92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。江戸川大学非常勤講師。MXテレビ映像学院講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。著書に『アクセス、登録が劇的に増える！「動画制作」プロの仕掛け52』（日本実業出版社）。『腐ったテレビに誰がした？　「中の人」による検証と考察』（光文社）が2月22日発売。

鎮目 博道

<p>あなたが見て育った『キユーピー３分クッキング』と、私が見て育った『キユーピー３分クッキング』は、ひょっとしたら別の番組かもしれない。</p>
<p>そんなことがありうるの？ と思われそうなミステリアスな話だが、大いにありうることだ。</p>
<p>放送開始から60年を迎える『キユーピー３分クッキング』。「テレビ遺産」とでもいうべき貴重なロングラン番組であるとともに、日本テレビ版とCBCテレビ版の２種類が放送され、それぞれ紹介するレシピも違うという、実はかなり不思議な番組でもある。</p>
<p>なんとも魅力的でよく考えて制作されている『キユーピー３分クッキング』が、長年愛され続けている秘密と番組制作秘話を、東京・渋谷のキユーピー株式会社本社を訪ねて聞いてきた。</p>
<figure id="attachment_267646" aria-describedby="caption-attachment-267646" style="width: 4656px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e4591f5c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/DSC00002_re.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267646" class="wp-caption-text">キユーピー本社エントランスでは、番組オープニングでもお馴染みのキユーピーとヤサイな仲間たちがお出迎え。実は仲間たちひとりひとりに名前など詳細な設定があり、キユーピーのホームページで公開されている</figcaption></figure>
<p>取材に答えてくれたのは、キユーピーの広告宣伝部門を担当する株式会社トウ・アドキユーピーで『キユーピー３分クッキング』を担当している加藤幸江さん。</p>
<p>取材する私は、長年さまざまな番組制作にあたってきたテレビマンである。テレビ制作者目線から見てまず気になったのは、冒頭にも挙げさせてもらったように、『２つの「キユーピー３分クッキング」が現在も制作されていること』だ。</p>
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<h3>第１の疑問：２つの『キユーピー３分クッキング』が存在するのはなぜ？</h3>
<p>『キユーピー３分クッキング』の放送がはじまったのは1962年のこと。まだこの頃には民放のネットワークが整備されていなかったために、複数のテレビ局がそれぞれ独自の『キユーピー３分クッキング』を制作していた。</p>
<p>言ってみれば『キユーピー３分クッキング』は日本の民放ネットワークよりも古くから存在するのだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「もうひとつの理由は、当時はまだ全国の食品流通網が整っていなかったためです。全国で食文化がずいぶん違ったので、各地域ごとに合った別の番組を放送したという事情もあるんです」（加藤さん）</span></p>
<p>全国一律に同じメニューのレシピを紹介することが、まだ日本の実情に合っていなかったということなのである。</p>
<p>これらの理由から、放送開始当初は札幌（HBC）、仙台（TBC）、東京（日本テレビ）、名古屋（CBC）、福岡（KBC）の５つの放送局で５種類の『キユーピー３分クッキング』が制作されていた（※それぞれ放送開始年度は異なる）。</p>
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<p>それがネットワークの整備とともに整理され、現在は日本テレビ（18局ネット）とCBCテレビ（13局ネット）の２種類が放送されている。</p>
<p>ただし、「北海道だけは独自の食文化が残っているため」という理由で、1998年までHBCが制作する「北海道版」が放送されていたということだ。</p>
<p>つまり２０世紀の頃にはなんと３種類の『キユーピー３分クッキング』が同時に放送されていたのだ。「あなたが見て育ったのと、私が見て育ったのは違うかもしれない」という謎のタネを明かすと、こういうことなのである。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="どうして「３分」に？"></div>
<h3>第２の疑問：なぜ「３分」にしたのか？そこには深い理由があった</h3>
<p><span class="strongInContent">「放送開始から60年ということで、番組開始当初のことを知る社員は、実はキユーピーの社内にも誰もいないんですよ」（加藤さん）</span></p>
<p>たしかに、放送が始まったのは60年近く前のことだから、当時を知る社員がいなくても無理はない。しかし、「なぜ“３分”クッキングにしたのか」という深い理由はしっかりと社内に伝承されていた。</p>
<p>『キユーピー３分クッキング』は、<span class="strongInContent">「天気予報のように料理のヒントを毎日お伝えする番組を作って、お役に立ちたい」</span>というのが番組当初のコンセプトだったという。</p>
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<p>「料理は毎日のことなので、週１回の放送では意味がない。たとえ短時間でもいいから、献立のヒントを毎日放送しよう」と考え、５分番組（正味３分）でスタート。番組名の由来はここからだという。</p>
<p>今や放送時間は少し伸びて10分間となったが、番組開始当初の気持ちをそのまま受け継ぎ、「３分」をタイトルに残しているという。</p>
<figure id="attachment_267647" aria-describedby="caption-attachment-267647" style="width: 4752px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="779b9154"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/DSC00005_re2.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267647" class="wp-caption-text">昭和38年（1963年）、記念すべき第１回放送の放送台本。59年前のものとは思えない状態の良さ</figcaption></figure>
