<h3><span class="strongInContent">「のど自慢」がカラオケ音源に…</span></h3>
<p>4月2日から日曜昼の恒例人気番組「NHKのど自慢」がリニューアルされた。これまで長く続いた歌の伴奏が、生バンドからカラオケ音源に変更されたのである。</p>
<p>カラオケが日本に定着してから45年ほど経つ。実は私は17才で歌手デビューしているが、デビュー前のコンテストやオーディションといえばまだカラオケなどなく、ピアノかアコーディオン一本、または小編成のバンド演奏だった。まさに3月までの「のど自慢」のスタイルだったのだ。まだカラオケ大会などというものもない時代ではあった。しかし今や子供でも、カラオケで歌うことは普通になった。</p>
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<p>NHKでは「歌い慣れているカラオケを使用する」というのが理由だから、確かに一般の人対象の番組としては当たり前だと言っていい。つまり、「のど自慢」に出るためにほとんどの人はカラオケで練習をしている。運よく前日の第一次審査を通過したら、その夜も練習したいであろう。しかし本番は生バンドだから、当然練習と違った音になる。「あ～あ」ということもあるだろう。</p>
<figure id="attachment_306213" aria-describedby="caption-attachment-306213" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="54172a98"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/2004033000195-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-306213" class="wp-caption-text">1946年（昭和21年）1月にスタートした日本一の長寿番組「のど自慢」。写真は、のど自慢全国コンクール関東甲信越大会の模様（1948年〈昭和23年〉）（PHOTO：共同通信）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">多少テンポが崩れても、歌い出しが間違っても…</span><span class="strongInContent"> </span></h3>
<p>実際にこれまでもある時期から、ゲスト歌手だけは生ではなくカラオケで歌っていた。たとえばレコーディング音源に弦楽器（ヴァイオリン）や特殊楽器（琴や三味線など）が入っていたとしても、当日その音は出ないわけだから、新曲を披露することになるゲストとしてはCD音源に近いもので歌いたいということでゲストのカラオケ歌唱は今や普通になっていた。以前はバンドだけではなく、必ず三味線や尺八も伴奏人にいた。当日の出演の中で毎回、民謡を歌う人が2人位選ばれて歌っていたものだ。</p>
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<p>ただバンドの利点もある。本来、音楽は読んで字の如く、音を楽しむもの。歌手はこれで出演料をもらうわけだからプロとして、楽しんでばかりはいられないが、出演者たちはみなアマチュアなのだから音を楽しむ権利はある。いわゆる“歌の上手な人”だけが出演するわけではない。と、なれば生バンドだったら多少、テンポが崩れても歌い出しが間違っても、それに合わせてくれるやさしさはある。</p>
<p>しかしカラオケだと間違ったとしても、テンポが崩れても、音は待ってはくれない。まあ音を楽しむのだからそれはそれでいいだろうが…。何しろ歌って楽しむことができれば「のど自慢」の本当の意味を持つわけだから…。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="素人が公共のマイクを使うのは珍しかった時代"></div>
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<h3><span class="strongInContent">素人が公共のマイクを使うのは世界的にも珍しかった時代</span></h3>
<p>「のど自慢」は日本一の長寿番組である。昭和20（1945）年、日本の戦争は終わった。食べる物もなければ住む所もない。戦争が終わっても人々の暮らしは楽ではなかった。しかし当時のNHKのディレクターたちは、戦後の新しい番組を制作しなければならなかった。「歌で敗戦国民に勇気を与えることはできないか」という発想のもとに企画されたのが「紅白歌合戦」と「のど自慢素人演芸会」だった。</p>
<p>昭和20年12月31日、「紅白歌合戦」が放送されることになった。当時の番組はアメリカ軍のGHQが内容にOKを出さなければ放送できない。しかし提出された「紅白歌合戦」は題名でNGが出た。GHQ側の言い分は「敗戦国民が合戦（バトル）とはけしからん」ということ。すかさず「いやいやバトルではなくマッチ、試合のことです」と答えたがOKが出ず、やむなく「紅白音楽試合」の名で放送開始。「紅白歌合戦」として再登場するのは昭和26（1951）年のお正月になってからである。</p>
