朝ドラ『なつぞら』広瀬すずヒロインのヒント・奥山玲子さんの全て | FRIDAYデジタル

朝ドラ『なつぞら』広瀬すずヒロインのヒント・奥山玲子さんの全て

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アニメーション映画『わんわん忠臣蔵』の頃の奥山玲子さん。「週刊文春」(1963年7月22日号)〔「この場所に女ありて」子供の夢を描く― 東映動画スタジオのアニメーター 奥山玲子さん〕掲載用に撮影された写真から(写真提供 文藝春秋)。この記事はインタビュー3ページ、モノクログラビア4ページで構成されており、当時の注目の大きさがうかがえる
アニメーション映画『わんわん忠臣蔵』の頃の奥山玲子さん。「週刊文春」(1963年7月22日号)〔「この場所に女ありて」子供の夢を描く― 東映動画スタジオのアニメーター 奥山玲子さん〕掲載用に撮影された写真から(写真提供 文藝春秋)。この記事はインタビュー3ページ、モノクログラビア4ページで構成されており、当時の注目の大きさがうかがえる

本URLで掲載中の小田部羊一さんのインタビュー①「朝ドラ『なつぞら』広瀬すずヒロインのヒント・奥山玲子さんの全て」(▼このページ下部で無料公開中)を収録した単行本『漫画映画 漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』が刊行(19年9月4日)。同②「『なつぞら』アニメ時代考証・小田部羊一氏と東映動画のスゴい人々」、同③「『なつぞら』ヒント奥山玲子さん&時代考証・小田部夫妻創作の日々」に加えて、小田部さんのロングインタビュー第2弾や同時代にアニメーションを創った6人の演出家とアニメーターへのロングインタビューを収録しました。。「なつぞら」の原点、リアルな日本のアニメーションの草創期、そこからの発展を知る、盛りだくさんの単行本となっています。

『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』の書影(右は帯つき)。カバーイラストは小田部羊一氏描き下ろし。著:小田部羊一 聞き手:藤田健次
『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』の書影(右は帯つき)。カバーイラストは小田部羊一氏描き下ろし。著:小田部羊一 聞き手:藤田健次

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書籍『漫画映画 漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』とは?

『なつぞら』のリアル。ドラマを超えた劇的ストーリー登場!

朝ドラ『なつぞら』でヒロイン奥原なつ(広瀬すず)のヒントとなった故・奥山玲子氏。同作でアニメーション時代考証をつとめた小田部羊一氏。ふたりは「おしどりアニメーター」として活躍したご夫婦です。

アニメーションの草創期を開拓した奥山さんと小田部さんの長く幅広い活動にスポットライトをあてた「ドラマを超えた劇的ストーリー」が満載。ふたりは「東映動画」を皮切りに、様々なスタジオ、様々な名作に関わり、それぞれが銅版画家として、任天堂ゲームキャラクターのデザイナーとしても活躍しました。

本書は小田部さんに2回のロングインタビューを実施。さまざまなエピソードが明かされます。またご提供いただいた秘蔵写真・イラストを多数掲載しています。

さらに、ご夫婦の人柄や業績を知る演出家やアニメーターたちに「ふたりとの創作と日常の舞台裏」をインタビュー。名作・傑作の創造の秘密や、東映動画の職場結婚・出産、共稼ぎの先駆者となった夫妻の知られざるエピソードがあふれています。「アニメーションの舞台裏」にとどまらず、今も昔も変わらない「働いて、生きることのリアル」が明かされています。

書籍『漫画映画 漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』内容紹介

(構成やタイトルなどが変更になる場合があります)

〔1〕小田部羊一インタビュー

〔Part 1〕”アニメーター”奥山さんのこと…「動画」と「童画」を」勘違いしてアニメーションの世界へ/毎日違う服、挑む同僚たち/『太陽の王子ホルスの大冒険』中傷画と鬼山さん/奥山さんの聞くもの、創るもの【Part1を、このページの下部にて無料公開中】

