市川團十郎「襲名披露公演」での村上隆氏製作の“祝幕”に見えた歌舞伎改革への意気込み
“襲名公演なのにチケットが完売しない…”
ということで話題になった十三代目市川團十郎襲名披露公演は、注目の12月公演が開幕した。
テレビから遠ざかっている市川中車(香川照之)が出演することで話題にはなっているのだが、それでもチケットはまだまだ余裕がある。
そんな中で、今回の公演では團十郎、新之助、中車だけでなく、あるモノに注目が集まっている。それは『祝幕(いわいまく)』だ。
祝幕とは読んで字の如く、祝い事の際に掛ける幕。特に、歌舞伎で、襲名や初舞台などに際して後援者から贈られる特製の引幕のことを指す。
これまでも襲名披露公演では様々な祝幕が歌舞伎座の舞台を飾っているが、十三代目市川團十郎白猿襲名披露 八代目市川新之助初舞台『十一月吉例顔見世大歌舞伎』に向け制作された祝幕はこれまでのものとは趣が少し違っていた。
祝幕は高さ7.1メートル、幅31.8メートルで、世界的アーティストで現代美術家の村上隆氏が原画デザインを担当。團十郎家の芸『歌舞伎十八番』の演目の登場人物がすべて描かれている。
祝幕製作のきっかけとなったのは、映画監督の三池崇史氏。十三代目市川團十郎のドキュメンタリー映画を製作した三池氏が撮影する中で、
「現代の絵師が描く現代の役者絵を作ってほしい」
と村上氏に依頼し、今回のコラボレーションが実現したという。
これまでも新しいものに挑戦し続けてきた團十郎。遡ること’07年、先代市川團十郎が初のパリ・オペラ座公演を成功させたときのことだ。
「團十郎(海老蔵)さんはオペラ座公演で歌舞伎の特色の一つでもある“花道”を劇場に設けたんです。国内での歌舞伎公演で見られるような花道とは異なりますが、花道があることでオペラ座を訪れた人たちに歌舞伎の醍醐味を味わってもらうことができました。オペラ座に花道を作るのは到底無理と思われていただけに、海老蔵さんの“力業”にみんな感心したものです」(スポーツ紙記者)
同じく海老蔵時代の’16年には初の中東公演を成功させている。アラブ首長国連邦(UAE)の北部首長国の一つ、フジャイラのビーチリゾートで公演、大喝采を浴びた。
そして同年12月、伝統芸能と成田屋のオフィシャルファンクラブ『THUNDER PARTY !』を発足させている。さらに’22年1月に新橋演舞場で新作歌舞伎『プペル~天明の護美人間~』を上演、大盛況となった。
『プペル~』はお笑いコンビ『キングコング』の西野亮廣が書いた絵本『えんとつ町のプペル』が原作となっていて、みごとに絵本と歌舞伎の合体を成功させている。
新しいものに挑戦し続ける團十郎にとって、この祝幕はまさに伝統芸能と現代美術の融合ともいえる。歌舞伎座の舞台に備えられた祝幕のその迫力たるや凄まじく、訪れた観客は圧倒されているという。しかし、
「これまで祝幕が話題になることなどほとんどなかったので注目されることはいいことだと思います。ですが、往年の歌舞伎ファンからはあまり評判がよくないようです。祝幕の真ん中には、成田屋の三升紋を染め抜いた袖を大きく広げた『暫』の鎌倉権五郎が。他には『勧進帳』の弁慶や、『助六由縁江戸桜』の助六など、いずれも歴代の團十郎が得意とした役柄が勢ぞろいしています。
『外郎売』では父と並ぶ可愛い新之助の姿も描かれています。ヒーロー総出演といった感じでド迫力なんですが、全員の目が観客に向いていますので、ずっと“睨まれて”いる気がするのと、絵がごちゃごちゃしていて、なんだか落ち着かないという声も聞こえてきています」(前出・スポーツ紙記者)
また、描かれている絵が昨今のアニメテイストで、古いファンは馴染むことができないという。
祝幕は寄贈されたものなので、團十郎に責任があるわけではないが、彼が進める歌舞伎の近代化に水を差した形だ。とはいえ、團十郎の足が止まることはない。
来年1月に行われる新春公演『SANEMORI』では『Snow Man』のメンバー・宮舘涼太と共演する。團十郎の“歌舞伎改革”は着々と進んでいる。
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取材・文:佐々木博之(芸能ジャーナリスト)
宮城県仙台市出身。31歳の時にFRIDAYの取材記者になる。FRIDAY時代には数々のスクープを報じ、その後も週刊誌を中心に活躍。現在はコメンテーターとしてもテレビやラジオに出演中
PHOTO:原一平