21部門で的中!“アカデミー賞予想屋”Ms.メラニーの最速分析 | FRIDAYデジタル

21部門で的中!“アカデミー賞予想屋”Ms.メラニーの最速分析

『パラサイト』『1917』が激突! “予想屋”Ms.メラニーに聞く今年のアカデミー賞の行方

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スゴい人物がいる。アカデミー賞(2018年の第90回)でなんと24部門中21部門の受賞予想を的中させ、“オスカー予想屋”の愛称でラジオやSNS、イベントで大活躍している女性「Ms.メラニー」だ。

世界的な映画の祭典・第92回アカデミー賞の授賞式がいよいよ2月9日(日本時間10日午前)に開催される。それを控え、Ms.メラニーへのインタビューはアカデミー賞の前哨戦とも位置づけられている各賞の結果が出揃う前に行った。『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』 (星海社新書)を刊行したばかりのMs.メラニーに、オスカー予想のエッセンスを伝授してもらいつつ、(いつもは授賞式当日まで予想を練るのを)あえて「最速予想」(2月2日現在)してもらった。今年のアカデミー賞は、いったいどんなドラマが生まれるのか?

【アカデミー賞とは:24部門あるアカデミー賞の各賞は、観客や評論家ではなく、アカデミー協会員になっている俳優、監督ほかスタッフ、映画会社の重役など、作り手側の人間たちの投票で決定する。アカデミー賞は「同業者が同業者を労う賞」。/『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』より抜粋】

Ms.メラニーが初めてアカデミー賞授賞式を見たのは、高校進学直前の1989年3月、家族旅行で訪れたシンガポールのホテルで、たまたま見たテレビだった。8部門にノミネートされていた『レインマン』(出演:ダスティン・ホフマン、トム・クルーズ)が作品賞・監督賞・主演男優賞などの主要部門を受賞した年で、『告発の行方』で主演女優賞を獲得したジョディー・フォスターのスピーチなどが印象に残り、それ以来、翌年1990年からアカデミー賞を見続けているという。さあ、予想のスタートだ。

話題の韓国映画『パラサイト 半地下の家族』は作品賞を獲れるか?

--Ms.メラニーのアカデミー賞予想のポイントは?

Ms.メラニー:社会背景や時代の流れも重要な要素ですが、基本は、オスカーの前哨戦ともいわれる各賞の結果と、30年間アカデミー賞を観てきた歴史の中から浮かび上がる傾向です。

映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
映画『1917 命をかけた伝令』  ⓒ2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
映画『1917 命をかけた伝令』  ⓒ2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

その基本に照らし合わせて予想を立てると、仮定のひとつとして、作品賞が『パラサイト 半地下の家族』(以下、『パラサイト』)で、監督賞が『1917 命をかけた伝令』(以下、『1917』)のサム・メンデス監督という予想が導き出されます。

〔作品賞ノミネート一覧〕(日本公開順:以下同。9作品中7作品は日本でも鑑賞可能)
 『ジョーカー』19年10月4日公開
 『アイリッシュマン』19年11月15日公開/11月27日からNetflix独占配信
 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』19年11月15日公開
 『マリッジ・ストーリー』19年11月29日公開/12月6日からNetflix独占配信
 『パラサイト 半地下の家族』19年12月27日公開
 『フォードvsフェラーリ』20年1月10日公開
 『ジョジョ・ラビット』20年1月17日公開
 『1917 命をかけた伝令』20年2月14日公開
 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』20年3月27日公開

--韓国映画『パラサイト』がアカデミー賞獲得の可能性が高い? 画期的ですね!

Ms.メラニー:ところが今年は、作品賞と監督賞の予想がとても難しいのです。アカデミー賞は、“2019年にロサンゼルス郡内の映画館で連続で1週間以上、有料で公開された作品”などの基準を満たしていればノミネート可能なので、外国映画である『パラサイト』も候補に選ばれました。

ただ、そもそもアカデミー賞は基本的にアメリカ映画の賞なので、ある意味で“アカデミー賞の象徴”ともいえる作品賞を外国語の映画が獲るのは極めて難しい。

『パラサイト』の作品賞獲得が不利だからこそ、せめて監督賞は『パラサイト』の監督のポン・ジュノに行く、という見立てもあります。ところが、『1917』のサム・メンデス監督が全米監督協会賞などの前哨戦で勝っており、となるとポン・ジュノが監督賞を獲るのは難しい、という分析になります。

