『なつぞら』原点 奥山玲子・小田部羊一夫妻は漫画映画を開拓した

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「おしどりアニメーター」となった1963年の写真。奥山玲子さん(左)は朝ドラ『なつぞら』ヒロイン奥原なつ(広瀬すず)のヒント、モチーフとなったアニメーター。右は小田部羊一さん 書籍『漫画映画漂流記』収載。 写真提供:小田部羊一氏

「奥山にこの本を見せたら、何と言われるでしょう。

僕の視点から、勝手にいろんなことを喋って、書いて。

ひょっとすると “なんであなたが、こんなことまで言うの” と叱られるかもしれない。

けれどまあ、僕をおいて逝っちゃったんだから、そこは勘弁してもらおうと思います」

 

――こう静かに語るのは、アニメーターの小田部羊一氏だ。

『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』の書影(右は帯つき)。カバーイラストは小田部羊一氏描き下ろし。著:小田部羊一 聞き手:藤田健次

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朝ドラ『なつぞら』のヒロイン・奥原なつ(広瀬すず)のヒント、モチーフとなったアニメーター奥山玲子さんは、小田部氏の夫人であり、惜しくも2007年に亡くなっている――。

妻・奥山さんは1935年、宮城県仙台市生まれ。5人きょうだいで4人が女の子。その長女だった。一方、朝ドラ『なつぞら』のヒロイン・奥原なつは東京出身の戦災孤児で、北海道・十勝で育つ。が、もちろんこれはドラマオリジナルの設定・キャラクターである。

あくまでヒロインのヒントである奥山さんは、東北大学教育学部を中退後、「動画」と「童画」をカン違いして57年に東映動画に入社。アニメーションの世界に入った。

夫・小田部氏は1936年、台湾台北市生まれ。終戦後、台湾から引き揚上げ船で帰国する。東京藝術大学美術学部日本画科卒業後、59年に東映動画入社した。小田部さんから見て奥山さんは年上・先輩社員というわけだ。

小田部さんが言う「この本」とは、『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』(9月4日刊)のこと。これは小田部羊一さんへの2度にわたるロングインタビューを柱に、”おしどりアニメーター”として業界に知られた奥山玲子さんと小田部羊一氏の、長く幅広い活動にスポットライトを当てた書籍だ。

また、奥山・小田部夫妻と同時代にアニメーションを開拓した、3人の演出家と3人のアニメーターによるインタビューと原稿が、おしどりアニメーターの仕事と暮らしを立体的に語っており、アニメーション草創期の実像が様々な視点とエピソードで解き明かされている。

本書で小田部氏はこんなエピソードを明かしている――。

「奥山は洋服をたくさん持ってるわけじゃないですけど、毎日、出勤するときの服装は何かしら違ったんですよ。自分のそのときの気持ちで服やアクセサリーを選んで組み合わせて着ていました。気持ちが落ちてたら逆に強い感じのものを選ぶとか。

で、奥山のファッションを見た(アニメーターの)大塚康生さんが、いつ同じ服装になるかこっそり観察して絵を描き始めたんです(笑)。でも大塚さんが音を上げるほど、奥山は毎回何かしら替えてくるんですよ。

アニメーションの制作用語で「同トレス」って言葉があるんです。動画は基本的に違う絵の連続ですけど、同じ絵のときは、なぞる(トレスする)だけ、それを「同トレス」というんですけど、大塚さんは(奥山さんの衣装の)同トレスがいつ来るかを待っていたんです(笑)。でもそれがなくてね、とうとう音を上げて。

そしたらまた別の人があとを継いでこっそり観察描きを続けてたんですよ。でも2代目の人もやはり音を上げて(笑)。奥山はそのことに全く気づいてなかったようで、何だかいつも変な目つきで見てるな~って」(笑)。

このエピソードが、別の解釈で『なつぞら』にも登場したのはご存知の通りだ。

東映動画入社から時は流れて1963年。奥山さん・小田部氏のふたりは社内の誰にも気づかれずに愛を育み、電撃的に結婚することを明らかにする。それは、今でいうところの「できちゃった婚」だった。さっそく職場の仲間たちは「結婚実行委員会」を結成し、アットホームながらも盛大な結婚パーティーが企画・運営された。ほどなく奥山さんは東映動画で初となる産休を取得し、無事、男の子を出産する。

産休明けの出社エピソードは、〔『なつぞら』の原点・奥山さんの親友が語る共働き・子育ての実像〕として一部掲載している(8月31日)。奥山さんの親友で同じくアニメーターだった、山下恭子(旧姓・中山)さんの寄稿を再録しよう。

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女性社員は入社のとき「結婚して子どもが出来たら退職します」との誓約書を書かされました。組合も再建されていたので、「女性が子どもを産むのは当たり前」と、実力行使にでました。

その第一号がオクヤマさん(原文ママ)でした。前後のことは忘れましたが、オクヤマさんが産休明けに、赤ちゃんを連れて会社の門前にきた時、「子どもを連れて入ったら処分する」と門の内側には会社の役員が何人も立っていました。

