紅白ベスト&ワースト歌手は誰?~視聴データが暴く歌の実力~

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ビデオリサーチ(VR)の世帯視聴率が、2部で“史上最低”の37.3%となった『第70回NHK紅白歌合戦』

「ヤマ場が少ない」「サプライズ感に乏しい」「まとまりと決定力に欠けた」などの批判が出たが、何が原因かは、個々の歌手のコーナーで視聴者がどの程度逃げたか(ザッピングなどで見るのをやめたか)を調べると、原因の一端が浮かび上がる。

全国150万台ほどのインターネット接続テレビの視聴ログを集めるインテージ「Media Gauge」。これで15秒ごとの流出率を分析すると、今回歌われた53曲の間、誰のときに視聴者が見るのをやめたのか、どの曲の時に人々は画面にくぎ付けになったのかがわかる。

紅白のベスト&ワースト歌手を割り出してみた。

『日向坂46』、『Foorin』、『GENERATIONS』、『Official髭男dism』ら紅白初出演メンバーたち

全53曲 長さに大差があった

今回の紅白で歌われたのは53曲。実はそれぞれの曲の長さには大きな差があった。1分台とごく短いものから、5分~6分を超える特別待遇のものまでに渡った。尺の長短は、NHK演出陣の歌手に対する待遇の差でもあるのだろう。

4分半から5分未満は以下の5曲。

が歌ったNHK2020ソング「カイト」

松任谷由実「ノーサイド」

竹内まりや「いのちの歌」

紅組のトリとなったMISIA「アイノカタチメドレー」

白組のトリ嵐「紅白 スペシャルメドレー」

嵐はこのところの白組司会の常連で、2曲が4分半以上と最優遇だ。MISIAも紅組のトリなだけに、しっかり聞かせる演出だった。

松任谷由実は、ラグビーW杯で日本が活躍した年にちなみ、演出も日本代表がからむ仕立てだった。そして竹内まりやは、17年の安室奈美恵、18年の米津玄師に代わる位置づけで、ことさら別スタジオで凝ったセットで参戦した。

5分あまりはYOSHIKI feat.KISS 〈YOSHIKISS〉「Rock And Roll All Nite」

わざわざアメリカから来てもらっていることもあるし、YOSHIKIはこのところ毎年特別な演出で出演してもらっている。

そして最長は6分あまりのRADWIMPS「天気の子 紅白スペシャル」。19年の大ヒット映画だったために、気を使った結果だろう。

NHKの配慮と視聴者の反応の落差

ただしNHKの配慮と、視聴者の受け止めは全く別ものだ。

15秒あたりの流出率は、歌の部分全体平均が0.85%だった。つまり100人に1人弱が15秒ごとに逃げ出している計算だ。

これを基準にみると、曲が最長だったRADWIMPSの流出率は1.16%。

曲が6分を超えたため、曲冒頭での視聴者の4分の1以上が逃げ出した計算になる。実際には、流出と同様に流入があるので、接触率は下がってはいない。

ただし前回歌った16年の「前前前世 original ver.」のようなインパクトがあれば、RADWIMPSパートで視聴率はもっと上がったはずだ。

YOSHIKI feat.KISSも、尺が長い割に結果は1.17%と平均より悪かった。

英語の曲で、KISSのファンでない限り、あまり馴染みがなかったのだろう。こちらも曲冒頭から4分の1ほどの視聴者が逃げ出した格好だ。

長尺の曲の中で、貫禄をみせたのはトリの2曲。MISIAは0.68%と平均を0.2%ほど良かった。嵐のメドレーは、0.55%とさらに上を行った。

NHKの狙い通りに行かない大物歌手もいれば、トリの2人のように狙い通りのパターンもある。生ものゆえに、難しい番組であることがわかる。

令和最初の紅白歌合戦ベスト3

さて人気も実力もトップクラスの嵐を上回った曲が、今回の紅白では3曲あった。

ベスト3位は、中村倫也と木下晴香が歌った「ホール・ニュー・ワールド」0.53%と嵐をわずかに上回った。ディズニー映画3曲の3番目と、ポジションも良かったのかも知れない。視聴率押し上げに貢献した曲となった。

