「ラグビー選手は、いくらもらっているの?」現役選手のお金事情 | FRIDAYデジタル

「ラグビー選手は、いくらもらっているの?」現役選手のお金事情

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ラグビー界のプロ化を推進する日本協会・清宮克幸副会長(左)とバスケットのBリーグ創設に尽力した境田正樹理事(写真:アフロ)
ラグビー界のプロ化を推進する日本協会・清宮克幸副会長(左)とバスケットのBリーグ創設に尽力した境田正樹理事(写真:アフロ)

ラグビーワールドカップ(W杯)で日本代表は20日、準々決勝で南アフリカに敗れ、ベスト8で今大会を終えた。しかし、プール戦で欧州の列強、アイルランド、スコットランドを破り、初めて決勝トーナメントに進んだことにより、ラグビーの競技特性やその精神性に注目が集まった。そんな追い風を受けながら、今後は2021年のプロリーグ化にむけた動きにスポットライトがあたりそうだ。

プロリーグ構想を主導する日本ラグビー協会の清宮克幸副会長は7月28日、都内のシンポジウムで講演した際、プロ化が成功したことによって選手が手にしてほしい年収についてこう明かした。

「(バスケットの)Bリーグのような1億円プレーヤーが生まれてほしいし、さらに(年俸)5億円、10億円という選手が生まれることは、子供がそのスポーツに憧れるためにも重要」

では、現役のラグビー選手はいったいどれぐらいの年収なのだろうか。あるスポーツ紙記者が明かす。

「今回の日本代表戦士の中に日本人の1億円プレーヤーは1人、7000~8000万円の選手が1人と言われています。今回の代表には入れませんでしたが、ある選手が移籍して年俸が5000万円、という情報が流れた時、選手間では驚きの反応のほうが圧倒的に多かった。それは、現状の日本人プレーヤーはプロ契約より、企業で働く社員選手のほうが多いので、社員選手はサラリーマンの人が手にする給与と変わらない。何千万円単位のお金を手にできる選手は、ほんの一握りしかいないからです」

では、海外の代表クラスの選手はどうだろうか。W杯でベスト4に残ったウェールズ発の『Wales online』で7月2日に公開された記事の中に興味深いものがある。『The Highest paid rugby players in world cup year and the top earning Welsh stars』というタイトルで、同サイトが調べた高額年収選手のランキングが掲載された(表1)。

1位は日本でもおなじみの選手が並んだ。オールブラックスの伝説的なSOで現在、神戸製鋼でプレーするダン・カーター、豪州代表で活躍し、現在サントリーでプレーするマット・ギタウが同率で並び、1億4850万円。ちなみに、元日本代表の五郎丸歩も7位にランクインし、8775万円となっている。同サイトの調べでは、ニュージーランド代表、オールブラックスの主将、NO・8キアラン・リードや今大会のスター候補、FBボーデン・バレットより、五郎丸のほうが高い。

他のスポーツと比較すると、世界有数の経済誌「フォーブス」が発表した2018年度版のスポーツ選手長者番付によると、年収(年俸+広告、宣伝費など)の1位はボクシングのメイウェザー・ジュニアで314億円、2位はサッカーのメッシで122億円、3位がCロナウドで119億円としている。ラグビーが1試合を通して受ける体のダメージ、一歩間違えれば死にも直結する危険性を考慮すると、選手が手にする金額は決して高くない。

神戸製鋼のカーターとサントリーのギタウが世界トップ?

世界トップの年収とされる神戸製鋼のダン・カーター(左から3人目)(写真・アフロ)
世界トップの年収とされる神戸製鋼のダン・カーター(左から3人目)(写真・アフロ)

ラグビー界の基準で考えれば、清宮副会長の構想も決して夢物語ではないように思えるが、わずか4年前、今回完敗した南アフリカ代表に勝った2015年のW杯を迎える直前までは、日本代表選手が手にする日当3000円のうち、1000円の上げ下げにも一喜一憂していた。前回W杯にも出場した、元日本代表選手が明かす。

「当時、僕らがもらえた日当は2000~3000円でした。エディ(・ジョーンズヘッドコーチ)さんは世界に近づくために、みんなの体重を平均で1㎏以上あげるために(合宿の)食事を改善したがっていました。でも協会としてはお金を出せる状況ではなかったみたいで、ある日のミーティングで、エディさんから『合宿の食事を改善したいんだけど、協会からは出せないので、みんなの日当から1000円もらえないか』と頭を下げられたこともありました」

