スポーツ番組 人気競技の変遷と放映権の高騰がテレビを変える

テレビ平成30年史〔9〕鈴木祐司(メディア・アナリスト)

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去年(2018年)1年間の年間高世帯視聴率番組ベスト30(関東地区)のうち、8番組はサッカーW杯ロシア大会での試合中継だった。そして平昌五輪も8番組がランクインした。

結局30分の17はスポーツで占められた。

ビデオリサーチがホームページで公表している平成7年(95年)から平成30年(2018年)を振り返ると、サッカーW杯やオリンピックが開催される年によって比率の変動があるが、ほぼ半分近くがスポーツ番組という傾向は大きく変わらない。

テレビにおけるスポーツ番組は、かように格別な意味を持つ。

ただし平成の30年間では、スポーツの中にも栄枯盛衰があり、時に応じて人気種目は変化している。テレビとスポーツの関係を考える。

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スポーツというキラーコンテンツ

テレビは「遠くの今」を「よりリアル」に伝える装置だ。

スポーツはビビッドな“今”であり、“遠く”で開催される大会で、日本代表が世界と戦う姿は多くの日本人の心を捉えてきた。しかも真剣勝負で、シナリオのないドラマだ。これ以上ない“リアル”な映像に、多くの人が熱狂してきたのである。

ただし同じスポーツと言っても、時代と共に人気種目は変化してきた。

平成の前期には、プロ野球・大相撲・オリンピックがスポーツの上位を占めていた。「巨人・大鵬・卵焼き」という言葉が昭和40年代に流行ったが、平成の前期まではその雰囲気がスポーツ人気にも残っていたようだ。

ところがスポーツ人気は、平成3年(91年)に設立されたJリーグにより変化が生まれる。

特に平成10年(98年)のフランス大会で、W杯初出場を果たした頃から、視聴率的にはサッカーが野球をはるかに凌駕し始めた。

98年1年間のベスト30では、W杯がらみのサッカー中継が上位を占め、大相撲や野球はその後塵を拝していた。

02年の日韓大会では、ベスト30のうち、なんと24番組までがW杯関連。しかもベスト10のうち、8位のNHK『紅白歌合戦』を除くと、他の9番組は全てW杯で占められた。

この年の野球はベスト30に1番組のみ。大相撲に至っては圏外で終わった。

ただしサッカー人気は、当初の熱狂が徐々に沈静化していく。

日本代表戦こそ、中継時間が深夜早朝にならない限り、後の4大会でも40%以上をとることが多い。ただし日本戦以外は、ベスト30にランクインしなくなっていく。そして日本代表戦も、50%を超えなくなっていった。

昭和の栄枯盛衰

熱狂が移ろう状況は、昭和の時代にもあった。

テレビ放送が始まった頃は、プロレスが最も人気があった。例えば1954年2月のプロレス中継(力道山・木村政彦対シャープ兄弟)。新橋西口広場の街頭テレビには2万人の群衆が殺到し、警察も手が付けられないほどだった。力道山の空手チョップなど、小柄な日本人がアメリカの大男を倒す様は、戦争の記憶が残る日本人の心を鷲掴みにしたのである。

55年11月にNHKは、「自宅にテレビのない人の視聴状況調査」を実施した。

その結果「この1か月にテレビをわざわざ見に行った人(街頭テレビあるいは友人知人親戚宅のテレビ)」は30%にも及んだ。中でもプロレスが80%と断トツの1位。野球36%、相撲35%、劇映画12%、舞台中継12%が続いた。

当時のプロレス中継は、平成のサッカーを凌ぐほどの、圧倒的なキラーコンテンツだったのである。

ところが1964年、オリンピックが東京で開かれると、人々の心はそちらに吸い寄せられる。

開会式の視聴率は61.2%、日本対ソ連の女子バレーに至っては66.8%。この時の記録は、スポーツ歴代1位となり、その後も譲っていない。

プロ野球の栄枯盛衰

70年代以降は、テレビ局にとってのキラーコンテンツが、巨人戦中継となった。

1シーズンのナイター平均視聴率は75年から90年まで連続で20%を超えた。特に80年代前半の快進撃は凄い。82年25.6%、83年27.1%、84年25.6%と絶頂期を迎えていた。

