月9復調はホンモノか?…若年層取り込みがフジドラマの新課題 | FRIDAYデジタル

月9復調はホンモノか?…若年層取り込みがフジドラマの新課題

『ラジエーションハウス』好調だが『パーフェクトワールド』『ストロベリーナイト・サーガ』は最下位グループ 春ドラマの決算報告

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「大好評のまま終えて大きな喜び」

今月5日に社長就任後初の定例会見を行った遠藤龍之介フジテレビ社長が、月9『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』を評して語った言葉である。

確かに録画再生も含めた総合視聴率19・8%は、春ドラマ民放全体でトップとなり、大成功だったと言えよう。

長く低迷していた月9は、この1年で世帯視聴率が上向き始めている。これは明るい兆しであることは否定できない。

ただし個人視聴率でみると不安も残る。同局ドラマ戦略の明暗を考えてみた。

フジドラマの見られ方

GP帯(夜7~11時)の民放春ドラマをビデオリサーチの世帯視聴率(関東地区)で振り返ると、テレ朝が高齢層を取り込み首位。

逆に日テレは世帯で最下位だが、スイッチ・メディア・ラボの個人視聴率では若年層トップに躍り出る。そしてTBSは、ホームラン狙いで話題作を連打すると同時に、世帯・個人ともにそこそこの視聴率を残した。

その中にありフジは、世帯で最下位の日テレを0.3%上回る3位。

しかも個人でも、C層(4~12歳)・T層(13~19歳)こそ2位だが、1層(20~34歳)・2層(35~49歳)は3位に低迷した。

90年代以降しばらく、フジはトレンディドラマでヒットを連打し、F1(女20~34歳)のフジテレビと言われた。ところがその後に低迷し、春クールでも日テレに1.2%引き離された。4分の3しか獲れていない。

M1(男20~34歳)でも日テレの7掛け、F2(女35~49歳)は8割強、M2(男35~49歳)も3分の2に終わった。かつて強烈に輝いた“若年層に強いフジ”のイメージは、消え失せたと言わざるを得ない。

月9の後退と反転攻勢

4月クールを世帯視聴率でみると、月9のみ二桁で、残り2本は非常に厳しい結果だった。

窪田正孝主演『ラジハ』こそ12.2%で全体4位と好調だったが、松坂桃李主演『パーフェクトワールド』(火曜9時)の6.4%と、二階堂ふみ主演『ストロベリーナイト・サーガ』(木曜10時)の6.7%は、GP帯ドラマとして最下位グループだ。

かろうじて月9が全体をけん引している格好だ。

実はフジ月9は、平成のテレビを象徴する大ヒット番組だった。

都会に生きる男女の恋愛やトレンドを描く新ドラマで、バブル景気で夢を膨らませた若い女性を虜にした。

主役は旬な男優や女優。役柄は広告代理店・テレビ局・デザイナーなど、いわゆる“カタカナ職業”。そして話題のスポット、ファッション、ライフスタイルなどをドラマに反映させる“トレンディ”路線に徹した演出が大ヒットにつながった。

最初に注目されたのは、平成3年(91年)の『東京ラブストーリー』(織田裕二・鈴木保奈美)と『101回目のプロポーズ』(浅野温子・武田鉄矢)。同枠の年間平均視聴率は21.5%となった。

続く平成5年(93年)、『ひとつ屋根の下』(江口洋介)で28.4%、『あすなろ白書』(石田ひかり・筒井道隆・木村拓哉)が27%。年間平均は23.2%に跳ね上がった。

さらに平成9年(97年)、27%の『ひとつ屋根の下2』と30.8%の『ラブジェネレーション』(木村拓哉)で、年間25%超を達成した。ドラマ枠の年間平均としては空前絶後で、月9の全盛期となった。

