「スマデバ」時代のテレビ受像機 技術だけではニーズをつかめない

テレビ平成30年史〔14〕鈴木祐司(メディア・アナリスト)

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令和より一足早く、テレビは4K8K時代に突入していた。

いずれは地上波テレビも4Kが基本となり、8Kで日本の放送技術が世界をけん引するようになると、業界や監督官庁は期待を込めていた。

確かに1953年のテレビ放送開始から平成半ばまでは、テレビ技術の進化には目を見張るものがあった。

ところが平成の後半、テレビ受像機の進展は明らかに歩みを遅くしている感がある。

躍進から停滞に転じた平成30年間のテレビ技術について考える。

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遠くの今を伝える

テレビ(Television)とは、英語表記にある通り、映像を遠くに送り届けるシステムだ。

その歴史は、“よりリアルな今”を、“より遠くへ”送り届ける試みの連続だった。

“より遠くへ”の第一歩は、高柳式テレビ

「イ」の文字を離れた所に置いたブラウン管に映し出す実験は、テレビ放送開始の27年前に成功していた。

実際のテレビ放送は、53年2月に始まったが、この時は東京の映像が名古屋と大阪に中継された。下りのマイクロ回線を、合計5か所で中継していた。

7か月後には、上り回線が完成する。かくて甲子園球場での高校野球が、名古屋や東京にも届くようになった。

まもなくテレビは、全国へ広がった。

56年3月には大阪-福岡間、10月には東京-札幌間が開通し、主要都市でのテレビ放送が始まった。その後60年までに、47都道府県全てでテレビ放送が実現した。

次に日米間へと伸びて行く。

63年11月、衛星を使って「日米宇宙中継」が試みられた。実験は成功したが、伝えられた映像は当初の予定を変更し、ケネディ大統領暗殺のニュース映像となった。

映像伝送の距離はさらに伸びる。

69年にはアポロ11号の月面着陸が中継された。この時の視聴率は62%。大勢が見守った映像の伝送距離は、日米間の1万kmを越え、38万kmに達していた。

よりリアルに伝える

“よりリアル”な映像への進化も目を見張るものがあった。

テレビ当初の白黒映像は、60年にカラー化された。共に10年ほどでほぼあまねくとなる爆発的な普及だった。

平成に入ると、高画質化の道が始まる。

走査線の数が2倍、画面の縦横比を人間の視野に合わせて4:3から16:9の横長にしたハイビジョン(2K)が、2000年のBSデジタルや、03年の地上デジタルへとつながって行った。

画質はさらに向上を目指す。

2010年には3Dテレビが発売された。変更フィルターをつけた眼鏡などで見れば、映像が立体的になるシステムだった。

ところが実際の家庭では、食事をしながら、あるいはソファーに寝そべって、わざわざ眼鏡を付けてテレビを見る人はいない。3Dテレビはメーカーの思惑通りには売れず、絶滅して行った。

次に登場したのが4K8Kテレビ

4Kテレビとは、画素数が2Kの4倍(約800万個)、スーパーハイビジョン(8K)は16倍(約3200万個)の高精細になる。

14年夏に総務省は、4K8Kの普及に向けたロードマップを発表した。

それによると、2020年の東京オリンピックの際には、「約5割の家庭に4Kが普及」し、「多くの視聴者が市販のテレビで4K・8Kを楽しんでいる」状況をめざすとされた。

デジタル時代の誤算

以上のように、アナログ時代のテレビは画期的な普及をみせ、日本経済の活性化にも大きく寄与した。ところが平成半ば以降では、従来の法則がテレビに当てはまらなくなってきた。

例えば地上デジタルでは、当初は10年間で212兆円の経済波及効果と喧伝された。そのうち受信機などだけでも、40兆円の試算だった。

ところが実際は、アナログを停波し、完全デジタル化を成し遂げた2011年度に、日本の家電メーカーは過去最大の赤字に陥った。テレビで経済波及効果を享受するどころか、深刻な経営危機に陥る家電メーカーが少なくなかったのである。

