東工大とグルメサイトが研究して判明!「発酵食品」本当の力 | FRIDAYデジタル

東工大とグルメサイトが研究して判明!「発酵食品」本当の力

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塩麹の爆発的ヒットもあり、ここ10年ほど発酵食品の人気が続いているが、コロナ禍の今、免疫力を高める腸活が意識され、発酵食品への関心はさらに高まっている。

そうした中、東京工業大学と有名グルメサイトが2016年から続けている“日本の発酵食品”に関する共同研究がある。もちろん、これは単に、発酵レストランに発酵カフェ、ぬか漬け女子も(男子も)増えているし、発酵食品ブームを盛り上げよう、という話ではない。

ゲノム解析により、日本の発酵食品の文化を支える微生物を科学し、食のブランディングを実現することをテーマとしたものだ。

この研究を率いている東京工業大学の山田拓司准教授に話を聞いた。 

日本の発酵食品で代表的なものといえば、麹を使った味噌、醤油などの調味料や酒。麹とは、米や麦、豆などの原料を蒸したものに麹菌を生やして繁殖させたもので、麹菌はカビの一種である微生物だ

グルメサイトが“日本の発酵食品”の共同研究に出資する訳

東京工業大学では2016年より3年間、『ぐるなび』との共同研究講座を開設。講座終了後の2019年からは、共同研究として新体制での活動を続けている。

「もともと、“日本の食文化を守り育てる”という企業使命があって、私がやっている腸内環境や微生物の研究とシナジーがあるんじゃないかということで、何か面白いことをやってください、というのが共同研究のスタートでした。

ご飯を食べて腸内環境がどう変わるかと考えたときに、日本の食文化では、発酵食品が重要なキーワードになっています。日本の食は健康的であると言われていますけど、私の中では、味噌や醤油、漬物など、けっこう塩分が高いのに、本当に健康に良いのかな、という疑問もありました。 

といっても長寿の国であることは間違いないですし。日本の食文化が本当に健康に寄与しているのか、微生物による発酵という観点や、腸内環境への影響という観点を基軸とした何か新しい研究ができないかと考えました」(山田拓司氏 以下同)

なるほど、この共同研究は絶妙なマッチングだったようだ。ぐるなびがこれまでに構築してきた地方自治体や飲食店・生産者、食品メーカーなどのネットワークを活用して、各地方での調査研究を進める。そこから、現地の食に新たな価値を発見することで、伝統食や地域をブランドアップすることを目指している。

ここ数年、ゲノム解析の分野は飛躍的に発展している。ゲノムがわかると微生物の能力がわかる。それにより新しい発酵食品のカスタマイズも可能になり、地域の食のブランディングや活性化に活かせると考えているのだ。ここに山田氏が得意とする「バイオインフォマティクス」が活かされる。

味噌、醤油、酒、みりん、酢など調味料として使われる他、鰹節、塩辛、納豆、漬物など、ごくシンプルな献立でも和食には多くの発酵食品が存在している

腸内環境研究の技術で、発酵食品を科学する

この共同研究がユニークで意義深いのは、山田氏がそもそもメタゲノム解析での腸内環境研究、及び、バイオインフォマティクスによる大腸がん研究において、第一線で活躍する人物だということだ。

「私の研究は微生物がたくさん集まっている群集構造のゲノム解析“メタゲノム解析”によって、ヒトとその常在菌がどのように影響を与えあっているかということを明らかにしようというものです。また、バイオインフォマティクスと呼ばれる生命情報学を専門としています。 

バイオインフォマティクスは、情報処理と生物学の要素をかけ合わせたもの。簡単に言えば、ゲノムや遺伝子、DNAに関するこれまでの膨大な情報をビッグデータとして管理して、欲しい情報をスピーディーに抽出・解析する学問です」 

ヒトに共生するヒト常在菌は、近年急速に研究が進められ、とくにヒトの腸内細菌の研究は著しく発展している。腸管内に住む微生物は宿主であるヒトが食べたものを餌として生きているのだから、もちろん「食」と切り離すことはできない。 

「本当は発酵食品による腸内環境の影響を見たいんですけど、それはすぐにはできなかったので、発酵食品の発酵過程に至る微生物の群集構造の変化、それに関わる微生物のゲノム解析をやろうと思いました。 

日本の発酵食品文化を担う麹菌、乳酸菌に焦点を当てて、ゲノム配列や遺伝子機能から、それらの菌が作る味噌や醤油、お酒などの味の違いを定量化することを試みています」

このデータベース化が実現することで、食材・食品を機能的価値や健康への効果といった科学的根拠で評価し、ブランディングすることが可能になるという。

麹菌は、室町時代の頃より日本全国に点在する種麹屋によって管理されてきた経緯がある。2006年、麹菌は「われわれの先達が長い間大切に育み、使ってきた貴重な財産」であるとして、日本醸造学会によって「国菌」に認定されている

麹菌は日本人の手により「家畜化」されたもの!?

