練馬・中2首吊り自殺 いじめを1年隠蔽し続けた“校長の言い分”

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父親の利作さんと母親の永子さん。自宅にはサッカーボールや写真など絢君の思い出の品々があふれていた

文部科学省の調べによると、’18年に、いじめで自ら命を絶った小中高校生は300人以上にのぼる。なぜいじめによる自殺が減らないのか。長年、少年犯罪を取材し続けてきたジャーナリストの須賀康氏が、’07年に起きた痛ましい事件を振り返る。事件の背後には、学校による「いじめ隠蔽体質」があった。

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‘07年9月13日、東京都練馬区の公立中学2年生・近藤絢君(当時13)は、帰宅直後に自宅浴室で首吊り自殺を図った。そして1週間後、意識不明のまま病院で死亡した。母親の永子さん(同43)が一言一言気丈に語る。

「残された兄妹がいるため当初、学校には息子の自殺を病死にして欲しいと要望しました。でもそれは間違いでした。事件後いじめに関する証言が次々出てきたため、学校に調査と事実の公表をお願いしたんです。しかし、当初の要望を盾に拒否し続け事実の公表は1年後になりました」

自宅には数多くの生前の写真やサッカーのユニフォーム、ボールが遺影とともに飾られていた。事件当日を振り返ろう。中学1年から地域のサッカークラブに所属していた絢君は、この日も学校から帰宅してすぐにユニフォームに着替え自転車で自宅を出る。帰宅したのは午後8時半ごろ。永子さんが静かに話を続ける。

「夕飯中に帰宅した絢は、いつものようにサッカー用具を置くとシャワーを浴びに浴室に直行しました。しばらく出て来ないため兄が見に行くと、浴室に鍵がかかり呼んでも返事がなかった。心配した兄が鍵を開け中を覗くと、首を吊っていたんです」

自殺の原因が思い当たらなかった両親は、サッカー練習から帰宅直後に自殺を図ったためクラブでのトラブルが原因かと思った。永子さんはコーチに電話を入れ事態を説明。すると、コーチは耳を疑う次のような言葉を言った。

「絢君は8月26日以降練習に来ておりません」

いつもサッカー練習に行ったと思っていた両親は、初めて絢君がサッカーの練習を休んでいたことを知らされたのだ。

両親は絢君に何が起きていたのか、真相を探そうと絢君の携帯電話を開いた。すると、5月下旬から当日まで受信メールが約1000件、本人の送信記録が400件残されているのを発見した。

受信ボックスには、同級生のS君から「馬鹿!誰が許すなんていったよ」「このメールしかとしたら明日ツブス」「ぜってー殺してやる!謝れ!真面目に謝れ!」(原文ママ)といったメールが集中して送られて来ていたのだ。メールを見た両親は当初、この生徒とのトラブルが原因で自殺したのではないかと疑い、学校にメールの記録を渡し内容の調査を依頼した。

「君の見たことは間違いだよね」

一方、事件直後に病院に駆けつけた校長や担任らに絢君が自殺を図ったことを伝えた。そして兄や妹もいることから、生徒には心臓の既往症による病死と伝えて欲しいと要望した。絢君は心臓に穴が開いている心室中核欠損症という疾患で、定期検査に病院に通院していたのだ。

学校に調査依頼をしたが、20日間も何の連絡もなく改めて校長を尋ねた。しかし、メールの調査は行われておらず「アンケートは考えていない」という校長の言葉に、遺族は学校に突き放されたような怒りを憶えた。

49日が過ぎた11月9日、自宅に焼香に来た絢君の同級生の証言に両親は再び驚いた。Sとは別の同級生のグループから絢君が、いじめを受けていたことを知らされたのだ。次々に寄せられる証言を聞くうちに、原因はメールよりもむしろ学内での同級生によるいじめではないかと疑うようになった。永子さんが語る。

「『プールの時間に絢のバスタオルが隠されていたのではないか?』という、同級生の話がきっかけでした。その生徒はさらに『プールのロッカー室で、絢がズブ濡れのままロッカーのほうを向いて呆然と立っているのを見た。様子が変だったので自分のバスタオルを貸すと絢は“ありがとう”と言って使った』というんです。この証言で、絢に持たせたバスタオルが無くなっていることにも気がつきました」

この生徒の証言を学校に伝えると、学校はその生徒への聞き取りを始める。担任と学年主任、副校長と校長で3日間、3回に渡り聞き取りを実施したという。そして3回目の聞き取りがあった日、学校の帰りに遺族の家に立ち寄ったこの生徒は、永子さんにその時の心情をこう吐露したという。

「おばさん、僕の言ったことがどんどん違う風に取られている気がする。僕が何度も何度も同じことを言っても、先生たちは『君の見たことは見間違いだよね』と、言ってくるんだ」

さらにこうも告白したという。

「何度言ってもわかってくれない。先生は『近藤君はもう亡くなったので大ごとになるとよくない。この事はそっとしておかないと』と言ったんです」

学内のいじめが自殺の原因だと確信した遺族は、絢君の死因を自殺だったと公表するよう何度も学校に要望する。ところが学校は事実の公表を渋り、事実を公表したのは事件から1周忌が過ぎた’08年9月27日のことだった。自殺の事実が伝わるといじめに関する情報が次々出てきたが、学校は調査を実施しない。なぜなのか、私は当該中学校の校長を尋ねた。

「一旦遺族の要望で病死にしたわけで、その後違うといわれても……。事実を伝えると、受験を前に子供たちの混乱が大き過ぎると思った。アンケート調査も、受験を控えた生徒の動揺を考え拒否しました」

いじめの事実についても、こう否定した。

「近藤君以外へのいじめがあったことは事実ですが、近藤君へのいじめがあったとは聞いていない。プールの件も直接私が生徒に確認しましたが、そうした事実は出てこなかった。原因はいじめではなく他にあったのではないかと思います」

当時、練馬区教育委員会に足を運ぶと、学校教育部教育指導課長は自信たっぷりに答えた。

「いじめと自殺はまったく関係がない。原因は把握していますが第三者にはいえない。われわれは教育委員会の看板で責任を持ってやっている。(自殺の)原因は第三者には言えませんが、公の場に出ればそこでは明らかにします」

自殺の原因は把握しているという教育委員会の話を改めて遺族にぶつけると、永子さんがすぐに答えてくれた。

「サッカーが原因だというんでしょう。サッカーのことで私と主人との考えの違いで口論していたのを絢が聞いていて、サッカーのことで両親が喧嘩をする、と友人やコーチに相談したんです。そのことと、事件の前に私たちに黙ってサッカー練習を休んでいたことを繋げて絢の自殺の原因にしているんです」

文部科学省はこうした「いじめ隠し」を問題視している。’09年7月30日、生徒の自殺に対し学校に詳細な原因調査を実施させる指針を策定するため、精神科医や弁護士、現役教員などを委員とする「児童生徒の自殺予防に向けた取り組みに関する検討会」を設置した。

「これまでの学校、教育委員会による自殺原因の背景調査が不十分だったということです。学校が自殺の実態や事実の背景を詳細に調査し、把握する方法を検討していく。詳細な原因の調査を実施することで、次の自殺の再発防止につなげることが目的です」(文部科学省児童生徒課)

学校の「いじめ隠し」こそ、いじめ自殺の連鎖の元凶なのである。

  • 取材・文・撮影須賀 康

    '50年、生まれ。国学院大学卒。週刊誌を主体に活躍。政治や経済など「人と組織」をテーマに取材。学校のいじめ自殺や医療事故などにも造詣が深い。

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