小田部羊一・伝説のアニメーターが「日本アカデミー賞」受賞へ!

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2020年3月に「日本アカデミー賞 協会特別賞」を贈賞されるアニメーターの小田部羊一氏  撮影:水野昭子

日本で初めて「キャラクターデザイン」の職名を得たアニメーター小田部羊一氏「日本アカデミー賞 協会特別賞」が授与されることが分かった。「第43回日本アカデミー賞特別賞」の受賞者が同賞公式サイトで公表され、「協会特別賞」の一人として小田部氏の名が挙がったのだ。

小田部氏といえば、19年4月~9月まで放送された朝の連続テレビ小説『なつぞら』「アニメーション時代考証」を務めた。そして氏の夫人である故・奥山玲子氏は、同ドラマのヒロイン奥原なつ(広瀬すず)のモチーフ、ヒントになった女性アニメーターの草分けである。

日本アカデミー賞協会は次のように受賞理由を述べている。

協会特別賞 〔映画製作の現場を支える種々の職能に従事する人たちの栄誉を讃えるもの〕

小田部羊一 (こたべ よういち)【アニメーター】

59年東映動画に入社。「太陽の王子 ホルスの大冒険」(68)、の原画を担当。「パンダコパンダ」(72)、「じゃリン子チエ」(81)など宮崎駿、高畑勲の作品で作画監督や登場キャラクターのデザインを務めた。高畑勲の発案で“キャラクターデザイン”と初めてクレジットされる。以来今日まで、生み出した数々のキャラクターは多くの人から愛され続けている。19年NHK連続テレビ小説『なつぞら』では時代考証として参加。アニメの黎明期を支え、今なお後進のために活動している。

日本アカデミー賞 特別賞 一覧 はコチラ

もう少し詳しい小田部氏のプロフィール(下記)をご覧いただこう。例えば、アニメーションの「ハイジ」、ゲームキャラの「スーパーマリオ」。氏が日本を代表する2つの業界で破格の業績をあげてきたリビング・レジェンドだと分かる。

小田部羊一(こたべ よういち)プロフィール

1936年台湾台北市生まれ。1959年、東京藝術大学美術学部日本画科卒業後、東映動画株式会社(現:東映アニメーション)へ入社。『わんぱく王子の大蛇退治』(1963)『太陽の王子ホルスの大冒険』(1968)『長靴をはいた猫』(1969)『どうぶつ宝島』(1971)などの劇場長編映画で活躍。『空飛ぶゆうれい船』(1969)で初の劇場作品作画監督。東映動画退社後、高畑勲、宮崎駿と共にメインスタッフとして『パンダコパンダ』(1972)『アルプスの少女ハイジ』(1974)『母をたずねて三千里』(1976)のキャラクターデザイン・作画監督を担当。
その他劇場作品の『龍の子太郎』(1979)、『じゃりン子チエ 劇場版』(1981)でキャラクターデザイン・作画監督。
1985年、開発アドバイザーとして任天堂(株)に入社。「スーパーマリオブラザーズ」のキャラクターデザイン、「ポケットモンスター」シリーズのアニメーション映像の監修などを手掛ける。2007年任天堂退社後フリー。2015年度第19回文化庁メディア 芸術祭で功労賞を受賞。

2020年1月15日に記者会見が行われ、3月6日の授賞式(グランドプリンスホテル新高輪)で伝説のアニメーターへの「日本アカデミー賞 協会特別賞」の贈賞が行われるという。

小田部氏は奥山氏と共に“おしどりアニメーター”としても知られている。その軌跡は、『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』(著・小田部羊一/聞き手・藤田健次)にも詳しい。小田部氏が、東映動画(現・東映アニメーション)を皮切りに、様々な事情で制作スタジオを移籍しながら、アニメーション史に残る名作を創造していった舞台裏を明かしている。

同書には、妻・奥山玲子さんの働きぶりと子育てぶりも赤裸々に描かれ、『なつぞら』のヒロイン・なつと重なる部分、重ならない部分も含めて強烈な印象を残す。

株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵・取締役社長は『漫画映画漂流記』を読み、

「子供を持つ女性が社会に出て働くことがまだ困難だった時代に、奥山玲子さんが道を切り開き、夫婦で仕事と家庭の両立を実現された姿に大変感銘を受けました。お二人が手がけた作品を、再度観てみたくなりました」

と述べている。

小田部氏の受賞の背景には、奥山氏が自らアニメーターとして第一線で活躍しつつ、常に小田部氏の決断を後押ししてきた良きパートナーとしての貢献も見逃せない。小田部氏自身が「ホント不思議なことに、僕の経歴は、自分が積極的に選んだものはひとつもないんですよね。」と同書で語っている。

