人気キャスターが語る、今後のeスポーツ実況で求められるスキル

eスポーツの現場から 第5回:ゲームキャスター 岸大河

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2018年、流行語大賞のトップテンに入るほど大きな注目を集めたeスポーツ。その熱狂のど真ん中、eスポーツの「現場」にいる当事者たちはこの盛り上がりをどう感じているのか。

第5回目は、ゲームキャスターとして、第一線で活躍する岸大河氏。多種多様なゲームタイトルを取り扱い、どのタイトルでも高い評価を得ている第一人者だ。昨今、テレビ局アナウンサーからの転身も話題になる中、ゲームコミュニティから誕生した「生粋」のゲームキャスターにその現状と活動を訊いた。

「アナの実況力」+「芸人のアドリブ力」

――岸大河さんは、ゲームコミュニティのイベント司会などを経て、eスポーツキャスターの道に進まれました。きっかけは何だったんでしょうか。

岸大河(以下岸):最初はゲームプレイヤーとしてコミュニティや大会などに参加していたのですが、11年前の2008年の大会で司会を担当したことをきっかけに、徐々に司会や実況を行うようになりました。キャスターを専業としたのは2014年からです。

――専業になってから、仕事へのスタンスの変化はあったのでしょうか。

岸:自分に求められているものと、自分は何ができるのか、それを考えるようになりました。たとえば、以前、日テレの藤田大介アナウンサーと一緒に仕事をしたとき、何か伝える能力の高さ「アナウンサー力」に感嘆しました。それは僕にはない力です。ただ、僕がアナウンサーに寄せていったとしても、それはそれで求められるものとは違ってきてしまう。だから、アナウンサーに寄りすぎず、ストリーマーのようなゲーム実況にも偏りすぎないポジションを模索しています。

ゲーム実況に一番近いものがあるとすれば、スタジアムDJがそうかもしれません。スタジアムを盛り上げる力というのは、アナウンサー力ともまた違いますから。

――ゲーム実況特有のスキルには他にどのようなものがあるのでしょう。

岸:言葉遣いもアナウンサーの方とは違うと思います。たとえば、ゲームなので敵を殺す場面があるわけですが、さすがに言葉で「殺す」は使いません。これはアナウンサーも一緒だと思います。ただし、ある程度のフレンドリーな言葉遣いは視聴者にとって魅力です。なので、ゲームスラングだったり、そのゲームのコミュニティでよく使われている言葉は使っていますね。冷静さを失うほどのスーパープレイが出た時は思わず「えぇ!?」って言ってしまうし。「何が起こった!」とか(笑)。本来は「素晴らしいプレイが出ました」と言うのが良いのでしょうけど、現場の興奮を伝えるにはアリだと思っています。

――なるほど、ゲーム業界特有かもしれませんね。岸さんは普段どんな方を参考にして勉強されているのですか。

岸:実況の能力的なものではなく、パフォーマーの魅力としていえば、お笑い芸人やアーチストの方々は参考にしています。お笑い芸人ではくりぃむしちゅーの上田さんのMC力とか、アーティストではMISHAさんや久保田利伸さんの表現力などですね。

「クラロワリーグ 世界一決定2018」で実況を努めた岸大河氏

eスポーツの現場はトラブルだらけ

――eスポーツの大会ではたまにあることですが、機材トラブルなどでインターバルが空くと、実況者がその隙間をトークで埋めます。あれって、実はものすごいスキルなのではないでしょうか。

岸:たしかにゲーム実況の場合、ゲームや端末のトラブルが発生することがたまにあります。リアルスポーツでも荒天で中断したりすることもありますが、eスポーツでは結構な頻度で発生しているので、そこで場つなぎができるのはゲームキャスターならではの能力かもしれません。以前、『クラッシュ・ロワイヤル』というゲームの大会で、何度か止まってしまい、その間、実況以外のことを話して場つなぎをしたことがあります。だいたい30分から1時間くらいでしょうか。

――1時間しゃべりっぱなしというのは、芸人さんでも結構辛い時間だと思います。しかも全部アドリブなわけですよね。

岸:基本的に話す内容はそのゲームに関することなんですよね。今大会のレギュレーションや、ゲームに登場するキャラクターの話、バージョンアップされていたら以前とどこが変わっているのかなど。そのゲームの知識が入っていれば、次から次へと話題は出てきます。