〔監督賞ノミネート一覧〕
 トッド・フィリップス『ジョーカー』
 マーティン・スコセッシ『アイリッシュマン』
 クエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
 ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』
 サム・メンデス『1917 命をかけた伝令』

Ms.メラニー:『パラサイト』は、アカデミー賞の前哨戦のひとつで、作品賞の予想を立てるうえで最も重要な情報のひとつとなる全米俳優組合賞(SAG賞)の映画部門で作品賞にあたるキャスト賞を外国語映画として初めて受賞しています。

第26回全米映画俳優組合賞の受賞式での『パラサイト 半地下の家族』の面々。主演のソン・ガンホ(写真左), ポン・ジュノ監督(後列左から2番目)ら  写真:ロイター/アフロ
第26回全米映画俳優組合賞の受賞式での『パラサイト 半地下の家族』の面々。主演のソン・ガンホ(写真左), ポン・ジュノ監督(後列左から2番目)ら  写真:ロイター/アフロ

ただ、外国語の作品(英語以外の作品)に与えられる「国際長編映画賞」は私の予想では『パラサイト』以外には考えられないのですが、これまでのアカデミー賞の歴史の中で作品賞と国際長編映画賞のダブル受賞はありません。その歴史に照らし合わせると、『パラサイト』の作品賞受賞はなくなってしまいます。

このように今年は作品賞と監督賞の予想が本当に難しく、私は授賞式当日の朝まで予想を練ります。

〔国際長編映画賞ノミネート一覧〕(アルファベット順)
 『コーパス・クリスティ』(ポーランド)
 『ハニーランド』(北マケドニア)
 『レ・ミゼラブル』(フランス)
 『ペイン・アンド・グローリー』(スペイン)
 『パラサイト 半地下の家族』(韓国)

監督賞は『1917』サム・メンデスvs『パラサイト』ポン・ジュノ

--監督賞はどう予想していますか?

Ms.メラニー:監督賞の予想を立てるうえで重要視している全米監督協会賞(DGA)の長編映画部門で、サム・メンデス監督が受賞しているので、現段階の監督賞の予想では『1917』かなと思っています。

『1917 命をかけた伝令』で全米監督協会賞を受賞したサム・メンデス監督(中央)。決死の伝令役を務めたジョージ・マッケイ(左)とディーン=チャールズ・チャップマン(右)  写真:ロイター/アフロ
『1917 命をかけた伝令』で全米監督協会賞を受賞したサム・メンデス監督(中央)。決死の伝令役を務めたジョージ・マッケイ(左)とディーン=チャールズ・チャップマン(右)  写真:ロイター/アフロ

ちなみに、アカデミー賞の予想を立てる際は、前哨戦での「直接対決」の結果を重要視します。私の予想では『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(以下、『ワン・ハリ』)が作品賞を獲ることは考えにくい。なぜなら、『ワン・ハリ』と『パラサイト』は両方とも、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映されましたが、『パラサイト』はパルムドール(最高賞)を受賞、一方の『ワン・ハリ』は無冠でした。ここで『ワン・ハリ』のクエンティン・タランティーノ監督が監督賞でも受賞していたら、勝負できる可能性もあったのですが、『ワン・ハリ』はカンヌではなにも受賞していません。全然違う土俵での勝負とは言え、すでに一度完敗している『ワン・ハリ』が『パラサイト』を抑えて作品賞を獲るのは、何か違和感を感じてしまうのです。

アカデミー賞「ノミネートランチョン」でのポン・ジュノ(写真右)。監督賞のほか脚本賞でもノミネート。左は監督・俳優のタイカ・ワイティティ。『ジョジョ・ラビット』で監督・脚本・出演。こちらは脚色賞にノミネート  写真:AFP/アフロ
アカデミー賞「ノミネートランチョン」でのポン・ジュノ(写真右)。監督賞のほか脚本賞でもノミネート。左は監督・俳優のタイカ・ワイティティ。『ジョジョ・ラビット』で監督・脚本・出演。こちらは脚色賞にノミネート  写真:AFP/アフロ

『パラサイト』は全米俳優組合賞(SAG賞)受賞という偉業を成し遂げています。本来ならばアカデミー会員は俳優が一番多いので有利です。ところが、アカデミー賞では外国語(非英語)の映画が作品賞を獲ったことがなく、また作品賞と国際長編映画賞のダブル受賞の前例もないのです。こうした歴史で予想すると作品賞は『1917』が獲るのかな。監督賞も、前哨戦の結果で予想すると全米監督協会賞(DGA賞)を受賞している『1917』のサム・メンデス監督、というのが妥当にはなります。

