2兆円規模がジリ貧 劣勢テレビCMは「データ武装」で復活する?

テレビ平成30年史〔12〕鈴木祐司(メディア・アナリスト) 

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電通が毎年2月末に発表している「日本の広告費」

最新となる2018年の統計では、インターネット広告がテレビ広告とほぼ肩を並べた。17年からの1年で、3000億円ほどの差を詰めての肉薄だ。

つまり従来通りに展開すれば、平成から令和に代わった今年は、両者が逆転する記念すべき1年になる。

昭和を振り返ると、1975年にテレビが新聞を逆転し、メディアの王様となったことが際立った。ところが平成の30年間で状況は一変し、令和ではネットが王様となる。

平成の30年で、広告界の何がどう変わり、令和の時代にどこへ向かおうとしているのかを、テレビの視点から振り返り、探る。

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右肩上りは終わった! 

日本の総広告費は、1953年にテレビ放送が始まって以降に急伸した。

高度経済成長の波に乗ったこともあるが、テレビという爆発的に普及したメディアの功績が大きい。

58年に1000億円を超え、10年後の68年に5000億円に達した。その5年後の73年が1兆円、79年に2兆円と伸び、平成が始まる89年には5兆円に達していた。なんと30年で50倍の急膨張だったのである。

ところがバブル経済が崩壊したことで、広告費の伸びは一気に鈍化する。

平均するとそれまでは、4年で1兆円ずつ伸びていた格好だ。ところが平成に入ってからは、5兆から6兆円になるのに11年を要した。しかもその後の20年では、5000億円しか増えていない。

テレビ広告が誇ったかつての勢いは、平成で完全に影を潜めてしまったのである。

この30年は総額だけでなく、広告費の内訳でも大きな変化が生まれた。

4大マスコミ(4マス)と呼ばれる新聞・雑誌・ラジオ・テレビの勢いが消え、インターネットがシェアを急拡大させた。平成が始まった頃の4マスのシェアは、全体の3分の2あったが、今や4割ほどに低下した。その減少分のほとんどを、インターネットが奪って膨張してきた格好だ。

広告費の推移と背景の要因

逆風の中のテレビCM

テレビ広告費のピークは、2兆793億円だった2000年だ。

ところがその後、米国で起きたリーマンショックなどで08~09年に大きく痛み、その後横ばいあるいは微増が続いた。ところが近年、再び減少に転じている。この20年ほどで3000億円近くを失った計算だ。

平成前半の15年でみると、娯楽の多様化やテレビの多チャンネル化が、低迷の原因に挙げられる。HUT(総世帯視聴率)がゆっくり減り始め、テレビ離れがゆっくり始まっていた。

ただし本当に深刻なのは平成の後半だった。デジタル録画機やブロードバンドインターネットの普及で、タイムシフト視聴が増えた。スマホの普及で、見たいところだけ見る習慣が生活者に定着したのも痛い。

ただしこれら“オンデマンド”かつ“ピンポイント”な情報消費には、テレビの側も要因をつくり出していた側面がある。80年代半ばから90年代にかけて、無線リモコンが当たり前となり、テレビのザッピング視聴が一般的になっていた頃のテレビ側の対応の問題である。

見てもらってナンボ

ザッピングに対応するテレビ局側の一手には、例えばこんなものがあった。

「続きはCMの後で」「90秒後に衝撃の結末が」など、CM直前の“煽り”コメントだ。CM時のザッピングで、そのまま他のチャンネルへ流出するのを防ぐための、いわば“あざとい”演出だった。

ところが“煽り”に対しては、「イライラする」「姑息」など、反発を感ずる人も少なくなかった。

CMを出稿したスポンサーへの反感となるケースもあった。商品を「認知」し、「関心」を持ち、「欲しい」と思ってもらうためのCMだ。逆に嫌悪されたのでは、元も子もない。

そんなマイナスを回避すべく、違和感なく番組からCMへ移行する道が次に考案された。

例えばドラマの登場人物が、本編のドラマと同じようなシーンで、CMにも登場してくるケースだ。

新垣結衣と星野源演ずる草食カップルが「仕事としての結婚」をする『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年秋放送)。ガッキーの顔のアップの次のカットで、助手席でうたた寝する大谷亮平に切り替わった。視聴者はまだドラマが続いていると思いきや、日産「ジューク」のCMであることが分かる構成だった。

