劇場版アニメが興行収入100億円超 井上雄彦氏が立ち上げた『スラムダンク奨学金』とは? | FRIDAYデジタル

劇場版アニメが興行収入100億円超 井上雄彦氏が立ち上げた『スラムダンク奨学金』とは?

注目の新刊!『スラムダンク奨学生インタビュー その先の世界へ』

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日本に再びバスケブームが到来!?

『スラムダンク奨学生インタビュー その先の世界へ』(宮地陽子・伊藤亮著)集英社より好評発売中
『スラムダンク奨学生インタビュー その先の世界へ』(宮地陽子・伊藤亮著)集英社より好評発売中

劇場版アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』が、昨年の12月3日の公開以来ヒットを続け、遂に興行収入100億円を突破した。その人気ぶりは各メディアでも報じられ、海外人気も重なりもはや“社会現象”とになっている。この勢いに加え、NBAでは日本人選手の八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)と渡邊雄太(ブルックリン・ネッツ)の活躍があり日々話題を呼んでいる。国内ではBリーグも琉球ゴールデンキングスのホームとして2021年に沖縄アリーナが完成し、今年の4月には群馬クレインサンダーズの新ホームとしてOPEN HOUSE ARENA OTAが完成予定。プロスポーツの中でも存在感を増してきており、野球やサッカーにはない演出面などで独自の空間を生み出し活況を呈している。さらに今年8月からはフィリピン、インドネシアと共催でワールドカップが日本でも開催される。かつて週刊少年ジャンプで『SLAM DUNK』が連載された時にバスケブームが巻き起こったように、今、再びバスケットボール人気が再燃している。

そんななか、注目の書籍が1月に発売された。マンガ『SLAM DUNK』の作者であり、劇場版アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』の監督でもある井上雄彦氏が立ち上げた『スラムダンク奨学金』の歴代奨学生たちの声をまとめた『スラムダンク奨学生インタビュー その先の世界へ』(宮地陽子、伊藤亮・著/集英社)だ。

チームにアジア人は一人という環境から仲間の信頼を得ていった並里成撮影/宮地陽子
チームにアジア人は一人という環境から仲間の信頼を得ていった並里成
撮影/宮地陽子

バスケだけでなく英語も徹底的に学ぶ

『スラムダンク奨学金』は井上雄彦氏の「バスケットボールというスポーツに恩返しがしたい」という志からスタートした。高校卒業見込み、およびそれに相当する学生を対象に2008年から派遣を実施しており、2022年までに15名が選ばれている。「アメリカの大学あるいはプロを目指す」希望者を募り、選考を経て選ばれた奨学生はアメリカのプレップスクールへ14ヵ月間の留学に出る。スポーツで世界を目指す若者を支援する奨学金制度は複数の財団などで実施されているが、奨学金の原資が『SLAM DUNK』の印税の一部などから成り立っている『スラムダンク奨学金』の形は他に類を見ない。

本書からは、14名の奨学生たちの知られざる挑戦の軌跡、そして奨学金制度自体が彼らの夢を少しでも実現させるべくトライ&エラーを繰り返しながら進化してきた様子が窺える。驚かされるのは、奨学生たちはバスケットだけでなく、勉学にも多大な努力を求められることだ。

「プレップスクール」とはあまりなじみのない名前だが、日本でいえば大学進学のために通う予備校のイメージに近いかもしれない。なぜプレップスクールに留学するのか。手短に説明すると、奨学金が謳う「アメリカの大学あるいはプロを目指す」には、NCAA(全米大学体育協会)でプレーすることが具体的な目標となる。さらに、NCAAにはDIVISIONⅠからⅢとグループ分けされており、その最上位にあたるDIVISIONⅠでプレーすることがNBAへの可能性を広げる。しかし、NCAAでは一定の学業成績をクリアしなければプレーは認められない。

当然、テストなどは全科目英語だ。つまり、奨学生たちはバスケット以前に英語で専門科目を履修できるようになることが前提になる。そのために、まず大学進学に足る学力を身につける意味でプレップスクールと呼ばれる全寮制の学校に留学する。そこで英語による学力を伸ばしながらバスケットで活躍し、NCAAの大学からスカウトされるのを待つ。ちなみに渡邊雄太もプレップスクールからNBAの夢を摑んだ。彼が卒業したセントトーマスモア校は、現在のスラムダンク奨学生の留学先でもある。