ところが、有利に見える『1917』でも、決め手に欠けるんですよね。例えば、『1917』は俳優陣が俳優4賞(「主演男優賞」「主演女優賞」「助演男優賞」「助演女優賞」)に1人もノミネートされていません。俳優4賞にノミネートされていない作品は、作品賞や監督賞を争ううえでは弱いのです。

ではどうなるか? 今年は作品賞と監督賞が割れるのでは、と思っています。そうなると監督賞がサム・メンデスで、作品賞が『パラサイト』という予想になるんです。ただ、現時点で多くの人が予想しているのは、監督賞がポン・ジュノで、作品賞が『1917』なんです。これが一番、無難な予想ではあるのですが、『1917』は作品賞としては、いまひとつ決め手に欠ける気がしています。

願望でいうと、作品賞は『パラサイト』に獲って欲しいのですが……。

--「個人的な願望」と「データに基づく分析」の結果が相反した場合、予想はどうするのですか?

Ms.メラニー:よほどのことがない限りは、基本的には分析結果に従います。

俳優部門はこの4人で決定

--俳優部門はどう予想していますか?

Ms.メラニー:今年は、俳優4賞の予想は現段階でほぼ固まっています。ゴールデングローブ賞と全米俳優組合賞(SAG賞)でそれぞれ同じ賞を受賞した4人。「主演男優賞」ホアキン・フェニックス「主演女優賞」レニー・ゼルウィガー「助演男優賞」ブラッド・ピット「助演女優賞」ローラ・ダーンです。

〔主演男優賞ノミネート一覧〕(日本公開日順、以下同)
 ホアキン・フェニックス『ジョーカー』
 レオナルド・ディカプリオ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
 アダム・ドライヴァー『マリッジ・ストーリー』
 ジョナサン・プライス『2人のローマ教皇』19年12月13日公開/12月20日からNetflix独占配信
 アントニオ・バンデラス『ペイン・アンド・グローリー』20年初夏公開

〔主演女優賞ノミネート一覧〕
 スカーレット・ヨハンソン『マリッジ・ストーリー』
 シャーリーズ・セロン『スキャンダル』20年2月21日公開
 レニー・ゼルウィガー『ジュディ 虹の彼方に』20年3月6日
 シアーシャ・ローナン『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』20年3月27日公開
 シンシア・エリヴォ『ハリエット』20年3月公開

〔助演男優賞ノミネート一覧〕
 アル・パチーノ『アイリッシュマン』
 ジョー・ペシ『アイリッシュマン』
 ブラッド・ピット『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
 アンソニー・ホプキンス『2人のローマ教皇』
 トム・ハンクス『ア・ビューティフル・デイ・イン・ザ・ネイバーフッド』日本公開未定

〔助演女優賞ノミネート一覧〕
 ローラ・ダーン『マリッジ・ストーリー』
 キャシー・ベイツ『リチャード・ジュエル』20年1月17日公開
 スカーレット・ヨハンソン『ジョジョ・ラビット』
 マーゴット・ロビー『スキャンダル』
 フローレンス・ピュー『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

Ms.メラニー:演技部門は近年になく下馬評が一致しています。助演女優賞では、『ジョジョ・ラビット』のスカーレット・ヨハンソンもよかったのですが、『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーンが、強烈な印象を残す役柄と演技で、ひとつ抜けている印象があります。個人的な“好き・嫌い”で「この人が獲ってくれたら嬉しいな」という願望はありますが、この4人が受賞する可能性が高いと思います。

脚本賞は『ワン・ハリ』タランティーノvs『パラサイト』ポン・ジュノ

--今年、注目している部門はありますか?

