いま語る 思い出の『紅白歌合戦』「歴史的ハプニングと舞台裏」

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かつては視聴率80%を記録したこともある大晦日の国民的娯楽番組『紅白歌合戦』。18年で69回目を迎えたが、歴史の長さだけ、事件も多々、起きている。生方アナの「ミソラ発言」に長渕の暴言、記憶に残るハプニングなどの裏話を歌手の合田道人氏と元紅白チーフ・プロデューサーの島田源領氏が語り尽くします。

生放送ならではのハプニングが続出!

合田 島田さんは、25年間『紅白歌合戦』の担当をされたんですよね。すごいな。

島田 最初はADで使いっ走りですよ。それから紅組と白組双方のチーフディレクターを担当して、舞台監督になり、最後は演出を担当しました。合田さんの一番古い『紅白』の記憶はいつですか?

合田 1963年の『紅白』ですね。まだ2歳だったんだけど、新聞記者だった父が誕生日のプレゼントにテープレコーダーを買ってくれて、それで『紅白』を録音しました。繰り返し何度も聴いたんで、すごくよく覚えてるんですよ。

島田 ’63年は、最高視聴率を記録した年ですね。81.4%というとんでもない数字を叩き出した。

合田 舟木一夫や北島三郎、倍賞千恵子、三沢あけみさんらが初出場でした。坂本九さんが『見上げてごらん夜の星を』をずっと目を閉じて歌ってたんです。ずいぶん後に、ご本人と話す機会があったんですが、九さんは「あの時は、楽屋で衣装を盗まれて有り合わせの服を着て歌ったんだ。だから悔しくて泣きそうだったから目をつぶってたんだ」って言ってましたね。

島田 その当時、島倉千代子さんや吉永小百合さんを標的にした爆弾騒ぎや脅迫があったんです。舞台の下手(しもて)にミラーボールがあるんだけど、それが回ったら爆弾が仕掛けられた合図だと教わったのを覚えています。

合田 GSブームの頃には、『ザ・タイガース』が長髪が理由で出られないなんてこともありましたね。ソロとなった沢田研二が『許されない愛』などを引っさげて『紅白』に出るようになったのはそれから5年後の’72年です。

島田さんが最初に関わった年の『紅白』の思い出は何でしょう?

島田 ’76年。太田裕美や伊藤咲子が初出場でした。白組の司会だった山川静夫さんが、客席に降りていったのにマイクを持っていくのを忘れたんですよ(笑)。ベテランの山川さんでさえも『紅白』だと舞い上がるんだと思いましたね。

合田 当時の舞台裏はどうでした?

島田 スタッフも紅白で分かれていましたから、FD(フロアディレクター)同士が殴り合いの喧嘩になってた。勝った負けたで大騒ぎで。歌手だって真剣で、三波春夫さんが楽屋で「お前があそこでしくじったから負けたんだ」なんて真面目な顔で怒ってました。まるで賭けでもしてるんじゃないかと思えるくらい(笑)。

合田 出演者とスタッフもすごい数だったんでしょう?

島田 観客は3300人ですけど、出演者とスタッフで3000人以上いました。今はもっと増えているでしょうね。

合田 第29回(’78年)は人気絶頂のピンク・レディーが出場辞退したんです。『UFO』で日本レコード大賞を受賞したのにNHKと決裂し、大賞曲を『紅白』で聴けなかった年。’89年の第40回で、ピンク・レディーは昭和のヒット曲の歌い手として登場するわけです。

島田 応援合戦もすごかった。僕もコントっぽいことを考えてやったけど、これがまったくウケないんですよ。

合田 なんでですか?

島田 観客はハガキで応募して当たった人たちでしょ。100人に一人しか当たらないから、客席は知らない人同士、だから緊張しちゃってるんですよ。一度、三波伸介さんに「絶対ウケるから」と言ってセーラー服を着て客席から出てきてもらった。でも、会場はシーン。三波さんから殴られそうになりましたよ(笑)。

デビュー曲『高校三年生』が大ヒットした舟木一夫は’63年に初出場
長髪ゆえにGS全盛期には出場できなかった沢田研二はソロで17回出場
絶頂期に『紅白』を蹴ったピンク・レディーは人気も凋落していった

「仮面ライダー事件」と衝撃の「ミソラ発言」

合田 やはり『紅白』ともなると、芸能人にとっても晴れの舞台だから緊張もあるでしょうね。加山雄三さんの「仮面ライダー事件」の時はどうでした?

