素麺じゃないの⁉︎ 「揖保乃糸」の自信作は神戸牛ラーメンだった | FRIDAYデジタル

素麺じゃないの⁉︎ 「揖保乃糸」の自信作は神戸牛ラーメンだった

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着想から2年、微調整を重ねてようやく完成!

「揖保乃糸 龍の夢 神戸牛醤油ラーメン」。写真は和牛や野菜などをトッピングしたイメージです。商品には具は入っていません

素麺やっぱり揖保乃糸〜♪ のCMで全国的知名度を誇る揖保乃糸。最近、その揖保乃糸の新商品が出たというので調べてみたら、なんと「神戸牛を使ったラーメン」!  素麺作りだけじゃ飽き足らずラーメンにまで手を出したか…と思いきや、実はこのラーメン、揖保乃糸と同じ“手延べ製法”で作った中華麺で、しかもこの中華麺自体は2005年に「兵庫県手延素麺協同組合」から発売されたれっきとした揖保乃糸ブランドの商品なのだとか。

素麺の組合って何? 一体揖保乃糸ってどういう組織で作られているの? と色々気になったので、本拠地である兵庫県たつの市に乗り込んで取材してみました。

揖保川の恵みを受け、600年前から素麺作りが! 

「母なる川に幸福を」(写真は揖保川/たつの市提供)

たつの市は姫路からさらに西にあり、すぐ左は岡山県という県境に近い町です。醤油の名産地としても知られています。

JR本竜野駅を降りると、あるわあるわ素麺の看板! 揖保乃糸の聖地巡礼に来たって感じでテンション上がります。

『はりま製麺』は揖保乃糸を作るメーカーの一つ。素麺以外にも色々な麺を作っています

で、冒頭の「揖保乃糸 龍の夢 神戸牛醤油ラーメン」を作ったメーカーがこの『はりま製麺』。建物は相当古く、これルネサンス様式ですか! とツッコミたくなるぐらい重厚な建築です。聞くと『はりま製麺』はもともと小麦粉を製粉する『新宮製粉精麦株式会社』として昭和26年に創業。製粉したら麺も打ちたくなるのが人情ってことで1994年に製麺を行う『はりま製麺』が立ち上げられたそうです。社長の官野さんは4代目。とにかく揖保乃糸がどのような工程で作られているか全然知らなかったので、官野さんに教えてもらいました。

揖保乃糸は等級の違いで帯の色が分かれています。組合が選抜した生産者により作られる「三神」「特級」、ポピュラーな「上級」など。級が上がるほど麺が細い!

そもそも何故たつの市周辺で素麺が作られるようになったかというと、播州平野の土壌と豊かな気候風土が育む良質の小麦と揖保川の水車製粉、さらに揖保川の水が軟水で麺づくりに向いていたこと、冬は寒いけど雪が少ない気候であること、加えて赤穂の塩が近くにあった…という立地的条件が揃っていたことが大きな要因。すでに1418年にはこの地域で素麺が作られていたと斑鳩寺(揖保郡太子町)の古文書に残っています。その中でも揖保乃糸が産地化されたのは江戸時代の1771年〜1780年頃からで、龍野藩によって「許可業種」として奨励されたことで技術が受け継がれたのだとか。

揖保乃糸は一社で作っている訳じゃなかった!

揖保乃糸の黒帯(特級)。「まるで糸のようですねえ。あっ、だから揖保乃糸なのか!」と一人で興奮していましたら官野さんに(˙-˙)って顔されました

で、その伝統産業である揖保乃糸の生産ですが、実は1つの会社が作っているのではないのです。明治20年、揖保乃糸を生産管理するため設立された組織が現在の「兵庫県手延素麺協同組合」の前身。ここに加盟している組合員(揖保乃糸生産者)が作ったものを組合に納品して全国に販売しています。たつの市を中心に姫路市など周辺で400軒ほどの組合員が揖保乃糸を作っているそう。 犬も歩けば揖保乃糸に当たるって感じですね!

揖保乃糸の帯の裏には各生産者に割り当てられた3桁の番号が打刻され、誰が作ったか一発で分かるよう管理。トレーサビリティの極致!

でもこれだけ何軒もの生産者が作っていたら、品質にばらつきが出るのでは? 「組合から小麦粉、塩、油といった原料、結束の帯、木箱など資材が配給され、同じ機械で作り、納品後に厳格な検品を経て商品になるので品質は均一です!」。しかも、地域ごとに素麺作りの勉強会が開かれ、さらに組合の検査員が定期的に各家を見回って出来具合を確認しているのだとか…。ひょえ〜、国営企業のようですね!