〔Part 2〕”夢の工場”東映動画のこと…日本画からアニメーションの世界へ/東映動画での会社生活/東映動画という学校/

〔Part 3〕”パートナー”ふたりのこと…ペラっと/ダンスがきっかけ/いつも奥山さんが後押し

〔Part 4〕”夫婦回顧”さらに、ふたりのこと…長い道のりのスタート/産休明けの母乳/『ハイジ』キャラクター誕生秘話と25年目のスイス旅行/ぎっくり腰と『母をたずねて三千里』/”羊”と”玲”であんていろーぷ/日本文化と日本画を積極的に取り入れた『龍の子太郎』/強いけど、弱くてかわいい奥山さん/東京から京都へ。そして今にして思うこと。

〔2〕演出家たちの証言

・勝間田具治 『アンデルセン童話 にんぎょ姫』作画監督 奥山玲子との仕事…実写からアニメの世界へ/『アンデルセン童話 にんぎょ姫』、今明かされる実写パートの秘密/『にんぎょ姫』での作画監督の奥山さんとの共同作業/短い制作期間で見せた現場の意地/改めて思う、奥山さんとの仕事/勝間田さんから見た、小田部さんと奥山さん

・葛西治 『龍の子太郎』古巣に戻った夫婦を支えた東映動画スタッフ…『龍の子太郎』が動き出すとき/2人を迎え入れた「準備室」/はじめて語られる『龍の子太郎』メイキング/クリエイトコーナーと浦山監督/キャスティング秘話/葛西さんから見た、小田部さんと奥山さん

・池田宏 『空飛ぶゆうれい船』『どうぶつ宝島』からスーパーマリオの世界へ…はじめに/初めての出会いはアメノハヤコマ/お互い新人だった『空飛ぶゆうれい船』/アメリカ大使館で学んだ『ストーリーボード方式』/『どうぶつ宝島』から生まれた日本型アニメーションの「波」/池田さん、東映動画から任天堂へ/任天堂に小田部さんを呼んだワケ/奥山さんの本当にやりたかったこと/小田部さんの本当にやりたいこと

〔3〕アニメーターたちの証言

・山下(中谷)恭子 寄稿「懐かしい奥山玲子さん」

・ひこねのりお 「妖しい踊りと結婚の告白」…「おめでとう」が出会いの言葉/奥山さんからの突然の告白/『わんぱく王子の大蛇退治』、そして東映動画の思い出/ひこね夫妻から見た、小田部さんと奥山さん

・宮崎(大田)朱美 「奥山さんから続く女性アニメーターの路」…大田朱美さんから見た、出来たての東映動画と奥山さん/職場の思い出/びっくりした小田部さんの仕事ぶり/『太陽の王子ホルスの大冒険』と労働問題/奥山さんの道をかきわけながら進んだ、共働き生活/アニメーターを辞めて家庭に/宮崎さんから見た小田部さんと奥山さん/奥山さんから続くもの、そして得たもの

〔4〕フォト&イラストギャラリー等

 

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『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』のレビュー(一部)

【それこそ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・東映動画』と形容したくなるほど、50年代末から70年代末にかけての東映動画とその周辺の模様をわかりやすくも丁寧に捉えた好著であった。】「キネマ旬報」〔戯画日誌〕欄(9月5日掲載)映画評論家:増當竜也氏

【故・奥山玲子さんの夫、小田部羊一さんは一久さん顔負けの「育児する夫」だったのです。『漫画映画漂流記』では、昭和40年台の共働きの大変さがリアルに記されています。】「たまひよONLINE」(9月13日掲載)

【『漫画映画漂流記』には、奥山さんがいかにして道なき道をきたのかも綴られています。小田部さんや宮崎(朱美氏、宮﨑駿監督夫人)さんをはじめ、演出家やアニメーターたち、の証言も盛りだくさんの一冊。アニメーション勃興期に、アニメーションをどのように作って行ったのか、子どものいる共働きをどう乗り越えてきたのか。「漫画映画」と「共働き」について多くの資料とや証言で綴られている。】「FRaU」(デジタル版)(9月14日掲載)

【美人でファッショナブル。女性社員の先頭に立ち、子育てをしながら働く道を切り開いた。そんな愛妻との思い出をまとめた『漫画映画漂流記』が刊行された。】「朝日新聞」〔ひと〕欄(9月26日掲載)小原篤記者

