『ミュージックステーション』“テレビ遺産級”の凄すぎるウラ側 | FRIDAYデジタル

『ミュージックステーション』“テレビ遺産級”の凄すぎるウラ側

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1987年に『ミュージックステーション』の司会に就任したタモリ。2021年には「同一司会者による生放送音楽番組の最長放送」としてギネス世界記録に認定されている 写真:共同通信
1987年に『ミュージックステーション』の司会に就任したタモリ。2021年には「同一司会者による生放送音楽番組の最長放送」としてギネス世界記録に認定されている 写真:共同通信

テレビ番組の中には、まるで文化財のように「このまま残してほしい」と思うものがある。いってみれば「テレビ遺産」とでもいうような貴重な存在の番組であるが、その筆頭に挙げられる番組のひとつに、テレビ朝日の『ミュージックステーション』(以下、『Mステ』)があると私は思う。

見ている視聴者にはそれほど伝わってこないかもしれないが、実は「生放送の音楽番組をゴールデンタイムに毎週放送すること」は驚異的に大変な作業だ。数多くの「テレビの職人たち」の素晴らしい仕事が積み重なることによって初めて放送の継続が可能となっている。

筆者はその制作に携わったことはないが、かつてテレビ朝日に在籍した頃に、その制作に携わった先輩や同僚たちにさまざまな苦労話を聞いたことがある。

最も大変だと思われるのは、やはりプロデューサーだろう。かつてプロデューサーを担当した先輩に聞いた話によると、「テレビ業界には本当に数多くのプロデューサーがいるが、その中でも一番多くの人から“売り込み”を受けるのはMステのプロデューサーかもしれない」ということだ。

売り込まれるものはもちろん「アーティストの出演」である。国内や海外の音楽業界関係者たちから「うちのアーティストを出演させてくれないか」という売り込みが毎日のように、いや、昼夜を問わず分刻みでやってくるのだという。それほど『Mステ』の音楽番組としての地位は高く、特別なものがあるというのだ。

なにがそんなに「特別」なのかというと、それは「ゴールデンタイムの生放送音楽番組」としての希少性だ。

かつてはゴールデンタイムにはいくつもの「化け物音楽番組」が存在した。TBS『ザ・ベストテン』や日本テレビ『ザ・トップテン』などの番組の後塵を拝したテレビ朝日は、いわば音楽番組では「後発局」だった。しかし、各局の伝説的番組が次々終了する中で、唯一残った結果『Mステ』はオンリーワンな番組になったのだ。

だから、その売り込みの殺到の仕方は半端ではないという。「本当に嫌になるくらい毎日毎日人と会わなければならなかった」と元プロデューサーの先輩が顔を歪めながら語っていたのが印象に残っている。

そして、大変なのはプロデューサーだけではない。「生放送の音楽番組」だからこその大変さが、いろいろなスタッフにある。

中でも「命懸け」なのが美術スタッフだ。生放送でアーティストごとに次々とセットを切り替えていかなければならないからだ。

タモリさんがアーティストを紹介しつつ、短い時間ちょっとしたトークをしているあのわずかな間に、前のセットをどかして次のセットを建て込まなければならないわけで、その作業は非常に危険を伴う。実際、僕の知っている美術のスタッフは『Mステ』のセットチェンジで大怪我をしている。

美術のセットを設計するデザイナーと、現場での作業を担当する美術進行との連携も重要になってくるという。デザイナーは、美しいだけではなく短時間で建てられて安全に作業できるセットを設計しなければならない。そしてその意図を汲んだ美術進行が安全に現場を仕切らないと、とんでもない事故が発生してしまう。今も昔もテレビ朝日の美術の花形は『Mステ』の担当だと言えると思う。

さらに、オンエア周りのスタッフたちも熟練の職人ぞろいだ。『Mステ』が放送される金曜日には、テレビ朝日本社は朝から一種独特な緊張感に包まれる。金曜朝からほぼ1日をかけて行われる入念なリハーサルがあるからだ。

生放送で曲に合わせてカメラを切り替えていくことを「曲を割る」というが、それにはかなりの経験と習熟が必要で、ディレクターの中でも曲を割ることができるものはほんの一握りだ。

セットとアーティストの配置や動きを考慮に入れて、ディレクターが考えた「割り」が書かれた台本をもとに、これまた経験豊富なカメラマンや技術スタッフたちがリハーサルを繰り返していくことで、アーティストサイドも納得する映像演出を完成させていくのである。

あまり注目されることは少ないが、僕が非常に印象に残っているのは『Mステ』のテロップ(※画面上に映し出す文字情報)の話だ。生放送では当然のことながら歌詞のテロップも生でつけることになる。テロップがもし間違っていたり、順序が違っていたり、画面に乗るタイミングが悪かったりしたらせっかくの演奏が台無しだ。

このテロップを正確に入れるのが大変なのだ、という話をTK(タイムキーパー)さんから聞いたことがある。

TKさんというのは番組の時間管理を担当する人で、番組によってはテロップを入れる役割も果たす。各局のたくさんの番組を掛け持ちしていて、毎日非常に忙しいお仕事なのだが、「絶対に間違ってはいけないテロップ入れ」は『Mステ』だということで、出演するアーティストが決まったらその時点から毎日毎日移動時間などに徹底的にその曲を聴き込むのだという。

「身体に歌詞が染み込むまで」聞いて絶対に間違えないようにするというその職人らしい仕事への厳しい姿勢に、感銘を覚えたものだ。

いろいろと駆け足になったが、やはり『Mステ』のような「毎週生放送」の音楽番組は日本のテレビ界にとってとても貴重な存在だと思う。「技術とノウハウの伝承」という点も含めて、ぜひこれからもずっと続いていってほしいものだな、とテレビマンの端くれとして思う。

  • 鎮目博道/テレビプロデューサー・ライター

    92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。江戸川大学非常勤講師。MXテレビ映像学院講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。近著に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)

  • 写真共同通信

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