私たちは、門の前に立ち尽くすオクヤマさんを取り囲んで、「わぁ可愛い赤ちゃんね」と抱き取り、オクヤマさんに一人で中に入って貰いました。

それから私たちが赤ちゃんを抱いて門の中に入りましたが、「オクヤマさんが子ども連れで」入ったわけではなく処分は見送られました。

このときのオクヤマさんの頑張りが、後から私たちの権利を守ってくれました。夜間保育などなかった時代、残業の時は動画机の脚元には子どもたちの声が賑やかでした。

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朝ドラ『なつぞら』では小田部氏自身も「アニメーション時代考証」を務めている。

そのドラマもいよいよ9月28日に最終回を迎える。『なつぞら』が日本のアニメーションの草創期のどこまで描くのか、本稿では明かさない。ただ、残り少ない話数のなかで、「ある区切り」をつけるであろうことは誰にでも想像できる。

『なつぞら』の原点となった奥山・小田部夫妻と、共に漫画映画を創った仲間たちが開拓していった日本のアニメーションの歴史。それは『なつぞら』が最終回までに描く時代を越えて、その後もまだまだ続いて行く。

たとえば、小田部羊一氏は『アルプスの少女ハイジ』『母をたずねて三千里』『じゃりン子チエ(劇場版)』などで作画監督・キャラクターデザインを務める。さらに1985年には任天堂に入社して、開発アドバイザーとして「スーパーマリオブラザーズ」「ポケットモンスター」シリーズなどのキャラクターデザイン、およびアニメーション映像の監修を行う。さらに――、という具合だ。

小田部氏が冒頭で、

僕の視点から、勝手にいろんなことを喋って、書いて。

ひょっとすると “なんであなたが、こんなことまで言うの” と叱られるかもしれない。

と語るほど、『漫画映画漂流記』には、漫画映画、アニメーション、という創作物に関わった、夫妻と仲間たちによる「仕事と暮らしの実像」が臨場感たっぷりに描かれているのだ。

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小田部羊一 ロングインタビュー(詳細)

〔Part 1〕”アニメーター”奥山さんのこと…「動画」と「童画」を」勘違いしてアニメーションの世界へ/毎日違う服、挑む同僚たち/『太陽の王子ホルスの大冒険』中傷画と鬼山さん/奥山さんの聞くもの、創るもの

 

〔Part 2〕”夢の工場”東映動画のこと…日本画からアニメーションの世界へ/東映動画での会社生活/東映動画という学校/

 

〔Part 3〕”パートナー”ふたりのこと…ペラっと/ダンスがきっかけ/いつも奥山さんが後押し

 

〔Part 4〕”夫婦回顧”さらに、ふたりのこと…長い道のりのスタート/産休明けの母乳/『ハイジ』キャラクター誕生秘話と25年目のスイス旅行/ぎっくり腰と『母をたずねて三千里』/”羊”と”玲”であんていろーぷ/日本文化と日本画を積極的に取り入れた『龍の子太郎』/強いけど、弱くてかわいい奥山さん/東京から京都へ。そして今にして思うこと。

 

演出家たちの証言(詳細)

・勝間田具治 『アンデルセン童話 にんぎょ姫』作画監督 奥山玲子との仕事…実写からアニメの世界へ/『アンデルセン童話 にんぎょ姫』、今明かされる実写パートの秘密/『にんぎょ姫』での作画監督の奥山さんとの共同作業/短い制作期間で見せた現場の意地/改めて思う、奥山さんとの仕事/勝間田さんから見た、小田部さんと奥山さん

 

・葛西治 『龍の子太郎』古巣に戻った夫婦を支えた東映動画スタッフ…『龍の子太郎』が動き出すとき/2人を迎え入れた「準備室」/はじめて語られる『龍の子太郎』メイキング/クリエイトコーナーと浦山監督/キャスティング秘話/葛西さんから見た、小田部さんと奥山さん

 

・池田宏 『空飛ぶゆうれい船』『どうぶつ宝島』からスーパーマリオの世界へ…はじめに/初めての出会いはアメノハヤコマ/お互い新人だった『空飛ぶゆうれい船』/アメリカ大使館で学んだ『ストーリーボード方式』/『どうぶつ宝島』から生まれた日本型アニメーションの「波」/池田さん、東映動画から任天堂へ/任天堂に小田部さんを呼んだワケ/奥山さんの本当にやりたかったこと/小田部さんの本当にやりたいこと

 

アニメーターたちの証言(詳細)

・山下(中谷)恭子 寄稿「懐かしい奥山玲子さん」

 

・ひこねのりお 「妖しい踊りと結婚の告白」…「おめでとう」が出会いの言葉/奥山さんからの突然の告白/『わんぱく王子の大蛇退治』、そして東映動画の思い出/ひこね夫妻から見た、小田部さんと奥山さん

 

・宮崎(大田)朱美 「奥山さんから続く女性アニメーターの路」…大田朱美さんから見た、出来たての東映動画と奥山さん/職場の思い出/びっくりした小田部さんの仕事ぶり/『太陽の王子ホルスの大冒険』と労働問題/奥山さんの道をかきわけながら進んだ、共働き生活/アニメーターを辞めて家庭に/宮崎さんから見た小田部さんと奥山さん/奥山さんから続くもの、そして得たもの

『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』の書影(右は帯つき)。カバーイラストは小田部羊一氏描き下ろし。著:小田部羊一 聞き手:藤田健次

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