【『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』関連記事】

〔第1弾(4/1)〕朝ドラ『なつぞら』広瀬すずヒロインのヒント・奥山玲子さんの全て
〔第2弾(4/22:公開終了)〕小田部羊一氏と東映動画の「スゴい人々」

〔第3弾(6/10:公開終了)〕奥山玲子さん&小田部羊一夫妻「創作の日々」

〔第4弾(8/17)〕本当の最終回へ『なつぞら』のリアルとその後を小田部羊一氏が語る
〔第5弾(8/31)〕『なつぞら』の原点・奥山さんの親友が語る共働き・子育ての実像
〔第6弾(9/4)〕『なつぞら』原点 奥山玲子・小田部羊一夫妻は漫画映画を開拓した
〔第7弾(9/28)〕最終回『なつぞら』ヒントとなったおしどりアニメーターの開拓史

【無料試し読み】単行本『漫画映画 漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』収録:小田部羊一インタビュー〔Part 1〕”アニメーター”奥山さんのこと

※単行本では構成が変わることがあります。新たに収録される画像と収録されない画像があります。

連続テレビ小説『なつぞら』(NHK 4月1日から放送)に「アニメーション時代考証」として参加する小田部羊一氏は、日本のアニメーションとゲームに、巨大な足跡を記すマイスターだ。故・高畑勲氏、宮崎駿氏と共に、『アルプスの少女ハイジ』『母を訪ねて三千里』を創り上げた(小田部氏はキャラクターデザインと作画監督を担当し作品の質を保ち続けた)。さらにゲームの世界に転じ、任天堂で「スーパーマリオブラザーズ」や「ポケットモンスター」のキャラクターデザイン監修、アニメーション監修を務めている。

朝ドラ『なつぞら』が描くのは日本のアニメーションの草創期。「北海道・十勝編」「東京・新宿編」「アニメーション編」で構成され、地方出身のヒロイン、奥原なつ(広瀬すず)がアニメーション業界に飛び込み、みずみずしい感性を発揮してゆく姿が描かれる。

そして、広瀬すずが演じるヒロイン「奥原なつ」のヒント、モチーフとなった人物が「奥山玲子」さん※1。奥山さんは小田部氏の夫人で、日本のアニメーションの草創期を支えた女性アニメーターである(惜しくも2007年5月に死去)。日本のアニメーション界とゲーム界、両方の礎を築いた巨匠、小田部羊一氏が奥山玲子さんについて語る貴重なインタビューをお届けします。

インタビューに答える小田部羊一氏  撮影:木川明彦
インタビューに答える小田部羊一氏  撮影:木川明彦

「動画」と「童画」をカン違いしてアニメの世界へ

――奥山玲子さんは、日本のアニメーションの歴史において、女性アニメーターの先駆者の一人でした。しかしご自身ではあまり多くを語られる人ではありませんでした。どういう方だったのでしょう?

子どもの頃は病弱だったらしいです。学校もよく休んだりして、文学全集とかを読んでいたらしいんですよ。その後、親が教員だった影響で東北大学の教育学部に行ってたんだけど2年で辞めて、家出同然で東京に出てきちゃうんです。
高校の卒業アルバムを見るとね、彼女の服が制服じゃないんですよ。ルパシカ(ロシアの民族衣装)的なものを着てる。
同窓生から当時「奥ちゃん」って呼ばれてたそうなんですけど、彼女が亡くなった後、「奥ちゃんは、制服だっていうのに制服を着てこなくて、自分で服を縫って着てきてた。色は真っ青だった」と教えてもらいました。

――その頃からすでに自己表現が。東映動画に入ってから目覚めたんじゃなくて、もともとそういう人だったんだということですね。

5人きょうだいがいて4人は女。その長女でした。
自分で創作劇の台本を書いて、きょうだい全員で芝居をやっていたみたい。

――『若草物語』みたいですね。

東映動画は、僕らが入社した当時は1年に長編を1作つくるだけだったんですよ、基本的には。
だから1作つくり終えると、アニメーターだけでね、気晴らしに動画祭りとかアニメ祭りとかいって、それぞれの班で出し物を考え、みんなの前で披露する遊びをしていたんですけど、そんなとき奥山は、何かっていうと脚本を作って、自分も演者になるんですよ。誰かが結婚して結婚祝いにみんなで芝居しよう、なんていうとき彼女はすぐ台本を作る。割とそういうのが好きでしたね。

――絵の勉強は我流でやられてたんですか?