飛行機の移動便も2015年のW杯本番を迎えるまではずっとエコノミー。けがをしたときの補償についても「セカンドオピニオンは管轄外」とされ、協会の指定外の病院で診察を受けると、治療費を支払ってもらえないこともあった。当時の日本代表以降、海外でプロを経験している選手も多く入ってきたため、その待遇は彼らにとっては信じがたい内容だった。そこで、代表選手だけで話し合いを繰り返し、協会の担当者を宿舎に呼ぶなどして、W杯を迎える直前まで待遇改善を求め、「もし改善されなかったら、W杯には出ません」というボイコット騒動まで起きていたのだ。

そんな摩擦を乗り越えて南アフリカに勝った試合の勝利ボーナスは最大30万円。途中出場の選手は出場時間で割った金額を手にした。そのW杯では、スコットランド代表に敗れた1敗が響き、1次リーグ敗退に終わったが、南アフリカからの金星を含む3勝をあげたことを評価され、スポンサーの大正製薬から1人あたり100万円の報奨金が支払われた。ただ、事前に選手にアナウンスされるとき、説明したのが日本ラグビー協会ではなく、大正製薬の担当者だったことに疑問を感じる選手もいた。

「大正製薬さんからいただけるにしても、協会から説明してほしかった。なぜ協会から発表されなかったのでしょう?」

と疑いの目を向けた選手もいた。W杯を終え、2016年以降にスーパーラグビーに参戦するため、サンウルブズが結成されると、日当は1万円にあがり、移動便もビジネスに変わった。この4年間の成果として史上初めてW杯でベスト8に進出し、勝利ボーナス100万円も手にする。日本サッカー協会が公表している日本代表選手の待遇(表2)にはまだ追いつけないかもしれないが、それでも、ラグビー界が今後、プロ化に踏み切れば待遇面でも魅了できる競技になるかもしれない。それでも、お金を稼げることを魅力のひとつにすることに「待った」をかける元日本代表選手もいる。

「他のスポーツと比べると報奨金とかも安いかもしれませんけど、僕はむしろ、野球とかサッカーがおかしな方向に行っている気がしています。スポーツは楽しむもので人生を潤すもの。ラグビーはこのぐらいが妥当だと思っています」

大学を卒業後、ずっとプロ選手として奮闘してきた別の元日本代表選手はこう明かす。

「僕はプロとして魅力的な選手になって、稼げるようになって子供たちに夢を与えられる選手になりたいと思ってきました。プロ化がうまくいってほしい、と思う反面、簡単にはいかないだろうな、と感じています。たとえば、あるプロ選手が実績を積んで、周囲の予想を超える額で移籍した場合、すぐに『アイツに払い過ぎ』という声が出てくる。選手は頑張って自分の価値をあげて、企業もその額を払う価値があると認めて、双方では成立しているはずなのに、その当たり前のはずの流れを阻む風潮がある。日本ではラグビーを教育的側面でとらえすぎていて、『スポーツ=お金』と考えることが『悪』とみなされる傾向が強いからだと思うんです」

プロ化にむけて「お金」より大切な課題

プロリーグが開幕後、W杯の時のこの熱気を維持できるか(写真:アフロ)
プロリーグが開幕後、W杯の時のこの熱気を維持できるか(写真:アフロ)

ラグビーは企業スポーツとして成立した数少ない例だ。ラグビーの練習以外の時間に、仕事に打ち込むことを通して他者とのコミュニケーションを円滑にする方法を覚え、結果が出るまで我慢することを学び、仕事そのものがラグビーにプラスに働く。その好循環から抜け出すことへの不安もあるだろう。

トヨタ自動車で社員選手として12年プレーし、将来、プロの指導者になることを志して、その勉強時間を確保するために退社し、その後、イングランド、キャノンでプロ契約選手として4年プレーした元日本代表主将の菊谷崇氏は「日本のラグビー界のプロ化について評価できるほどの情報は持っていない」と前置きして、こう明かす。

