「ロンバケ」視聴率29.6%!「月9」が輝いていたあの頃 | FRIDAYデジタル

「ロンバケ」視聴率29.6%!「月9」が輝いていたあの頃

新連載!TV時空探偵 第1話「月9のおこり」

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
「月9」と言えばこの人!看板であり続けた木村拓哉

「録画」では済まなかった

3月末まで放映していたTBSドラマ『妻、小学生になる』(TBS系)の最終回を、筆者はオンエアの時間に間に合うように急いで帰宅した。駅から走った。そんなことをしたのは実に10年以上ぶりのことである。今はHDDも全録機能だし、配信サービスで後日ゆっくり視聴することも出来る。

にもかかわらず、筆者が絶滅危惧種みたいなことをしたのは一刻も早く“つましょー”を見たかったからだ。それくらい面白いドラマだった。

極めてハートフルな内容で、スピリチュアル描写も興味深かった。その最終回を「後日ゆっくり」とはいかなかった。20~30代前半の人たちには、この行為も感情も理解し難いかもしれないが、50歳の筆者にとってはこれが当たり前だった時代がある。

90年代に10代後半から20代を過ごした筆者も、人並みに女性とデートをしたものだが、月曜の夜だけは滅多に誘わなかった気がする。誘ったところで断られる確率が高かった。もちろん、週の最初で遊びに行く気分にはならなかったのもあったろうが、この時代のOLや女子大生、フリーターにとって早々と帰宅をする理由があった。“月9”(げつく)があったからだ。

月曜夜9時のフジテレビのドラマ、通称“月9”が見たくて帰宅を急ぐ女性が多かったのは作り話ではない。「ビデオで予約録画すればいいのに」と筆者が言うと、「一刻も早く見たい」と返された。「同僚や友達と、翌朝はドラマの話で盛り上がりたい」とも言う。中には「ビデオで録画しながら見て、録画を後で見直す」という筋金入りの女性もいた。それくらい月9は若者に支持され、必要とされてもいた。月9が当時の若者の生活を変えたのは、間違いはないのかもしれない。ではそもそも、月9とは一体何だったのだろう。

1971年生まれの筆者にとって、月曜夜9時のフジテレビと言えば『欽ドン!』である。イモ欽トリオ(長江健次・山口良一・西山浩司)で大人気を博した『欽ドン!良い子悪い子普通の子』や『良いOL・悪いOL・普通のOL』。その後も『おまけの子』や『マイルド欽ドン』などが続くも斜陽を迎え、1987年3月末をもって終了。4月からドラマ枠が始まった。

「びんびん」シリーズで一時代を築いた

最初はアナウンサーの仕事とプライベートを描いた『アナウンサーぷっつん物語』(主演・神田正輝・岸本加世子・田代まさし)に始まり、ラジオの営業マンの奮闘を描いた『ラジオびんびん物語』(主演・田原俊彦・野村宏伸)、新人歌手の売り込みに躍起となるレコード会社を舞台とした『ギョーカイ君が行く!』(主演・とんねるず・浅野温子)、番組企画に奔走するテレビマンを描いた『荒野のテレビマン』(主演・東山紀之・坂口良子・植木等)などの「業界ドラマシリーズ」がラインナップされた。

さらに『ラジオびんびん物語』で好評を博した田原俊彦と野村宏伸のコンビによる『教師びんびん物語』が大当たり、月曜夜9時のドラマ路線は完全に定着した。

一連の「業界ドラマシリーズ」が伏線となって開花したのが「トレンディドラマ」だった。時代はバブル、トレンディドラマはその副次的な意味合いを持つものだった。トレンディドラマと言うと、86年放映のTBSドラマ『男女7人夏物語』(主演・明石家さんま・大竹しのぶ)を嚆矢と見る向きもあるが、筆者はその説は採らない。バブル真っ只中のフジテレビの体裁と色彩が背景にあって誕生したと見ているからだ。