我流です。でも東北大学の頃から油絵を描いてはいたみたいです。とにかく「仙台から出て東京で自立するんだ!」って。そんなとき、たまたま映画撮影所と関係のあった親戚から東映動画の募集を教えてもらって。それを本人は「動画」を「童画」と間違えたんですよ。絵本とかの仕事ができると思ったみたい。後で聞いたら、本当は東京でファッションとか語学とか、そういう関係に行きたかったようですが。
奥山は、敗戦で教科書に墨を塗らされて、価値観が全部ひっくり返った経験から「もう何も信じられない」となった人で、負けず嫌いで反骨精神のある自立した女性でした。例えば僕らの同期にはアニメーターや仕上げ(セル画の色を塗る職種)は女性が多かったのですが、当時、女性スタッフは「結婚して子供が出来たら退職します」っていう誓約書を書かされていたんです。奥山はそれに反発するんですよ。「そんなこと許されてたまるか!」って。
負けず嫌いだから、アニメーターとしても動画をたくさん描いたり。大塚康生さんは1日に20枚とか40枚とかどんどん描く人だったんです。
僕らは会社から1日15枚のノルマがあったけど、みんな5枚くらいしか描けなくて、それでもでさっさと帰っちゃう(笑)。
そんな時、奥山は負けず嫌いだから「大塚さんがその枚数なら、私も同じだけ描く!」と残業して、たくさん描くんですよ。臨時採用ということもあったから。ですから後に結婚してから奥山に「定期社員は甘ったれてたね」って言われました(笑)。

小田部羊一氏から貴重なエピソードが次々に飛び出す   撮影:木川明彦
小田部羊一氏から貴重なエピソードが次々に飛び出す   撮影:木川明彦

毎日違う服、挑む同僚たち

奥山は洋服をたくさん持ってるわけじゃないですけど、毎日、出勤するときの服装は何かしら違ったんですよ。自分のそのときの気持ちで服やアクセサリーを選んで組み合わせて着ていました。気持ちが落ちてたら逆に強い感じのものを選ぶとか。
おまけに、僕の着る服まで選んでくれるんです。僕自身は着たきり雀でもいいくらい、身なりには無頓着だから。
で、奥山のファッションを見た大塚さんが、いつ同じ服装になるかこっそり観察して絵を描き始めたんです(笑)。

――いたずら好きな大塚さんらしい茶目っ気ですね(笑)。

でも大塚さんが音を上げるほど、奥山は毎回何かしら替えてくるんですよ。アニメーションの制作用語で「同トレス」って言葉があるんです。動画は基本的に違う絵の連続ですけど、同じ絵のときは、なぞる(トレスする)だけ、それを「同トレス」というんですけど、大塚さんは(奥山さんの衣装の)同トレスがいつ来るかを待っていたんです(笑)。
でもそれがなくてね、とうとう音を上げて。そしたらまた別の人があとを継いでこっそり観察描きを続けてたんですよ。でも2代目の人もやはり音を上げて(笑)。奥山はそのことに全く気づいてなかったようで、何だかいつも変な目つきで見てるな~って(笑)。

――服などはよく買いに行かれたんですか?

アクセサリーとか小物はよく集めていたけど、着るものは自分でシャシャーッとハサミで布を切って、洋裁でパパパッと作っちゃってましたね。

『太陽の王子ホルスの大冒険』中傷画と鬼山さん

――奥山さんは、キャラクターデザインや原画でもアイディア豊富な人だったんですか?

キャラクターのアイディアとか積極的に提案する人でしたね。『太陽の王子ホルスの大冒険』のときなんか、
宮さん(宮﨑駿)の次くらいにアイディアを出す人でしたね。
『太陽の王子ホルスの大冒険』の頃、スタッフの間で「中傷画」というのが流行ったんです。
ただの似顔絵じゃなくて、その人を面白おかしくネタにして、中傷するような絵を描く遊びで、僕なんかはそのままのデッサンで描いたりしてたけど、宮さんとか大塚さんとかは、人のちょっとした事件をオーバーに面白おかしく描いていくんですよ。
奥山も、いろんな人物を記憶だけで描くんですけど、それがなんとも特徴を掴んでいて似てるんですよ。

――奥山さんが標的にしてた人はいたんですか?

