グラミー賞大物スター不在の理由 テイラーもガガもいない授賞式
現地時間1月26日に開催された、第62回グラミー賞授賞式。
ビリー・アイリッシュがわずか18歳で主要4部門を含む5冠に輝いたほか、アリアナ・グランデが過剰にボリューミーなドレス姿で度肝を抜いたり、最優秀ポップ歌唱賞を受賞したリゾが大迫力のパフォーマンスを披露したりと、見どころはたっぷりあった。
……が、今年のグラミー賞は大物シンガーがこぞって欠席したことでも話題に。
スターたちはなぜグラミーをスルーしたのか。その理由を探った。


テイラー・スウィフト:グラミー賞の主催団体に抗議
アルバム『ラヴァー』がポップアルバム賞、同アルバムの収録曲『ラヴァー』が最優秀楽曲賞、さらに『ユー・ニード・トゥ・カーム・ダウン』がポップ歌唱賞にそれぞれノミネートされていて、「サプライズで『ザ・マン』をパフォーマンスする予定」とも報じられたが、直前で出演を辞退した。
テイラーは沈黙しているが、今回の欠席は、グラミー賞の主催団体であるレコーディング・アカデミーに対し、抗議の意志を示す行動だったといわれている。
近年、男性優位で性差別や人種差別な体質が問題視されているレコーディング・アカデミー。
2018年には受賞者が男性アーティストに偏りすぎて、投票操作が行われている疑惑を強めた。
この年の授賞式をめぐり、当時、主催団体の会長を務めていたニール・ポートナウ氏が
「もっと努力してさえくれれば、音楽業界で要職に就きたい女を歓迎してやってもいい」
と女性蔑視な失言を放ったことで、「長年、会長職を続けている時代遅れのこの老人こそが、グラミーの腐敗体質を生んでいる」と怒りの声が上がり、ポートナウ氏の退任署名運動が起きたことも。
そのポートナウ氏は翌年の授賞式を最後に、任期満了で退職。現在は顧問として、高額の報酬を受け取っているという。
ポートナウ氏の退任後、昨年8月に史上初の女性会長として採用されたのが、デボラ・デューガン氏だ。女性のトップなら、少なくとも性差別は改善されるだろうと期待されていた。
ところが、会長に就任した彼女が、グラミー賞の権威を守るために不透明な賞の投票システムや不正な金の流れを突き止め、さらにはセクハラやパワハラが横行していることなどの問題を告発したところ、突然職務停止処分を受けてしまった。
この処分に対し、デューガン氏は「職務停止は告発の報復である」と主張し、レコーディング・アカデミーに対して訴訟を起こしている。
デューガン氏は、U2のボノが設立したHIV支援団体REDの元CEO。音楽業界の社会貢献を牽引してきた。
そのクリーンなイメージや女性であることを、レコーディング・アカデミーに利用されてしまった。
デューガン氏の処分は、授賞式の10日前に決定。
テイラーが出演をキャンセルしたのは、デューガン氏への処分が報じられた直後のこと。
フェミニストでもある彼女だけに、抗議の意志は明らかだ。


レディー・ガガ:グラミー賞の主催団体に抗議
主演も果たした映画『アリー/スター誕生』の挿入歌『オールウェイズ・リメンバー・アス・ディス・ウェイ~2人を忘れない』が最優秀楽曲賞にノミネートされながら、授賞式には現れず。
ガガも、グラミー賞の主催団体に抗議の態度を示したテイラーに賛同したと見られている。
ビヨンセ:授賞式欠席は、いつものこと
映画『ライオン・キング』のために書いた楽曲『スピリット』がポップ歌唱賞、アルバム『ライオン・キング~ザ・ギフト』がポップアルバム賞にそれぞれノミネートされていたものの、夫のジェイ・Zとともに授賞式を欠席したのがビヨンセだ。
実はこの夫妻、たとえノミネートされている授賞式でも欠席することが珍しくない。
今回の不在もとくに驚くべきことではないのだが、2017年に受賞を確実視されていたにも関わらず、主要部門の受賞をことごとく逃すという、あからさまな人種差別と性差別に見舞われた経験から、グラミーをスキップした可能性も否めない。
授賞式には出席しなかったが、ショーン・コムズ主催のパーティーには顔を出したあたりも、意味深である。
セレーナ・ゴメス:選考対象になる楽曲がない
元恋人ジャスティン・ビーバーとの恋について歌った楽曲も含む、超話題の最新アルバム『Rare』が好評。
とはいえ、同アルバムは年明けにリリースされたばかりのため、選考対象から外れている。
よって、今年のグラミーはスルー。来年の授賞式を楽しみに待ちたい。
ジャスティン・ビーバー:選考対象になる楽曲がない
年明けに4年ぶりの新曲『ヤミー』をリリースし、待望の新アルバム『チェンジズ』も発表したジャスティン・ビーバーも、グラミーはスルー。
アルバムやYouTubeで公開されるドキュメンタリーシリーズ『ジャスティン・ビーバー:シーズンズ』など、宣伝したいコンテンツが盛り沢山のジャスティンだが、このご時世、グラミーに出席した程度では話題集めの効果はほぼゼロ。
授賞式の賑やかしになるより、自分のSNSで発信したほうがよほど注目が集まると判断し、欠席することにしたようだ。
マイリー・サイラス:ノミネートされず
EP盤の『シー・イズ・カミング』などのリリースがあったものの、グラミー会員の評価は低く、ノミネートを逃してしまったのが授賞式欠席の大きな理由。
マイリーは不在ながら、父親のビリー・レイ・サイラスが、最優秀レコード賞にノミネートされたリル・ナズXの楽曲『オールド・タウン・ロード』のフィーチャリングアーティストとしてセレモニーに出席している。
ジェニファー・ロペス:ノミネートされず
現在、主演映画『ハスラーズ』の大ヒットを受け、ゴールデングローブ賞や放送映画批評家協会賞など、映画系の授賞式に優先して出席しているJ.Lo。
そのため、ノミネートされてもいないグラミーは眼中にナシ。
婚約者のアレックス・ロドリゲスとのパンチの効いたツーショットは、グラミーのレッドカーペットでは見られなかった。
リアーナ:選考対象になる楽曲がない
2016年のアルバム『アンチ』以来、アルバムをリリースしていないリアーナ。当然ノミネートの対象になる曲もないので、欠席は予想通り。
「そろそろ完成」といわれ続けている新アルバムの発表に期待したい。
アデル:選考対象になる楽曲がない
アルバム『25』以降、新作をリリースしていないことから選考対象外に。
2017年にはビヨンセを抑えて主要3部門を受賞し、“グラミーのお気に入り”と呼ばれたアデルだが、最優秀アルバム賞の受賞スピーチでは「ビヨンセの『レモネード』が受け取るべき賞だと思います」と発言している。
かつて「音楽業界で最も権威ある賞」とも評されたグラミー賞だが、近年は迷走が続いている。
アーティストたちが抱く不信感を払拭しなければ、来年はさらに欠席者が増えてしまいそうだ。
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文:原西香
(はら あきか)海外セレブ情報誌を10年ほど編集・執筆。休刊後、フリーランスライターとして、セレブまわりなどを執筆中