<p>〈世間的には「ゴールドライセンス」とされる医師免許。しかし、「うらやましい」「お金を持ってそう」と思われがちなこの職業、意外にその実態を知らない人が多いのではないか。なかでも、地域の診療所の実態やキャリアパス、そしてその懐事情はあまり知られていない。</p>
<figure id="attachment_269948" aria-describedby="caption-attachment-269948" style="width: 5760px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="21058754"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/aflo_23388216.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-269948" class="wp-caption-text">写真はイメージです（アフロ）</figcaption></figure>
<p>実は、開業医の中には「え、全然うらやましくないじゃん…！」と言いたくなるような境遇の人もいるという。</p>
<p>2002年に慶応義塾大学医学部を卒業し、現在は高座渋谷つばさクリニックの院長を務める武井智昭医師が、知られざる開業医の実態を解説する〉</p>
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<p>厚生労働省「第21回医療経済実態調査」（2017年）によると、病院勤務医の平均年収（国公立・医療法人等）は、1,488万であり、開業医の平均年収（個人・医療法人等を含めた全体の数値）は2,748万、と約2倍の差があります。</p>
<p>一時期は「開業すればほぼ儲かる」ともいわれていた開業医ですが、実は、新型コロナウイルス流行や昨今の多数の診療所開設によって、経営的な観点から診療所閉鎖を余儀なくされるケースが増加しました。昨今、開業医は決して「誰もがうらやむような仕事」とは言えないのです。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="開業するも診療所閉鎖に追い込まれてしまった事例"></div>
<p>今回は、診療所閉鎖に追い込まれた1例を紹介します。</p>
<p>内科医師のA氏（男性、開業時40歳）は、X医科大学卒業後、同じX大学の内科医局に入局しました。</p>
<p>6年間の大学医局人事ローテーションを経て専門医資格を取得しましたが、月4回の当直勤務やそのほかの激務、自身のコミュニケーション能力のなさによって生じる患者とのトラブルに嫌気がさしていました。</p>
<p>A氏は、これからの人生設計を考え「こんな安い月給や休みの少なさでは割に合わない！　職場環境が悪い」と決断。医師8年目で医局人事を抜け、自らの意思で民間病院に就職しました。</p>
<p>その後、転職先でも同様なトラブルが多かったA氏。民間病院では採算が重視されるために、患者さんへの対応がよくないことによる患者減少（病院の収益減少）のため、彼は短期離職を何度も繰り返すことになりました。</p>
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<p>そのような状況に陥っても、決して「自分のせいでこうなった」とは思わなかったA氏は「自分の希望が通らず、やりたい勤務ができない。だったら、開業でもしよう。そのほうが儲かるだろう」と、開業医になることを決めたのです。</p>
<p>実はこれ、開業失敗の典型例である「デモ・シカ」という逃げのパターン。医師の世界では、明確な意思や実績がなければ開業医はうまくいかない、と言われてるのですが、A氏の耳には入らなかったのでしょう。結局、彼は民間病院勤務をやめて、地方都市に落下傘開業をしました。</p>
<p>ところが、ハナから大きくつまずきます。開業までにとんでもなくお金がかかったのです。</p>
<p>自己資金がわずか1000万円しかないにもかかわらず、開業コンサルタントの言葉を鵜呑みにして、戸建てでCTなどの高度医療機器まで導入してしまったため、その初期費用に約1億5千万円がかかりました。いきなりすっからかんです。</p>
<p>また、開業医になると、それまでは事務員がやってくれたような雑務なども自分でこなさなければならなくなります。</p>
<p>開業医の仕事は医院の資金計画作成、行政対応、融資交渉、税金対策、職員の採用、教育業務の人事など多岐にわたります。</p>
<p>それでも、ビジネスとして儲かりさえすればなんとかなったのかもしれません。しかし、その点もうまくいきません。</p>
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<p>このクリニックの1ヶ月の医業支出は、住宅ローン費用と光熱費が約120万円。人件費と福利厚生費が約320万円。薬剤・材料費が約50万円。検査委託料などが約50万円。そのほか経費が約60万円で、合計が約600万円もかかったのです。</p>