むしろ奥山が宮さんや大塚さんの標的になっていた。奥山の気の強い感じばっかり描くとかね(笑)。

――大塚さんは先輩ですけど、宮﨑さんは奥山さんからは先輩にあたりますよね。やっぱり呼び方は「奥山〝さん”」だったんですか?

そう、他の人には映画畑の真似をして、すぐにあだ名をつけるんですが。
大塚さんなんかは「大塚さん」でしたね。奥山は「奥山さん」、陰では「鬼山さん」(笑)、中傷画でも「鬼山」とか書かれていて(笑)。ちなみに僕はコタベちゃん、コタベ氏、コタベさん。

奥山さんの聞くもの、創るもの

奥山玲子さん。仕事場に設置してある銅版画用のプレス機と共に。1990年前後に撮影
奥山玲子さん。仕事場に設置してある銅版画用のプレス機と共に。1990年前後に撮影

――その人が聴く音楽のジャンルって、パーソナルな部分を端的に示すと思うのですが、奥山さんはどういうものを聴いておられたんでしょう?

モダンジャズです。セロニアス・モンクとかを聴いてましたね。クラシックでよく聴いてたのはガブリエル・フォーレのレクイエム。僕はモーツァルトのレクイエムが好きで奥山に薦めたんだけど、奥山はフォーレのレクイエムの方がいいと言ってよく聴いてました。

――ロックはお聴きにならなかったんですか? 体制に反逆的な(笑)奥山さんのイメージ的にはローリング・ストーンズとか……。

もちろん好きでしたよ(笑)。あとジャニス・ジョプリンとかも。
文章を書くのも好きでね。専門学校(東京デザイナー学院アニメーション科)で教えていたとき、生徒に対して何か気づいたらすぐに手紙を書いて。だから教え子たちにも慕われていましたね。
学生のアニメーションの映画祭(ICAF)でも必ず全部観て、何か思ったことがあったら手紙を書いてその人に渡してました。『なつぞら』の人物像の参考になるかなと思って、残っていたメモをNHKのスタッフに貸す前に見直したんですが、良いところ悪いところとか、一人一人の評価が丁寧に書いてありましたね。後で考えると、教育学部に行っていたということもあって、そういう才能があったんだろうなって思いますね。

――晩年は銅版画をやっておられました。きっかけはなんだったのですか?

奥山は、自分が何を描くにしてもアニメーション風になってしまうのが嫌いで。銅版画だと、彫ったり刷ったりして面白いものになるんですよね。これまで手癖で描いていた線が、さまざまな条件で出方が変わるのが新鮮だったみたいで。それでアニメーション的なものから抜け出したいこともあって、どんどん銅版画が好きになって、横浜の版画教室に通ったりしていました。
そんなときに岡本忠成さんから『注文の多い料理店』で銅版画調でアニメーションをやってくれと頼まれて、そういうのを手がけたりしていましたね。

奥山玲子さん作の銅版画「小さな愉しみ」
奥山玲子さん作の銅版画「小さな愉しみ」

――『なつぞら』がアニメーション業界の黎明期を描くドラマだと聞いたとき、どう思われましたか?

NHKの人から「『白蛇伝』をやっていた頃の東映動画や女性アニメーターの世界を描きたいから、参考になることを教えてくれ」って言われたので、当時を知る人たちを紹介して、いろんな人に取材をしてもらいました。

日本初のカラーアニメーション映画「白蛇伝」  DVD発売中 2,800円+税 発売元:東映ビデオ (C)東映
日本初のカラーアニメーション映画「白蛇伝」  DVD発売中 2,800円+税 発売元:東映ビデオ (C)東映