<figure id="attachment_267648" aria-describedby="caption-attachment-267648" style="width: 4728px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="225237fc"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/DSC00008_re2.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267648" class="wp-caption-text">写真右の紙束は、初期の献立表（1968年）。料理の先生が毎週の献立を考え、放送回ごとに書き起こしていたという。写真のレシピはミートボールトマト煮。「若い人向け、これ一皿で肉、ヤサイ充分な一皿」と紹介されている</figcaption></figure>
<h3>第３の疑問：なぜ「あのテーマ曲」になったのか？ 番組裏話の数々</h3>
<p>誰もが「料理番組」というと思い浮かべる『キユーピー３分クッキング』のテーマ曲。実は「おもちゃの兵隊のマーチ」という曲で、番組開始当初の日本テレビの女性スタッフが、交際中の男性に「どんな曲がいい？」と相談してこの曲が候補に挙がったのだという。ちなみにこの２人はのちに結婚したそうだ。</p>
<p>実はキユーピー公式サイト内の『キユーピー３分クッキング』ページには、これをはじめとして、番組のいろいろなトリビアが載っていて結構面白いので、見てみることをオススメする。</p>
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<p>中でも傑作なのは<span class="strongInContent">「まだテレビが生放送だった時代に、食材のウナギが逃げ出し、それを先生が追いかけて誰もテレビに映っていないまま放送した」</span>というエピソード。</p>
<p>この時一体どんな料理を作ろうとしたのか？など詳しいことを聞いてみたが、残念ながら資料が残っておらずよくわからないという。また、その時の映像も、多分残っていないだろうということで、とても残念だ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「番組内容に口を出さない」納得の理由"></div>
<h3>第４の疑問：視聴者に寄り添った、「こだわり」の数々</h3>
<p>短い放送時間ではあるが、『キユーピー３分クッキング』は、非常に細かいことにこだわって制作されている番組だ。そしてそのこだわりはすべて、視聴者のためを思ってのものなのが、さすがである。長寿番組が長寿になるにはそれなりの理由がやはりあるのだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「私どもは、番組内容にはあまり口を出すことはありません。特に『キユーピーの商品を使ってください』とはこちらからは言わないことにしています。なぜなら、それを言ってしまうと料理がパターン化して偏りが出てしまいますので」（加藤さん）</span></p>
<p>なるほど、内容面はプロに任せて口を出さないことが、かえって内容を良くすることになるというのは真理だし、素晴らしい姿勢だと思う。そのほかにもいろいろなこだわりがあるので、いくつかを紹介しておこう。</p>
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<p>・コロナ禍の前までは、編集でカットをしない「生収録」にこだわっていた。その方がライブ感が出るし丁寧で分かりやすい。視聴者から「工程を丁寧にやってくれるので、初心者には分かりやすい」という感謝の声をもらった時にはとても嬉しかった。</p>
<p>・週の初めである月曜日には、簡単なメニューを。金曜日や土曜日には、少し凝ったメニューをというように、曜日ごとにメニューを変えて工夫をしている。</p>
<p>・「普通に家庭で作れるメニューを」ということにこだわり、身近で、簡単に用意できる食材や調味料しか使わない。調理器具も普及率が低いものは使わないようにし、使う場合には代案を提示するようにしている。</p>
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<p>キユーピー本社で、番組50周年の際に制作されたという、番組収録風景のジオラマを見せてもらった。そこには、すべてのスタッフが服まで忠実に再現されていた。「料理の完成品の物撮り」まで全てを生収録で！というのは、テレビマンの私からすれば「かなり大変だろうなあ」と思わざるを得ない至難の業だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「たまに失敗して、やり直しになることもありますが、テレビの画面の外で多くのスタッフさんたちがものすごい早業で協力しあって作り上げてくれているんです」</span>と楽しそうに語る加藤さんの表情が印象的だった。</p>
<p>マヨネーズ、ドレッシング、ミートソースを日本ではじめて製造販売し、コツコツと日本の食文化に定着させてきたキユーピー。そんなブランドならではの「こだわりとコツコツ丁寧な仕事ぶり」が、「テレビ遺産」とも言える愛される長寿番組を作り上げたのだろう、と思った。</p>
<figure id="attachment_267650" aria-describedby="caption-attachment-267650" style="width: 4896px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="656491e6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/DSC00016_re.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267650" class="wp-caption-text">細部まで作りこまれた番組収録風景のジオラマ。セットや小道具など現場の様子を忠実に再現しており、加藤さんいわく「本当にこういう感じというか、そのもの」なのだという</figcaption></figure>
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<p>《キユーピー３分クッキング　特設サイト（キユーピー）》<br>
<a href="https://www.kewpie.co.jp/entertainment/3min_cooking/">https://www.kewpie.co.jp/entertainment/3min_cooking/</a></p>
<p>※記事内の情報は、2022年10月現在のものです</p>
<div class="expapp-no-provided-scope expapp-no-provided-scope-end"></div>


92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。江戸川大学非常勤講師。MXテレビ映像学院講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。近著に『アクセス、登録が劇的に増える！「動画制作」プロの仕掛け52』（日本実業出版社）

鎮目博道／テレビプロデューサー・ライター

放送開始から60年を迎えた料理番組『キユーピー３分クッキング』。誰もが知るご長寿番組ですが、実は２つ存在している不思議な番組でもあります。気になるそのワケや制作の裏側を、キユーピー株式会社に聞きました

『キユーピー３分クッキング』は２つある？放送60周年の”秘話”

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