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<p>さて一方の「のど自慢」は昭和21（1946）年1月。プロデューサーの三枝嘉雄は、軍隊時代に見た戦友が、お国自慢の民謡や軍歌などを歌っている余興の姿にヒントを得て提案した。それまでは「マイクから発声するものは権威あるもの」という観念があったため、「素人が歌うなんてとんでもない」と日本側のスタッフは否決したが、反対にGHQは「これは良い」とOKが出た。当時は素人が公共のマイクを使うケースは世界的にもなかったのである。</p>
<figure id="attachment_306224" aria-describedby="caption-attachment-306224" style="width: 2158px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b49091e2"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/HP.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-306224" class="wp-caption-text">司会は、小田切 千アナウンサーから、二宮直輝アナウンサーと廣瀬智美アナウンサーに。セットやロゴもリニューアルされた（NHK公式HPより）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">“鐘”が鳴らなかった「美空ひばり」…倍賞千恵子、島倉千代子、北島三郎は“鐘”2つ</span></h3>
<p>この番組でシベリア抑留から戻った兵士が、当時兵隊たちの間で歌われていた歌を歌った。♪今日も暮れゆく異国の丘に…。この歌が番組を発端にラジオで流れ、それを聞いたレコード会社がこれを録音する。「異国の丘」は最終的に𠮷田正の作曲と認められ、その後、𠮷田は国民栄誉賞を受賞するほどの日本を代表する作曲家へと羽ばたいてゆく。国民栄誉賞といえば、美空ひばりもデビュー前、10歳になる前に「のど自慢」に出場したことがある。しかし鐘が鳴らなかった。いや合格の鐘ではない。ひとつも鐘が鳴らなかったのだ。</p>
<p>当時、子どもが歌う歌は、童謡と決まっていた。しかしひばりはちまたに流れる「悲しき竹笛（「リンゴの唄」という説も）」を歌ったという。あまりのうまさに驚いたのか、鐘を鳴らすのを忘れた？　いやいや、「これは対象外」と鐘を鳴らさなかったというのが真相らしい。</p>
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<p>先日、イタリアの「ファーイースト映画祭」でゴールデン・マルベリー賞（生涯功労賞）を授与することが発表された女優で歌手の倍賞千恵子は、子供時代に童謡の「里の秋」を歌って出たが、結果は鐘２つ。なんと島倉千代子、北島三郎も鐘2つだったという。</p>
<figure id="attachment_306214" aria-describedby="caption-attachment-306214" style="width: 2600px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="027f6a58"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/aflo_115396153.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-306214" class="wp-caption-text">ゴールデン・マルベリー賞（生涯功労賞）を授与することが発表された女優で歌手の倍賞千恵子さん。写真は、第32回東京国際映画祭（2019年）で（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<p>その合否を決める鐘を、ここ21年間鳴らしてきた秋山気清氏も今回のリニューアルで卒業。今後は各地方で活動するオーケストラの打楽器奏者が担当する。</p>
<p>いや、元来「のど自慢」の演奏者は、各地で活動するミュージシャンが担当してきた。</p>
<p>私自身は歌手デビュー前、「のど自慢」出演の年齢制限が15歳の高校生以上だったため出たかったが出られなかった。その後デビューする渡辺プロダクションのオーディションに中学3年生で合格し、すでにレッスン場に通っていたからである。</p>
<p>当時私は北海道の札幌在住だったが、この「のど自慢」が北海道に来ると私の歌の先生がアコーディオン奏者として演奏していたから、いくらデビュー前だと言っても出場できなかったのである。その先生が桑山真弓氏、現在のアコーディオン奏者の第一人者、桑山哲也君のお父さんである。</p>
<p>たとえ形が変わっていっても、時代が変わったとしても“音を楽しむ”という本来の姿を守る限り、「のど自慢」は永遠なのである。</p>


作家・歌手協会理事長。1979年、高校在学中に渡辺プロダクションから、シンガー・ソング・ライターとしてデビュー。その後、音楽番組の構成演出、司会、CD監修解説に加え、新聞、雑誌での執筆、作詩作曲、ラジオDJなど多方面で異才を発揮する。著書に『童謡の謎』『神社の謎』『昭和歌謡の謎』(祥伝社) 『怪物番組紅白歌合戦の真実』(幻冬舎)などがある。

合田道人

人気番組「のど自慢」がリニューアルされ、生バンドからカラオケ音源に変更されたのである。「歌い慣れているカラオケを使用する」というのが理由だから、確かに一般の人対象の番組としては当たり前だが…。

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