島田 あれは’86年ですね。白組のトップバッターが少年隊で曲は『仮面舞踏会』。僕は1週間くらい前から司会の加山さんに、「加山さん、仮面ライダーって言っちゃダメだよ。曲名は仮面舞踏会だからね」とずっと言ってた。冗談めかしてね。そしたら本番で加山さんが「それでは白組のトップバッターは少年隊の……」と言ったところでちょっと詰まった。一瞬、別のことを考えたようだけど、つい「仮面ライダー」って出ちゃった(笑)。袖にいた小林旭さんが腹を抱えて笑ってた。

合田 島田さんが言わせたようなものじゃないですか(笑)。あとは何といっても「ミソラ事件」ですね。

島田 ’84年でしたね。引退宣言をした都はるみさんの大トリ。異例のアンコールを歌いきり、拍手が鳴り止まない中、総合司会の生方(うぶかた)恵一さんが「もっともっとたくさんの拍手を、ミソラ……」とやっちゃった。あの時、僕は生方さんの2mくらい横にいたんです。「ミソラ」って言った途端、生方さんは20㎝くらい飛び上がりました(笑)。当時、生方さんは散々叩かれましたが、あの人は退局後、それをネタに講演をやってましたよ。これもホントの話なんだけど、あの時、生方家の庭に咲いていた花は、「ミヤコワスレ」だったらしいですよ(笑)。

合田 この時もすごい視聴率でした。

島田 そう、78.1%でしたね。

合田 あの頃は、『紅白』はずっと安泰だと思っていたんだけど、ここから島田さんの試練が始まるんですよね(笑)。

島田 そう、順調に視聴率は下がっていきました(笑)。

合田 島田さんにぜひ聞きたいんだけど、第37回(’86年)あたりから出場者の顔ぶれに変化が出てきますよね。

島田 ’82年にCDが登場したことが理由の一つなんです。普通、歌謡曲を好きな人はクラシックとかジャズとか民謡なんて聴かないじゃないですか。ところがCDで聴いてみると「意外といいじゃん」というのがあってね。歌謡曲の人気者だけでは『紅白』はやっていけないだろう、というんで、まずジャンルを広げようと思った。そこでクラシックの佐藤しのぶさんとかシャンソンの金子由香利さんとかが入ってきたんですね。

一方で、川中美幸さん、千昌夫さんなどが落ちてしまった。当初、美空ひばりさんにも出てもらうつもりでした。ところがギリギリになって理事の一人が反対して見送りになった。結局、ひばりさんが亡くなったのは’89年ですから、ここに出てもらえれば『愛燦燦』か『みだれ髪』を歌ってたでしょう。だから、NHKには当時の彼女の映像はないんです。

合田 第40回(’89年)から、1部・2部制になりました。1部は昭和の懐メロで2部は現在の音楽という趣旨はわかりました。でもその翌年から、ポール・サイモンやシンディ・ローパーなど、外国人アーティストが出てくるようになって、なんだかよくわからなくなった(笑)。

島田 僕らの理屈としては、音楽の領域を広げ、次にエリアも広げるべきだと考えたんですよ。それで8ヵ国衛星生中継をやったんです。

合田 あ、長渕剛がベルリンの壁から中継したのもその時ですよね。

島田 そうそう。

合田 17分間歌い続けて、番組を電波ジャックして、「日本人スタッフはタコばかり」と発言した。

当時のNHKの会長が「もう、『紅白』はやめる」なんて会見で言ったことも編成を変える原因だったんですか?

島田 それに対抗して外国人呼んだり、1部・2部制にしたりしたところもあります。まあ一種の反逆です(笑)。

合田 『紅白』を目指して頑張っていた歌手は目標がなくなる、と騒いでましたよ。それでも、また『紅白』人気は復活するのだから日本人は面白いというか順応性が高いというか。

そうだ。マイケル・ジャクソンを出そうとしたのは本当なんですか?

島田 あれは嘘です(笑)。当時会長だった島桂次さんが現場に来て「マイケル・ジャクソンくらい呼べねえのか。100万くらい俺が出してやるよ」と言ったんです。100万って円かな、ドルかなって言ってただけ(笑)。

合田 円ということはないでしょ(笑)。

島田 これは、僕の反省なんだけど、第40回で、大スクリーンで美空ひばりさんと山口百恵さんの映像を見せたんです。ところが、いくら大スターであろうと映像で見せたら、ホールの客席は冷めちゃう。それを元に戻すのがたいへん。これは映像を入れちゃいけない、中継も含めて映像はやめようとなった。

合田 そうでしたね。

島田 しばらくは若いスタッフも中継禁止を守っていたんだけど、第53回(’02年)に中島みゆきの『地上の星』で黒部ダムからの中継をやった。僕ね、頭にきて新聞記者に「あれは厚木のトンネルだよ。黒部なんて行ってないんだ、あいつら」なんてデマカセを言ってやったんです。

合田 悪い人だな(笑)。

発売直後の新曲『北の宿から』を歌った都はるみ。140万枚の大ヒットに
18回出場ながら美空ひばりと『紅白』との因縁は深い

小林幸子VS.美川憲一「衣装対決」も話題に

島田 第43回(’92年)あたりからは、小林幸子さんと美川憲一さんの衣装対決が話題になりましたね。小林さんの衣装の電飾がトラブルで点灯しなくて、震え上がったこともよく覚えていますよ。

