映画界 五輪イヤーはディズニー弱く観客減&興収500億円減?

〔映画ジャーナリスト・大高宏雄に聞く「日本映画界・19年総決算&20年展望」第5回〕

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2020年、東京オリンピック・パラリンピックが開催される。日本中が祭典に湧く中、エンターテインメントの代表格のひとつ、映画界はどのような動きを見せるのか? 映画ジャーナリストの大高宏雄氏に話を聞くと、興行収入が今世紀最高額を記録した2019年と比べ、500億円規模の激減を危惧する業界人もいるという。一体、何が起こるのか?

動員数&興収が今世紀最高の2019年を経て、今年の映画界は?

――2020年の日本映画界は、どんな状況でスタートを切りましたか?

「2020年の正月興行を見ると、予想どおりディズニーの2作品、『アナと雪の女王2』と『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が、1、2位の大ヒットとなっている。前者はすでに興収120億円を超え、今のところでは140億円は超えてくるとみられる。後者は60億円を突破し、80億円あたりが一つの目安とみている。この数字は、いろいろな見方ができるが、やはり及第点を上げていいのではないか。邦画で期待はずれの作品もあったが、20年のスタートとしての正月興行はまずまずだ。昨年の勢いは、ディズニーの2作品に引き継がれているが、では今年は昨年同様になるかというと、なかなか難しい面も出てくるだろう」

007最新作のプレミアで自撮りするダニエル・クレイグ(ジェームズ・ボンド)と敵役サフィンを演じるラミ・マレック(左)  『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(東宝東和、4月10日〜)  写真:ロイター/アフロ

ディズニーには「ヒット作、大量生産」の反動?

――2020年の映画界で注目していることは?

「2019年のディズニーの快進撃が、今年はどうなるかがポイントだ。ディズニーは2019年3月に日本国内向け動画配信サービス「Disney DELUXE」(ディズニーデラックス:ディズニー、ピクサー、スター・ウォーズシリーズ、マーベルの作品を視聴可能)を、11月にアメリカ、カナダ、オランダでストリーミングサービス「Disney+」をスタートさせた。現在のディズニーの重要課題は配信事業をいかに軌道に乗せるかということだろう。

昨年のディズニーの大攻勢は、明らかにラインナップの多彩さに理由があった。興収順に、『アラジン』『トイ・ストーリー4』『ライオン・キング』『アベンジャーズ/エンドゲーム』といった大ヒット作品が並んだわけだが、これは同社が本格化させた動画配信事業において、絶対に負けられない戦いを余儀なくされたことも大きい。動画配信事業は、何といっても作品が成否を握る。そのために、昨年はディズニー・ブランドを構築する様々なバリエーションの強力作品を揃え、配信への道筋を作っておく必要があった。

多彩さは、配信目的だけとは思えないが、劇場事業などを主体に考えれば、あそこまで作品を揃えることはなかっただろう。何事もバランスがある。興行面だけを考えれば、強力作品は1年に集中させず、分散させてしかるべきだった。だが、大目的の前に、そんな悠長なことは言ってられなかったのだろう。だから、その影響は今年のラインナップに出てくる。ピクサーの『2分の1の魔法』(3月~)、『ムーラン』(4月~)、『ブラック・ウィドウ』(5月~)、『ジャングル・クルーズ』(7月~)~などのアニメーションや実写作品が並ぶ前半は、昨年と比べれば、知名度などの点でかなり劣る。中身次第では関心の幅は広がるが、確実な安全パイというわけではない」

東宝はマーケットを求めて世界進出!?

――邦画の雄、東宝の動きも気になります。

「東宝は2020年も作品を揃えている。『名探偵コナン』『ドラえもん』『ポケットモンスター』など、ヒットアニメのシリーズタイトルが多数あり、他社にはない強みになっている。また、東宝・東映・カラーの3社共同配給となるが、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(6月〜)もある。

さらに、『STAND BY MEドラえもん 2』(8月~)が加わったのが大きい。前作は84億円を記録している。順当にいけば、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』とともに、定番番組以外の作品として同社の年間成績を牽引することだろう。実写作品では、アスミック・エースと共同配給となる『燃えよ剣』(5月~)などに注目したいが、全体に小粒感は否めない。アニメ頼みの傾向は続くのではないか。

