『男はつらいよ』50年 寅さんが全マドンナを招待“中華店秘話”

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「でぶそば」を経営する佐相幸延さんと妻のひとみさん。左には50作目となる『男はつらいよ』の新作ポスターが

「よぉ、おいちゃん! 来たよ」

厨房に声をかける四角い顔の男は、腹巻に雪駄履きというスタイルだった。格子柄の上着を羽織り、首からはお守りをブラ下げている。映画『男はつらいよ』の主人公・車寅次郎を演じた渥美清さん(’96年没、享年68)だ。

12月27日、50作目の新作が公開される『男はつらいよ』。渥美さんの生前は、車家が経営する団子屋の撮影と、映像に合わせてセリフを録音するアフレコが松竹大船撮影所(神奈川県、’00年に閉鎖)で行われていた。撮影所跡近くには、渥美さんが愛した中華料理店が今でもある。’59年に開業した「でぶそば」だ。主人の佐相幸延氏(66)が振り返る。

「渥美さんは先代(佐相さんの父親)と懇意にしていて、第1作(’69年公開)の時から来店いただきました。撮影の合間にいらっしゃるので、いつも服装は寅さんの格好です。作品ごとに3回はお越しになりましたね。1回はスタッフ数人と、1回は佐藤我次郎さんやお付きの方々と、そして1回は毎回のマドンナ役の女優さんとです。ちなみに店名は、先代が太っていたことから名づけられました」

『男はつらいよ』のマドンナ役には吉永小百合、八千草薫、竹下景子、松坂慶子など、そうそうたる女優が抜擢された。渥美さんは、必ずマドンナたちを1度は「でぶそば」に招待したという。佐相氏が続ける。

「名優の渥美さんが『お昼でも行くかい』と誘うんですよ。女優さんたちは、どんなステキなレストランに連れていってくれるんだろうとワクワクするでしょう。でも、着いたらウチのような大衆的な中華料理店です。女優さんたちは店に入ると、『エッ、ここ!?』と驚いた表情をする。渥美さんは、そんな彼女たちの顔を面白そうにチラッと見ていました。女優さんは、皆さん映画で見るより小柄でね。浅丘ルリ子さんは本当に細く華奢な方で、樋口可南子さんの肌は透けるような透明感でした」

渥美さんが毎回食べていた「寅さんセット」。半ラーメンに半チャーハン、シュウマイ3個で1130円

渥美さんの席は、奥座敷のカーテンの前と決まっていた。注文もしない。

「いつも同じモノを召し上がっていましたからね。半ラーメンに半チャーハン、シュウマイ3個です。今では『寅さんセット』(1130円)としてメニューに出しています。女優さんたちも、たいがい『寅さんセット』を食べていました」(佐相氏)

‘89年に佐相氏の父親が亡くなっても、渥美さんは「でぶそば」に通い続けた。

「店では渥美さんから貰い物をしたことはありません。ただ渥美さんは晩年、それを気になさっていたようです。第47作のロケ地となった、滋賀県長浜の旅館でのこと。付き人の篠原靖治さんに、こう言ったそうです。『「でぶそば」には長年通っているが、サインを書いたことがないなぁ』と。そして篠原さんに色紙を買いにいかせ、普段は書かない漢字でサインをしたためたんです(渥美さんは通常平仮名でサインを書く)。その頃には体調を崩され、ご自身の死を覚悟していたのでしょう」(佐相氏)

篠原氏によってサインが「でぶそば」に届けられたのは、渥美さんが亡くなってからのことだ。色紙には「へのへのとらじろう」という朱色の落款が押されていた。

食事中は物静かだったという渥美さん。食べ終わると寅さんのような愛嬌のある笑顔で、再び厨房に声をかけて店を後にしたという。

「おいちゃん、美味かったよ。ごっそさん!」

*****************

【店舗情報】

店名:でぶそば 電話:045-892-6882 住所:神奈川県横浜市栄区笠間2-6-7(JR大船駅から徒歩約10分) 営業時間:11:30~16:00(年末年始は12月31日~1月5日休み。通常は不定休) 席:テーブル16席

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店に飾られた渥美さん直筆のサイン。漢字で書かれるのは非常に珍しい。「へのへのとらじろう」という赤い落款も
渥美さんが一行がいつも食事をした奥の座敷。左側のカーテンの前が渥美さんの指定席。正面にマドンナ役の女優が座ることが多かったという
「でぶそば」の厨房。前身の中華料理店が創業した大正11(1922)年以来、ほとんど変わらない製法でラーメンやチャーハンを作り続けている
店内には『男はつらいよ』のポスターが代わる代わる掲げられている。取材日(11月18日)に飾ってあったのは’72年12月公開で八千草薫がマドンナ役の『寅次郎夢枕』
店の先代の主人。「でぶそば」の店名の由来のとおり、ふくよかな体型だった
旧・松竹大船撮影所近くにある「でぶそば」の外観。看板には先代の似顔絵が描かれている
  • 撮影会田 園

Photo Gallary8

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