ところが勢いは、次第に衰え始める。

平成14年(02年)に初めて15%を切った。

さらに平成21年(09年)以降は15%未満が普通となり、平成28年(16年)には遂に年間平均で一桁という不名誉な記録を出してしまった。

その後もしばらく、年間平均で一桁から脱出できずにいた。

ところが去年夏以降、『絶対零度』(沢村一樹)、『SUITS』(織田裕二)、『トレース』(錦戸亮)と二桁を回復し、春クール『ラジハ』で12%台の大台にまで戻した。

個人視聴率で分析すると…

ただし過去4クールの好調さは、刑事モノ・弁護士モノ・医療モノなど、数字のとれる鉄板ネタで攻めた結果という側面も否めない。

かつての煌びやかなトレンディドラマのテイストは、大きく影をひそめてしまったのである。

この方針変更は、過去5年を振り返ると、大きく3期に分かれる。

全盛期のトレンディ路線を踏襲し“恋愛モノ”を並べた時期、低迷脱出を狙った模索期、そして数字重視で鉄板ネタを並べたこの1年だ。

この間の変化を個人視聴率で精査すると、状況が見えてくる。

山下智久主演『コード・ブルー』(17年夏)はシリーズ3本目でもあり、例外として流れから外してみて頂きたい。すると18年冬までが世帯の下降期で、18年春以降に反転攻勢が始まった。

ところが個人視聴率でみると、風景は全く異なる。

“恋愛モノ”を並べた15年がF1~2は一番高く、鉄板ネタのこの1年は世帯こそ高いが、若年女性の個人視聴率は15年を超えていない。

では世帯視聴率は、なぜ上がったのか。

実はF3が最悪期の2倍ほどに跳ね上がり、世帯全体をけん引したからだ。

今のテレビの視聴者は、3層(50歳以上)が6割強を占めている。この10年でみると、実際の人口動態以上に、テレビ視聴者の高齢化が進んでいる。高齢者の人口増と、テレビの長時間視聴の結果である。

逆に若年層は、テレビ離れで絶対数が減ると同時に、一人当たりの視聴時間が減少している。

テレビ視聴者の極端な高齢化は、こうして進んでいた。

月9への期待

ではフジ月9が鉄板ネタで中高年を獲り始めている現象は、どう解釈したら良いのか。

実は17年6月に社長に就任した宮内正喜氏は、社長内定会見で「現在の低迷しているフジテレビの業績を上げる、この1点に尽きると」と明言した。そして17年10月の改編では「今、フジは完全に非常事態」とし、18年10月まで3回の改編で、編成の一新に着手した。

特に18年春編成は、「フジは変わらなければ、変えなければ生き残れない」の号令のもと、21年続いた『とんねるずのみなさんのおかげでした』と、22年続いた『めちゃ×2イケてる!』の長寿2番組を打ち切った。

月9もこの直後から、視聴率重視へと舵を切ったのである。

結論から言えば、世帯は安定的に二桁を獲れるようになった。一定の成果と言えよう。

この果実を今年6月、宮内前社長から引き継いだ遠藤龍之介新社長は、「私の任務はさらなる視聴率の回復と、その結果としての業績の回復」と発言した。

実はフジテレビの18年度のGP帯視聴率は、前年比0.2%強とみごとに反転攻勢していた。

ところが広告収入は、前年比マイナス2.3%と、相変わらず下落が止まらない。15年前と比べると額にして1100億円以上、率にして4割弱を失っている。

民放の本来業務が、遠藤社長の発言通り“業績の回復”とするなら、高齢層の取り込みだけで世帯視聴率を回復させようとすると明暗が伴う。見た目の数字は改善されるが、広告収入増につながりにくいからだ。

やはり課題は、全盛期のように若年層を取り込めるドラマの制作だ。

春の『ラジハ』は鉄板ネタながら、これまで描いたことのない放射線技師の視点で制作するチャレンジだった。しかも幼馴染とのストイックな恋愛も縦軸にあった。若年層への訴求では、恋愛モノの時期には届いていないものの、着実に進化が認められる。

フジドラマの次の課題は、若年層にもリーチする“新たな月9”だろう。若者の胸を躍らせる面白いドラマを、ぜひ発明してもらいたいものである。

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  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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