日本では実力者であった奨学生たちも、バスケットボールの本場・アメリカに行けば、高さ、速さ、強さ、技術すべてか、少なくともいずれかに面食らう。さらに全寮制で周辺は山に囲まれ、冬になれば雪に閉ざされる環境。そして英語を筆頭に授業、宿題、自習の日々……。本書を読むと、孤独感を深める者もいれば、ストレスをため込む者、チームメイトと喧嘩する者もいれば、一人隠れて泣く者、それぞれがアメリカに行かなければ経験しえなかった苦労があったことが生々しく語られている。

苦しみや楽しみが詰まったプレップスクールの体育館(当時)撮影/スラムダンク奨学金事務局
苦しみや楽しみが詰まったプレップスクールの体育館(当時)
撮影/スラムダンク奨学金事務局

「レベル1」の18歳が「レベル10」の世界に放り込まれる

18歳の若者が一人、アメリカの地で厳しい環境に身を浸す。だが、そこでバスケットをあきらめてしまう者は一人もいない。そこに、「逆境下で勇気をもって一歩を踏み出す」挑戦の価値を見る。現在、Bリーグの群馬クレインサンダーズのポイントガードとして活躍している並里成は『スラムダンク奨学金』第一期生。「ファンタジスタ」と呼ばれるプレーぶりでBリーグでも屈指の人気選手だが、彼も留学中は厳しい試練を耐え抜いた。特に苦労したのが英語だ。

「会話も成り立たないレベル1の自分が、レベル2、3、4……と段階を踏まずにいきなりレベル10の中に放り込まれた感じ」(本書より引用、以下同)

しかしながら勉強しても勉強しても理解できるようにならない。そして、

「いっぱいいっぱいでした。ストレスも相当溜まっていて。“本当に自分がここにいて正しいのかな”とすら考えるようになっていました」

とまで思い詰める。そのストレスからチームメイトの冗談にキレて喧嘩をしてしまう。だが、そこで気づかされる。

バスケットボールを顔に寄せる並里。写真は2019年12月の取材当時撮影/伊藤亮
バスケットボールを顔に寄せる並里。写真は2019年12月の取材当時
撮影/伊藤亮

「バスケットにも学業にも頭をフルで使って、もうパンク寸前でした。言葉が通じないので悩みを打ち明けるのも難しい。でもそんな時にチームメイトにはよくしてもらいました。“あ、アメリカでバスケットするのって楽しいんだな”と、本当に、心の底から感じられた。そう思えたのが“唯一の救い”でした」

たとえチームメイトと喧嘩になってしまっても、自分を表現できるのはバスケットコート、心の拠り所はバスケットしかない。結局、並里はアメリカの大学へ進学することが叶わなかったが、その結果のみで失敗、挫折と断ずることはできない。バスケットをいつも楽しみ、その楽しさを観客にまで伝えるプレースタイルがこの時に獲得されたと考えれば、それは自力で勝ち得た成長だ。並里はその成長を第一期生として示したことで、その後に続く奨学生たちの道しるべとなった。

留学当時の寮の部屋。二人部屋で体育館へはわずか1分撮影/スラムダンク奨学金事務局
留学当時の寮の部屋。二人部屋で体育館へはわずか1分
撮影/スラムダンク奨学金事務局

近い将来、NBAプレーヤーが誕生する

このように、本書に登場する14人は、全員が追い詰められた状態で否応なく自分と向き合い、バスケットと向き合い、最終的には自分でしか成し得ない成長を勝ち得ている。彼らの物語を読んでいると、時に『SLAM DUNK』のワンシーンを、時に劇場版アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』のワンシーンを思い出す。もし今、何かへ挑もうとしてしり込みしている人がいるとすれば、バスケットボールの話題が増えている流れに乗ってぜひ一読してみてもらいたい。きっと、バスケットボールへの興味と同時になんらかの励みをもらえるはずだ。

ちなみに『スラムダンク奨学金』も、期を経るごとに進化を遂げている。14ヵ月の留学期間では英語のマスターが精いっぱい。となれば、奨学生には留学前から英語を学んでもらうよう家庭教師をつけたり、英会話塾に通ってもらったり、TOEFLを受けてもらったりと試行錯誤を続け、徐々に英語のハードルを低くしていった。そして2022年、第13期生の須藤 タイレル 拓がNCAAのDIVISIONⅠであるノーザンイリノイ大に進学。DIVISIONⅠの大学にスカウトされ進学した初めての例となった。コロナ禍により第14~15期の奨学生募集は中止となったものの、第16期から再開。近い将来、スラムダンク奨学生がNBAでプレーする姿が見られるかもしれない。

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