「ファン目線で言えば、日本代表が頑張ってできたこの盛り上がりを、今後、より活性化させるためには、プロ化のほうがいいかなと思います。今回、会場でスタンドを見回しても、敵味方関係なく、いいプレーには拍手し、試合後もお互いに称えあって純粋にラグビーを楽しむ文化が根付きそうな雰囲気があります。大会前に懸念されていた、『ルールわかりづらい』『外国出身の選手がたくさんいるから応援しない』といった声も全然聞かれなかったと思うんです」

菊谷氏にはファン目線だけではない、選手経験者ならではの視点で以下のように語る。

「プロ化によっていきなり大金を手にしてスターになる人も出てくるでしょう。そのことに対する抵抗はありませんが、輝ける場にいられる人はほんの一握りしかいない。ですから、選手目線で言えば、プロ化を進めるにあたって、輝けるスターにはなりきれない選手たちの立場にフォーカスして、プロ選手生活を終えた後の彼らのセカンドキャリアをどうするかといった視点も持ってもらえれば、と願います。

私は約1年前に現役を引退し、セカンドキャリアとして『㈱Bring Up Athletic Society』のGMとして、子供たちへのラグビー指導を通して、集団での『学び』から、対人間スキル・問題解決能力を育てる仕事をはじめました。これがうまく滑り出せたのも、結局はトヨタ自動車にいた12年が大きいです。挨拶の仕方、名刺の渡し方、メールの書き方まで配属先の上司に一から教えていただいて、仕事に必要なノウハウも身についた。39歳になった今、とても役立っています。僕が大学卒業後、すぐにプロになって、今ぐらいの年齢から第2の人生をスタートさせることを考えた場合、社会人の経験がなかったら,かなり苦しんだと思います」

現時点で、プロ化の動きに正式に「賛成」の手をあげているのはパナソニック1社しかない。証言した彼らが口にする「不安」や「疑問」の根底には、これまであいまいなまま物事を進めてきた日本ラグビー協会の歴史がある。プロ化を進めることによって、選手がどんな幸せを得て、社会にどんなことを還元できるのか。その「大義」を今以上に明確にすることが、清宮副会長をはじめ、日本ラグビー協会にとって必要なのかもしれない。

【年収ランキング】(表1)

(Wales online「The Highest paid rugby players in world cup year~」(7月2日付より)

1.ダン・カーター(元ニュージーランド代表SO)1億4850万円(£110万)

1.マット・ギタウ(元豪州代表SO)1億4850万円(£110万)

3.チャールズ・ピウタウ(元ニュージーランド代表WTB)1億3500万円(£100万)

4.★マロ・イトジェ(イングランド代表LO)1億125万円(£75万)

4.★オーウェン・ファレル(イングランド代表SO)1億125万円(£75万)

6.アーロン・クルーデン(元ニュージーランド代表SO)9180万円(£68万)

7.五郎丸歩(元日本代表FB)8775万円(£65万)

7.スティーブン・ラウラタ(元ニュージーランド代表NO.8)8775万円(£65万)

9.★ダン・ビガー(ウェールズ代表SO)8100万円(£60万)

10.★ジョナサン・セクストン(アイルランド代表SO)7236万円(£53万6000)

14.★キアラン・リード(ニュージーランド代表主将、NO8)7006万円(£51万9000)

★ボーデン・バレット(ニュージーランド代表FB)7006万円(£51万9000)

▼注:値段は7月2日の1ポンド終値=135円で計算、★は2019年W杯に出場

 

【サッカー日本代表選手の待遇】(表2)

(日本サッカー協会サイト、2011年2月22日公開、『日本代表選手ペイメント問題に対する当協会の考え』より)

≪日当≫

1日1万円

≪勝利ボーナス≫※引き分けは半額

Sランク:200万円(W杯)

Aランク:30万円(コンフェデ杯、アジア杯、W杯予選)

Bランク:20万円(東アジア選手権、アジア杯予選、キリン杯、FIFAランクTOP10との親善試合)

Cランク:15万円(FIFAランクTOP11~20との親善試合)

Dランク10万円(FIFAランクTOP21以下との親善試合)

≪大会ボーナス≫(該当選手全員に一律に支給)

(W杯)

優勝:5000万円

準優勝:3000万円

3位:2000万円

ベスト4:1000万円

ベスト8:800万円

ベスト16:600万円

≪サッカーW杯最終予選≫

1000万円(最高額)

※最終予選に出場した選手が対象。その出場実績に伴い、金額が算出される。

 

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