大河ドラマ史上最低視聴率の『いだてん』39話こそ”神回”だ! | FRIDAYデジタル

大河ドラマ史上最低視聴率の『いだてん』39話こそ”神回”だ!

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視聴率低迷だけでなく、出演者の降板など何かとトラブルに悩まされた脚本家の宮藤官九郎(‘17年)
視聴率低迷だけでなく、出演者の降板など何かとトラブルに悩まされた脚本家の宮藤官九郎(‘17年)

10月13日の日曜日。ラグビーW杯「日本VSスコットランド」戦に勝利し、日本は悲願でもあるベスト8へ進出。日本ラクビー界にとって、歴史的な快挙を成し遂げたこの日は、記念日として永遠に語り継がれるだろう。

しかしその栄光の影で、大河ドラマ『いだてん〜オリムピック噺』(NHK)は、史上ワーストの視聴率3.7%を記録。屈辱的な視聴率にNHK局内にも衝撃が走った。

「ベスト8への期待から『日本VSスコットランド』戦は、39.2%と高視聴率をマーク。裏番組とはいえ、第6話から二桁割れした『いだてん』の視聴率は、ついに10月13日の39話でなんと5%割れ。もはや国民的な番組とは言い難いですね」(ワイドショー関係者)

多くのスタッフが肩を落とす中、誰よりも悔しい思いをしているのは、脚本を手掛けている宮藤官九郎に違いない。

「週刊文春に連載している宮藤自身のコラムでも、第39話『懐かしの満州』が最も描きたかった放送回と打ち明けています。その回がまさかこのような結果に終わるとは、この仕事を引き受けた時には考えもしなかったでしょうね」(前出・ワイドショー関係者)

大河ドラマの多くは、司馬遼太郎をはじめとする歴史作家の原作を元にしているが、この『いだてん』は宮藤官九郎が手掛けたオリジナル脚本。しかも番組スタッフが5年の歳月をかけて、オリンピックについて明治から昭和に至るまで取材を行ってきた。そのスケールといい斬新な映像表現は、大河ドラマ史上前人未踏のプロジェクトといってもいい。

「‘13年に朝ドラ『あまちゃん』が大ヒット。それを受けてNHKサイドと宮藤の間で新しい企画について話し合われ、戦争とオリンピックをテーマに据えた大河ドラマの企画が浮上。そんな中で宮藤は『ドンパチやる戦争ではなく、人間の笑いと情念を描いた話がやりたい』と、提案しています。当時宮藤の頭の中には、今回の大河ドラマを理解する上でも鍵を握る”一冊の本”が浮かんでいました。それが劇作家でもある井上ひさしが書いた戯曲『円生と志ん生』なんです」(放送作家)

井上ひさしの『円生と志ん生』は、昭和20年の夏から昭和22年の春まで、旧満州国南端の街・大連を舞台に古今亭志ん生と三遊亭円生の二人の落語家の実話を下敷きにした物語。

関東軍の慰問に行けば”ご飯も食べ放題、お酒も飲み放題”の誘い文句に踊らされ出かけてはみたものの、昭和20年の夏に日本は敗戦。軍や満州鉄道の関係者が先に帰国する中、満州に取り残された二人を始め民間人は、食うや食わず。まさに命がけの珍道中を描いている。

その中で、この戯曲には悲しい定めを生きる女性たちが度々登場する。

「終盤、シャレの通じない修道女と出会う二人。落語は『貧乏や人の死さえも不幸がシャレになる』と説明するも修道女にはまったく理解されない。反対に『なぜ笑いが必要なのか』と問われた二人は『貧乏を笑いに変えると素敵な貧乏になる』といった”笑いの哲学”を口にする。このあたりが、宮藤の琴線にも触れたのでしょうね。絶望や悲しみや恐怖から目を背けるのではなく、”笑い”に変えて不幸と共に生きる。そんな思いが39話『懐かしの満州』にも息づいています」(前出・放送作家)

では一体、宮藤は二人の命がけの珍道中をどう描いているのか。

「若き日の志ん生(森山未來)と圓生(中村七之助)の前に現れたのが、『いだてん』の主人公・金栗四三(中村勘九郎)のマラソンの弟子・小松勝(仲野太賀)。この小松が志ん生の落語『富久』の走るシーンになんとダメ出し。腹を立てながらも聞き入れた志ん生は、最後の高座で希望を無くしたお客たちを前に臨場感あふれる『富久』を披露して、会場は爆笑に包まれる。見事、絶望を笑いに変えることに成功しています」(制作会社プロデューサー)

しかも只の”いい噺”では終わらない。志ん生の「富久」を聴き興奮した小松は、一枚の絵ハガキをポストに投函すると街を走り出し、挙句にソ連軍の一斉射撃の末に生き絶える。そのシーンは悲劇的だが、笑いの力で走る喜びを取り戻した小松の生の輝きでもあった。

さらに宮藤はこの回で、壮大な伏線も回収している。

「小松が投函した絵ハガキは、帰りを待つ若い妻と子の元へ。それは『いだてん』の冒頭で、志ん生(ビートたけし)に弟子入りする五りん(神木隆之介)が持って現れた絵ハガキと同じもの。これで書き添えられた『志ん生の”富久”は絶品』の謎も解けるという、まるで最終回のような劇的な伏線回収もやってのけています」(前出・制作会社プロデューサー)

演劇界の先達・井上ひさしに挑んだ「神回」が、まさか大河ドラマ史上ワーストになるとは、なんという巡り合わせ。しかしラクビーW杯の裏とはいえ、ツイッターで”志ん生”はトレンド入り。WEBサイト「ザ・テレビジョン」の週間視聴熱ランキングTOP10では2位に輝き、一矢を報いている。

結果が悲劇的であればあるほど、伝説のオーラをまとう「神回」。今からでも、遅くはない。ぜひ観るべし!

【U-NEXT】いだてんの見逃し視聴はこちら

  • 島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    神奈川県出身。バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ヶ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓

  • 写真 Rodrigo Reyes Marin/アフロ

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