発言する芸能人・小泉今日子が掲げる「自由と独立の旗」

小泉今日子が様々な発言をしている。そのバックボーンを人気ライターCDBが考察

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小泉今日子。のん主演の音楽劇『私の恋人』鑑賞後、下北沢の街に繰り出し、庶民的な中華料理店で、のんや「あまちゃん」ファミリーと合流した(2019年8月) 撮影:高塚一郎

4月22日 長期政権の腐敗に怒りのツイートをした小泉

それはまるでダムが決壊する光景のように見えた。2020年5月9日の土曜から10日の日曜にかけて、国会で審議されている「検察定年制度改正法案」に対する抗議のハッシュタグは数百万を越えてTwitterを駆け巡った。それは保守革新を問わず、過去に回ったどんな政治的ハッシュタグの勢いも遥かに上回る数だった。

法案制度そのものを見れば、それは検察官の定年制度を延長するにあたり、延長の判断を内閣がすることによって検察への影響力が増すことを危惧する議論だ。だがそのハッシュタグには、その前に文書を経ることなく行われた検事長の定年延長への口頭決済、さらに新型感染症への対応への不満や、スキャンダルの続いた長期政権に対する不信感が奔流のようにまとめて流れ込んでいたと思う。

ハッシュタグの文字列にそんなことは書かれていないのだからそれ以外の主張は無効だ、と論じることは無論できる。だがハッシュタグとともに書き込まれた多くの作家、漫画家、ミュージシャン、俳優らの投稿は、まるでずっと溜まり続けた水がついにコップから溢れ出すように次々と止まることなく続いた。

筆者はそのハッシュタグに名を連ねる多くの意見表明を眺めながら、3週間前、4月22日に投稿された『株式会社明後日』名義アカウントからの投稿、小泉今日子のツイートを思い出していた。

「人間だから間違えや失敗は誰にでもあるだろう。一生懸命やった結果だったら人はいつか許してくれるかもしれない。でも汚らしい嘘や狡は絶対に許されない。カビだらけのマスクはその汚らしさを具現化したように見えて仕方がない。」

その投稿は一部の芸能記事ではたった140文字のツイートさえ前段を省略されて「どことなく空虚」などと書かれた。だが小泉今日子は単にマスクが汚れていたという不手際に怒っているのではなく、わざわざ140文字の半分を割いて、それが業者のミスに対するクレームではないことを説明している。

彼女は最初から、そのマスクを象徴として、何年も続いた長期政権の腐敗について怒っているのだ。それは5月9日土曜日の夜にあの検察制度法案に抗議するハッシュタグが爆発するより前に、満杯のコップから流れ落ちた水の一滴だったのだと思う。

業界から孤立した若手女優に忖度なく花を贈った小泉今日子

僕は2019年の9月、小泉今日子がある若い女優に贈った花を見たことがある。

それは下北沢の本多劇場で、能年玲奈が「のん」という名前になってから数年ぶりにファンの前に姿を見せる舞台のロビーだった。

「渡辺えり様 のん様 小泉今日子」と劇団主宰渡辺えりとのんの2人宛に贈られたその花がどんなに重要な意味を持っていたか、多分ロビーにいた観客にはわかっていたと思う。能年玲奈という本名で活動していた時、彼女は紛れもなく二十歳にして国民的女優だった。だが所属事務所とのトラブルで「能年玲奈」という名前を名乗れなくなった彼女には、業界関係者からの花が驚くほど少なかった。

のん。「東京国際映画祭」では『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が上映され、レッドカーペットでも多くの注目を集めた。 撮影:川上孝夫

いまだ多くのファンが彼女のためにチケットを買い求めて劇場を満員にし、ロビーにはファンが費用を出し合って贈った花が飾られるほどの人気にも関わらず、アニメ映画『この世界の片隅に』の片渕須直監督らスタッフ、後に公開される映画『星屑の町』で共演するラサール石井らから贈られたいくつかの花を除けば、渡辺えり、小日向文世の2人に贈られた山のような花束に比べて、若きスター女優である彼女への花はあまりに少なかった。

それは過去に彼女と仕事をした多くの業界関係者が、何かを憚るように関わりを避けているという状態を見せつけるような残酷な光景だった。

小泉今日子からの花はそうした状態のロビーで、何も恐れるものがないように美しく飾られていた。それはただ気持ちがあれば贈れる花ではなかった。贈りたくても所属事務所や会社の許可が出ずに止められた人も多かったであろう中、自分の意志を通し、自分で責任を取れる環境を作り上げてきた小泉今日子の今が象徴されたような花だった。

その前年、彼女は36年間所属した芸能界最大と言われる大手事務所の傘下から独立し、彼女自身が立ち上げた制作会社『明後日』で舞台の制作やプロデュース業を行うことを発表している。それに伴い女優や歌手活動はしばらくの間休養することも宣言され、2019年に放送された大河ドラマ『いだてん』は彼女の女優休養前の最後の仕事となった。

マスクの汚れを政治的不正の象徴に喩えた彼女の文法に倣うなら、あの日、ロビーで業界から孤立した若い女優に贈られた美しい花は、彼女が人生の全てをかけて獲得した、自分の意志で花を贈れる自由の象徴に見えた。4月22日に投稿されたマスクへのツイートも、あの5月9日に投稿された検察制度への批判ハッシュタグへの意見表明も、空虚でもなければ唐突でもない。彼女は人生のすべてを懸けて、重大な場面で言うべきことが言える自由を獲得してきたのだ。