合田 小林さんの派手な衣装に、和田アキ子さんが文句をつけたりなんてこともありましたね。

僕はここ15年くらい紅白のスタイルを真似たコンサートをやってるんです、『紅白』出場経験のある歌手を集めて。そこでは『紅白』ではやらなくなった入場行進、選手宣誓をやってます。すると会場のお客さんはものすごく盛り上がるんですよ。

島田 ああ、僕もあのセレモニーをやめたのを後悔してるんです。

合田 それを聞いて安心しました(笑)。それにしても、僕は日本人には『紅白』があって良かったと思いますよ。

島田 なんで『紅白』が長寿番組になったかという分析があって。それは大晦日のあの時間に設定したというのが一つ。そして大切なのが、一言で説明できる番組だったこと。つまり「歌手が男女、紅白に分かれて団体戦をやる番組」。さらに途中から見てもわかるというのもね。多様化している時代に、40%の視聴率は御の字ですよね。

合田 ええ。日本人の大晦日に『紅白』は欠かせない。’19年で70回目ですから、これからもずっと続いて欲しいし、歴史的なハプニングも見たいですね(笑)。

派手な大型衣装で年末の風物詩となった小林幸子。美川憲一との対決も人気に

合田道人 歌手・作家・音楽プロデューサー。紅白スタイルのコンサートもプロデュースし、ラジオ番組のパーソナリティも。『紅白』研究家としても知られ『「怪物番組」紅白歌合戦の真実』など著書多数
島田源領 ’71年NHK入局。鹿児島局、福岡局を経て番組制作局演芸番組班。『紅白』は’76年の第27回から参加。以降、総合演出、チーフ・プロデューサー、芸能番組部長として25年関わる

『紅白』ハプニング事件簿 生放送ゆえに巻き起こる出来事に会場も視聴者も驚愕!

昨年で69回目となる『紅白歌合戦』。その最大の魅力は生放送で人気者や有名歌手の歌やパフォーマンスを楽しめるところにある。が一方で、”生”ゆえに誰もが予想だにしなかったハプニングも巻き起こった。

まず、よくあるのが言い間違い。『紅白』の舞台では誰もが緊張で頭が真っ白になるらしい。これは「仮面ライダー事件」や「ミソラ事件」などが知られる。

そして、『紅白』という”晴れの舞台”に気合が入り過ぎてしまうケースもある。

今ではすっかり渋い俳優の吉川晃司もかつてはヤンチャだった。’85年、白組トップバッターで初出場した吉川は、曲中にシャンパンを口から撒き散らすパフォーマンスを披露。さらに歌唱後にジミヘンを気取ってギターにオイルをかけて火をつけ、燃やしてしまったのだ。このリハーサルにない暴挙で、ステージのオイルで転倒する出演者が出る事態に。後日、吉川は「やることやることがすべて裏目に出てしまった」と告白している。

衝撃だったのが’90年の長渕剛のベルリンからの生中継。3曲を連続で歌って17分ほど独占したせいで、大トリの森進一は歌唱時間を縮められ、また応援のバトンガールも出演できず、結局、長渕は、「タコ発言」と相俟(あいま)って、しばらくNHKに出入り禁止となった。

あのモックンもやっちゃってる。

’92年、本木雅弘は白い液体を入れたコンドームを思わせる9個のゴムを首につけ登場。最後はそれらを頭上で破裂させて液体まみれ――という意味不明のパフォーマンス。本人曰(いわ)く、エイズ撲滅への意味があったというのだが……。

ウケを狙いすぎて顰蹙(ひんしゅく)を買ったのが、’06年、綾小路翔がDJ OZMAとして出演したステージ。女性バックダンサーたちが衣装を脱ぎ出し、裸体の描かれたボディスーツで踊り始めたのだ。「本当の裸ではないのか?」との問い合わせが殺到。『紅白』を楽しむ一般の視聴者にはそのシャレは通じなかった。

大いにウケたのだが、NHKには伝わらなかったのが’91年に初出場したとんねるず。パンツ一丁で赤と白にボディペイントして登場。さらに背中には「受信料を払おう」の文字。歌手別視聴率2位(58.2%)を記録するも、結局、NHKは出禁になってしまう。

一時期は、年末の風物詩とまで呼ばれた小林幸子の巨大衣装(装置)も大掛かりゆえにトラブルがあると大ごとに。’92年の『紅白』で6万2500個の発光ダイオードを駆使した”人間ボタル”となってステージに上がった小林幸子だったが、コンピュータのトラブルで2万個しか光らず大失敗。推定4億円という電飾衣装は、翌年の小林のリサイタルのオープニングで使われ見事成功させたらしい。

こんなハプニングにハラハラドキドキするのも『紅白』の楽しみの一つ。今年はどんなことが起こるやら――。

昭和最後の『紅白』。白組司会は2年前の仮面ライダー事件の名残がまだ残る加山雄三

  • 取材・文小泉カツミ写真坂口靖子

Photo Gallary12

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