<p>〈前編（<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/269116" target="_blank" rel="noopener noreferrer">「俺も勝ち組だ！」月600万円のローンを抱えた傲慢開業医の末路</a>）で紹介したように、病院の経営に失敗して多額の借金を抱えてしまう医師がいる一方で、社会で真に必要とされる「あなたの理想のかかりつけ医」を目指し、実際にそうなる医師もいる。</p>
<figure id="attachment_269949" aria-describedby="caption-attachment-269949" style="width: 3744px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="619e2408"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/aflo_7739690.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-269949" class="wp-caption-text">写真はイメージです（アフロ）</figcaption></figure>
<p>同じ医師なのにどうしてここまでの差が生じるのだろうか。2002年に慶応義塾大学医学部を卒業し、現在は高座渋谷つばさクリニックの院長を務める武井智昭医師が、知られざる開業医の実態を解説する〉</p>
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<p>医師としての成功と失敗、天国と地獄を分けるものは一体何でしょうか。技術でしょうか。コネでしょうか。今回は、<span class="strongInContent">「天国系医師」</span>とでも呼ぶべき、経営にも成功し、人望も厚い開業医のケースを紹介します。このケースを通じて、読者の皆様に<span class="strongInContent">「成功する医師は何が違うのか」</span>をお伝えできればと思います。</p>
<p>内科医師B氏（男性、開業時42歳）はZ大学医学部を卒業してから、そのまま同大学の内科医局に入局しました。</p>
<p>順調に経験を積んでいたのですが、彼は医師3年目に勤務していたα病院で、医療訴訟寸前の大きなミスをしてしまいました。そのことを問題視した大学は、B氏を医局人事では<span class="strongInContent">「左遷」</span>と呼ばれる、大学から80km先の医療機関（β病院）への異動を命じたのです。</p>
<p><span class="strongInContent">「ああ、俺は医局人生王道のキャリアから外れてしまった。こんな辺境の医療機関で、どうやってこれからの長い医者人生を過ごしていこうか…」</span></p>
<p>そんな風に考えていたB氏ですが、彼は異動先のβ病院で衝撃を受けました。</p>
<p>Z大学の医局からβ病院にきている医師は内科のみ。ほかの診療科は、他大学の出身医師が担当していました。さらに、院長・副院長は<span class="strongInContent">「自分の診療科はもちろん、他の診療科もしっかりと診れなければ、指導医として恥ずかしい」</span>という信念のもと、診療科を超えて身も心も年齢も問わず診療するプライマリケアを提唱・実行していたのです。</p>
<p>当時の常識では、ひとつの分野で専門性を高めて、専門分野の医師として患者を治療できるようになることを目指すのが一般的でした。しかし、B氏はこの病院に異動になって<span class="strongInContent">「患者を一人の人間として、診療科を超えてしっかりと診れるようになりたいと考える医師がいる」</span>と、頭を撃ち抜かれたような衝撃が走ったのです。B氏はこの病院での勤務をきっかけに、当時の常識からは考えられない、何でも診ることができ、患者の相談に乗る「プライマリケア医」を目指すことにしました。</p>
<p>自分自身のなりたい医師の像が、ここで働くことで朧気ながら見えてきたのです。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="B氏がなりたいと考えた理想の医師像とは"></div>
<p>「なんでも気軽に健康相談ができる医師になりたい」「いつかは地域で慕われるクリニックをつくりたい」――それが、B氏が描き始めた「医師像」でした。元の病院にいれば、こんなことは考えなかったでしょう。β病院での出会いと経験が彼を変えたのです。</p>
<p>そのモチベーションは加速し、日々の努力を欠かさず、患者さんと真摯に向き合って治療を行いました。</p>
<p>その様子をみていた病院幹部は心を打たれ、副院長からは「長年地域のプライマリケアのモデルとなるγ医院があるから、休みを使って非常勤勤務をして、そのノウハウを経営など含めて習ってきなさい」と応援してもらい、院長や診療部長からも「産婦人科や小児科、あとは他の診療科に関しても、積極的に参加してくれ」と応援してもらいました。</p>
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<p>臨床研修医の指導医として後進の指導はもちろん、他の診療科の学習・経験、経営センスなどを学び、医師12年目でクリニックを4月に開院することになったのです。</p>
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<p>ついにクリニックを開院したB氏。<span class="strongInContent">「どの年代であっても、どのような疾患であっても、プライマリケア医としてしっかり診療をする」</span>というスローガンのもと、丁寧に診察を行い、患者さんとも積極的にコミュニケーションをとりました。</p>
<p>初日の患者数は15名でしたが、スタッフや医師の接遇、心温まるクリニックの雰囲気と内装からも、インターネットの口コミやリアルの口コミは良好。しかもその口コミは<span class="strongInContent">「今はすいています。ただ、スタッフや医師は、自分が思っている以上のことを対応してくれ、心から信頼できるやすらぎの場所」「良質な診療で待ち時間が少ない。今は穴場。必ず混んでくる」</span>という未来に希望があふれる内容ばかりでした。しかし、患者数はなかなか増えずB氏は集患の難しさを痛感していました。</p>
