松本人志との「秘話」も…山田邦子が語った「いまだから明かせる『M-1』審査の舞台裏」
「『M-1』の反響はすごかったですよ。年が明けてからもずっと言われてます。一瞬ですけど、私が一番人気があったみたいでした。なんででしょうね。出場者でもないのにね(笑) 。若い人たちの間では『このオバちゃん誰?』ってことになってたみたい。10代や20代のコたちにはわからないんですよね。まあ、いまはテレビにはほとんど出てないんだから、そりゃわかんないでしょう(笑)」
昨年末の『M-1グランプリ』で優勝した『ウエストランド』と同じくらい世間の注目を集めたのは今回、初の審査員をつとめた山田邦子(62)だった。いったいその舞台裏はどんな感じだったのか? 会場の熱気と審査の舞台裏について、あらためて語ってもらった。
「放送中に、私の採点について、もうどんどんSNSに上がっていたみたいですね。もちろん放送中はそんなことは知らなかったんですが、終わってすぐに『すごい反響ですよ』って言われて、SNSを見てみたんです。そうしたら『あの点数の付け方はなっていない』とか、『何もお笑いをわかってないくせに』『もう二度と審査員をやるな』等々すごい書かれようだったんですよ。しかも、グサッとくる素晴らしい文章なのよ(笑)。
ところがそのうちに、『山田邦子を知らないやつのほうが素人だ』などと、逆に自分を擁護してくれる人も現れてきて……。その後は私に関係なく、攻撃側とフォロー側で言い合っていたみたいです。面白かったですね」
当時は批判コメントのほうがニュースで取り上げられることが多かったため、彼女に対してむしろマイナスイメージを持った人のほうが多いかもしれない。しかし山田は批判コメントを書いた人たちに対してもこう語るのだ。
「でも、アンチの人もフォローしてくれた人も、全員が観てくれた人たちなんですよね。観ていない人よりは全然いいですよ。みんなも審査員なんでしょうね。皆、漫才にこんなに関心があるんだなって思ったら、逆に嬉しくなりました。審査員が審査されるから、皆やりたがらないんだって聞いていましたけど、『ああ、こういうことなんだ』とわかりましたね」

とくに“アンチ”の人たちがやり玉にあげたのはファーストラウンド1組目の『カベポスター』で90点台をつける審査員が多い中、突出して低い84点を付け、続く2組目の『真空ジェシカ』には逆に突出して高い95点を付けたことだった。山田はこの採点の理由をこう語る。
「『カベポスター』はやっぱりクジ運の影響があったのかなあとは思います。一番最初だったから、お客さんの緊張がヒドくて会場の空気も重く、なんか冷た~いところへ出て来た感じだったんですよね。ネタ自体は面白かったですよ。すごくよくできてたし、フレッシュだったしね。7000組の中から勝ち上がって来た人たちなんで、皆、面白いのは当たり前なんですよ。でも彼らは『M-1』後も、他の番組でスベると、『邦子さん観てますか~』っていうギャグをやってくれているんです。ありがたいですよ(笑)。
『真空ジェシカ』のネタは面白かった。高齢者と福祉って、皆、やりたがらないネタなんですよね。それをやり切ったので、さすがでした。間違えたり、引っかかったりしながらやっていましたけど。でも、それがワクワク、ゾクゾクして、面白かったですねえ。私も現在、親の介護を抱えているんですが、お笑いをやっているんだから、辛いことがあっても笑顔を持ってやっていくネタっていうのはアリだなと思いました。やられたなーと思いましたね。
でも松本(人志)君は好きじゃなかったみたいで88点だったんですよね。ただ、これが審査じゃないですか」
『M-1』の話題をすると、やはり熱く語り出す。他に出場していた芸人にも話は及んだ。
「『ロングコートダディ』の1回目のマラソンのネタ、あれは私の中では優勝でしたね。次から次へととんでもないものが走って来たじゃないですか。素晴らしく面白かった。もう一回観たいです。ちょっと反省しているのは、コメントで『もう優勝じゃない?』って言ってしまったこと。あれは彼らに余計なプレッシャーをかけてしまったかもしれない。悪かったなと思います。
逆に『ウエストランド』は引きが良かった。ファーストラウンドで最後だと思ったら、最終決戦で1番目を引いてきた。それは続けてネタをやっているようなもので、つかみが要らない。だからテンションが高いままスタートできたんです」

審査員のオファーが来たのは秋の初めごろだったという。引き受けたことは口外してはいけなかったので、内緒にしている期間がとても長く感じたそうだ。
「オファーが来たときは『キターッ』って思いました。同世代の人たちが審査員としてこれまでたくさん出てるので、『たぶん私には来ないなあ』と思ってたんですが(笑)。 オファー以降、YouTubeで、1回戦、2回戦からの動画を全部観ましたよ。2ヵ月間ずっと観てました。当日、松本君が本番ギリギリまで、『ストレートな気持ち、素直な気持ちでいいから』と、ずっと言ってくれてたんです。だから楽しもうと思って本番に臨みました。でもやっぱり好きなタイプのネタは身贔屓してしまうんですよね」
『M-1』当日から1ヵ月以上が経った現在では、むしろ山田をフォローする人のほうが多くなった。彼女の採点を見直すと1組目と2組目が最低点と最高点だっただけで、すべてのバランスを見ればとくにおかしいところはない、とSNSで分析する人が何人もいたためだ。結局、山田にとって今回の“騒動”はきわめてプラスとなる経験だったようだ。

「TVやラジオに出たり、取材を受けたりすると、どこでもとても褒められて、文句を言う人はいなかったからよかったんじゃないですか(笑)。 私は真面目に審査したし、審査された経験があるので審査される側の気持ちもよくわかります。でも1000万円がかかっているというワクワク感ね。それは普通の新人戦なんかとは違いますね。夢のある大会なんだなあと思います。
面白かった、すっごく面白かった。みんなの面白いネタをタダで見られてギャラまでもらえてありがたい(笑) 。私も演芸場によく出ているので、今年もネタをちゃんとやっていこうと触発されましたね」
実際にはいまも現役で舞台に立っている山田。自身が今後やっていきたいことも聞いてみた。
「審査員ってジャンルないかしらね(笑)? 最近なんでも審査させられるんですよ。昨日も先日の大相撲初場所で優勝した大関・貴景勝の祝勝会があって、内輪で飲んだんですけど、何か料理が出るたびに『これ何点ですか』って聞かれて……(笑)。『辛口審査お願いします!』と(笑)。審査員っていう枠ないのかな? TVにあまりにも出ていないでしょ、もっと私を使ったらいいのに。まだまだ動けるんだから(笑)」

写真:足立百合