最終回「なつぞら」ヒントとなったおしどりアニメーターの開拓史 | FRIDAYデジタル

最終回「なつぞら」ヒントとなったおしどりアニメーターの開拓史

奥山玲子・小田部羊一夫妻 50年前に漫画映画と共働き・子育てを開拓したふたり その生き様に静かな共感が!

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朝ドラ『なつぞら』が最終回を迎えた(9月28日)。『なつぞら』が描き、そして最終回から先へと続く時代の実像はどうだったのだろう?

1ヵ月前の8月27日、NHKに近い高級ホテルでは、ドラマの打ち上げ「撮影終了を祝う会」が開催された。そこでは主演の広瀬すずをはじめとする出演者や関係者たちの挨拶があった。

同ドラマで「アニメーション時代考証」を務めた小田部羊一氏はマイクを握ると……。

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結婚で奥山玲子さんと小田部羊一さんの”おしどりアニメーター”生活が始まった(1963年)。写真提供:小田部羊一氏『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』より
結婚で奥山玲子さんと小田部羊一さんの”おしどりアニメーター”生活が始まった(1963年)。写真提供:小田部羊一氏『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』より

(ヒロインのヒントとなった小田部さんの妻)奥山(玲子)はドラマに出ているのに、僕はどこにも出ていないし、なつ(広瀬すず)さんとも結婚できなかった(笑)と、ジョークを言った。

脚本の大森寿美男氏は、「小田部さんの要素は、ヒロインの中に入っているんですよ」とフォローしたという。

実は『なつぞら』の放送に先駆けた2月に、「FRIDAYデジタル」は小田部氏のインタビューを行った。その際、小田部氏からは、ヒロインのモチーフとなった妻・奥山玲子さんの様々なエピソード、”おしどりアニメーター”として知られた奥山・小田部コンビの仕事ぶりや共働きの実像を伺った。またNHKからオファーが来た経緯や「アニメーション時代考証」としての仕事ぶり、さらに最終回へ向けた物語の大きな流れも取材した。

そこで、”同じこと”が気になっていた記者は尋ねた。

「ところで……、小田部さんをヒントにした人物は『なつぞら』に登場するんですか?」

「どうやら私の要素はヒロインの中に溶け込んでいるようですよ」と小田部氏は穏やかに微笑みながら答えたのだった。

そんなワケだから、「撮影終了を祝う会」での小田部氏と脚本・大森氏のやり取りは、ドラマの収録が始まる前からお互いに分かりあっていたことをユーモラスに語ったものだった。

インタビューに答える小田部羊一氏(撮影:村田克己)
インタビューに答える小田部羊一氏(撮影:村田克己)

ドラマで、奥山さんをヒントとし、小田部氏までもモチーフとして取り込んだヒロイン・奥原すずは、これまた名匠・高畑勲監督にヒントを得ている坂場一久(中川大志)と結婚した。念のために書くと、実世界では奥山さんと小田部氏が結婚し、高畑監督は別の東映動画の女性社員と結婚している。ちなみに下山克己(≒天才アニメーター:大塚康生氏)下山茜(≒アニメーター:大田朱美氏)とが結婚するが、大田朱美氏が結婚した相手は、あの巨匠・宮﨑駿氏だ。

奥山玲子さんは劇中『大草原の少女ソラ』のモチーフになったと思われる『アルプスの少女ハイジ』には参加していない。この時期、奥山さんは『アンデルセン童話  にんぎょ姫』(75年)で劇場用アニメーションでは初の女性作画監督を務めていて、夫の小田部氏こそが『ハイジ』のキャラクターデザイン、作画監督として活躍したのだった。

小田部氏は2月のインタビューで次のようにも語っていた。

(NHKの人から)『白蛇伝』をやっていた頃の東映動画や女性アニメーターの世界を描きたいから、参考になることを教えてほしい、って言われたので、当時を知る人たちを紹介して、いろんな人に取材をしてもらいました。