小泉は自伝的エッセイ『黄色いマンション 黒い猫』の中で、「のん」こと能年玲奈と自分の関係について書く。

『春子がなれなかったアイドル。私がならなかったお母さん。(中略)私が選ばなかったもう一つの人生。だから、春子とアキ、私と能年ちゃん、二つの関係が物語を通して同時に進行すると言う不思議な体験をしている。』

柴咲コウ、きゃりーぱみゅぱみゅ、秋元才加…後に続く発言する者たち

かつて小泉今日子を『KYON2』と呼び、彼女がいかに革新的なアイドルであるかを語った男性評論家たちは今、彼女の周りにはいない。髪型や衣装にまで彼女のセルフプロデュース力を見出し、そこに当時の流行であった現代思想を重ねて書き手として名を成し、今では業界の大御所となった当時の男の子たちは、小泉今日子が最大手事務所を独立し、本当の意味でプロデューサーとして歩き始め、自由に発言しはじめたことに奇妙なほど興味を持たない。

だがその代わりに、小泉今日子の後には多くの後輩たちが続いている。柴咲コウは議論となっている種苗法についての問題提起をツイッター上で行った。きゃりーぱみゅぱみゅは検察法案ハッシュタグへの同意を表明した。

多くのコメントスクラムに囲まれた彼女たちは、「理解が十分でなかった」「ファン同士が喧嘩をしてしまうので」という理由で投稿の一部を削除したが、そのすべてを削除してはいない。柴咲コウは種苗法への問題提起そのものは「何かを糾弾しているのではなく、知らない人が多いことに危惧しているので触れました。きちんと議論がされて様々な観点から審議する必要のある課題かと感じました。」と言う文面と共に今もタイムラインに残している。

きゃりーぱみゅぱみゅは引用した画像の不備を指摘され「今後は発言に責任感を持って投稿していきます」とコメントを出したものの、意見表明そのものは撤回していない。表明された問題意識は、ゼロ地点まで押し戻されてはいないのだ。

素人考えとネットに嘲笑された法案への反対にはその後、日弁連や元検事総長たちが次々と加わる展開となっている。だが仮にそれらを無視して法案が強行されたとしても、多くの人々のあげた声は大きな河を渡り、引き返すことはないのだと思う。

元AKBの秋元才加は、以前から社会に対する発言を続け、今年感染症を避けてオンラインで行われた東京レインボープライドのゲストにも招かれた。自分の外国籍の母親と社会のあり方について語り、検察法案への問題提起にも意見を表明した彼女は、その2日後12日ハリウッド映画に参加することが発表された。

コロナ禍での演劇プロデュース 小泉が掲げる自由と独立の旗

『黄色いマンション 黒い猫』には多くのことが書かれる。能年玲奈との交流、芸能界の秘話、そして幼い頃に経験した父親の会社の倒産と離婚、債権者から隠れるように母子で暮らした時期のこと。

だが小泉今日子は、その波乱万丈の著書の冒頭を20年前に死んでしまった黒い猫についての記憶から書き始める。それは彼女がアイドルであった時代、自宅マンションの前に両目を潰された猫を段ボールに入れて置かれるという衝撃的な経験についての記憶だ。その猫は選挙カーの音声に驚いて彼女の腕から飛び出し、7階から下の路上に落ちた後に行方を消してしまったのだと言う。

それはエッセイの冒頭に掲げるにはあまりにも陰惨で、救いのない記憶だ。でも小泉今日子はたぶん、自分の人生についての著書をどうしてもその猫のことから書き始めたかったのだろう。20年前に自分が助けられなかった黒い猫は世界の不条理と暴力についての象徴で、彼女はその猫のことを一度も忘れたことがなかったのだ。

5月13日、小泉今日子はYouTubeのライブ配信「ミニシアター・エイドLIVE #ミニシアターと私」に出演し、シネコンで上映される大作映画とは違う、ミニシアターで上映される映画とそこにある文化からの影響を語った。

彼女は2018年6月15日に、独立以前から決まっていた仕事を終えた後、女優歌手業についてはしばらく休養し、舞台の制作などプロデューサー業に力を入れることを発表している。既に「明後日」プロデュース作品『日の本一の大悪党』は独立前の2016年に公開されているが、2018年に芸能界最大手事務所から独立した彼女の今後の活動は、世界中の劇場と映画館が新型感染症に喘ぐ中、嵐の海に小舟で漕ぎ出すようなタイミングと言えるかもしれない。

新型コロナウイルスの影響で公演が延期・中止となっている「本多劇場」(下北沢)

彼女が能年玲奈にあの花を贈った下北沢の本多劇場も、今は公演自粛にあえぐ状態だ。だが彼女がプロデューサーとして手がける作品の公開の場がどこになるにせよ、その作品は今まで小泉今日子がそう生きてきたように、白い布を汚す不正に怒りを表明する自由と、世界から孤立した女性に何も恐れることなく美しい祝福の花を贈る勇気が満ちた作品になるのではないかと思う。

プロデューサーとしての小泉今日子が作り出す作品が、この国の劇場やミニシアター、あるいはオンラインに公開される時、それはたぶん、柴咲コウや秋元才加やきゃりーぱみゅぱみゅのような彼女の後輩たちにとって、そして世界の不条理な暴力から守るように、自分の猫を抱きしめている多くの女性観客にとって、この国の芸能界に上がる小さな自由と独立の旗のように見えるだろう。

たとえ世界が不条理と暴力と新しい感染症と、そして強行採決に満ちていたとしても。

◆文:CDB(ライター)
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