現場の熱量で話題作を生むTBSドラマは「低打率でも長打あり」 | FRIDAYデジタル

現場の熱量で話題作を生むTBSドラマは「低打率でも長打あり」

TVドラマ界"不毛の2019年" 総世帯視聴率・20年間右肩下がりの窮状から脱するテレビ局はあるのか?

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日テレのドラマは、世帯視聴率ではパッとしないが、若年層に最も見られ、広告営業対策で健闘している。これに対してTBSは、世帯視聴率で当たり外れが大きいドラマが多い。15%以上から7%未満まで、実に多様な実績を残している。

どうやらホームラン狙いの作り手がぶんぶん振り回す結果、打率は必ずしも高くないが、長打がたくさん出る傾向にあるようだ。

内実を分析してみた。

【特集】TVドラマ界”不毛の2019年” 総世帯視聴率・20年間右肩下がりの窮状から脱するテレビ局はあるのか?

⇒【第1回】狙いは若年層 日テレが独自路線で切り拓く「ドラマの未来」 を読む
⇒【第2回】現場の熱量で話題作を生むTBSドラマは「低打率でも長打あり」 を読む

⇒【第3回】フジテレビ:ドラマの明日はどっちだ! 高齢者狙い?若年層回帰? を読む

⇒【第4回】テレビ朝日:視聴率トップの副作用 テレ朝ドラマは高齢者偏重を見直せるか? を読む

『グランメゾン東京』での好演が話題の木村拓哉  撮影:香川貴宏
『グランメゾン東京』での好演が話題の木村拓哉  撮影:香川貴宏

当たりはずれが大きい!

この5年ほどを振り返ると、15年秋『下町ロケット』のクール平均世帯視聴率が18.5%。17年秋『陸王』が16.0%、18年冬『99.9-刑事専門弁護士-(SEASON II)が17.6%など、日曜劇場の枠に高視聴率ドラマがたくさんあった。

また日曜劇場以外でも、ヒット作・話題作は少なくない。

16年秋『逃げるは恥だが役に立つ』は、初回から最終回まで一度も数字が下がらず、平均も14.6%と好調だった。19年12月28日には「ディレクターズカット版全話一挙放送!」がある。

同じ火曜10時枠では、18年夏『義母と娘のブルース』が14.2%。この年末年始にやはり一挙放送され、さらに「2020謹賀新年スペシャル」が放送される。

19年春『わたし、定時で帰ります。』9.7%は、二桁に届かなかったものの、働き方改革が言われる今にフィットした、タイムリーなドラマだった。

いっぽう金曜10時枠は、サラリーマンや学生の在宅起床率が低いこともあり、数字はあまり華々しくない。

それでも、17年秋『コウノドリ』11.9%、18年冬『アンナチュラル』11.1%、18年秋『大恋愛』10.1%、19年夏『凪のお暇』10.0%などは、数字以上に話題になったものが多い。

以上のようにTBSドラマは、高視聴率をとるもの、あるいは世間で話題となるドラマが少なくない。

ただし9%未満の低迷ドラマも全体の半分ほどある。いわばホームランか三振か、当たりはずれの大きな局なのである。

TBS 各ドラマ枠の世帯視聴率推移
TBS 各ドラマ枠の世帯視聴率推移

筆者はかつて、同局ドラマの幹部に何故当たりはずれが大きいのかを尋ねたことがある。

その幹部によれば、「才能のある作り手がたくさんおり、皆ホームランを狙って制作している。しかし実際には、当たりはずれが出るのがドラマというもの」という回答だった。

制作者がこれと思った球を思いっきり振り抜いているため、打率は決して高くないが、長打が一定程度出ているということらしい。

試行錯誤の過去10年

こうした状況は、過去10年を振り返ると、さまざまな試行錯誤の結果、改善している部分もある。

2010年冬時点では、TBSは月曜8時・金曜10時・土曜8時・日曜9時とドラマ枠を4つ持っていた。

ところが土8の枠は10年春までで終了。いっぽう木曜9時枠を10年秋から設けた。

この週4枠時代の象徴的な年は2013年。

夏の『半沢直樹』が最終回42.2%、クール平均28.7%の金字塔を打ち立てたが、翌クール『夫のカノジョ』が3.9%と屈辱的な数字も出してしまった。両ドラマの最低回と最高回の差は12倍。当たりはずれの振幅が最大化した時期だった。