そしたら、ドラマの脚本を読んだ(当時の東映動画で)演出家だった人たちとかが、「これは奥山さんとは違う!」とか指摘してくれるんです(笑)。でも僕自身は奥山をその通り描いたら、ちょっと気張った感じばっかり出るんじゃないかと思っていたんですよ。制作現場も今はすっかり変わってますから、当時を忠実に再現するのは無理だと思ってますし。

奥山は仙台出身(戦災孤児ではない)で、ヒロインは北海道育ち。だから奥山の伝記じゃなくて、奥山を通じて、当時のアニメーション業界の世界を描くということでいいんじゃないかと。その頃の東映動画にはディズニーを追い越せという気概があって、みんな大変だったけど楽しんでいたあの熱気とか、奥山や女性スタッフたちの仕事ぶりとか、そういう雰囲気が出ればいいなって」

小田部氏は最終回まで残すところ1週間となった9月21日に、『奥山玲子銅版画集』の刊行を記念して開催された「銅版画展」のトークイベント(於:書店「一日」吉祥寺)に参加した。ここでも本稿のようなエピソードを明かしつつ、NHKが全国放送で多くの視聴者に向けて、漫画映画=アニメーション制作の流れや舞台裏を半年間にわたって放送したことに改めて感謝をしていた。

『なつぞら』では劇中アニメとして、『白蛇伝説』(モチーフは『白蛇伝』1958年公開)から『草原の少女ソラ』(モチーフは『大草原の小さな家』及び『アルプスの少女ハイジ』(74年~75年放送)まで様々な作品が登場してドラマを彩った。アニメーションの草創期から、さらに飛躍しようとする時期まで約20年を描き、アニメーションの知識的にはライトな視聴者たちに届け続けた。これは大きな功績だ。

もちろん視聴者の中には、肯定ばかりでない感想や指摘があったのは事実だ。ただ、ヒロインのヒントとなった女性を妻に持ち、自らアニメーションの創作の最前線に立って、共働き・子育ての困難さを体験してきた小田部羊一氏ご本人は、ドラマとしての『なつぞら』に納得・満足していますよ、ということはハッキリと伝えておきたい。

さて『なつぞら』最終回ではヒロイン奥原なつが夫の坂場一久らと共に、これからも漫画映画~アニメーションを開拓して行くことが語られた。もちろん実世界の奥山玲子さんや小田部羊一さんたちも開拓を続けた。ここからは『なつぞら』の原点となった、おしどりアニメーターの華々しい足跡・業績のごく一部を紹介しよう。

奥山玲子さんの活動(の一部)

1935年、宮城県仙台市生まれ。宮城学院高等学校卒業。東北大学教育学部中退。1957年東映動画(現・東映アニメーション)入社。『白蛇伝』(58年:動画)、『わんぱく王子の大蛇退治』(63年:原画)、『太陽の王子ホルスの大冒険』(68年:原画)、『マジンガーZ対デビルマン』(73年:原画)、『マジンガーZ対暗黒大将軍』(74年:原画)、『アンデルセン童話 にんぎょ姫』(75年:作画監督)などで活躍した。

『なつぞら』がモチーフにしたのは、おおよそこの時期までだが、その後も、『母をたずねて三千里』(76年:作画監督補)、『龍の子太郎』(79年:小田部氏と共同でキャラクターデザイン、作画監督)、『火垂るの墓』(88年:原画)、『注文の多い料理店』(93年:原画)、『冬の日』(2003年:絵コンテ・原画)など数多くのアニメーションで活躍した。1985年から東京デザイナー学院アニメーション科講師を務め、1988年より銅版画の制作を開始している。そして2007年、惜しくも没する。

小田部羊一氏の活動(の一部)

1936年、台湾台北市生まれ。1959年、東京藝術大学美術学部日本画科卒業後、東映動画株式会社(現:東映アニメーション)へ入社。『わんぱく王子の大蛇退治』(63年)、『太陽の王子ホルスの大冒険』(68年)、『長靴をはいた猫』(69年)、『どうぶつ宝島』(71年)などの劇場長編映画で活躍。『空飛ぶゆうれい船』(69年)で初の劇場作品作画監督。東映動画退社後、高畑勲、宮崎駿と共にメインスタッフとして『パンダコパンダ』(72年)、『アルプスの少女ハイジ』(74年)で活躍した。

