バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』（竹書房新書）を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版

島 右近

<figure id="attachment_273054" aria-describedby="caption-attachment-273054" style="width: 1588px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d659c739"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/57a056084a90b83999f3abd87cd8eec3.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-273054" class="wp-caption-text">『エルピス』出演に真っ先に手を挙げた長澤まさみ。10月31日放送回では鈴木亮平とのツーショットも話題に…</figcaption></figure>
長澤まさみ主演の月10ドラマ『エルピスー希望、あるいは災いー』（フジテレビ系）が10月24日にスタート。テレビ局のタブーから権力の闇まで真っ向から切り込む骨太なドラマに、世間には早くも衝撃が走っている。
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このドラマは架空の地上波キー局、大洋テレビが舞台。“10年に一人の逸材”と言われながら、スキャンダルによってGP帯の報道番組を追われたアナウンサー・浅川恵那（長澤）を主人公に、新人ディレクター岸本拓朗（眞栄田郷敦）、報道局のエース記者・斎藤正一（鈴木亮平）たちが10代女性の連続殺人事件の免罪疑惑を追う中、一度失った“自分の価値”を再び取り戻していく姿を描く社会派エンターテインメントだ。
「大洋テレビの報道番組には、おしゃれなハットを被りダミ声でしゃべる麻生太郎副総裁を思わせる副総理が登場。生放送前に『何を聞かれるんだ?』『ざっくり公約まわりですね。それと森友は止めてますんで』『あったりめえだろ(バカヤロウ)』と話す斎藤とのやりとりは鳥肌もの。これを民放地上波のGP帯で放送するのかとテレビ業界では驚きの声が上がっています」（ワイドショー関係者）
だがこの番組、すんなり企画が成立したわけではない。企画立ち上げから放送にこぎつけるまで、なんと６年に及ぶ長い年月を費やしている。
ことの発端は‘16年春、今をトキメク佐野亜裕美プロデューサーがNHK朝ドラ『カーネーション』などを手掛ける脚本家・渡辺あや氏の元を訪ねたことからすべては始まった。
「募集中の“ラブコメ企画”の相談をしても、２人の会話がいっこうに弾まない。そんな中、元々法学部に在籍していた佐野Pが死刑囚の日記を読んだり、裁判の傍聴に行くのがライフワークであることから話が弾み、日本がいかに冤罪が起こりやすい国であるかということ、実際にまだ釈放されていない人たちがいることを知り、渡辺さんは“未解決の冤罪事件”ならきっといい作品ができると確信しています」（制作会社プロデューサー）
ところが警察や検察、裁判所を敵に回す可能性すらあるこの企画は、ハードルが高すぎて佐野Pが当時勤めていたTBSではボツ。しかし諦めきれなかった佐野Pは、渡辺氏に「このまま脚本を一緒に作ってください」と懇願。３話まで出来上がったところで、長澤まさみに真っ先にオファーする。
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「脚本を読んで長澤は『ぜひやりたい』と快諾。ところが当時、名作『カルテット』を手掛け視聴者や業界内では高い評価を得ていた佐野Pですが、局内では社内政治にも疎く逆風にさらされ、海外事業部への異動が決定。現場にこだわり、『エルピス』の制作に命を賭けていた佐野Pは失意の内にTBSを退職します」（前出・プロデューサー）
『エルピス』企画は、これで潰えたかに見えた。しかし佐野Pは諦めなかった。
<div data-friday-nextpage-lead="『エルピス』を蘇らせた佐野Pの秘策とは…"></div>
粘り強く営業を続け、「これはやるべき作品だ」と認めてくれたカンテレ（関西テレビ）で『エルピス』は不死鳥のように蘇った。
そして佐野P自身もカンテレへ転職。去年『大豆田とわ子と三人の元夫』（カンテレ制作、フジテレビ系）を手掛け復活を遂げると、満を持して月曜10時の枠で勝負を賭けることとなる。
「元々、去年10月期に産声をあげた“月10”は、チャレンジングな枠。綾野剛主演の『アバランチ』では、映画『新聞記者』で日本アカデミー賞優秀監督賞・優秀脚本賞を受賞した藤井道人を演出に起用。法や正義ではさばききれない“悪”を暴き全世界に生配信することで白日の下に晒す。
そうすることで“この国は、何も変わらない”と諦め、無力感に苛まれていた視聴者の心を強く揺さぶりました。今作『エルピス』は日本での放送に先駆け、カンヌの国際映像コンテンツ見本市で世界初上映されるなど、すでに大きな注目を集めています」（前出・ワイドショー関係者）
『アバランチ』に勝るとも劣らない『エルピス』の企画には、3つの“まさか”が起爆剤になっている。
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最初のまさか、それは実際に起きた数々の冤罪事件から着想を得て、権力の横暴とそれに従属するばかりの地上波テレビ局の喉元に刃を突き付ける渡辺あや氏の挑戦的な脚本。そして２つ目のまさかが、この企画を成立させるために掟破りの転職を図った佐野亜裕美プロデューサーの大胆不敵な行動力。
そしてもう一つ忘れてはならないのが、この企画実現のために出演を快諾してくれた女優・長澤まさみの度胸にも頭が下がるばかりだ。
闇に包まれた「パンドラの箱」を開けた長澤演じる浅川恵那。彼女が目の当たりにするのは、希望（エルピス）の光なのか、それとも災いなのか。このドラマ、最後まで見届けざるを得ない――。

バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』（竹書房新書）を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版中

島右近（放送作家・映像プロデューサー）

近藤裕介

長澤まさみが主演を務める話題のドラマ『エルピス』。テレビ局のタブーから権力の闇まで真っ向から切り込む骨太なドラマだけに、当初は企画そのものがボツになったのだが…

長澤まさみ主演『エルピス』TBSでボツ企画がフジ系で蘇ったワケ

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