他にもある。前クール(19年1月〜3月)で好評だった北川景子主演の『家売るオンナの逆襲』

矢代課長(仲村トオル)行きつけのバー「ちちんぷいぷい」が舞台。ママの臼田あさ美とテーコー不動産の鈴木裕樹・本多力が登場するので、やはりドラマ本編が続いていると勘違いしやすい。愚痴っていたママがやがて、白洲美加に「ゴー」と命ずるTikTokのショート動画となり、CMということが明確になる。

スポーツ中継では、選手がCMにそのまま登場するケースもある。試合への高い関心のまま、CMを注視してもらおうという作戦だ。

また競技場内でバーチャルに商品が映し出され、CMに転換する例もあった。さらに番組とCMで同じBGMを使い、境界を曖昧にしたケースもある。

近年は一段と進化している。

例えば日テレは金曜ロードショーの中で、ミニ番組「スバル・ドラマチックシネマ」を挿入し、映画つながりにしてCMを見てもらおうとした。

去年正月に放送された『君の名は。』では、新海誠監督が本編の映画と同じテイストで制作したZ会のアニメCM「クロスロード」が話題となった。

去年2月の平昌五輪。

小平奈緒選手がスピードスケート女子500mで金メダルを獲った直後に、「祝!メダル」の文字が大写しになり、綾瀬はるかが「みんなでカンパイ みんなで乾杯!」とコカ・コーラを飲み干すCMが登場した。

オリンピックでの結果に応じて急遽差し替えたCMだったが、びっくりした視聴者は少なくなかったはずだ。と同時に商品の印象が、視聴者に深く刻み込まれたはずだ。

これらの挑戦では、「洒落た演出」と注目度が高まったり、「素晴らしい演出」と高く評価がされることもある。番組との関係を考慮したCMなら、邪魔者扱いされず、視聴者に深くリーチすることもあるのである。

転機のテレビCM

しばらく劣勢だったテレビCMだが、平成から令和に代わった今、より根本的なところで反転攻勢に出ようとしている。データによる武装だ。

AIDMAというマーケティングで使われる言葉がある。

A=Attention(注意・認知)
I=Interest(興味・関心)
D=Desire(欲求)
M=Memory(記憶)
A=Action(行動・購買)

CMで商品を認識し、欲しいと思い、実際に購入するまでのプロセスを言ったものだ。

ただし実際には、1000万人にリーチしたCMは、100万人に関心をもってもらえ、10万人が欲しいと思い、結局1万人が購入するなど、CMの効率は必ずしも良くない。

パーチェスファネル(購入までの漏斗)と呼ばれるが、各段階での数が購入までに急減する逆三角形になっているのだ。

ところがテレビの視聴データ、ネット上の閲覧ログ、そして購買データを直結させて分析すると、広告効果を格段に高めることが可能となる。

例えば実際にある商品を購入した人の、それまでのテレビCMの視聴履歴やネット上の閲覧履歴が分かれば、広告主はどこにCMを出せば最も効率的に購入に至るかがわかるようになる。

視聴データと購買データが直結しなくとも、より良い方法はある。

番組視聴者の年収・好み・志向など、視聴者の属性を詳細に浮かび上がらせる方法だ。例えば音楽好きと分かれば、新曲のCMは効きやすい。乳幼児のいる家庭とわかれば、玩具などのCMが効果を発揮する可能性が高まる。

広告主はターゲット層をより多く含む番組に出稿すれば、広告効果はかなり改善されるのである。

広告主は神様

ここ数年で、広告主は広告効果を重視し始めている。

これまでの世帯視聴率という大まかな量的調査だけではなく、広告主のターゲットにどれだけリーチできているか、視聴者に態度変容を起こさせられているかなども、厳しくチェックする時代になっている。

高度成長やバブル経済は、平成の始まりと共に過去のものとなった。テレビCMも、量的なリーチだけを問う時代ではなくなってきた。

しかも平成の後半以降、少子高齢化が進み、右肩下がり社会に突入した。こんな状況の中で広告は、威勢の良いお祭り的な賑やかしだけで十分という状況ではなくなった。

データドリブンという言葉がある。

限られたパイの中で、効率的に成果をあげて行くために、広告は説明責任を確実に果たせる出稿の仕方が求められている。お金を出している広告主のニーズに沿って行かない限り、テレビ局の未来はないのである。

ここ10年で劣勢となっていたテレビCMは、令和の時代にどこまで挽回するのか。

データに基づき、テレビの媒体価値をどこまで正しく説明できるか。テレビCMのバックヤードを今後どこまで整備できるのか。

テレビ局は新たな戦いに向かい始めている。

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  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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