そしたら(当時の東映動画で)演出家だった人たちとかが、ドラマの脚本を読んで「これは奥山さんとは違う!」とか指摘してくれるんです(笑)。でも僕自身は奥山をその通り描いたら、ちょっと気張った感じばっかり出るんじゃないかと思っていたんですよ。制作現場も今はすっかり変わってますから、当時を忠実に再現するのは無理だと思ってますし。
奥山は仙台出身で、ヒロインは北海道育ち。だから奥山の伝記じゃなくて、奥山を通じて、当時のアニメーション業界の世界を描くということでいいんじゃないかと。その頃の東映動画にはディズニーを追い越せという気概があって、みんな大変だったけど楽しんでいたあの熱気とか、奥山や女性スタッフたちの仕事ぶりとか、そういう雰囲気が出ればいいなって。
だけど、広瀬すずさんを見たときに「あ~もう、これだけでいいや。もう違ったとしても全然いいや」って。
(一同爆笑)
僕、『海街diary』(2015年・是枝裕和監督)を観ていて、広瀬すずさんが好きだったんですよ(笑)。

――単なる広瀬すずファンの発言じゃないですか。

(笑)建物も、NHKはセットで作ってましたね。動画机なども東映アニメーション(旧:東映動画)からちゃんと借りたりして。だから、「らしい」感じは出ていましたね。「日本のアニメーションの黎明期は、こんな感じのところで作っていたんだ」と思ってもらえれば。

奥山玲子:プロフィール(1935~2007):宮城県仙台市生まれ。宮城学院高等学校卒業。東北大学教育学部中退。1958年東映動画(現・東映アニメーション)入社。『白蛇伝』(動画)、『わんぱく王子の大蛇退治』(原画)、『太陽の王子ホルスの大冒険』(原画)、『アンデルセン童話 にんぎょ姫』(作画監督)、『龍の子太郎』(作画監督補)、『注文の多い料理店』(原画)、『冬の日』(絵コンテ・原画)。1985年より東京デザイナー学院アニメーション科講師。1988年より銅版画制作。

※本項では「アニメ」と略さずに「アニメーション」と記載している。これは小田部羊一氏のこだわりに倣ったものである。

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小田部羊一(こたべ よういち)プロフィール

1936年台湾台北市生まれ。1959年、東京藝術大学美術学部日本画科卒業後、東映動画株式会社(現:東映アニメーション)へ入社。『わんぱく王子の大蛇退治』(1963)『太陽の王子ホルスの大冒険』(1968)『長靴をはいた猫』(1969)『どうぶつ宝島』(1971)などの劇場長編映画で活躍。『空飛ぶゆうれい船』(1969)で初の劇場作品作画監督。東映動画退社後、高畑勲、宮崎駿と共にメインスタッフとして『パンダコパンダ』(1972)『アルプスの少女ハイジ』(1974)『母をたずねて三千里』(1976)のキャラクターデザイン・作画監督を担当。
その他劇場作品の『龍の子太郎』(1979)、『じゃりン子チエ 劇場版』(1981)でキャラクターデザイン・作画監督。
1985年、開発アドバイザーとして任天堂(株)に入社。「スーパーマリオブラザーズ」「ポケットモンスター」シリーズなどのキャラクターデザインおよびアニメーション映像の監修。2007年任天堂退社後フリー。2015年度第19回文化庁メディア 芸術祭で功労賞を受賞。

小田部羊一氏  撮影:水野昭子
小田部羊一氏  撮影:水野昭子

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取材・構成・文:藤田健次 E-SAKUGA公式サイト

企画協力:木川明彦

  • 取材・構成・文藤田健次

    (ふじたけんじ)(株)ワンビリング代表取締役。電子書籍アニメ原画集・資料集E-SAKUGAシリーズを企画・制作。アニメ・アーカイブのデジタルでの利活用を提案・プロデュースしている。東映アニメーション60周年記念ドキュメント「僕とアニメと大泉スタジオ」、アニメビジネス情報番組「ジャパコンTV」(BSフジ)共に企画・監修。

  • 企画協力木川明彦

    (きかわあきひこ)(株)ジェネット代表取締役。アニメ、特撮、SF、ゲーム関連の雑誌・書籍の企画編集に関わる。特に設定考察、図解にこだわる 自称「図解博士」。近著に小説『高速バスター ミナル』(スペースシャワーネットワーク)がある。

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