ベスト2位は、初登場のOfficial髭男dism。18年にメジャーデビューしたばかりのニューフェイスが、流出率0.52%と嵐を上回る快挙だ。持ち時間が2分台と長くなかった点も幸いしたかも知れない。しかし歌後半でも、流出率は0.5%台前半で推移しており、もう少し歌っても大丈夫だっただろう。やはりNHKの見立てと視聴者の反応は、違っていたいと言えよう。

そしてベスト1位は、Foorin(フーリン)。流出率0.37%は断トツのトップだ。紅白最初の1曲で、「さあ見よう」と視聴者も興味津々だったのが幸いしたのかも知れない。小中学生のユニットで、「パブリカ」は今最も注目されている米津玄師の作詞・作曲・プロデュース。ミュージックビデオの再生回数が1億回を超え、子供から大人まで幅広い年代にわたる社会現象と言っても過言でない曲だ。

この1曲で接触率を6%ほど上げており、まさに紅白最初の曲に相応しい曲だった。

紅白:流出率ワースト曲は演歌

では、逆に視聴者が敬遠した曲をみてみよう。

流出率が1.5%を超えたのは5曲。うち3曲は演歌が占めた。これら3曲はパターンが似ている。そもそもMCで紹介した時点で、どっと流出が始まっている

さらに歌い始めの1分で勝負が終わっている。坂本冬美は最初の1分で、冒頭の視聴者の7%ほどを失った。山内惠介は10%強。丘みどりに至っては12%強に及んでいる。

坂本冬美「祝い酒 ~祝!令和バージョン~」では、キンプリの3人が太鼓をたたいた。山内惠介「唇スカーレット」では、激しいダンスや本格的なバイオリンがバックで盛り上げた。そして丘みどり「紙の鶴」では、曲の長さは2分ほどと短く、さらにKis-My-Ft2の踊りと折り紙の鳥が飛ぶという工夫が凝らされていた。

それでも冒頭の1分で決着がついている。尺や演出の工夫がもはや全く効かないということがわかる。

実は同じ演歌でも、三山ひろし、水森かおりの場合は、流出パターンは似ているが、流出量は抑えられた。三山ひろしは1.14%水森かおりが0.91%となっており、1.62%の坂本冬美1.85%の山内惠介2.2%の丘みどりよりは、かなり好成績だ。

三山は恒例のけん玉ギネス記録で紛らわし、視聴者が逃げ出すのを防いだ。水森は歌パートで視聴者がマジックに目を奪われ、流出を忘れさせている。

これでは歌を聞かせようという姿勢ではない。しかも涙ぐましい努力をここまでしても、流出率は平均値に届かない。もはや何のために出演させているのか、わからないと言わざるを得ない。

紅白ベスト/ワーストの法則

流出率ワースト曲は他では、2位のGenerationsが1.9%4位の星野源が1.8%と低迷した。

データだけでは、原因が完全に説明しきれないが、Generationsは19年に全英女子オープンで優勝したゴルファー渋野日向子を絡ませたにもかかわらず、MCの紹介で既に流出が激しかった。しかも冒頭1分で9%近くが逃げた。星野源「Same Thing」も、冒頭1分あまりで12%ほど逃げ、曲の最後まで流出が止まらなかった。

前者は若者の知名度はあったかも知れないが、中高年に馴染みがなさ過ぎたのか、今や40~60歳代でもけっこうザッピングの習慣はある。その層に敬遠された可能性がある。

後者は英語の歌で、やはり馴染みがない。逃げられ方は、ほとんど演歌と同じパターンだった。

以上をまとめると、NHKの貢献度などで出演させたと思われるベテラン歌手は、流出率が高い傾向にある。その際たるものが演歌だ。

例外はある。歌で十分勝負できた石川さゆり「津軽海峡冬景色」で、流出率は0.66%と好成績だった。他は全て平均より悪く、演出で視聴者の目を眩ませられない限り、もはや紅白では生き残れないジャンルと言えよう。

他の歌では、馴染みのない英語の歌などは苦しい。星野源やYOSHIKI feat.KISSのケースだ。音楽の好みは多様化したとはいえ、視聴率40%近くと最大公約数を前提にするのなら、敬遠される曲はマイナス要因となる。

そして好成績の曲をみると、その年に注目された要因をきちんと持っている。加えて親しみやすさや好感度の高さなどが伴う。

「その年に一番ふさわしい歌を聞く」
「大晦日に歌を介して1年を振り返る」

大晦日に放送する特番として、ある意味「当たり前の編集方針」が求められていると言えよう。

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  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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