<figure id="attachment_289097" aria-describedby="caption-attachment-289097" style="width: 5101px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f5bffe2e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/01/KIN_03111111127.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-289097" class="wp-caption-text">年俸は阪神時代から約10倍増となる325万ド㌦（約４億1900万円）。160㎞超の剛速球と148㎞のスプリットをメジャーは評価した</figcaption></figure>
雨が上がり、雲の間から差す光で明るく照らされた路上を、周囲より頭一つ、いや、二つも三つも大きな男が歩いていた。マスクで顔は隠れているが、197㎝の長身は誤魔化しようがない。
オークランド・アスレチックスとの契約のために渡米する直前、ひそかに東京を訪れていた藤浪晋太郎（28）は本誌記者の姿を認めて驚きつつも、「きちんと書いてくれるなら」と取材に応じた。
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突然のように思えたポスティングシステムによるメジャーリーグ挑戦は、実は「１年以上前からの決定事項」なのだという。
「実は、思うように成績が残せなくなった2017年～2018年あたりから、メジャーのアジア担当のスカウトの方に『メジャーに興味ないか』『環境を変えてみないか』と声をかけられてはいたんです。ただ、当時は自分の状態があまりに悪すぎて、環境を変えるウンヌンという次元ではなかった。自分の状態を良くすることで精一杯だったので、メジャー挑戦なんて考えられなかったのですが――2021年になって今度は大物代理人からラブコールが届いた。スコット・ボラス事務所の日本人の担当の方に『日本で燻（くすぶ）っているなら、メジャーにチャレンジしてみないか』『FUJINAMIはアメリカでは評価されている。メジャー契約を取れると思う』と熱心に誘っていただいた。ほぼ同時期に、全然繋がりのないところからも同じようなオファーがバババッと届いて、導かれるように……というか、『そういうタイミングなのかな』と考え始めたんです」
凄腕代理人の「メジャーで通用する」という見立てに、背中を強く押された。
ここ数年の課題だった制球難が大幅に改善され、与四球率がメジャー平均よりも良い７％台になった。それでも一軍と二軍、先発と中継ぎを行ったり来たりさせられた阪神での起用法も頭にあった。
「ここ数年は以前のような抜け球、引っ掛け球がなくなり、自信を持ってマウンドに上がれるようになりました。ポイントは大きく言うと二つ。山本昌さん（57）が臨時コーチをしてくださったときによく言われていた回内（かいない・腕を内側に捻ること）を意識すること。手首を立ててリリースする感覚がモノになってきたのは大きかったですね。もうひとつは、自主トレのときに巨人の菅野智之さん（33）に教わった『右足の蹴り込み』です。投球動作に入って打者側に体重移動する際、右足でしっかりマウンドを蹴ることで身体が開かなくなるのです。菅野さんの『ピッチングは下半身』という考え方は参考になりました。それでも、突然ストライクが入らなくなることはありましたが、スプリットを多投して戻すとか、試合中に修正できるようになりました。ここまで苦しんだぶん、引き出しは着実に増えました。
ところが……阪神の投手陣はリーグ屈指というのもあって、なかなか登板のチャンスは巡ってきませんでした。ピッチングコーチはフォローしてくれましたけど、2021年と2022年シーズンに関しては『使わないなら（他球団にトレードで）出してくれよ』という想いも正直、ありました。メジャーに挑戦するかどうか、誰にも相談できなかった。チームメートはもちろん、親にも言えない。ひとりで考えるうちに自然と『覚悟を決めて勝負しないといけないな』と気持ちが固まっていきました。というのも、常々『もっとチャレンジしないといけない』とは思っていたんです。野球を始めてからずっと、ひとつ上のステージに飛び込み、自分にムチを入れることで成長してきたという自負があるので」
<figure id="attachment_289317" aria-describedby="caption-attachment-289317" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a7f551ca"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/01/KIN_00444417.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-289317" class="wp-caption-text">高卒の投手としては松坂大輔以来となるルーキーイヤーから３年連続で二ケタ勝利を達成。その後の苦悩の日々を糧に大化けできるか</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="野茂英雄、武豊、大野将平からのエール"></div>
エースとして大阪桐蔭を甲子園春夏連覇に導いた藤浪だが、「中学時代は大した選手じゃなくて、（大阪桐蔭の）西谷浩一監督は全然、僕を獲る気がなかったんです」と笑う。
「ボーイズリーグ時代の先輩が大阪桐蔭にいて、ＯＢ戦で対戦したときに３つか４つ、三振を取ったんですよ。たまたま、あの日はスライダーがキレまくっていて……。それでその先輩が『絶対に藤浪を獲るべき』と監督に推してくださったから入れたようなものです。実際、卒業した後に監督と話したとき、『スピードも出てるように見えんかったし、大したことない選手やなと思ってたんやけどなぁ』と直接言われました(笑)」