日本のアニメーションの黎明期から小田部氏や奥山氏と共に活躍してきた人々がいる。演出家の勝間田具治氏、葛西治氏、池田宏氏、アニメーターの山下(中谷)恭子氏、ひこねのりお氏、宮崎(大田)朱美氏らもそうだ。本書には彼らの貴重な証言も収められている。中でも、宮﨑駿監督の夫人となったアニメーターの宮崎(大田)朱美氏がインタビューに応じるのは極めて珍しく、「スクープ」的な価値があるとされている。日本アカデミー賞の受賞理由のひとつである「アニメの黎明期」の実像を知るための最適の書といえるだろう。

また、小田部氏の業績を大量のビジュアルで伝える画集も折良く登場した。アニメーターとしての画業をまとめた『新版 小田部羊一アニメーション画集』(12月22日刊)である。先に刊行された『奥山玲子アニメーション画集』(10月21日刊)と共に、どちらも320ページの大ボリュームで、原画、動画、イメージイラスト、キャラクター設定、セル画などがオールカラーで収載されている。

『新版 小田部羊一アニメーション画集』(左:12月22日刊行)と『奥山玲子アニメーション画集』(右:10月21日刊)。おしどりアニメーターの画集がそろい踏み 共にアニドウ・フィルム刊

画集に登場する作品は、日本のアニメーションの歴史そのものだ。

『少年忍者 風のフジ丸』(1964年)のキャラクター設計図、『魔法使いサリー』(1966年)のアニメーション原画、『ひみつのアッコちゃん』(1969年)のアニメーション原画、『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)のキャラクター・スケッチや原画、『長ぐつをはいた猫』(1969年)の原画、『空飛ぶゆうれい船』(1969年)のキャラクター・アイディア・スケッチや設計図と、ここまでで320ページのうちの、まだ77ページである。

「どうぶつ宝島」(1971年 監督:池田宏)の準備で「波の習作」 『新版 小田部羊一 アニメーション画集』より

『どうぶつ宝島』(1971年)は38ページにわたって資料が収められている。アイディア・スケッチ、ストーリーボード。そして後に、日本のアニメーションにおいて波を作画する際のスタンダードとなる「波の習作」やセルも載っている。

さらに、この作品を作るために東映動画を辞めて、新たな制作会社に移籍までしたのに幻の作品となってしまった『長くつ下のピッピ』(1972年)のキャラクター・スケッチ。その無念をぶつけて快作となった『パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻』(1973年)のラフ原画などへと続いて行く。

「アルプスの少女ハイジ」(1974年 演出:高畑勲)のロケハン、現地でのスケッチ 『新版 小田部羊一 アニメーション画集』より

当然、誰もが知る『アルプスの少女ハイジ』(1974年)も登場する。ハイジの珍しいおさげ髪のアイディア・スケッチや、日本のアニメーションで初めて実施されたロケハンで描かれたスケッチまであって、一人のキャラクター、一つの作品が完成形にたどり着くまでの、試行錯誤とアイデアの蓄積に感嘆する。

さらに『母をたずねて三千里』(1976年)、『龍の子太郎』(1979年)、『じゃりン子チエ』(1981年)……。他にも本稿では紹介しきれないほどの作品の資料・史料が掲載されている。

原画やアイディア・イラストなどは、描かれた紙の質感はもちろん、しわ、ソリなどをあえて克明に活かして印刷されている。史料をめくり続けていると、かつて自分が親しく接してきたアニメーション作品の背景に隠れていた膨大な創造のエネルギーに圧倒されて、感動と感謝が溢れてくる。

ちなみに画集の終盤には、任天堂時代での業績である「スーパーマリオブラザーズ」や「ポケットモンスター」などまで登場する。

朝ドラ『なつぞら』の功績として、「アニメーション作りのアウトラインを広くあまねく伝えた」ことが挙げられる。そして、アニメーションの真髄をもっと知りたいと思ったら、本稿で紹介した書籍と画集がガッツリと、応えてくれるはずだ。

とにもかくにも小田部羊一氏の「日本アカデミー賞 協会特別賞」を祝しつつ、あの素晴らしきキャラクターと作品を私たちに届けてくれたことに、改めて感謝したい。

 

関連書籍 『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』 主な内容(完全版)

『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』の書影(右は帯つき)。カバーイラストは小田部羊一氏描き下ろし。著:小田部羊一 聞き手:藤田健次

⇒たちまち重版!『漫画映画 漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』 の購入はコチラ

〔Part 1〕”アニメーター”奥山さんのこと…「動画」と「童画」を」勘違いしてアニメーションの世界へ/毎日違う服、挑む同僚たち/『太陽の王子ホルスの大冒険』中傷画と鬼山さん/奥山さんの聞くもの、創るもの

〔Part 2〕”夢の工場”東映動画のこと…日本画からアニメーションの世界へ/東映動画での会社生活/東映動画という学校/

〔Part 3〕”パートナー”ふたりのこと…ペラっと/ダンスがきっかけ/いつも奥山さんが後押し

〔Part 4〕”夫婦回顧”さらに、ふたりのこと…長い道のりのスタート/産休明けの母乳/『ハイジ』キャラクター誕生秘話と25年目のスイス旅行/ぎっくり腰と『母をたずねて三千里』/”羊”と”玲”であんていろーぷ/日本文化と日本画を積極的に取り入れた『龍の子太郎』/強いけど、弱くてかわいい奥山さん/東京から京都へ。そして今にして思うこと。