Ms.メラニー:個人的には脚本賞が一番気になっています。

〔脚本賞ノミネート一覧〕
 クエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
 ノア・バームバック『マリッジ・ストーリー』
 ポン・ジュノ/ハン・ジヌォン『パラサイト 半地下の家族』
 ライアン・ジョンソン『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』20年1月31日公開
 サム・メンデス/クリスティ・ウィルソン=ケアンズ『1917 命をかけた伝令』

Ms.メラニー脚本賞はクエンティン・タランティーノが強いんです。アカデミー賞では監督賞も作品賞も獲ったことがありませんが、脚本賞は『パルプ・フィクション』(95年)、『ジャンゴ 繋がれざる者』(13年)で獲っています。セリフや展開が面白く、ほんとうにいい脚本を書くのです。だから彼はアメリカの業界では「脚本家」としてより高く認められている印象があります。

今年の脚本は『パラサイト』が一番優れていると思っているので、願いとしては『パラサイト』に獲ってほしいです。ただ、『パラサイト』の一番のネックは韓国語ということです。ストーリー展開の面白さが優れていたとしても、投票する人たちは、セリフの面白さに関しては字幕に頼らざるを得なくなります。そうなると、『パラサイト』の脚本が本当に面白いのかどうかがわかりにくいですよね。その点で、『パラサイト』は、『ワン・ハリ』と比べると不利になる気がします。

脚本賞の行方は、前哨戦のひとつとなる全米脚本家組合賞の結果が大きな影響を及ぼすのですが、クエンティン・タランティーノは全米脚本家組合に所属しておらず、これまでに一度も全米脚本家組合賞にはノミネートされていません。なので、今年に関しては、直接対決のない全米脚本家組合賞の結果はあまり参考にはならないと思います。もし、全米脚本家組合賞を『パラサイト』のポン・ジュノが受賞しなかったら、クエンティン・タランティーノの『ワン・ハリ』がアカデミー賞では脚本賞を獲る、という予想になります。

ジョン・ウィリアムズは『スターウォーズ』で52回目のノミネートだが

--注目を集めている部門は?

Ms.メラニー:今年は、脚色賞(原作がある脚本)に注目が集まっています。というのも、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(以下、『若草物語』)のグレタ・ガーウィグ監督が、注目の若手女性監督なのですが、監督賞にノミネートされていません。今、アメリカでは、それを問題視する潮流があるのです。“注目の監督にも関わらず、女性だからノミネートすらされていない”というふうに。その影響で、脚色賞は『若草物語』に与えられるのではないかともいわれています。他の候補作もそれほど強くないので、その可能性は十分にあると思っています。

〔脚色賞ノミネート一覧〕
 『ジョーカー』
 『アイリッシュマン』
 『2人のローマ教皇』
 『ジョジョ・ラビット』
 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

Ms.メラニー:撮影賞では、白黒映画の『ザ・ライトハウス』がよくノミネートされたと思いました。が、私の予想は観客に考える暇も与えないという感じで、撮影賞は『1917』のロジャー・ディーキンスです。全編ワンカットふうの撮影が話題ですね。

〔撮影賞ノミネート一覧〕
 『ジョーカー』
 『アイリッシュマン』
 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
 『1917 命をかけた伝令』
 『ザ・ライトハウス』日本公開未定

Ms.メラニー:メイク・ヘアスタイリング賞は日本出身のメイクアップアーティスト・Kazu Hiro(辻一弘から改名)さんが特殊メイクで参加した『スキャンダル』が獲ると予想しています。Kazu Hiroさんは、ものすごい手腕の持ち主で、ハリウッドの多くがそれを知っているということが理由のひとつです。『スキャンダル』には、“今現在、活躍している実在の人物”が多数登場しますが、その実在の人物と演じる役者が、もともとは顔が似ていないのに、映画の中では、そっくりなのです。それも予想の根拠です。

〔メイクアップ・ヘアスタイリング賞ノミネート一覧〕
 『ジョーカー』
 『マレフィセント2』19年10月18日公開
 『1917 命をかけた伝令』
 『スキャンダル』
 『ジュディ 虹の彼方に』

Ms.メラニー:今年は、作曲賞もなかなかおもしろいです。ジョン・ウィリアムズ『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』52回目のノミネートをされています。授賞式を目前に控えた2月8日に88歳になるのですが、アカデミー協会員の人たちはけっこうシビアで、年齢などで賞を与えることはあまりないようです。なので、作曲賞でも今年はドラマがありそうです。

〔作曲賞ノミネート一覧〕
 『ジョーカー』
 『マリッジ・ストーリー』
 『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』19年12月20日公開
 『1917 命をかけた伝令』
 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

Ms.メラニー:歌曲賞では、今年は、昨年のレディー・ガガ&ブラッドリー・クーパーの「シャロウ」のような特出した曲が見当たりません

〔歌曲賞ノミネート一覧〕
 君のため『トイ・ストーリー4』19年7月12日公開
 (アイム・ゴナ)ラヴミーアゲイン『ロケットマン』19年8月23日公開
 未知の旅へ『アナと雪の女王2』19年11月22日公開
 Stand Up『ハリエット』
 I’m Standing with You『ブレイクスルー』日本公開未定