30億円を超えた昨年の『名探偵ピカチュウ』などに続くハリウッド大作の動向も重要だ。『モンスターハンター』や『GODZILLA VS.KONG(原題)が並んでいる。東宝は出資に参画しているので、日本の成績だけで興行の成否は判断できない。ただ、日本市場で失敗するわけにはいかないだろう。いずれにしろ、多彩な作品では群を抜く同社の実績が、今年の映画興行を左右するのは間違いない」

いよいよ2020年、気になる映画界の予想

――2019年の日本映画界は今世紀最高の観客動員数と興行収入を記録しましたが、一方、『アイリッシュマン』『全裸監督』など配信作品が話題になりました。今後、配信で映画を観る人はますます増え続けると予想されます。この影響で2020年、映画人口は下降するのでしょうか?

「配信が興行に与える影響はともかく、下降すると見ている。ある大手興行会社の幹部は、『最大では、昨年の推定興収である2550億円~2600億円前後あたりから、500億円近くまで減るのではいか』とのシビアな憶測も立てている。そうなれば、映画人口も1億6千万人台もあやしくなってしまう。ただ、映画興行が面白いのは、全く意外な大ヒット作品が出てくることで、これは今年も例外ではないだろう。要は、そのスケールだ。まあ、予測は非常に難しいわけだが、(19年の)ディズニー作品に見られた確実性の高い話題作が、今年は減っているのは間違いない。その意味から、東宝、ディズニー以外の踏ん張りに、より大きな期待をかけざるをえない

今年は全体の成績より、個別の作品の成否にも注目してみたい。福島の原発事故を描く『Fukushima 50』(3月~)、さきに挙げた司馬遼太郎原作の新撰組映画『燃えよ剣』などの邦画の問題作や意欲作はじめ、洋画の話題作が、どのような興行を見せるか。ヒット定番のエンタメ路線と、ドラマ優先の作品の興行バランスが、うまく噛み合うと面白くなる。大ヒットの数字の大小ではなく、映画を習慣的に見始めた若い映画ファンは、多様なジャンルの作品にどの程度の関心をもってくれるのか。このあたりに、注目して今年の動向を見てみたい気もする」

***

東京オリンピックは7月24日〜8月9日、東京パラリンピックは8月25日〜9月6日に開催となる。映画の業界人たちも、オリンピック自国開催の年に、人々が何を求め、映画界がどうなるのかは予想がつかない。

ロケ中のトム・クルーズ(ピート・”マーヴェリック”・ミッチェル) 『トップガン マーヴェリック』(東和ピクチャーズ、7月10日〜) 写真:Backgrid/アフロ

そんな中、特大ヒットが期待されている作品は、あえて五輪にぶつける『るろうに剣心 最終章』The Final (ワーナー、7月3日~)と『同 最終章』The Beginning (8月7日~)の2部作を除いては、オリンピック時期を避けるようだ。

例えば、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(東宝東和、4月10日〜)、『シン・エヴァンゲリオン劇場版 : ||』(東宝・東映・カラー、6月〜)『トップガン マーヴェリック』(東和ピクチャーズ、7月10日〜)などなど。

ディズニーと東宝が配給する作品が主軸だった19年だが、20年は他社作品の頑張りで、バラエティ豊かな作品が観客に提供されるかもしれない。映画界ではどんな出来事が起こるのか? 観客として映画のある暮らしを楽しみつつ、そんなことに注意を向けてみるのも面白いだろう。

  • 解説大高宏雄

    映画ジャーナリスト、文化通信社特別編集委員。1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、文化通信社に入社。現在に至る。1992年より日本映画プロフェッショナル大賞を主催。現在、キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」、日刊ゲンダイ「「日本映画界」最前線」、ぴあ「映画なぜなぜ産業学」などを連載。著書は『興行価値―商品としての映画論』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(同)、『映画賞を一人で作った男 日プロ大賞の18年』(愛育社)、『映画業界最前線物語 君はこれでも映画をめざすのか」(同)など多数。

  • 取材・構成竹内みちまろ

    1973年、神奈川県横須賀市生まれ。法政大学文学部史学科卒業。印刷会社勤務後、エンタメ・芸能分野でフリーランスのライターに。編集プロダクション「株式会社ミニシアター通信」代表取締役。第12回長塚節文学賞優秀賞受賞。

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