『白杖ガール』を機に思う「学ぶべきこと、考えるべきこと」 | FRIDAYデジタル

『白杖ガール』を機に思う「学ぶべきこと、考えるべきこと」

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全盲の世界を超ポジティブに生きる浅井純子さんに聞く 

杉咲花主演の『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』(日本テレビ系)が好調だ。

同作は純粋なヤンキーと、勝ち気だが恋には臆病な盲学校の女の子のラブストーリーだが、ドラマを観ていて、どんな声掛けや手伝いが役に立って、逆にどんな行動が迷惑になるのか、自分も含めて、まったくわかっていなかったと感じた人は多いだろう。そして、このドラマを機に、「もっと学びたい」と考えた人も多いのではないだろうか。

そんな学びを与えてくれるのが、全盲でおはぎ作りや社交ダンス、ヨガなど、様々な挑戦を楽しみつつ、目の不自由な視点からTwitterやYouTube等で様々な発信を行っている浅井純子さん(48歳)だ。

浅井さんは30歳のときに「特発性周辺部角膜潰瘍(モーレン潰瘍)」を発症して以降、徐々に見えにくくなり、全盲になってから、2018年に義眼になった。TwitterではiPhoneの読み上げ機能を使って読み、入力し、すべてのコメントをチェックして返信もしている。

SNSで、目の不自由な視点からの情報発信! 

そもそもTwitterなどでの発信を始めたのはなぜだったのか。

「私は義眼なんですが、『義眼が電車の中で落ちてさー』『えっ、落ちるの?』みたいな話を普通に喋っているんですね。 

そしたら、兵庫県教育大学准教授の小川修史さんと、福祉×オシャレを提案する『ボトモール』の平林景さんから、『みんなそういうことを知りたいと思っていると思うから、絶対に発信した方が良いよ』と言われて。 

実際に発信してみたら、『知らなかったことを教えてくれてありがとうございます』という声がたくさんあったんです。『みんなこんなこと知りたいの?』と驚きましたね」 

(写真:オオツキWAYタイジ)
(写真:オオツキWAYタイジ)

自殺を考えたことも…

明るくポジティブに様々なことに挑戦している浅井さんだが、発症から7年ほどは入退院を繰り返し、一時は自殺を考えたこともあると話す。

「自殺しようと思って、でも怖くて包丁では刺せなかったんですよ。それで、屋上から飛び降りようと思ったんですが、うろ覚えの壁を伝ってやっとエレベーターの場所までたどり着いて、上下のボタンはわかっても、屋上のボタンがどれかわからない。それで、なんだか馬鹿らしくなってしまって…。 

しかも、帰ろうと思うと、今度は帰ることに執着している自分に気づいたんです。今まで自殺しようと思っていた人間が、家に帰ろうと思ったら、家に帰る努力を必死でするんですよね。まだまだ努力することがたくさんあるんだと気づいたことが、考え方が変化したきっかけでした」 

浅井さんが最も絶望の底にあったのは、発症から3~4年後、「うっすら見えていたとき」のことだと言う。

「私は生まれつき見えないわけじゃなく、進行していく病気だったので、いつ見えなくなるかわからない不安をずっと抱えていました。だから、全盲になったら逆に、『これ以上悪化することはない』『これでやっと心配がなくなった』と思えたんです。 

ただ、全盲になってからも、私の場合は角膜の病気で、感染症や様々な合併症のリスクがあるため、目のケアは必要で、『見えていないのに、なんでこんなケアをしなきゃいけないんだ?』という思いはつきまといました。しかも、週2回、ガイドヘルパーさんに付いてもらって大学病院まで片道1時間半かけて行かなければならず、自分のやりたいことを十数年も我慢してきたのに、これはもう無理だと思ったんです」

そこで、浅井さんは、両目とも義眼にすることを決めた。医師には後悔しないかと何度も聞かれたそうだが、

「全く後悔していません(笑)。人によっては、自分の目じゃない違和感があることや、左右どちらかだけを義眼にする場合に左右差があることなどが気になるようで、義眼を隠す人もいっぱいいるんですね。でも、私自身は解放された思いが強いです」 

盲導犬・ビビッドとの出会い 

さらに、浅井さんの生活を大きく変えたのは、盲導犬・ビビッドと出会ったことだ。

「白杖を持っているときは、道に停めてある自転車とか看板とか、いろんなものにぶつかるんですよ。木の枝が伸びていても、ちょくちょく目に刺さるんですよね。だから、探り探り歩くので、どうしてもゆっくりになる。 

でも、盲導犬は障害物を回避する能力が高くて、放置自転車にぶつかることは一切なくなりました。盲導犬と歩くようになってからは、倍以上のスピードで歩けるようになりました」

ところで、浅井さんのTwitterを見ると、メイクもファッションもヘアスタイルも存分に楽しんでいることに驚かされる。

「健常者だったら、服もメイクも努力するのに、目が見えないだけでできないというのが私は嫌だから、できる方法を模索するんです。 

例えば、美容師さんなら、まず信頼できる人を選ぶこと。私の場合、20歳の頃からお世話になっている美容師さんに『短くしたい』などと伝え、あとは『社交ダンスの大会にこの衣装で出る』と画像を見せると、舞台なのか野外なのか、光に当たったときにきれいな髪型にしようなどと考えてくれるんです。一番力を入れてくれるポイントは、手間がかからない髪型ということで、あとは全面信用です(笑)。 