ホームゲームの中継権を持ち、数多くの巨人戦を放送した日テレにとって、中継数を多くできない他局との差を付ける決定的なカードだったのである。

ところが1974年に「我が巨人軍は永久に不滅です!」と言い残して長嶋は現役を引退したが、巨人戦中継の栄光は永遠には続かなかった。

平成に入ると、時々20%割れが起こるようになった。続いて2000年以降は、20%を超えることがなくなり、03年以降は15%割れ、06年以降は一桁に低迷した。そして18年に至っては、ナイターの中継数も一桁、平均視聴率は7.4%と、もはや合格点をつけられないお荷物番組になっている。

巨人戦後退の要因は、サッカー人気の沸騰の他、3時間を頻繁に超えてくる試合時間の長さもあった。

時代はテンポアップしており、しかも“あり得ない”“突出した”シーンで感動したいというニーズが高まっている。

特にインターネットが普及し、ピンポイントかつオンデマンドに見たいものを見る時代の平成中盤以降、ネットユーザーにとってプロ野球は時代遅れと映ったようだ。

代わりに伸びてきたのが、新興のスポーツ競技。

例えばフィギュアスケートは、05年からベスト30の常連になってきた。優雅な滑り、華麗なスピン、そして限界に挑戦するジャンプは、多くの人を魅了した。ネット世代の感動の消費にもフィットする。

各局が大会の放送権を取り合う人気スポーツになったのである。

他にも平成に人気を集めるようになったスポーツはたくさんある。

バレーボール、テニス、卓球、バトミントン、世界陸上、世界水泳、世界柔道、WBCなどだ。テレビ中継との親和性がある、あるいは世界と互角に戦うスターが登場する等が、人気を集める種目の共通点となっていった。

無料広告放送の限界

ただし高い数字を弾き出すコンテンツには、多くのプレイヤーが殺到する。

結果として過当競争から権利料の高騰を招き、平成はスポーツ番組の費用対効果が危うくなるという副作用が顕在化した時代でもあった。

その典型がオリンピックだ。

72年のミュンヘン大会までは、期間中の全番組平均が30%前後と、圧倒的な番組だった。西側諸国がボイコットした80年のモスクワ大会を除けば、96年のアトランタ大会まで、夜間平均が15~20%と好記録を続けていた。

ところが放送権料は大会毎に高騰を続けた。84年のロス大会で商業化に弾みがつき、以後ビジネス優先の傾向が一挙に進んだからだ。

例えば2012年のロンドン大会では、ロス大会と比べIOCの総収入は9倍になった。日本が払う放映権も、50億円弱から260億円強と6倍近くに膨らんだ。16年のリオ大会では、14年のソチ冬季五輪と合わせて360億円だった。しかも18年の平昌冬季大会と来年の東京大会の合計は660億円。一挙に1.8倍に高騰している。

今後も放映権は高騰を続ける勢いだ。

既に民放は、大会期間中の放送から得られる広告収入では放映権を賄えず、オリンピック中継だけでみると赤字に陥っている。無料広告というビジネスモデルのままでは、オリンピック中継は早晩支えられなくなる可能性がある。

五輪以上に高い視聴率を誇るサッカーW杯も同様だ。

特にW杯は、日本代表がどこまで勝ち残るかに、テレビ局のビジネスは大きく左右される。既に広告収入だけではコストに見合わなくなっており、去年のロシア大会では、ジャパンコンソーシアムを成していたテレビ局のうち、テレビ東京が脱落していた。

今後も、万一日本代表が決勝トーナメントに出られなかったり、最悪のシナリオとしてW杯の出場自体を逃したりすれば、民放キー局は莫大な赤字を抱え込むことになろう。

ハイリスク・ローリターンあるいは赤字という、お荷物番組になっているのである。

かつてスポーツは、テレビ躍進の原動力だった。

ところが平成の30年で位置づけが大きく変わってきた。そして2年前、Jリーグの有料放送での独占権が、イギリスのスポーツ専門配信チャンネルに“10年間・2,100億円”で買収されたように、プレイヤー地図が塗り替えられ始めている。

テレビを育て、そしてテレビが育てたスポーツ。

キラーコンテンツであるがゆえに、皮肉にもテレビのビジネスモデルの変更を迫る怪物になり始めていると言わざるを得ない。

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  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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