この直後、14年春から20~40代の女性をターゲットとした火曜10時枠が設けられた。これでTBSの連続ドラマは週5枠となった。

ところが火10はしばらく低迷を続ける。

10クール連続一桁で、14年秋『女はそれを許さない』6.1%、15年冬『まっしろ』5.9%、15年秋『結婚式の前日に』5.6%と、超低空飛行が続いた。

さらに木9も、14年秋『MOZU2』から15年夏『37.5℃の涙』まで4クール連続で6%となってしまった。

この低迷の間に、ドラマ2枠が廃止となった。

まず月曜8時枠は15年冬まで。そして木曜9時枠が15年夏までで消えた。この年でドラマは5枠から3枠に減ったが、制作を絞って良い作品の打率を上げようとしたようだ。

その成果は、まもなく出てくる。

7%未満の大惨敗ドラマは影をひそめる。18年秋『中学聖日記』6.9%を唯一の例外に、7%以上を保つようになる。14年に5本、15年に6本だったのと比べると、大きな進歩だった。

しかも9%未満の苦戦ドラマと、9%超の及第点ドラマの比率もかなり改善された。

例えば14年は7割近くの連ドラが9%未満だった。15年も6割強あった。ところが16年は5割に減り、19年は3分の1まで減った。

明らかに失敗しないドラマ作りの方程式が定着してきたようだ。

TBSドラマ 10年の推移
TBSドラマ 10年の推移

視聴データで読むTBSドラマの強さ

強さの秘密は、ずばり、「見続けたい」と思わせる作りの上手さだろう。

26日にアップされた「NIKKEI STYLE」の記事によると、2019年のドラマで、CCCマーケティングが計測する「継続率」(ドラマの各回を見た視聴者が次の回も見る割合)の順位は以下の通りとなった。

1)『3年A組』(日テレ・冬)

2)『ノーサイド・ゲーム』(TBS・夏)

3)『グッドワイフ』(TBS・冬)

4)『凪のお暇』(TBS・夏)

5)『ラジエーションハウス』(フジ・春)

6)『あなたの番です』(日テレ・春&夏)

7)『いだてん』(NHK・1~12月)

8)『インハンド』(TBS・春)

9)『初めて恋をした日に読む話』(TBS・冬)

10)『わたし、定時で帰ります。』(TBS・春)

TBSのドラマが6本、2位日テレを大きく引き離している。実際にドラマを見た人の大半が、引き込まれて継続して見ていることを推測させる。

インテージ「Media Gauge」のデータにも、TBSドラマの強さが表れている。

19年に放送された日曜劇場の4本は、放送開始時点での視聴者の数に違いはあるものの、4本とも放送が始まった後に、次第に接触率が上がって行く。途中で見るのを辞める人(流出者)が少なく、逆に入って来る人(流入者)が見続けていることをうかがわせる。

ドラマの内容や展開が、多くの人を惹きつけている証拠だ。

TBS日曜劇場の接触率推移 ★変化を見やすくするため、縦軸の低い数値を切っています。番組最後で大きく下がっているのは、次回予告や番組後のCMになったからです
TBS日曜劇場の接触率推移 ★変化を見やすくするため、縦軸の低い数値を切っています。番組最後で大きく下がっているのは、次回予告や番組後のCMになったからです

日曜劇場に限らない。

番組開始時点での数字がかなり低いため、世帯視聴率こそ二桁に届かなかった『凪のお暇』は、実は見始めた人を魅了している。日曜劇場と同じように、流出より流入が多く、結果として接触率は右肩上りとなった。

実は半分以上のドラマは、『4分間のマリーゴールド』のように、もともと関心がない、あるいは自分には合わない等の理由で、多くの視聴者が序盤で流出する。しかも途中でも「やはりついていけない」等の理由で、離脱する人が少なくない。

その意味では、『インハンド』『凪のお暇』『わたし、定時で帰ります。』なども、流出が少なく、しかも後半で多少右肩上りとなっている。やはり健闘したドラマと言えよう。
TBSドラマの接触率推移 ★変化を見やすくするため、縦軸の低い数値を切っています。TBSは金曜夜7~10時のバラエティ番組が強く、番組終了時の高い視聴率がグラフの形に影響する場合があります
TBSドラマの接触率推移 ★変化を見やすくするため、縦軸の低い数値を切っています。TBSは金曜夜7~10時のバラエティ番組が強く、番組終了時の高い視聴率がグラフの形に影響する場合があります

以上のようにTBSのドラマは、日曜劇場を初め、火曜10時や金曜10時枠でも、接触率が“右肩上り”あるいは“下がらない”ドラマが少なくない。

番組冒頭での視聴率の差は、テーマ・設定や役者の魅力などで決まることが多い。ところが見始めた人が流出することなく、接触率が下がらないというのは、脚本や演出が頑張っている証拠だろう。

「ホームランを狙う」演出陣が、「思いっきり振り抜いて」制作するTBSドラマは、当たりはずれが大きくても、その熱量ゆえに話題作が多いのである。

しかも19年は明らかに打率が上がっている。2020年にどんな名作を出してくるのか、期待したい。

【特集】TVドラマ界”不毛の2019年” 総世帯視聴率・20年間右肩下がりの窮状から脱するテレビ局はあるのか?

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  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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