<p>一方の収入はどうか。月20日稼働、診療単価6,000円とすると、損益分岐点の患者人数は1日あたり50人となります。さて、彼はその「ノルマ」をクリアできたのでしょうか。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="赤字補填のバイトが「最悪のサイクル」を加速させる"></div>
<p>開業前日には内覧会を派手に実施したA氏。患者待合室は外資系高級リゾートホテルを彷彿させるような豪華絢爛なもので、CT検査など高度医療機器を多数そろえていることを自慢げにアピールしていました。</p>
<p>そして、迎えた開業日。多数の診療科標榜、自慢の待合室、高度医療機器の物珍しさが奏功したのか、開業1ヶ月目は1日に30～40名程度の受診患者がおり、スタートは比較的好調でした。ところが……</p>
<p>「あ、開業って結構楽勝だな。ああ、俺も人生の勝ち組だ！」</p>
<p>この傲慢な態度が良くなかったのです。「俺ならなんでもうまくできる」という自信のもと、不必要な検査を多数実施し、専門外の根拠のない診療も展開していきました。</p>
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<p>また、開業2ヶ月目になると診療開始時間の9時には現れず、30分から45分の遅刻は当たり前になりました。社会人としての常識が欠如していたのです。患者対応の標準化がされなかったことや医師のあいまいな判断、機嫌の良し悪しで変わる方針により、スタッフが右往左往することも多かったようです。</p>
<p>これに加えて、「診察時には患者の顔を見ず電子カルテばかり見ている」「質問を極度に嫌がる」「過剰な薬剤処方による通院の強制」などが加速していき、クリニックの信用が徐々に失われていったのです。</p>
<p>果てには、インターネットの口コミで「ここは避けた方がよい」「院長のきまぐれさや、医学知識の欠落はもちろん、人格もどうかと思う」等のネガティブな評価が続出する始末。開業から半年もすると、ついに受診患者数は平均1日1ケタとなり、赤字額も1ヶ月あたり200万円を超えてしまいました。クリニック経営の生命線である「運転資金」の底が見え始めました。</p>
<p>それでも院長は自省することはなく、スタッフに「おまえらの能力や態度が悪いから、患者がいなくなった」「これじゃボーナスは出さない、減給だ」と大声で怒鳴り、スタッフが次々辞めていってしまいました。</p>
<p>窮地に追い込まれたものの、医師免許の威力は絶大でした。銀行からの運転資金1,000万円の追加融資が受けられ、延命措置を講じられたのです。</p>
<p>さあ、これで再出発かと思いきや、一度離れた患者さんの心は、そう簡単には戻りません。口コミでも「いつもすいています」「待合室の豪華さと医者の人間性は反比例」「余計な処方や検査をされ、資金回収のカモにされる」というネガティブなものが増え続けていきました。</p>
<p>このクリニックが、もはや終末期であることはみなさんもお気づきでしょう。院長は週5日でクリニック診療に従事していますが、赤字を埋めスタッフの給料を支払うために、救急病院等で日直・当直勤務（月8回で80万円）を始めたため、心身ともにボロボロ。</p>
<p>多忙になった結果、ただでさえ不十分な患者・スタッフとのコミュニケーションの質がさらに低下していき、反感を買うことも多くなりました。</p>
<p>患者が激減した結果、1日7時間の診療時間のうち、患者対応は15分程度に。残りの6時間45分で、患者さんに直接電話して「最近どうですか？」などの営業をかけたものの、効果はなかったようです。</p>
<p>「はやく借金を返済し終えて非常勤の医師を雇って、悠々自適な医者ライフを歩みたかった。会員制リゾートとゴルフの会員権と高級外車を乗り回して人生を謳歌したかった」</p>
<p>こうした願いも空しく、開業して1年で資金ショートとなりクリニックは静かに閉院。いまは、襟を正して、内科勤務医として働きながら、1億円の借金返済にいそしんでいるそうです。</p>
<p>本来の名医は、患者の病状はもちろん、社会的背景・家族背景をイメージしながら、適切なコミュニケーションをとり、「病状をきちんと説明して、患者を励ます」ことのほか、患者の経済的な事情や心理にも傾聴することが最低条件です。</p>
<p>病院経営は医療知識や技量よりも、人間性・倫理性・コミュニケーション能力・経済観念を磨いていくことが成功への近道なのです。</p>
<p>（【後編】<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/269665">クリニック経営で「年商５億」…左遷された医師が見た天国へ続く</a>）</p>
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武井智明

〈世間的には「ゴールドライセンス」とされる医師免許。しかし、「うらやましい」「お金を持ってそう」と思われがちなこの職業、意外にその実態を知らない人が多いのではないか。なかでも、地域の診療所の実態やキャ

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