『PUBG』というゲームの大会で、40分くらいの中断が3回ほどあったんです。僕が実況していた動画配信サービスを含め、3つの配信サービスが大会のストリーミングをしていたのですが、2つは「○○分後に再開します」と文字を出して、静止画で対応しました。しかし、僕の配信だけは、ずっとトークを続けて一度も配信を中断することはありませんでした。今、日テレの『eGG』というeスポーツ番組に出演しているのですが、eGGの担当者が僕にオファーしてくださった理由の一つとして、『PUBG』の対応を挙げていました。

――岸さんは様々なジャンルのゲームの実況をしています。となると、事前に覚えておくべき知識も莫大なものになると思います。たとえば、知識がほとんどない状態で仕事の依頼がきた場合はどうするのですか。

岸:リリース前とかだと、メーカーへ伺って開発段階のソフトを触らせてもらったり、ゲームの資料をいただいたりして、ひたすら勉強をします。ただ、ゲームひとつでも実況に耐えられるくらいの知識を得ようとするとかなり大変なんですよ……。なので、できれば継続性がある仕事であることが望ましいです。数週間かけて覚えたことが、一回のイベントでしか使われないとなると、さすがに厳しいです。

――なかなか大変なお仕事ですね。実際、eスポーツキャスターの収入面はどうなのでしょうか

岸:eスポーツの実況にかかわらず、どの業界でも貰えている人は貰えていて、貰えていない人はまったく貰えていないというのは変わらないですね。ある程度のクオリティをもって実況できる人は限られていて、現場の数も増えているので、そういう意味ではチャンスのある仕事だと思います。

でも、キャスターを始めた頃は、友達づての仕事がほとんどで、ギャラなんて出なかったんですよ。続けていくうちに1回1万~1万5000円程度の謝礼がもらえるようになって、ようやく仕事になった感じです。その後、徐々に3万円、5万円と上がっていきましたが、ここに到達するまでにはかなりの時間がかかりましたね。今はありがたいことに、それ以上の金額を提示していただくこともあります。ただ、現在の収入に満足してしまうと、それが頭打ちになって、後から入って来た人の収入が上がらないので、業界全体の収入の増加を目標にしていきたい。

――仕事が軌道に乗り始めた2017年、岸さんは大きな病気を患われましたね。病気をきっかけに仕事への姿勢や心境に変化はあったのでしょうか。

岸:はい、結核で約1ヵ月入院しました。入院中はまさに閉ざされた空間で、いろいろ考えさせられましたね。以前使っていた「Stansmith」という名前から、本名の「岸大河」に変えようと決めたのもこの時です。体調管理はプロとして最低限のことだと思っていたので、このときは本気でキャスターを辞めようと考えていました。ただ、色んな方に仕事のお詫びの連絡をするたびに、「待ってます」という声をいただいて。「復帰しなくちゃ」、そう思えました。

――岸さんのこれまでの実績を見てきて、待っている人が大勢いたということだと思います。良いことも悪いこともあると思いますが、岸さんから見て「eスポーツキャスター」は夢のある職業といえますか。

岸:夢があるようにしていかないといけないんでしょうね。憧れの職業になるように、築き上げていかないといけない。でも、それはまだまだ先かもしれません。まずはゲームをプレイする「ゲーマー」が楽しめる場を作ることが先決。それができで初めて、僕らのようなキャスターにも仕事がやってくるのですから。

きし・たいが/1989年、東京都生まれ。かつてはゲーマーとしても活躍し、FPSを中心に複数のタイトルで国内大会を制覇し、アジア大会でも優勝経験がある。2011年に初めて大会の実況をしたことを機に、2014年よりゲームキャスターの道を歩み始める。プロリーグや大規模大会『RAGE』などでMCや実況・解説を務め、日本テレビのesports番組『eGG』にもレギュラー出演。Twitter:@StanSmith_jp

 

第4回:日本eスポーツ連合(JeSU)編

第3回:ゲームメーカー編

第2回:ゲーム配信会社編

第1回:プロゲーマー編

  • 取材・文・撮影岡安学

    ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスライターに。ゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、かかわった書籍数は50冊以上。現在は、esports関連とデジタルガジェットを中心にWebや雑誌、ムックなどで活躍中。ゲームやアニメ、マンガ、映画なども守備範囲。近著に「INGRESSを一生遊ぶ!」(宝島社刊)。【Twitter】@digiyas

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