今までのムロツヨシを全否定した映画『川っぺりムコリッタ』の凄み | FRIDAYデジタル

今までのムロツヨシを全否定した映画『川っぺりムコリッタ』の凄み

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今や名バイプレーヤーから主演俳優の地位を確立しつつあるムロツヨシ
今や名バイプレーヤーから主演俳優の地位を確立しつつあるムロツヨシ

個性派のバイプレーヤーとして活躍してきたムロツヨシ。しかし、去年公開の『マイ・ダディ』では映画初主演を果たした。

今年も主演映画『神は見返りを求める』が公開され、連続ドラマ『雨に消えた向日葵』(WOWOW)でも主役を演じるなど、近頃は主演俳優の貫禄すら漂っている。そんなムロが俳優として確固たる地位を築くことになる作品が、現在公開中の映画『川っぺりムコリッタ』ではないか。

この映画の舞台は、北陸のとある街にある古めかしいアパート“ハイツムコリッタ”。そこに暮らし始めた元・受刑者の山田たけし(松山ケンイチ)は、イカの塩辛工場で働きながら、誰とも関わらずに静かで孤独な生活を送っていた。ところが隣人の島田幸三(ムロツヨシ)や、大家の南詩織(満島ひかり)、墓石販売の溝口健一(吉岡秀隆)ら奇妙な住人達と関わりを持ったことから、少しずつ心を開き始めるといった作品だ。

「今作は、’06年に映画『かもめ食堂』を大ヒットさせ、’07年映画『メガネ』、’17年『彼らが本気で編むときは、』などの話題作を手掛けた荻上直子監督が発表した同名小説をみずからメガホンをとり映像化。脚本完成から5年の歳月をかけて公開に漕ぎ着けた最新作です。

ムロ演じる島田は、庭で野菜を育てている図々しい隣人。ある日『風呂を貸してほしい』と山田の部屋にやって来たかと思えば、夕食時になると毎日ご飯を食べにもやって来る。しかし島田の不器用な優しさに励まされるうちに、二人の間には友情にも似た感情が芽生えていく。新しいムロの魅力が詰まった作品です」(ワイドショー関係者)

ムロツヨシといえば、数々のコメディ作品を手掛ける福田雄一監督のドラマや映画でブレイク。飄々とした独特の間合いやテンポを駆使する“ずるい”演技スタイルは、唯一無二の存在として今や引く手あまたの売れっ子俳優である。

しかし今作では、大きな試練が待っていた。荻上監督に撮影の2日目に呼び出され

「今までのムロツヨシはいらない」

と言われ、窮地に立たされたのである。

「今までのムロとは、“サービス精神のあるムロツヨシ”“現場の空気を読むムロツヨシ”“主役に気を使って、縁の下の力持ちとしてなんとかしようとするムロツヨシ”のこと。

『全部いらないから島田のことだけ考えてください』と言われ、『全部捨てることはとても怖いことであり、とても腹が立つことでもある』と怒りを口にしながも『なぜか受け入れることができた』と、本人は話しています」(制作会社プロデューサー)

だが、“今までのムロツヨシを封印する”と決断するに至るには、様々な葛藤があった。

「これまでムロは、とっつきやすいコメディや振り切った演技が注目を集めてきました。しかし40代に差し掛かり、新しい自分を求める気持ちも生まれていました。

その矢先に今回のオファーがきた。そういったタイミングもあって、今までの自分を捨てる覚悟を決めたようです」(前出・制作会社プロデューサー)

しかし島田の役作りに、ムロは悪戦苦闘する。

「役作りのために夜中華料理を食べてぽっちゃりとした体型を作り、監督と戦いながら、人間味溢れる“新しいムロツヨシ”を生み出していく日々。そんなムロの姿を荻上監督は、『こちらの欲求に真摯に答えようと努力を惜しまないとても真面目な方』と評しています」(制作会社ディレクター)

撮影中、ムロの姿を間近で見ていた女優・満島ひかりは

「とにかくやっつけられているムロさん。いつもよりふっくらして、汗でべったりしてて、それがかわいそうであり、とても可愛らしかった。すごく敗北感がある感じでした」

と、当時の奮闘ぶりを公開記念舞台挨拶で振り返っている。

島田のキャラクターは、一番キャスティングが難しかったと語る荻上監督。しかし一見図々しく見える島田の姿こそ、仮面を被ったムロツヨシ本来の姿なのかもしれない。ムロ自身も

「僕には島田の環境と少しだけ似ているところがある」

と前置きした上で、みずからの“孤独な半生”を振り返っている。

「4歳の時に両親が離婚。以来、親戚の元で育ったというムロは『かわいそうって思われるのが嫌。親戚とおばあちゃんがかわいそうな僕を育てるの、かわいそうでしょう』と語るとともに、『両親がいないことを理由にして、性格が歪んだってことは許されない』『両親いませんけど、こんなに笑ってますよって、これからもアピールしていく』といった使命感にも似た思いを、去年出演した番組『日曜日の初耳学』(TBS系)の中で告白しています」(放送作家)

みずから“荻上以前、荻上以後”と語るくらい転機となった今作。『川っぺりムコリッタ』は、俳優・ムロツヨシに与えられた神様のギフトなのかもしれない…。

  • 島 右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版中

  • PHOTO島 颯太

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