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<figure id="attachment_289319" aria-describedby="caption-attachment-289319" style="width: 3232px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="70ff5027"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/01/KIN_011111212.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-289319" class="wp-caption-text">アスレチックスでは先発投手として期待される</figcaption></figure>
一蹴されることを覚悟のうえで、2021年のオフに「チャレンジしたい」と球団幹部に伝えた。しかし、球団幹部の反応は意外なものだった。
「『いつ言ってくるかなと思っていたよ』と。『基本的に認める』とも言ってくださりました。“チームが優勝したら”とか“15勝以上したら”といったメジャー挑戦のための条件も設定されませんでした。球団に意思を伝えた後、お世話になった方たちに連絡しました。もがき苦しんでいた時期に『細かいことは考えずに腕を強く振っとったらエエねん』『勿体ない。ぜひメジャーにチャレンジしてほしい』と励ましてくれた野茂英雄さん（54）は『おめでとう！　応援させてもらう』と喜んでくださった。山本昌さんも大変喜んでくれました。重圧との闘い方など、スター選手としての経験を伝えてくださった武豊さん（53）は『いいんじゃない？　一度きりの人生なんだから』と言ってくださり、五輪で２大会連続金メダルに輝いた柔道家の大野将平選手（30）からは『応援させてもらう。覚悟を決めたプロセスについてじっくり話を聞きたい』という言葉をいただきました」
<div data-friday-nextpage-lead="「アスレチックス・藤浪」の未来予想図"></div>
ボラス氏の読み通り、オークランド・アスレチックスからメジャー契約のオファーが届いて、１月11日に契約合意となった。だが、藤浪に「喜び」はない。
<figure id="attachment_289323" aria-describedby="caption-attachment-289323" style="width: 5474px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5717bea1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/01/KIN_03444352.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-289323" class="wp-caption-text">メジャーリーガーＦＵＪＩＮＡＭＩの初サイン！</figcaption></figure>
「期待半分、不安半分ですから。2022年のオフからメジャーの公式球を投げていますが、日本のボールより変化量が大きい。大きいスライダーやツーシームの割合が増えるかなと思っています。いま、メジャーでは大きく曲がる変化球が主流ですからね。高めのフォーシームも流行っているので、自分の100マイル（約160㎞）の真っ直ぐも有効かもしれません。メジャーの打者と『勝負できる』という自信があるから一歩踏み出したんですけど、まったく通用しない可能性もある。ここ数年、“メジャーは投高打低”だという声もありますが、実は各球団の主力投手が防御率３点台だったりする。打たれてますやん！　と(笑)。『チームに馴染めるかな？』という、環境面での心配もありますね……」
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大きな節目を迎えた藤浪。日本でのプロ10年間のハイライトは「2014年のＣＳ（クライマックスシリーズ）、巨人戦」だという。当時の藤浪はプロ２年目の20歳だった。
「初戦に先発したんですけど、７回の無死満塁のピンチを抑えて勝っているんですよ。あれは痺（しび）れましたね。満塁になった時点でガッと気持ちが入ってセペダ（42）をファーストゴロに仕留めてゲッツー取って、井端（弘和・47）さんを内野フライに打ち取るんです。逆に一番苦しかったのは……この出来事というのはないんですけど、2018年～2019年はメンタル的に結構、キツかったですね。ファームにずっといて、朝から練習して夕方に帰って来て、テレビもつけずにソファに寝ころんで『俺はいったい何をしてるんやろ……』とボーッとしている場面を思い出しますね。ただ、良くなかった時期も、苦しいときも、それも一興（いっきょう）というか、人生の味わいだといまは捉えています」
藤浪は本誌にも何度か登場しているが、印象深かったのが、西岡剛（38）、中田翔（33）ら大阪桐蔭の先輩に連れられて参加した「美女21人クルージング」（本誌2013年８月９日号）だ。末席にポツンと座り、つまらなそうな顔をしていたのは何故だったのか。
<figure id="attachment_289390" aria-describedby="caption-attachment-289390" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7e1c906d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/01/7ec4ccdf7c55a11da8616b1fc399a6ad.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-289390" class="wp-caption-text">美女21人とクルーズという美味しいシチュエーションなのに……</figcaption></figure>
「ハハハ。楽しかったんですけど、当時19歳だったんで、飲んでないんですよ。お姉ちゃんたちとお酒を飲んで、テンション上げてフワッとなる楽しみ方がわからなかった――という顔です、あれは(笑)。つまらないというより、19歳の藤浪少年にとっては『知らない世界』過ぎたんです」
メジャーという「知らない世界」への挑戦も、いずれ笑顔で振り返る日が来るのだろう。

鬼怒川 毅

ポスティングシステムでアスレチックへ移籍することが決まった藤浪。ファンにとっては寝耳に水のメジャー挑戦に見えたが、ここに至るまでには幾多のドラマがあった

独占インタビュー！藤浪晋太郎が明かす「アスレチックスとの契約合意までの全真相」

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