Ms.メラニー:『ハリエット』は、公開中にたまたまアメリカに行っていたのですが、現地ですごく話題になっていました。“Stand Up”を歌う主演のシンシア・エリヴォは、主演女優賞にもノミネートされていますが、イギリス人で舞台出身なのですね。トニー賞でミュージカル主演女優賞も獲っている実力派です。

ただ、女優賞と歌曲賞のダブルノミネートは3年連続で(2019年:レディー・ガガ『アリー/スター誕生』主演女優賞:レディー・ガガ&ブラッドリー・クーパー「シャロウ」歌曲賞、2018年:メアリー・J・ブライジ『マッドバウンド 哀しき友情』助演女優賞:メアリー・J・ブライジ”Mighty River”)、レディ・ガガは歌曲賞のみ受賞しましたが、二人とも女優賞の方は逃しています

今年は、主演女優賞はレニー・セルヴィガーが獲ると予想していますので、シンシア・エリヴォが主演女優賞を獲ることはないという予想の流れになります。そうなると、昨年、一昨年と同様に、シンシア・エリヴォの”Stand Up”が歌曲賞を獲ることもあるかもしれません。ただ、エルトン・ジョン((I’m Gonna) Love Me Again『ロケットマン』)や「君のため」(『トイ・ストーリー4』)など、もっとメジャーな曲が獲る気がしています。「未知の旅へ」(『アナと雪の女王2』)に関しては、今回の受賞はないと予想しています。

技術部門は「さっぱり分からない」と本音も

--現段階で、他に予想ができないものはありますか?

Ms.メラニー:技術的な評価が重要視される部門になってくると、「何がなんだかさっぱり分からない」というのが本音ですが(笑)、編集賞では『アイリッシュマン』という人が結構います。

〔編集賞ノミネート一覧〕
 『ジョーカー』
 『アイリッシュマン』
 『パラサイト 半地下の家族』
 『フォードvsフェラーリ』
 『ジョジョ・ラビット』

Ms.メラニー:衣装デザイン賞では、ノミネート作品を見渡すと時代モノが多いですね。それもずっと昔ではなく1960年代、70年代などの“ちょっと昔”が多いです。バッチリの時代モノと言えるのは『若草物語』くらいでは。

〔衣装デザイン賞ノミネート一覧〕
 『ジョーカー』
 『アイリッシュマン』
 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
 『ジョジョ・ラビット』
 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

Ms.メラニー美術賞では『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が強いのかなと思います。『パラサイト』が美術賞、編集賞などにノミネートされたことは快挙だと思います。外国語の映画がノミネートされるのはすごく難しいことなので。

〔美術賞ノミネート一覧〕
 『アイリッシュマン』
 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
 『パラサイト 半地下の家族』
 『ジョジョ・ラビット』
 『1917 命をかけた伝令』

Ms.メラニー:音響編集賞は、長い歴史の中で、例えば戦争モノの銃の音や、『フォードvsフェラーリ』の車のエンジン音など、強い特徴のあるものが強いといわれています。『1917』と『フォードvsフェラーリ』が前哨戦で結果を残していることもあり、このどちらかが受賞すると予想しています。

〔音響編集賞ノミネート一覧〕
 『ジョーカー』
 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
 『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
 『フォードvsフェラーリ』
 『1917 命をかけた伝令』

Ms.メラニー:視覚効果賞は、他の部門でノミネートされていない大作が獲ったりすることもありますが、今年は予想が難しいです。

〔視覚効果賞ノミネート一覧〕
 『アベンジャーズ/エンドゲーム』19年4月26日公開
 『ライオン・キング』19年8月9日公開
 『アイリッシュマン』
 『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
 『1917 命をかけた伝令』

Ms.メラニー:録音賞の予想も、技術者ではない人間には難しいところがありますね。

〔録音賞ノミネート一覧〕
 『アド・アストラ』19年9月20日公開
 『ジョーカー』
 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
 『フォードvsフェラーリ』
 『1917 命をかけた伝令』

Ms.メラニー:『アナと雪の女王2』が長編アニメーション賞にノミネートされず、歌曲賞だけとなったので驚きました。前哨戦であるアニメーションのアカデミー賞といわれる「アニー賞」は『クロース』が作品賞をはじめ最多7部門で受賞するなど、今回、アニメはまったく分からなくなっています。

