『なつぞら』の原点・奥山さんの親友が語る共働き・子育ての実像

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『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』の書影(右は帯つき)。カバーイラストは小田部羊一氏描き下ろし。著:小田部羊一 聞き手:藤田健次

♪芸術美術とわめいても 絵描きにゃまともな職もなく

 親父やダチト(友達)に意見され

 受けた所が東動(東映動画)よ

♪書類選考 面接も 身体検査も無事済んで

 待ちに待ちたる速達が 地獄極楽分かれ道

♪大根畑のその中に 聳え立ちますビルディング

 これからおいらもこの中で 電灯相手に暮らすのか

♪クビだクビだと脅かされ 残業徹夜の翌朝は

 なぜにこんなに青いのか 電灯ばかりのせいじゃない

奥山玲子さん。朝ドラ『なつぞら』ヒロイン奥原なつ(広瀬すず)のヒント、モチーフとなったアニメーター。『わんわん忠臣蔵』の制作のためメインスタッフ一行と上野動物園にスケッチに行った際のスナップ(63年3月18日)より 写真提供:小田部羊一氏

――何ともシビアな歌詞に驚く。これが、東映動画(現・東映アニメーション)が日本で最初のカラー長編アニメーション映画『白蛇伝』(1958年公開)を作っていた当時のアニメーターたちの愛唱歌だ、と聞くとさらにビックリする。

「『ネリカン(練馬鑑別所)ブルース』という歌の替え歌で、歌詞は”詠み人知らず”で、どんどん増えていった」

と、当時の貴重なエピソードを明かすのは、山下恭子(旧姓・中山)さん。山下さんは、元・東映動画のアニメーターで、朝ドラ『なつぞら』のヒロイン・奥原なつ(広瀬すず)のヒント、原点となったアニメーター奥山玲子さんの親友だ。

山下さんは、新聞の求人欄でアニメーターの募集を見て、それまで働いていた人形劇団を辞めて東映動画に飛び込んだ。そこで先輩アニメーターとして出会ったのが奥山さんだった。

当時の職場は、朝ドラ『なつぞら』でも描かれるように「夢の工場」という美点も確かにあった。しかし同時に、様々な「格差」も生じていた。男女、学歴、本社・現場採用、定期・臨時採用、正社員・契約社員(非正規)などなどだ。

山下さんと奥山さんは、現場の臨時採用/社員/女性という身分で、山下さんが高卒、奥山さんが大学中退、という違いしかなかった。ふたりは友情を深め、山下さんが東映動画を退職した後も、それは続いた。

山下さんの寄稿「懐かしい奥山玲子さん」には、給料日やボーナス日の悲喜こもごも、労働組合のこと、社員と契約者との壁と交流、奥山さんのファッションセンス、さらに深夜帰宅の際に奥山さんといっしょにパトカーで送ってもらったことなど、親友ならではの様々なエピソードが盛り込まれ、書籍『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』(9月4日刊行)の巻頭に7ページにわたって掲載されている。

『漫画映画漂流記』は、『なつぞら』ヒロインのヒントとなった故・奥山玲子さんと、同ドラマでアニメーション時代考証をつとめ、アニメーション『アルプスの少女ハイジ』『母をたずねて三千里』や、ゲーム『スーパーマリオ』のキャラクターデザインなどで有名な小田部羊一さんという、「おしどりアニメーター」の長く幅広い活動にスポットライトをあてた本だ。

小田部さんのロングインタビューが大きな柱となっているが、同時に、ご夫婦を知るアニメーターや演出家たち6人が、奥山・小田部夫妻が参加した名作の制作秘話や、職場結婚や共働き、子育ての苦労といった誰もが共感する日常のエピソードを寄稿し、語っている。山下さんも、こうして本書に参加したひとりだ。

最後にもう一度、山下さんの文章を紹介しよう。

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女性社員は入社のとき「結婚して子どもが出来たら退職します」との誓約書を書かされました。組合も再建されていたので、「女性が子どもを産むのは当たり前」と、実力行使にでました。

その第一号がオクヤマさん(原文ママ)でした。前後のことは忘れましたが、オクヤマさんが産休明けに、赤ちゃんを連れて会社の門前にきた時、「子どもを連れて入ったら処分する」と門の内側には会社の役員が何人も立っていました。

