甲子園優勝投手の現在 中日・小笠原慎之介が語る「プロの壁」
スペシャルインタビュー 第97回夏の甲子園を制した東海大相模の投手 今年は初の開幕投手も経験した彼の現在
「誰も僕が甲子園の優勝投手なんて覚えてないでしょ(笑)。あの夏はオコエ(瑠偉・関東一→楽天)とか、清宮(幸太郎・早実→日ハム)とか、凄いメンバーがいましたからね」
小笠原慎之介(20)は、さらりと言う。3年前の夏、第97回の甲子園を制した東海大相模(神奈川)のエース左腕として歓喜のマウンドに立った小笠原は、同年、ドラフト1位で中日ドラゴンズに指名され、プロへの道を歩み始めた。
「甲子園では、周りは同級生か下級生ばかりで、気持ち的には楽でした。練習でやるべきことをやって、試合では一度負けたら終わりだし、負けても悔いはない、という感じでした。
プロに入ってみると、本当に何もかも違って、特にバッターのレベルは桁違い。高校時代はストレートでバッターを抑えられました。でもプロでは抑えられない。だからもっともっとストレートを磨かないといけないし、変化球も覚えないといけない。ただ、その結果、球威が落ちたら意味がありません。難しいです」
それでも今季は初の開幕投手を務め、先月28日には母校の先輩でもある巨人のエース、菅野智之に投げ勝ち、プロ入り初完封した。
「ロッカーが隣の吉見一起さんからはずっと『オマエ、いいかげん完封しろよ』と言われてました。そんな先輩たちのおかげで、打たれても投げ続けようという前向きな気持ちに自分を変えることができたように思います。それまでは目先の勝負に負けたくないからと”かわす”ピッチングに逃げたりしてましたから。
完封した日は序盤はインコースの真っ直ぐが走り、その後カットボールやスライダーを有効に使えたのがよかった。でもその次の登板では、5回4失点と打ち込まれた。完封勝利の時に学習できたはずのものを吸収しきれてなかったんです」
先輩たちの助言のなかには、今年からチームメイトとなった”平成の怪物”松坂大輔のそれもある。
「投球フォームが球種によって変わっちゃうんです、と松坂さんに話したら『キャッチボールから意識したら? それでだいぶ変わると思うよ』と。ああしろ、こうしろ、じゃなく、導くような話し方をしてくれるんです。ベースボールと野球の両方を経験されているし、監督やコーチとも何か違って新鮮で。これからも色々と聞いてみたい」
次々と打者を打ち取っていた高校野球とは違う「プロの壁」について、小笠原はどう感じているのか。
「甲子園の優勝マウンドには、なかなか立つことはできないと思います。それでも僕は今のほうが楽しい。憧れのプロ野球選手になれたんですから。もちろん今の状況に納得してませんし、配球だったりバッターの心理だったり『野球をもっと覚える』ことが自分には必要だと思っています。吉見さんや松坂さんに少しでも近づけるよう頑張るだけです」
撮影:川柳まさ裕
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