(タイタン)』みたいにコンビ名と一緒に事務所名も表示されてて。そこからよりお笑いの道を意識するようになりました。

『吉本』はめちゃくちゃ人数いるんで、入っても埋もれるだろうなって。養成所に行くって考え方もなかったんで、それでも受けられる所でって『タイタン』を見つけて……」

「タイタン」を第一志望に数社ネタ見せ等を受けたが一度はすべて不採用。その後、同社が10年ぶりに若手を採るというタイミングと重なり、見事リベンジを果たした。

ブレイク前の下積み時代は家賃4万円以下の風呂なしアパートに住むような生活だった。オーディションにいつでも参加できるよう、融通が利かなくなるようなアルバイトもあえてしていなかった。それでも、当時住んでいた高円寺などで毎日飲み歩いていたという。

現在は「愚痴漫才」のスタイルを確立しているが、「基本、人気はない」と笑いながら話す。

「だれにも応援されないですね(笑)。ライブに来てくださっている方って、普段の仕事でのストレスとかを解消したくて、リアルを忘れたくて来ているのに、現実はこんなもんなんだよ!とか言ってるのって最悪じゃないですか!そりゃコントの方が人気ですよ!」

はじめは見た目を絡めた自虐ネタだったが、モテない要因をだんだん人のせいにし始めて笑いをとれたのがことの始まり。そこから愚痴漫才が確立され、2020年にはM-1ファイナリストまで昇りつめた。一見、人の悪口を言っていると炎上しそうなものだが、実は特にそれはないという。

「つまりは大したこと言ってないんですよね(笑)。あいつまた何か言ってるよみたいな。『僕が必ず下の立場から言うような感じ』にしているんで、それがテクニックといえばテクニックです」

ブレイク間もない2015年、お笑いライブ「タイタンライブ・レア」のウエストランド。河本太にツッコミを入れる井口浩之(写真:産経新聞社)

■ 「ここ最近芸人はじめたやつら、すげぇやめるんすよ」

最近、若手芸人がすぐやめてしまうらしい。井口のように人気がないと言いながら「愚痴漫才」を続けられるほどの度胸ある芸人が少なくなったのだろうか?

「なんだ根性ねぇなと最初思ってたんですよ。僕らのころは10年売れないと思って入ってくるのが当たり前でしたし。でもよく考えたらここ2年ぐらいは新型コロナウイルスの影響で、ライブ後の打ち上げとかなくなったんで、つまんないんすよそりゃ。芸人1~2年目なんてネタもウケないし、ただスベって帰るだけの日々だから……」

人を笑わせることが仕事の芸人にとって、気の合う仲間や先輩との飲みの席は、情報交換の場であり、ネタの振り返りの場であり、悩みや愚痴を聞いてもらえる相手と巡り合える場でもあり、仕事を続けるうえでの活力のひとつになる。芸人1、2年目の若い人はネタをやってもウケるのは簡単ではなく、スベって打ちひしがれることがほとんど。そんな時こそ、「打ち上げ」の存在自体が大切なのだ、と井口は言う。コロナ禍によって機会がなくなり、フォローアップの場がなくなってしまったことで、心のよりどころがなくなってしまったのだとか。

「芸人仲間とライブ終わりに飲むのって本当に楽しいんですよ。駆け出しのころってライブもお金払って出て、お金もらえるようになったとて1000~2000円しかもらえないのに、それでも3000円ぐらい使って飲みに行くわけですからね(笑)。

結局コンビやめるやつって仲悪くなってやめる奴がほとんどですから。いろんな人と飲みに行く場があれば、(いいことか分かんないですけど)相方の愚痴やそれへの共感やアドバイスをもらえることもあるかもしれないので。特に芸人は飲みの場で仲間増えてくってところがあるんで、それができないのはツラいですよね。最近の芸人は『打ち上げなんかやったことない』って人もいて、何が楽しくて芸人やってるんだろう?って思いますね」

■乗り越えてきた苦しい時期

そんな中、芸人仲間の(そして自身の?)受け皿ともなっているのが「ビール部」だ。

「『ビール部』っていうのも名ばかりで、今日はここで飲んだよ!みたいなのをシェアしたりとか、クラフトビールのイベントとか行ったりとか。ちょうどそんなことやり始めたらコロナ禍になっちゃって、『Zoom飲み』みたいなのができたからやってみようかとゆるくやってます。本当にこいつビール好きか?みたいなやつも全然います(笑)」

特にお酒にこだわりなく、ワイワイとした雰囲気を楽しんでいるとのこと。だが、その肩ひじ張らない雰囲気が芸人の心のオアシスとなっているのだろう。井口はYouTubeなど他の活動も行っているが、継続の秘訣は「テキトーにやる」ことらしい。

「がちがちに決めすぎず、ゆるーくやるのがいいんすよ、絶対。よく『メンタル強いですね』と言われますけど、自分では意識したことがありませんし、『弱い』と感じていらっしゃる方は、それを意識しすぎてしまっているかもしれませんよね」

井口自身も現在に至るまで苦しい時期が何度かあった。『笑っていいとも!』のレギュラー抜擢からM-1ファイナリストに進出するまで露出は激減したし、「いぐちんランド」といわれる不祥事などもあった。しかし、それは周りが「苦しい時期だった」と言っているだけだと本人は言う。

「個人的には『いいとも!』に出ている時が特別よかったという感覚も全然ないし、そっからの7、8年ももうだめだとかどん底だ~って思ったこともないし。僕は『無駄なことはない』って思うタイプなんで。芸人みんな『いつかはどうにかなるだろう』って思って過ごしているんですよね。芸人のよくないところだと思います(笑)」

芸人にとって、そのテキトーさがちょっとした日々の出来事から「オモシロい」を生み出す秘訣になっているのだろう。

「お笑い芸人の世界って効率も悪いし、著作権があるわけでもない。歌手の方の場合、ヒットした歌は『歌えば歌うほど味が出る』みたいなことがありますが、ネタは見れば見るほどいいねってなるわけじゃないから無限に作り続けなきゃいけない。ウケれば本当にうれしいし、笑いをとれることが一番いい刺激になるので他に余計なものはいらないんですが、少なくとも僕にとっては、芸人仲間と日々ライブ終わりに飲んだりとかするのが笑いを作る活力になってます」

同じネタでも、笑いをとれるかとれないかはそのネタを披露する時世やタイミングもあるだろう。ウケるネタに正解はないが、芸人たちは常にそれを願って、賞味期限1回の戦いに挑み続けていて、「だからこそ美しい」とさえ言うベテラン芸人もいる。いちお笑い好きとしても、ネタを含め芸人が楽しくやんやしている所を見るのは心地よい。コロナ禍も明け始め、「オモシロい」芸人で活気にあふれることを期待したい。

2020年、M-1ファイナリストになった時も、新型コロナウイルスの感染拡大を考慮して、お酒を飲む打ち上げはしなかった。早く気軽に飲める日が戻ってきてほしい、と願っている
取材日の翌日、ライブが控えていたが、まだ新ネタができていなかった。「一晩寝て、目が覚めたらできているといいんですけど……」
最初はビールは飲めなかった。ある暑い日に飲んだビールの味にハマってビール好きに。取材した日も夏を思わせる日差しが照り付けた

◆取材協力:「HIGHBURY-THE HOME OF BEER-」(新宿御苑)

日本ビアジャーナリスト協会

  • 取材・文くっくショーヘイ(佐藤翔平)撮影柏原力

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