「日本の発酵食品を研究すると考えると、まずは麹でした。お酒、醤油、味噌などに欠かせない日本の麹菌は、『国菌』に認定されています。 

ヨーグルトの菌は、商品パッケージに何々菌と書いてあって、それがブランドになります。〇〇菌がいるから自分の健康に良いというふうに、その菌の機能性を評価したりしますね。 

でも、味噌では何々菌と書かれているのを見たことがないと思うんです。お酒に黄麹、黒麹、白麹というように麹の種類が書かれているのはありますが、麹の名前が書いてあるものは多分ご存じないと思います。 

麹の名前によるブランドができたら、食品のブランディングがゲノムからできる。それがヨーグルトなどの乳酸菌では当たり前なんですけど、麹ではなされていないので、それをやりたいと思ったんです」

麹菌はカビの一種で、麹菌を米、麦、大豆などに生やして培養したものを「麹」と呼ぶ。現在、種麹屋は全国で10社ほどしかない。

今回の研究では、日本酒や醤油、味噌などに使われる麹菌A.oryzae(アスペルギルス・オリゼー=ニホンコウジカビ)の単離株82株を日本全国5社の種麹屋から収集して、全ゲノム解読を行っている。 

「麹菌というのは家畜なんです。小さいから家畜感がないですけど。きれいな形のゴールデンレトリバーの純血種を守るためにはブリーダーが必要ですよね。 

種麹屋さんは犬のブリーダーのような存在です。きれいな犬とか、大きくて役に立つ犬とか、純粋形態が変わらないように作って置いといてくれているんです。 

麹菌は長らく無性生殖のみを行うと考えられていたのですが、ゲノム解析の結果、A.oryzae(アスペルギルス・オリゼー)の先祖株では複数の有性生殖が起こっていたことが明らかになりました。 

一方で、人間により家畜化されてからは有性生殖は起きていません。これは種麹屋さんが麹菌の育種をする際、重要な遺伝子が変異しないように守り通してきた結果が反映されていると考えられます」

さらに、山田氏らの研究で、これまで有力とされていた説を覆す新たな事実が明らかになった。

「A.oryzae(アスペルギルス・オリゼー)の近縁種にすごく似ているA.flavus(アスペルギルス・フラブス)という種があるんですが、アフラトキシンという毒を作る遺伝子を持っています。 

このアスペルギルス・フラブスが日本人に飼いならされたことによって無毒化され、アスペルギルス・オリゼーが生まれたとする説がありました。拾ってきた狼が人間に飼われて犬になったというイメージですね。 

それが今回の研究によって、アフラトキシン合成遺伝子とアスペルギルス・オリゼーの全ゲノムの系統は無関係であることが明らかになりました。つまり、アスペルギルス・オリゼーは最初から犬だったということです」

近年、次世代シーケンサー(※)の登場により、微生物のゲノムや微生物群集を低コストで大量に解読できるようになったという。更に情報処理技術の進歩により、データを適切に処理し、微生物の新たな機能を発見できるようになっている。

これまでの説を覆す研究結果が出たのも、加速度的に進歩するゲノム解析と情報処理技術による成果なのだろう。 

漬物や酒、味噌など、植物を母体に発酵を行うものは植物性乳酸菌。実際に発酵しているぬか漬け、しば漬け、たくあん漬け、すぐき漬けなど日本各地の伝統的な発酵漬物には、過酷な塩の殺菌力から生き延びた、たくましい植物性乳酸菌が含まれている

土地の遺伝子を伝える乳酸菌で地域ブランディングを図る

「乳酸菌に関しては、日本全国から地域の食文化として伝わる漬物を集めて、漬物が発酵している過程で菌の群集構造がどう変わっていくかというのを見ています」

漬物の素になる野菜は、表面にいる菌と土の菌で覆われている。これを水で洗って塩に漬けると、塩に生きられる菌が増えてくる。大体の発酵食品は乳酸菌が増え、最初は1%にも満たなかった少しの乳酸菌が、最終的に全体の半分以上を占めるほどに増えて野菜全体を覆うような状態になっていくという。

「それはもともと土とか野菜の表面にいた菌なんですね。それこそが各地方特有の漬物の菌であると考えて、“地域性乳酸菌®”という名前で呼んでいます。その土地の歴史が残してきた菌に、どんな遺伝子が残っていて、どんな機能性があるのかを分析しています」

ゲノム解析による食や地域のブランディングは、漬物の味や効能を数値化することで定量化できれば、新しい発想での産業化にもつなげられるということ。実際に、研究の成果を基に食品メーカーとの共同商品開発にも取り組んでいる。

麹なら、種麹屋が目や鼻で読んでいたことを科学的に解析し、数値化することで、これまで守ってきたものを守り、さらに新しい可能性も見いだせる。 

研究結果が地域の食文化の活性化につながり、地域の産業につながり、我々の食に還元され、さらに腸内環境と疾病の研究の進展につながり、我々の健康に還元される、と期待したい。

※シーケンサー:DNAの塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列を読み取る装置。

 

山田拓司(やまだたくじ) 東京工業大学生命理工学院准教授。2006年・京都大学大学院理学研究科博士課程修了 博士(理学)。京都大学化学研究所助手、ドイツの欧州分子生物学研究所研究員、東京工業大学大学院生命理工学研究科講師を経て、2016年より現職。2014年よりヒト腸内細菌解析のための産学連携コンソーシアム「Japanese Consortium for Human Microbiome」を設立し、大学内の研究成果を産業応用につなげる活動を行っている。2015年、株式会社メタジェンを共同設立、同社取締役副社長CTOを兼任。2019年、株式会社digzyme 取締役に就任。専門は生命情報科学。2020年、令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)受賞。

  • 取材・文藤岡佳世

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