<p>そんななか、ある事件が起きます。梅雨があけ連日の猛暑となった7月。近隣の保育園でサルモネラ菌による食中毒が大流行したのです。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="食中毒の大流行でB氏の運命は大きく変化する"></div>
<p>Ｂ氏は自分の勤務医時代の知識を活かして迅速な患者対応を行った上に、保健所対応や保育園へのアドバイスなど、1円の得にもならないことを真摯に行いました。</p>
<p>このような行動が評価され、地域のママ友コミュニティに急速に口コミが広がり、予防接種や健診などで急激に受診数が増加したのです。</p>
<p>このクリニックの1ヶ月の医業支出は、住宅ローン費用と光熱費が約80万円、人件費と福利厚生費が約200万円、薬剤・材料費が約50万円、検査委託料などが約40万円、そのほか経費が約30万円で、前回紹介した「地獄編」のクリニックと比べると合計400万円と常識的な範疇でした。</p>
<p>月18日（週4.5日）の稼働、診療単価は6,500円で損益分岐点の患者人数は1日あたり34名。秋には来院患者数は1日40人、冬には1日50人と増加の一途となり、楽に損益分岐点を超えるようになりました。</p>
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<p><span class="strongInContent">「開業は楽勝。俺も人生の勝ち組だ」</span>と叫んだA氏とは異なり、開業2年目を迎えても、まだまだ地域ニーズに応えたいと思ったB氏は、医師会の業務等で地域の乳幼児健診や学校医として従事し、地域包括支援センターにも出動。</p>
<p>その時に、とある訪問看護ステーションから在宅医療のニーズが足りていないことを聞き、休診日は怠けずに、お世話になったβ病院の訪問診療に従事して、そのノウハウを学習しました。</p>
<p>開業2年目の収支は、経常利益は2,400万円の黒字となったものの、予想以上の患者数増加によるB氏とスタッフの疲労も問題になってきました。</p>
<p>そのことを受けて、3年目にはスタッフをこれまで以上に大事にして長く地域に貢献するというコンセプトのもと、来院患者数を一定数超えた日に支給される「大入袋」、また毎月の収支を明らかにして黒字額に応じた「インセンティブ」の導入、さらに福利厚生の一環として会員制リゾート会員権を購入し、職員家族の宿泊体験などに招待するなど、女性が多い職場に配慮したきめ細かい対応を継続しました。こうした対応もあって、職員の離職は3年間でわずか1名のみとなりました。</p>
<p>ここまではうまくいっていた病院経営ですが、開業4年目に新型コロナウイルス感染流行による一時的な受診控えがおきました。しかし、それにもめげずに発熱外来、新型コロナウイルスワクチン接種、オンライン診療など、時代のニーズに応じた診療を展開しました。</p>
<p>そんなある日、B氏も新型コロナウイルスに罹患してしまいました。10日間の診療休止を余儀なくされましたが、育ててきたスタッフの協力で被害は最小限に抑えることができました。</p>
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<p>自分が休診して機能しなくなるのはマズイ。そう考えたB氏は近隣に2院のクリニックをオープンして、お互いのクリニックで休診時を助け合いながら、地域貢献を実施していったのです。</p>
<p>このようなB氏の活動をテレビ局等の各種メディアも注目し、インタビュー等に出演することになりました。出演のたびに、患者さんから「〇〇テレビみました」など励みの声をいただくようになり、ついには自費出版を計画することにもなりました。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="類は友を呼ぶ…会員制リゾートで会った医師たち"></div>
<p>類は友を呼ぶといいますが、よい医師にはよい医師とつながりができるようです。会員制リゾート会員権の担当者から、会員交流会に誘われ、豪華絢爛なパーティーへ誘われたB氏。</p>
<p>そこには、外科医で開業し診療所での日帰り手術はもちろん、地域の病院で休診日に習得した技術を後進に指導する情熱あふれるC氏、地域でいくつかのグループホームを設立して一般診療・訪問診療を展開する内科のD氏、「元」小児科医でありB氏同様、新生児から103歳まで1日100名の診療をこなすE氏など、さまざまな分野の素晴らしい医師がいました。</p>
<p>情報交換をすることで、おたがいのこれまでの苦労話を共有。それぞれの良い部分を吸収して、それを持ち帰ることで各地域の医療がさらなる発展をとげました。</p>
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<p><span class="strongInContent">「先生のおかげで安心できます。ありがとうございます」</span></p>
<p>B氏にはこの言葉が最高の報酬です。クリニックの売り上げは3院で年間4.5億円の規模にまで拡大しましたが、「自分が面倒をみれるのは3つまで」と、これ以上の拡大はしなかったB氏。それでも、彼が「自身の心の満足」と「患者の満足」そして経営面での満足も得た「天国系医師」であることは間違いありません。</p>
<p>もちろん、医師は免許がなければできない、特殊な仕事であることは間違いありません。しかしながら、その成功と失敗、天国と地獄を分けるのは、やはり医師の心のありようなのです。B氏は、真摯に理想の医療の在り方を考え、多くの患者と向き合ってきました。いつまでも「for youの精神」を持ち続ける限り、社会で真に必要とされる「あなたの理想のかかりつけ医」であり続けるでしょう。</p>
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武井智明

〈前編（「俺も勝ち組だ！」月600万円のローンを抱えた傲慢開業医の末路）で紹介したように、病院の経営に失敗して多額の借金を抱えてしまう医師がいる一方で、社会で真に必要とされる「あなたの理想のかかりつけ

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