階級ごとに箱詰めして出荷される揖保乃糸。オートメーション化されています

それだけクオリティコントロールされた揖保乃糸、素麺だけかと思いきや実は「手延べひやむぎ」「手延べうどん」、さらに先ほど紹介した「手延べ中華麺」と、手延べ技術を駆使して色々な麺を作っています。

そもそも手延べって普通の麺とどう違うの? と言いますと、手延べとは小麦粉を捏ねて伸ばして引っ張ることで細くする製法。普通の麺は小麦粉を伸ばして細く切る、という違いです。手延べ麺は小麦粉を熟成させ縄状に縒りをかけて延ばす作業を繰り返すことで、縄状に方向性を持ったグルテンが澱粉粒を包み込むことでなめらかな舌触りとコシがある歯切れの良い食感を生むそうです。ってちょっと難しいので詳しい製法は後にして…。

「揖保乃糸 龍の夢 神戸牛醤油ラーメン」が乾麺の域を超えている

社長の官野さん。物静かな方ですが、秘めた素麺愛を感じました

組合から仕入れた「龍の夢」(中華麺の名称です)を使い、神戸牛ラーメンを開発した『はりま製麺』。その誕生エピソードには予想を超える苦労と工夫がありました。開発のきっかけは官野さんが他社が作った乾麺の牛肉ラーメンを食べてみたけどいまいち牛の味がしないな〜、兵庫特産の神戸牛を使ったら美味しいラーメンを作れるんじゃ? と考えたこと。最初は神戸牛のエキスや粉末でスープ会社にスープを作ってもらっていたのですが、どうもしっくり来ない。しかし「神戸牛ラーメン作りまっせ!」と販売先に豪語しちゃってた官野さん、「まだ出来ひんの〜?」と急かされ焦っているところに販売先から違うスープ会社を紹介されました。同時に材料から見直した方が良いのでは? と思い、既存のエキスとかパウダーを使うのではなく、神戸牛そのものを仕入れてスープを作ることに!

中華麺80g×2、液状の神戸牛入り醤油スープ×2が入っています

さー神戸牛を精肉店から仕入れたぞ〜と安心している間もなく、今度はスープ会社が「神戸牛の脂は繊細すぎて、充填するときパイプが白濁すんねん」と製造に難航。ようやく試作が出来上がったと思ったら、試食した人から「牛の匂いが強い」だの、薄めたら薄めたで「醤油の味しかしない」だの…。微調整を重ねてようやく完成したのは2020年。着想から2年もかかったそうです。私なら半年で諦めるなー。さすが製麺業者、コシを据えることと粘りだけは誰にも負けませんね!

『はりま製麺』の揖保乃糸以外の製品。「職人気質」というラーメン、有名雑誌のお取り寄せ企画でも取り上げられた自信作だそうです

そんな神戸牛醤油ラーメン、苦労の甲斐があり、兵庫県が優れたブランド商品を認定する令和2年度の「五つ星ひょうご」に見事選定されています。そりゃさぞかし売れているんだろうねえと思いきや、「それがあんまり…」と官野さん。えー! 何でやねん!

このツブツブが神戸牛のミンチ肉。けっこう入ってます

聞くとこの「神戸牛醤油ラーメン」、価格は2食入りで972円。乾麺にしちゃ高え〜! と思いますが、スープには神戸牛を約12%も使用し、神戸牛のミンチ肉まで入れちゃってます。原価かかりすぎです。

実際に食べてみたらしっかり牛肉の味で感動した

あくまでもトッピング例で、商品に具は入っていません。麺は、はっきり言って素麺に近い!

肝心の味を確かめようと自宅で作ってみましたよ。おお、確かに牛肉香がハンパない! それでいて醤油と鰹、タマネギのエキス、ニンニク風味が牛の匂いを程よくマイルドにまとめていて、相当完成度の高いスープです。

素麺とラーメンの中間って感じの麺です。かんすいが入っていてツルツル食感で、醤油スープと非常に相性が良い

高いけどこのラーメン、店で出てきても怒らないと思います。菅野さんによると価格だけでなくコロナショックで人が出歩かなくなったことも売り上げが伸び悩む理由だとか。本当にコロナ、憎たらしい!