「ウチだからやれた」

バブル期のフジテレビと言うと、視聴率絶好調で正真正銘の絶対王者、その空気感は番組はもちろん、作り手や社員全員に浸透していた。そこから生み出されたのがトレンディドラマだったと筆者は解釈している。そのことを踏まえた上で言うなら、トレンディドラマ第一号は、月曜夜9時枠の『君の瞳をタイホする!』(主演・陣内孝則・浅野ゆう子・三上博史/1988年1月4日~3月21日)になろう。

プロデューサーは後年『東京ラブストーリー』や『101回目のプロポーズ』を手掛ける大多亮(現・フジテレビジョン常務取締役)。大多にとって記念すべき初プロデュース作品でもある。以前、筆者が担当していたJ―WAVEのラジオ番組のゲストに大多を招いたことがある。その際、彼はこの作品について、大まかに次のように述懐した。

「今までになかった刑事ドラマをやってみたかった。刑事だって恋愛もするだろうし、遊びにも行くだろうし、社内恋愛だってあるだろうし、そんな作品にしてみたかった。そんな刑事ドラマないでしょう。よその局なら企画は通らなかったかもしれない。あの頃のウチだからやれたというのはあったと思う」

派手な銃撃戦はおろか、取り調べのシーンが少しあったくらいで、刑事モノのおなじみの場面はさほど印象に残っていない。陣内孝則演じる刑事の恋愛模様が描かれたと記憶する。さらに、こんな驚愕のエピソードも聞いた。

「渋谷が舞台だからクリスマスの公園通りで大掛かりなロケをやった。それも許可なくやっちゃった。大勢の人が集まったもんだから、実際の渋谷署からめちゃくちゃ怒られて、分厚い始末書を書かされた」

つまり、ストーリーも軽ければ、作り手のノリも軽かったということだ。ここからトレンディドラマが始まった意義は大きい。以降の主なトレンディドラマは以下の通り。

トレンディドラマと言えばこの人!

『抱きしめたい!』(主演・浅野温子・浅野ゆう子・岩城滉一)
『君が嘘をついた』(主演・三上博史・麻生祐未・工藤静香/※野島伸司初脚本作品)
『君の瞳に恋してる!』(主演・中山美穂・前田耕陽・菊池桃子)
『同・級・生』(主演・緒方直人・安田成美・石田純一)
『愛しあってるかい!』(主演・陣内孝則・小泉今日子・近藤敦)

90年代に突入してバブルが崩壊しても、意外なことにトレンディドラマは終わらなかった。それどころか、バブル期以上に大量生産されるのである。

『世界で一番君が好き!』(主演・浅野温子・三上博史・工藤静香)
『恋のパラダイス』(主演・浅野ゆう子・本木雅弘・鈴木保奈美)
『キモチいい恋したい!』(主演・安田成美・吉田栄作・田中美奈子)
『すてきな片想い』(主演・中山美穂・柳葉敏郎・相原勇)

『抱きしめたい!』と『恋のパラダイス』以外、すべて月曜夜9時枠のドラマで占められたのは偶然ではなかったはずだ。社会現象とも言える人気ドラマが、程なくこの枠から生み出されたからである。

『東京ラブストーリー』(主演・鈴木保奈美・織田裕二・有森也実/※平均視聴率22・9% 最高視聴率は最終回の32・3%)
『101回目のプロポーズ』(主演・浅野温子・武田鉄矢・江口洋介/※平均視聴率23・6% 最高視聴率は最終回の36・7%)

この二作の人気から、もとはフジテレビ編成局内だけの「月9」という呼称が一般にも広まったとする説は信憑性がある。同時に「月9=トレンディドラマ」のイメージも定着したのは疑いようがない。バブル崩壊が顕著となり「トレンディ」なる言葉が死語となっても、月9は終わらなかった。むしろ、テレビ史に残る名作が次々と送り出された。その代表作として次の三作は欠かすことが出来ない。