私たちは、門の前に立ち尽くすオクヤマさんを取り囲んで、「わぁ可愛い赤ちゃんね」と抱き取り、オクヤマさんに一人で中に入って貰いました。

それから私たちが赤ちゃんを抱いて門の中に入りましたが、「オクヤマさんが子ども連れで」入ったわけではなく処分は見送られました。

このときのオクヤマさんの頑張りが、後から私たちの権利を守ってくれました。夜間保育などなかった時代、残業の時は動画机の脚元には子どもたちの声が賑やかでした。

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本書には、アニメーション草創期を開拓した女性たちの実像が描かれている。

いよいよクライマックスを迎える『なつぞら』の視聴者にとっても、大いに気になる一冊と言えるだろう。

『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』の書影(右は帯つき)。カバーイラストは小田部羊一氏描き下ろし。著:小田部羊一 聞き手:藤田健次

◆山下恭子(1936~。旧姓:中山)。東映動画に入社。『白蛇伝』(58年)『安寿と厨子王丸』(61年)『わんぱく王子の大蛇退治』(63年)などに参加。『太陽の王子 ホルスの大冒険』(68年)ではヒロイン・ヒルダの登場カットを主に担当した。

⇒「本当の最終回へ「なつぞら」のリアルとその後を小田部羊一氏が語る」 を読む

⇒「朝ドラ『なつぞら』広瀬すずヒロインのヒント・奥山玲子さんの全て」 を読む

⇒刊行決定!『漫画映画 漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』 を予約・購入する

『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』の内容

 

小田部羊一インタビュー(詳細)

 

〔Part 1〕”アニメーター”奥山さんのこと…「動画」と「童画」を」勘違いしてアニメーションの世界へ/毎日違う服、挑む同僚たち/『太陽の王子ホルスの大冒険』中傷画と鬼山さん/奥山さんの聞くもの、創るもの

〔Part 2〕”夢の工場”東映動画のこと…日本画からアニメーションの世界へ/東映動画での会社生活/東映動画という学校/

〔Part 3〕”パートナー”ふたりのこと…ペラっと/ダンスがきっかけ/いつも奥山さんが後押し

〔Part 4〕”夫婦回顧”さらに、ふたりのこと…長い道のりのスタート/産休明けの母乳/『ハイジ』キャラクター誕生秘話と25年目のスイス旅行/ぎっくり腰と『母をたずねて三千里』/”羊”と”玲”であんていろーぷ/日本文化と日本画を積極的に取り入れた『龍の子太郎』/強いけど、弱くてかわいい奥山さん/東京から京都へ。そして今にして思うこと。

 

演出家たちの証言(詳細)

 

・勝間田具治 『アンデルセン童話 にんぎょ姫』作画監督 奥山玲子との仕事…実写からアニメの世界へ/『アンデルセン童話 にんぎょ姫』、今明かされる実写パートの秘密/『にんぎょ姫』での作画監督の奥山さんとの共同作業/短い制作期間で見せた現場の意地/改めて思う、奥山さんとの仕事/勝間田さんから見た、小田部さんと奥山さん

・葛西治 『龍の子太郎』古巣に戻った夫婦を支えた東映動画スタッフ…『龍の子太郎』が動き出すとき/2人を迎え入れた「準備室」/はじめて語られる『龍の子太郎』メイキング/クリエイトコーナーと浦山監督/キャスティング秘話/葛西さんから見た、小田部さんと奥山さん

・池田宏 『空飛ぶゆうれい船』『どうぶつ宝島』からスーパーマリオの世界へ…はじめに/初めての出会いはアメノハヤコマ/お互い新人だった『空飛ぶゆうれい船』/アメリカ大使館で学んだ『ストーリーボード方式』/『どうぶつ宝島』から生まれた日本型アニメーションの「波」/池田さん、東映動画から任天堂へ/任天堂に小田部さんを呼んだワケ/奥山さんの本当にやりたかったこと/小田部さんの本当にやりたいこと

 

アニメーターたちの証言(詳細)

 

・山下(中谷)恭子 寄稿「懐かしい奥山玲子さん」

・ひこねのりお 「妖しい踊りと結婚の告白」…「おめでとう」が出会いの言葉/奥山さんからの突然の告白/『わんぱく王子の大蛇退治』、そして東映動画の思い出/ひこね夫妻から見た、小田部さんと奥山さん

・宮崎(大田)朱美 「奥山さんから続く女性アニメーターの路」…大田朱美さんから見た、出来たての東映動画と奥山さん/職場の思い出/びっくりした小田部さんの仕事ぶり/『太陽の王子ホルスの大冒険』と労働問題/奥山さんの道をかきわけながら進んだ、共働き生活/アニメーターを辞めて家庭に/宮崎さんから見た小田部さんと奥山さん/奥山さんから続くもの、そして得たもの

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