思惑が外れたのは、放送局も同じだった。

地デジの当初は、メリットとして「ビジネスチャンスの拡大」「番組制作の多様化・効率化」などが言われた。

しかし現実は、デジタル化の設備投資に業界全体で1兆円以上の出費を強いられた。ところが収入増はほとんどなかった。

逆に11年のアナログ停波までで、テレビ広告費は1割以上減ってしまった。

しかもこの傾向は、今後も強まることはあっても、軽減される可能性は少ない。従来通りのやり方では、放送局の経営は立ち行かなくなってしまう可能性が高い。

地上デジタルでは、移動体向け放送と高機能も売りだった。

ところが移動体向けとして始まったワンセグ放送は、スマホの登場で急速に影を潜めて行った。

他の移動体向け放送としては、04年にモバHO!、12年にNOTTVが始まった。

ところが両サービスとも、普及することなく撤退に追い込まれた。移動体向けは、想定とはほど遠い現実だったのである。

地デジには、データ放送双方向機能もあった。

データ放送については、天気やニュースなどを好きな時にチェックできることもあり、一部の人々が一定程度利用した。

ところが双方向機能については、2013年にHybridcastサービスが始まったが、盛んに利用されているとは言えない状況だ。

敗因は放送内容をスマホでも活用できるというテレビ中心主義。スマートデバイス(スマデバ)時代は主従を逆転させ、スマホからサービスを設計しないと、利用はあまり進まないようだ。

4K8Kの行方

移動体向けと高機能化が思惑通りに伸びない中、最後の高画質化はどうだろうか。

平成に入ってからの高画質化の成功例は、2003年に始まった地デジでの2Kが典型例。ほぼ100%の普及をわずか8年で達成している。

ただしこれには、高画質の魅力もあるが、高画質よりテレビが薄型になったという点、さらに国策でアナログ停波を目指した点が大きかった。人々が放送を見続けるには、テレビを買い替えるしか道がなかったのである。

そして去年末に始まった4K8K。

テレビ全体の出荷量については、アナログを停波した11年に、例年以上の数字となっていた。ところが12~13年に大きく落ち込んだ。これに対し総務省は、14年から2020年のオリンピックにかけ、買い替え需要が発生し順調に数字を伸ばすと予想した。

ところが実際には、直後から予測は外れ続け、17年は予想より370万台ほど少ない出荷量に留まった。

JEITA(電子情報産技術業界)は、こうした実態を踏まえ、18年初めにテレビの出荷を2022年までに渡って予測しなおした。

これによれば、18年のテレビ出荷予測は501万台、五輪開催の2020年に向け急回復し、793万台に達するとした。ところが18年実績も451万台と、想定より50万台ほど下回った。

実態と予測のズレは、実は1家に2台目以降のテレビをどう見るかで起こっている。

総務省やJEITAは、11年までの膨大な出荷が、そのまま2020年に向けて買い換えられると見ていたようだ。ところが大半の家庭では、子供部屋や寝室にある2台目以降のテレビを買い替えなくなっている。

スマホやタブレットで十分だからだ。つまり1家に2.4台あったテレビ台数は、これから大きく減って行くようになる。

4Kテレビの出荷予測も、実態と大きく乖離した。

テレビ全体の出荷量を前提にしたのがまず間違い。次に4Kテレビのニーズを読み間違えたようだ。

まず14年時点で総務省は、2020年には約5割の家庭に4Kテレビが普及していると予測した。そして中間点の17年では、457万台の4K対応テレビが出荷されると見ていた。

ところが実際は、149万台と予測より300万台以上下回った。次にJEITAは18年初め、同年の4Kは216万台、2020年は437万台と予測し直した。

ところが18年実績も199万台と、予測を20万弱下回った。

ちなみに19年は、テレビ全体が686万台、4Kが337万台とされた。ところが1~3月の実績から見ると、テレビ全体は180万台ほど、4Kテレビも50~60万台ほど下まわりそうだ。

政府や業界の希望的観測が、如何に危ういかがわかる。

令和のテレビ

平成の半ばまでテレビは、“社会に向け開かれた窓”という側面を持っていた。様々な社会現象を可視化してくれたのがテレビだったからだ。

ケネディ大統領暗殺の映像、アポロ11号の月面着陸、ベルリンの壁崩壊などの映像は、日本人に大きな衝撃を与えた。新聞・活字から自立した映像ジャーナリズムが定着してきたプロセスと言えよう。

ところが平成にインターネットが普及し、組織ジャーナリズムが提供するだけでなく、普通の人々が発信するニュースや映像を受け取れるようになると、“社会に向け開かれた窓”は多様化した。

しかもネットの方が、オンデマンドかつピンポイントな情報消費を可能にする。テレビへのニーズは、明らかに減退している。

こうした状況を前に、高画質化などハイスペックな技術で、テレビへのニーズを保とうとするのは無理がある。大切なのは、使い勝手や感動など視聴者にとっての体験だ。

こう考えると、技術だけが頑張ってテレビ受像機を進化させても、容易に生活者に受け入れられないだろう。

令和の時代、テレビは役割を従来とは大きく変えていきそうだ。

あなたがスマデバ時代の只中にあるテレビの「機能」で期待しているものは何だろうか?

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  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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