その後も、『母をたずねて三千里』(76年)のキャラクターデザイン・作画監督を担当。その他、劇場作品の『龍の子太郎』(79年)、『じゃりン子チエ 劇場版』(81年)でキャラクターデザイン・作画監督として活躍。
1985年、開発アドバイザーとして任天堂(株)に入社。ゲームの世界で、「スーパーマリオブラザーズ」シリーズのキャラクターデザイン監修、「ポケットモンスター」シリーズのアニメーションの監修などを行う。2007年に任天堂退社後、フリー。2015年度第19回文化庁メディア 芸術祭で功労賞を受賞している。

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「あの作品も、この作品も、奥山さんや小田部さんが描いていたのか!」「奥山さんは銅版画の世界、小田部さんはゲームの世界でも活躍を続けたのか!!」 ある読者は驚き、ある読者は懐かしく思い出すだろう。

おふたりの、もの創りとくらしぶりを本稿で語り尽くすことはできないが、先に刊行された書籍『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』(9月4日刊)では、その詳細が明かされている。

「FRIDAYデジタル」は他メディアに先駆けて19年2月に小田部羊一氏にロングインタビューを実施した。4月1日の第1弾を皮切りに第3弾まで公開した記事は、そのインタビューの一部である。記事の大反響を受けて刊行したのが、書籍『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』である。本書は2月のインタビューを再構成し、8月に実施した2回目のロングインタビューも盛り込み、さらに奥山・小田部夫妻と同時代を開拓したアニメ―ション演出家3人、アニメーター3人のインタビュー&寄稿を加えて構成した240ページのボリュームとなっている。

『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』の書影(右は帯つき)。カバーイラストは小田部羊一氏描き下ろし。著:小田部羊一 聞き手:藤田健次
『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』の書影(右は帯つき)。カバーイラストは小田部羊一氏描き下ろし。著:小田部羊一 聞き手:藤田健次

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その内容を目次から紐解くと……、

小田部羊一氏が語ったこと 『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』より

〔Part 1〕”アニメーター”奥山さんのこと…「動画」と「童画」を」勘違いしてアニメーションの世界へ/毎日違う服、挑む同僚たち/『太陽の王子ホルスの大冒険』中傷画と鬼山さん/奥山さんの聞くもの、創るもの

〔Part 2〕”夢の工場”東映動画のこと…日本画からアニメーションの世界へ/東映動画での会社生活/東映動画という学校/

〔Part 3〕”パートナー”ふたりのこと…ペラっと/ダンスがきっかけ/いつも奥山さんが後押し

〔Part 4〕”夫婦回顧”さらに、ふたりのこと…長い道のりのスタート/産休明けの母乳/『ハイジ』キャラクター誕生秘話と25年目のスイス旅行/ぎっくり腰と『母をたずねて三千里』/”羊”と”玲”であんていろーぷ/日本文化と日本画を積極的に取り入れた『龍の子太郎』/強いけど、弱くてかわいい奥山さん/東京から京都へ。そして今にして思うこと。

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などとなっている。さらに同書には奥山・小田部夫妻と同時代に漫画映画を開拓した3人のアニメーター、3人の演出家のインタビューが、様々な角度から作品創りの舞台裏や“おしどりアニメーター”の人物像を明かしている。

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奥山・小田部さんと共に漫画映画を開拓した演出家たちの証言

・勝間田具治 『アンデルセン童話 にんぎょ姫』作画監督 奥山玲子との仕事…実写からアニメの世界へ/『アンデルセン童話 にんぎょ姫』、今明かされる実写パートの秘密/『にんぎょ姫』での作画監督の奥山さんとの共同作業/短い制作期間で見せた現場の意地/改めて思う、奥山さんとの仕事/勝間田さんから見た、小田部さんと奥山さん