誰もが知っている作品の裏に刻まれた、おしどりアニメーターの創造と生活の舞台裏、興味は尽きない。

同、演出家たちの証言

・勝間田具治 『アンデルセン童話 にんぎょ姫』作画監督 奥山玲子との仕事…実写からアニメの世界へ/『アンデルセン童話 にんぎょ姫』、今明かされる実写パートの秘密/『にんぎょ姫』での作画監督の奥山さんとの共同作業/短い制作期間で見せた現場の意地/改めて思う、奥山さんとの仕事/勝間田さんから見た、小田部さんと奥山さん

・葛西治 『龍の子太郎』古巣に戻った夫婦を支えた東映動画スタッフ…『龍の子太郎』が動き出すとき/2人を迎え入れた「準備室」/はじめて語られる『龍の子太郎』メイキング/クリエイトコーナーと浦山監督/キャスティング秘話/葛西さんから見た、小田部さんと奥山さん

・池田宏 『空飛ぶゆうれい船』『どうぶつ宝島』からスーパーマリオの世界へ…はじめに/初めての出会いはアメノハヤコマ/お互い新人だった『空飛ぶゆうれい船』/アメリカ大使館で学んだ『ストーリーボード方式』/『どうぶつ宝島』から生まれた日本型アニメーションの「波」/池田さん、東映動画から任天堂へ/任天堂に小田部さんを呼んだワケ/奥山さんの本当にやりたかったこと/小田部さんの本当にやりたいこと

同、アニメーターたちの証言

・山下(中谷)恭子 寄稿「懐かしい奥山玲子さん」

・ひこねのりお 「妖しい踊りと結婚の告白」…「おめでとう」が出会いの言葉/奥山さんからの突然の告白/『わんぱく王子の大蛇退治』、そして東映動画の思い出/ひこね夫妻から見た、小田部さんと奥山さん

・宮崎(大田)朱美 「奥山さんから続く女性アニメーターの路」…大田朱美さんから見た、出来たての東映動画と奥山さん/職場の思い出/びっくりした小田部さんの仕事ぶり/『太陽の王子ホルスの大冒険』と労働問題/奥山さんの道をかきわけながら進んだ、共働き生活/アニメーターを辞めて家庭に/宮崎さんから見た小田部さんと奥山さん/奥山さんから続くもの、そして得たもの

奥山玲子氏 プロフィール

1935年、宮城県仙台市生まれ。宮城学院高等学校卒業。東北大学教育学部中退。1957年東映動画(現・東映アニメーション)入社。『白蛇伝』(58年:動画)、『わんぱく王子の大蛇退治』(63年:原画)、『太陽の王子ホルスの大冒険』(68年:原画)、『マジンガーZ対デビルマン』(73年:原画)、『マジンガーZ対暗黒大将軍』(74年:原画)、『アンデルセン童話 にんぎょ姫』(75年:作画監督)など、さまざまな作品で活躍した。※朝ドラ『なつぞら』がモチーフにしたのは、おおよそこの時期まで。

その後も、『母をたずねて三千里』(76年:作画監督補)、『龍の子太郎』(79年:小田部氏と共同でキャラクターデザイン、作画監督)、『火垂るの墓』(88年:原画)、『注文の多い料理店』(93年:原画)、『冬の日』(2003年:絵コンテ・原画)など数多くのテレビアニメ、劇場アニメなどに携わった。

1985年から東京デザイナー学院アニメーション科講師を務め、1988年より銅版画の制作も開始した(『奥山玲子銅版画集』が2019年に刊行)。そして2007年。奥山さんは惜しくも71歳の若さで亡くなっている。

【『漫画映画漂流記 おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』関連記事】

〔第1弾(4/1)〕朝ドラ『なつぞら』広瀬すずヒロインのヒント・奥山玲子さんの全て
〔第2弾(4/22:公開終了)〕小田部羊一氏と東映動画の「スゴい人々」

〔第3弾(6/10:公開終了)〕奥山玲子さん&小田部羊一夫妻「創作の日々」

〔第4弾(8/17)〕本当の最終回へ『なつぞら』のリアルとその後を小田部羊一氏が語る
〔第5弾(8/31)〕『なつぞら』の原点・奥山さんの親友が語る共働き・子育ての実像
〔第6弾(9/4)〕『なつぞら』原点 奥山玲子・小田部羊一夫妻は漫画映画を開拓した
〔第7弾(9/28)〕最終回『なつぞら』ヒントとなったおしどりアニメーターの開拓史

  • 羽鳥透

    1965年、東京出身。エディター&ライター

Photo Gallary5

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