『素顔のままで』(主演・安田成美・中森明菜・的場浩司/※平均視聴率は26・4%・最高視聴率は最終回の31・9%)
『ひとつ屋根の下』(主演・江口洋介・福山雅治・酒井法子/※平均視聴率28・4%・最高視聴率は11話の37・8%=90年代の全民放ドラマの最高視聴率)
『あすなろ白書』(主演・石田ひかり・筒井道隆・木村拓哉/※平均視聴率27・0%・最高視聴率は最終回の31・9%)

いずれも記録的な高視聴率を弾き出した三作は、トレンディドラマとは対照的なアプローチで、家族のあり方や人間関係を問うヒューマニズム要素満載の内容だった。筆者も貪るように見た。

「では、月9の中で一番夢中になったのは?」

そう訊かれたら迷わず答えよう。なぜなら、月9に限った話ではなく、今まで視聴してきた連続ドラマの中で最も夢中になったと言っても過言ではないからだ。

『ロングバケーション』(主演・木村拓哉・山口智子・松たか子/※平均視聴率29・6%・最高視聴率は最終回の36・7%)である。

結婚相手に逃げられた女と、劣等感丸出しのピアニストの男の奇妙な同居生活を描いたこのドラマは、大袈裟ではなく「ロンバケが見たくて早く帰宅する」OLや女子大生が頻出した。街から女性が消えたのもあながち間違っていない。24歳だった筆者がそうだったように、若い男も夢中になっていた。

嘘のようなことを言うと、未だにキムタクを「瀬名」と役名で呼んでしまいたくもなる。テレビ史に残る新人・広末涼子の可憐さ。そして、主題歌『LALALA LOVESONG』の軽快なメロディ……。

この頃、サウナやカラオケボックスのアルバイトで生計を立てていた筆者は、店のマネージャーがシフト繰りに苦慮していたのをはっきり記憶している。誰も月曜日に勤務しようとしなかったのだ。

そんな「ロンバケ現象」の一端として「年下男性と付き合う女性が急増中」とワイドショーは嬉しそうに報じ、あるカップルは海岸1丁目の老朽化したマンションで同棲を始め、挙句にスーパーボールを競うように買い求めた。変な熱にうなされていたのは筆者の周辺だけだったのだろうか。

おそらくだが、オンエアが木曜か金曜だったら、ここまでのブームにはなっていなかったように思う。「娯楽のない月曜」で「憂鬱な気分の月曜」だったからこそ、視聴者はロンバケを視聴することで、束の間の夢を見たかったのではないか。空前のロンバケブームで、月9は盤石となったのかもしれない。その後もヒット作が相次いだからだ。

『バージンロード』(主演・和久井映見・反町隆史・宝生舞)
『ビーチボーイズ』(主演・反町隆史・竹野内豊・広末涼子)
『ラブジェネレーション』(主演・木村拓哉・松たか子・純名里沙)
『やまとなでしこ』(主演・松嶋菜々子・堤真一・矢田亜希子)
『HERO』(主演・木村拓哉・松たか子・小日向文世)

筆者も可能な限り視聴していたが、ロンバケほど夢中になった記憶はない。ライフスタイルの変化は筆者に限った話でもなく、その後のインターネットや携帯電話の普及は、月9のみならず、ドラマ、ひいては、テレビを取り巻くすべてを大きく変えることになったが、ここで記すことでもない。

2022年も4月を迎え『元彼の遺言状』(主演・綾瀬はるか・大泉洋)なるドラマが月9にラインナップされた。「月9は健在」と言いたいところだが、はたしてどうだろう。ただ一つ言えるのは、この時間枠のドラマが世間から「月9」と呼ばれなくなった時点で、使命はもう十二分にはたしたのではないか、ということである。

(了)

  • 細田昌志

    ノンフィクション作家。1971年生まれ。放送作家としてテレビやラジオを担当しながら雑誌やWEBに寄稿。著書に『坂本龍馬はいなかった』(彩図社)、『ミュージシャンはなぜ糟糠の妻を捨てるのか』(イースト新書)。2020年刊行の『沢村忠に真空を飛ばせた男/昭和のプロモーター・野口修評伝』(新潮社)が「第43回講談社本田靖春ノンフィクション賞」を受賞。

Photo Gallery3

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事