それに、お洋服はアパレルに勤めているので、周りの社員さんにお願いします(笑)。そのなかでも一番大切にしているのは、『今の流行りは~』ではなく、私に似合う服を持ってきてくれる人にお願いすることです」 

Twitterのコメントで多い、「手引き(案内)の仕方が知りたい」の声 

ところで、どんなときにどんな手伝いをすれば役に立つのか。浅井さんはゲストティーチャーで訪ねた小学校などで、子どもたちにこんな話をよくすると言う。

「『信号でおばちゃんどうやって渡っていると思う?』『全く青か赤か見えてないねんな。おばちゃんに青ですよって声かけれる?』と聞くと、『かけられへん』『恥ずい』と子どもたちは言うんです。 

それで、『友達同士でお話しながら、〇〇ちゃん、青やから渡ろっかって言える?』と聞くと『それは言える』と。それで、『信号はすごく危ない場所やから、白い杖や盲導犬を使っている人がいたら、今、青ですよと声をかけなくても、友達や周りの人に、青だから渡ろかと一言だけ言ってくれへん?』と言ったら『それはできる!』とみんな言うんですよ」

また、Twitterのコメントで多いのは「手引き(案内)の仕方が知りたい」というものだとか。

「案内するときにどうしたら良いかと聞かれ、『肩か手を持ってもらったらいいですよ』と最初は言ったんですが、私が持つのか、向こうが私を持つのかがわからないと言われるんです。それで、多くの方が酔っ払いの人に対してするみたいに介抱する態勢を一番安全だと思うようなんですが、足元は普通に歩けるので、その態勢をとられると、私が前になってしまって目が見えないので先に歩くことはできないんですよね(笑)。

そこから、不安を解消する方法を写真であげてみるなど、皆さんが何を知りたいか教えていただきながら、発信しているかたちです」

また、助けを必要としているかどうかは、どこで判断すれば良いだろうか。

「困っている人はたいてい見えていないのにキョロキョロしているんですよ。道の途中で『ここどこ?』みたいなフリをしたり、ボーっと考えて止まっていたり。 

私はそういうときに絶対に声をかけてほしいんですが、逆に声をかけてほしくないという方もいらっしゃるそうなんですね。でも、そういう人たちに、助けてあげたいと思う人が出会ったとき『わかっているから』などと冷たく言われてしまったら、『いらんことしてしまったな』と思われてしまう。そうすると、次に声をかけようと思っても躊躇してしまうと私は考えます。だから、視覚障がい者に限らず、いろんな障がいを持っている人は、助けてくれようとしている人たちの勇気もきちんと考えてほしいと私は思うんです」

また、声をかけるときには「すみません」ではなく、「白い杖を持っている人」「盲導犬を連れている人」などと、単刀直入に言うことで、相手は自分に言ってくれていると理解しやすいそう。

「あとは『何かお困りですか?』『何かお手伝いしましょうか』などと声をかけていただけるのが助かります。 

『〇〇駅まで行きたいんですが、方向がわからなくなりました』『階段(エレベーター)の場所がわかりません』などが意外と多いんです。 

それから、難しいのは、電車の乗り降り。地下鉄の場合はドアのところだけ点字ブロックの半分のものが二枚ついていますが、そうでないと、全盲の場合ドアがどこかもわからないんですよ。それに、一番危ないのは車両と車両の間の隙間。JRは特に高さもあって、隙間も広くて、私も一度、電車とホームの間に挟まったことがあるので、そういった場所ではサポートしていただけると助かると思います」

ちなみに、日本と海外の違いについて、浅井さんはこんな話をしてくれた。

「フィリピンの友人に、私がまだ白い杖を使っていたとき、電車の中で『みんなどうして浅井さんに席を譲らないの』と聞かれたんです。別に私は平気だと答えましたが、『でも、フィリピンでは障害を持っている人が乗ってきたら、みんなが席を立つ。もし立たなければ、周りの乗客が若い人にあなた立ちなさいと言う』と言うんです。 

それで、彼女にそういうことは学校で学んだのかと聞いたら、『学校でそんなことは習わない、モラルの問題』と。点字ブロックの上に立ったら、だめだよと誰かが注意する、そうしたやりとりを小さな頃から見ていて、自分が大人になったら、今度は教える立場になるそうです。学校で学ぶ以前の問題だったんですよ」

今は昔に比べ、目の不自由な人が使いやすい製品など、少しずつ増えているが、私たち一人一人が学ぶべきこと、社会の中で考えるべきことはたくさんある。そうした一助として、浅井さんの発信などをぜひ参考にしたい。

■「浅井純子(じゅんじゅん) 全盲の世界を超ポジティブに生きる人」(ツイッター)はコチラ

■「目の見えないじゅんじゅんと盲導犬ヴィヴィッドのポケットチャンネル」(YouTube)はコチラ

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

  • 写真オオツキWAYタイジ

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