また、短編映画賞 、短編アニメ部門とドキュメンタリー部門の各賞は、現状、十分な情報がなく、予想を立てることができていません。日本では見られない場合が多いので、動画配信やYouTube、全編が見られなければ予告編だけでも見て、できるだけ情報を入れて予想の参考にしています。

〔短編映画賞ノミネート一覧〕(アルファベット順)
 『兄弟愛』
 『ネフタ・フットボール・クラブ』
 『向かいの窓』
 『サリア』
 『ア・シスター』

〔長編アニメ賞ノミネート一覧〕(日本公開順)
 『トイ・ストーリー4』
 『クロース』19年11月15日からNetflix独占配信
 『失くした体』19年11月22日公開
 『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』19年12月20日公開
 『ミッシング・リンク(原題)20年秋公開

〔短編アニメ賞ノミネート一覧〕(アルファベット順、以下同)
 『ドシェラ』
 『ヘア・ラヴ』
 『キットブル』
 『メモラブル』
 『シスター』

〔長編ドキュメンタリー賞ノミネート一覧〕
 『アメリカン・ファクトリー』
 『ザ・ケイヴ』
 『ブラジル 消えゆく民主主義』
 『娘は戦場で生まれた』
 『ハニーランド』

〔短編ドキュメンタリー賞ノミネート一覧〕
 『イン・ジ・アブセンス』
 『ラーニング・トゥ・スケートボード・イン・ア・ウォーゾーン』
 『眠りに生きる子供たち』
 『セントルイス・スーパーマン』
 『ウォーク・ラン・チャ=チャ』

--各賞の予想を伺ってきましたが、アカデミー賞の予想は、はまると奥が深そうですね。

Ms.メラニー:そうですね。また、例えば“作品賞と国際長編映画賞のダブル受賞は前例がない。なので、『パラサイト』は国際長編映画賞を受賞したら作品賞の受賞はない”など、他の部門との兼ね合いも含めて予想を立てる必要があります。今回、10部門以上にノミネートされている作品が4作品(『ジョーカー』が11部門、『アイリッシュマン』、『1917』、『ワン・ハリ』がそれぞれ10部門)あります。作品賞を『1917』が獲ると予想したら、『1917』がノミネートされている音響編集賞や録音賞など技術部門の賞の予想にも影響を及ぼしてきます。アカデミー賞の予想は本当に時間がかかり、予想を決めるのが毎年、直前になってしまいます。

ただ、それは私がそうしているというだけで、今は、アカデミー賞の結果が発表される前にノミネートされた作品をたくさん観ることもできます。なので、映画をたくさん観て、「作品賞はこれだ! 俳優賞はこの人だ!!」と、自分の感性で予想を立てても、アカデミー賞は十分、楽しめると思います。

***

--Ms.メラニーは、毎年、アカデミー賞授賞式の日は有給休暇を取って仲間たちと授賞式を観ながら過ごすそう。そんなMs.メラニーに「どうしてアカデミー賞はここまで人を引きつけるのだと思いますか?」と尋ねると、「キラキラしているからじゃないですかね。俳優だけではなく、裏方の方も含めて、一番ノっている人たちが出てくるので、希望に満ちているといいますか。私はそういう輝きが好きです」と話してくれた。

アカデミー賞の授賞式は2月10日(日本時間午前)に開催。自分なりの予想を立てて、発表の瞬間に臨んではみてはいかがでしょうか。

--------------------

Ms.メラニー(アカデミー賞ウォッチャー)
映画会社に23年間勤務中。1989年にアカデミー賞に出会い、1990年からアカデミー賞を見続けている。受賞予想がライフワークのアカデミー賞ウォッチャー。2017年2月にTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(2020年現在は「アフター6ジャンクション」)に“オスカー予想屋”として初登場して以来、アカデミー賞シーズンの風物詩ゲストとなっている。的中率は驚異的で、2018年の第90回アカデミー賞では、全24部門中21部門の受賞を的中させた。著書『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』 (星海社新書/1月24日発売)

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  • 取材・構成竹内みちまろ

    1973年、神奈川県横須賀市生まれ。法政大学文学部史学科卒業。印刷会社勤務後、エンタメ・芸能分野でフリーランスのライターに。編集プロダクション「株式会社ミニシアター通信」代表取締役。第12回長塚節文学賞優秀賞受賞。

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