組合が運営する「そうめんの里」がかなり楽しいエンタメ施設だった

組合の専用倉庫に隣接しています。夏はそうめん流しも人気

そうそう、「兵庫県手延素麺協同組合」の話に戻りますが、なんと組合ではたつの市内に「そうめんの里」という資料館を有しており、この施設がまた面白いんです。

素麺知識豊富なスタッフが案内してくれます。写真は、館きってのエースという藤木さん

揖保乃糸の歴史を学べるだけでなく、伝統の作り方も人形によって再現され、売店やレストランも。揖保乃糸マニアにはたまらない場所です。

現代なら「俺ワグヂン打ったど。おめはまだが」「やっぱ2回目の方が痛えっでな」といった会話が聞こえてきそうです

揖保乃糸の作り方を駆け足で紹介。素麺の材料は小麦粉、食塩、水、食用植物油といたってシンプル。それをこね合わせて生地を作り、伸ばして細くしていきます。しかし小麦粉の生地は強く引っ張ると切れるので、伸ばしては熟成させる…をおよそ1日半にわたって繰り返し、最終的に「はた」にかけて乾燥させます。

昔は全て手作業でしたが、現代では工程の機械化が進み、効率的に生産できるようになりました。とは言え、人の手と目による確認や調整は必ず行われています

揖保乃糸の本陣で色々な素麺メニューを食べまくってみた 

素麺の話を聞いているうちに食べたくなってきました。というわけで、こちらの『レストラン庵』で、本場ならではの揖保乃糸メニューをいろいろ頂いてみましたよ。

鯛素麺1320円。素麺を鯛のカブト煮のタレにつけても良し、別々に食べても良し、つゆに鯛を投入しても良し

まずレストラン一押しは「鯛素麺」。いきなりおめでたい料理が出てきましたが、実はこれ、龍野地方で結婚式の祝宴の最後に出された郷土料理「鯛めん」をアレンジしたものだそう。何も疑問に思わなかったけどご飯も付いてくるんですね。もしやたつの市民にとって素麺って主食じゃなくおかずなのでしょうかね。

さすが揖保乃糸の本陣で食べる素麺、家で適当に茹でるのと全然違いました
揚げ麺 トマトソース900円。素麺を揚げる料理って地元でよく食べるんですか?と尋ねたら「普通は食べません!」とのことでした

で、こちらが「揚げ麺 トマトソース」。茹でた素麺を揚げ、油抜きしたものにトマトソースを乗せたイタリアンなメニューです。揚げたての素麺のパリパリ感と、スープに浸かってしっとりした麺の食感が楽しい!

素麺はにゅうめんのつゆに浸かっており、和風スープパスタって感じ
セットの「パリパリミニサラダ」が地味に旨い。揚げた素麺をトッピングしてあり、塩気があってビールと合います
そうめん巻き寿司440円。作るのが大変なので数量限定です

おお! そば寿司はよくありますが素麺まで巻かれちゃってますね! 甘酢に浸した素麺があまりにもツルツルしてまとまらないので海苔は二重巻き。そこまで苦労してでも作る理由は、意外とよく出る人気メニューだからだそうです。

そうめんチャンプル880円。「ここまで来てちゃんぷるかよ!」と言わずに食べてみてください。家で真似してみたくなる料理です

家で作ったような料理が出てきました(って失礼)。いやいやこちらも、茹でた素麺を豚肉、ゴーヤ、卵など多種の具材と炒めた手間隙のかかった料理です。沖縄の素麺チャンプルーとはだいぶ味が違い、マイルドな醤油ベースの味でゴーヤはさほど主張しません。

…と、とりとめもなく揖保乃糸について書いていたら終わりそうにないので、読者の皆さんが知りたいと思われる「素麺の茹で方の正解」をお伝えして締めくくりましょう。

組合推奨! 揖保乃糸の美味しい茹で方 

1.茹で時間は1分半〜2分

当たり前ですが、素麺の美味しさを左右するのは茹で時間です。2束(100g)につきお湯は1ℓ。茹でる前にあらかじめ帯を外しておき、タイムロスのないように。上級者になると時間を計らずとも「一回麺が沈んで、浮いてきたタイミング」で上げるそうです。

2.麺は水でよく洗う

茹で上がったら迅速にザルにあけ、水でよく揉み洗いする。お湯に溶け出した塩分や、製造時乾燥防止のために塗った油がついているので、これをよく洗い流すためでもあります。

正直、素麺の話だけでこんなに原稿が書けるなんて自分でもビックリです。しかし聞けば聞くほど厳重な品質管理と地元のプライドに支えられている揖保乃糸、一言で素麺と呼んでしまうには失礼な気がしてきました。取材以来、スーパーで見かけると「あの地で作られた揖保乃糸様がここに…」と感慨深い気持ちになります。

「揖保乃糸 龍の夢 神戸牛醤油ラーメン」は『はりま製麺』のHPから購入できます。

「そうめんの里」兵庫県たつの市神岡町奥村56

 

  • 取材・文・写真猫田しげる

    1979年生まれ。タウン誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。現在はウェブライターとしてデカ盛りから伝統工芸まで幅広い分野で執筆。弱いのに酒好きで、「酒は歩きながら飲むのが一番旨い」が人生訓。

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