・葛西治 『龍の子太郎』古巣に戻った夫婦を支えた東映動画スタッフ…『龍の子太郎』が動き出すとき/2人を迎え入れた「準備室」/はじめて語られる『龍の子太郎』メイキング/クリエイトコーナーと浦山監督/キャスティング秘話/葛西さんから見た、小田部さんと奥山さん

・池田宏 『空飛ぶゆうれい船』『どうぶつ宝島』からスーパーマリオの世界へ…はじめに/初めての出会いはアメノハヤコマ/お互い新人だった『空飛ぶゆうれい船』/アメリカ大使館で学んだ『ストーリーボード方式』/『どうぶつ宝島』から生まれた日本型アニメーションの「波」/池田さん、東映動画から任天堂へ/任天堂に小田部さんを呼んだワケ/奥山さんの本当にやりたかったこと/小田部さんの本当にやりたいこと

奥山・小田部さんと共に漫画映画を開拓したアニメーターたちの証言

・山下(中谷)恭子 寄稿「懐かしい奥山玲子さん」

・ひこねのりお 「妖しい踊りと結婚の告白」…「おめでとう」が出会いの言葉/奥山さんからの突然の告白/『わんぱく王子の大蛇退治』、そして東映動画の思い出/ひこね夫妻から見た、小田部さんと奥山さん

・宮崎(大田)朱美 「奥山さんから続く女性アニメーターの路」…大田朱美さんから見た、出来たての東映動画と奥山さん/職場の思い出/びっくりした小田部さんの仕事ぶり/『太陽の王子ホルスの大冒険』と労働問題/奥山さんの道をかきわけながら進んだ、共働き生活/アニメーターを辞めて家庭に/宮崎さんから見た小田部さんと奥山さん/奥山さんから続くもの、そして得たもの

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すでに様々なメディアが本書に注目している。その一部を紹介しよう。

【それこそ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・東映動画』と形容したくなるほど、50年代末から70年代末にかけての東映動画とその周辺の模様をわかりやすくも丁寧に捉えた好著であった。】「キネマ旬報」〔戯画日誌〕欄(9月5日掲載)映画評論家:増當竜也氏

【故・奥山玲子さんの夫、小田部羊一さんは一久さん顔負けの「育児する夫」だったのです。『漫画映画漂流記』では、昭和40年台の共働きの大変さがリアルに記されています。】「たまひよONLINE」(9月13日掲載)

【『漫画映画漂流記』には、奥山さんがいかにして道なき道をきたのかも綴られています。小田部さんや宮崎(朱美氏、宮﨑駿監督夫人)さんをはじめ、演出家やアニメーターたち、の証言も盛りだくさんの一冊。アニメーション勃興期に、アニメーションをどのように作って行ったのか、子どものいる共働きをどう乗り越えてきたのか。「漫画映画」と「共働き」について多くの資料とや証言で綴られている。】「FRaU」(デジタル版)(9月14日掲載)

【美人でファッショナブル。女性社員の先頭に立ち、子育てをしながら働く道を切り開いた。そんな愛妻との思い出をまとめた『漫画映画漂流記』が刊行された。】「朝日新聞」〔ひと〕欄(9月26日掲載)小原篤記者

『なつぞら』ロスになりそうな視聴者はもちろん、今ひとつドラマに満足しきれなかった層も、『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』を読めば十二分に満足できそうだ。

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【『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』関連記事】

〔第1弾(4/1)〕朝ドラ『なつぞら』広瀬すずヒロインのヒント・奥山玲子さんの全て
〔第2弾(4/22:公開終了)〕小田部羊一氏と東映動画の「スゴい人々」

〔第3弾(6/10:公開終了)〕奥山玲子さん&小田部羊一夫妻「創作の日々」

〔第4弾(8/17)〕本当の最終回へ『なつぞら』のリアルとその後を小田部羊一氏が語る
〔第5弾(8/31)〕『なつぞら』の原点・奥山さんの親友が語る共働き・子育ての実像
〔第6弾(9/4)〕『なつぞら』原点 奥山玲子・小田部羊一夫妻は漫画映画を開拓した
〔第7弾(9/28)〕最終回『なつぞら』ヒントとなったおしどりアニメーターの開拓史

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