コロナ報道番組 視聴率分析でわかった「本当の勝ち組」 | FRIDAYデジタル

コロナ報道番組 視聴率分析でわかった「本当の勝ち組」

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新型コロナウイルスが世界で流行。安倍晋三首相の記者会見を撮影するテレビカメラ(2020年3月14日) 写真:AFP/アフロ
新型コロナウイルスが世界で流行。安倍晋三首相の記者会見を撮影するテレビカメラ(2020年3月14日) 写真:AFP/アフロ

出口が見えない新型コロナウイルスの感染拡大。

この足かけ3ヵ月のTV報道を振り返ると、まだ感染を意識しなかった1月、不安が現実になり始めた2月、感染拡大の影響が広がった3月で、ニュースの見られ方が大きく異なった。

しかも全ての報道番組が一律ではなく、番組によって明暗が分かれた。

その要因を、視聴データを基に考えてみた。

テレビ接触率の急増

今年1月23日、中国湖北省武漢で「封鎖」という異例の強硬策が断行された。

それ以前は感染者や死者が急増していたにも関わらず、そのニュースはあまり伝えられていなかった。

1月6日からの3週間、テレビの視聴者数は大きく変化していなかったのである。

ところが「武漢封鎖」以降、テレビの接触率は少しだけ上昇した。

それでも大半の日本人にとっては“対岸の火事”。2月17日の週までは、自分たちの問題と認識する人は少なかったようだ。

しかし2月24日を境に状況は一変する。

日本政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が、「これからの1~2週間が、急速な拡大に進むか収束かの瀬戸際」と公表したからだ。

その2日後、安倍総理は「(大規模イベントについて)今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請する」とした。

さらに2日後、「(全国すべての小中高校について)春休みに入るまで臨時休校とするよう要請」する事態となった。

この週からテレビの接触率は急伸する。

全国約160万台のインターネット接続テレビの視聴ログを分析するインテージ「Media Gauge」によれば、平日24時間の東京での平均接触率は、1月27日からは微増にとどまっていたが、2月24日からは接触率が1%以上増えて、一挙に1割以上もかさ上げされた。

しかも2月25日に小中学校の休業要請に踏み切り、28日には緊急事態宣言をしていた北海道では、東京以上にテレビの接触率は高まった

地域別(北海道、山形、東京、鹿児島)TV総接触率の推移(平日24時間平均)
地域別(北海道、山形、東京、鹿児島)TV総接触率の推移(平日24時間平均)

地域と時間帯でより大きな差

それでもテレビ接触率の動向は、地域差がかなりあった。

3月19日現在で、感染者が一人も確認されていない山形県や鹿児島県では、接触率はあまり大きく増加していない。

ちなみに朝8~10時と、通常なら多くの人が仕事や学校に出かける時間帯で、地域差はより大きくなった。

地域別(北海道、山形、東京、鹿児島)TV総接触率の推移(平日朝8時〜10時の平均)
地域別(北海道、山形、東京、鹿児島)TV総接触率の推移(平日朝8時〜10時の平均)

1月6日からの3週間と2月24日からの3週間を比べると、東京都は2.3%上昇した。北海道では2.8%も上がった。学校が休校となり、在宅勤務も増えたため、午前中にテレビを見る人が増えていたのである。

ところが感染者が確認されていない地域では、様子が異なった。

鹿児島県では、接触率は微増にとどまり、山形県に至ってはほとんど増えなかったのである。

これを時間帯別の変化でみると、差はより明らかになる。

北海道と鹿児島のTV総接触率(平日24時間の推移)
北海道と鹿児島のTV総接触率(平日24時間の推移)

鹿児島県では、中国での感染拡大が伝えられると少し接触率が上昇したが、日本政府の対応でさらに伸びることはなかった。

いっぽう北海道では、中国のニュースでは大きく変化していない。

ところが現実に学校が休校となり、緊急事態宣言が出されると、朝から夜まで接触率は大きく伸びた。

より切迫した地域とそうでないエリアでは、情報を求める状況が大きく異なっていたのである。

ニュースの一人勝ち

米国のトランプ大統領は3月18日、「(自分は)戦時下の大統領」と述べ、事態の深刻さを訴えた。

同じ日にドイツのメルケル首相も、「第2次世界大戦以来」最大の問題に直面しているとした。

日本国内でも、3月になって「国難」という表現が使われるようになった。

こうした緊急事態に直面し、ニュースが圧倒的によく見られるようになった。

例えば夜7時。

NHK『ニュース7』は、1月27日の週から接触率が平均で1%上昇した。そして2月24日の週からは、さらに1%強も上がっている。

他局は基本的にバラエティ番組だ。2月24日で多少上がっている局もあるが、上昇幅は1%未満。やはり上昇分の大半は報道に向かっていた。

時間別 各CH接触率の推移−平日夜7時〜7時半の平均(東京)−
時間別 各CH接触率の推移−平日夜7時〜7時半の平均(東京)−

夜9時も同様だった。

NHK『ニュースウオッチ9』だけが顕著に上昇した。ところがバラエティ番組の多い局は上昇していない。中にはTBSやフジテレビのように、下降気味の局もある。

時間別 各CH接触率の推移−平日夜9時台の平均(東京)−
時間別 各CH接触率の推移−平日夜9時台の平均(東京)−

夜10時台は、テレビ朝日だけがニュースを放送している。

ここでも『報道ステーション』のみ上昇し、他は横ばいあるいは下降気味となった。

ニュースの一人勝ちが、3つの時間帯で確認できる。

時間別 各CH接触率の推移−平日夜10時台の平均(東京)−
時間別 各CH接触率の推移−平日夜10時台の平均(東京)−

ニュース複数時の明暗

ところが夜11時台は、複数局のニュースが激突する。

日本テレビが『news zero』、TBS『NEWS23』、テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』、NHK『ニュースきょう一日』『時論公論』、フジテレビ『FNN Live News α』が並ぶ。

この場合には、同じような報道でも、明暗がはっきりわかれる。

明確に上昇したのは日テレのみ。TBSやテレ東は少し上がっているが、NHKやフジは下降気味だ。

時間別 各CH接触率の推移−平日夜11時台の平均(東京)−
時間別 各CH接触率の推移−平日夜11時台の平均(東京)−

実は夕方6時台も同じような状況だった。

日テレ『news every』、テレ朝『スーパーJチャンネル』、TBS『Nスタ』、フジ『FNN Live News it!』、NHK『首都圏ねーっとワーク』が並ぶが、一番上昇しているのは日テレ。他局は少し上昇、あるいは横ばいにとどまった。

時間別 各CH接触率の推移−平日夕方6時台の平均(東京)−
時間別 各CH接触率の推移−平日夕方6時台の平均(東京)−

同じような現象は、全局が報道でぶつかる特番でもみられていた。

例えば去年4月の新元号特番、5月の改元特番でも、やはり日テレが一番躍進した。

各局の明暗は、番組進行のテンポで別れた。

局の記者やアナウンサーの解説やゲストのコメントが、日テレが一番コンパクトだ。またVTRや中継などでも、最もテンポを意識して構成してある。

要は視聴者が途中で飽きて、チャンネルを変えたりテレビを消したりするのを防ぐように演出されていたのである。

もう1点は、視聴者が知りたいこと、見たいものを“受け手”の側になって提示している点だ。

例えばNHKには、緊急報道の際に多くの人がまずNHKにチャンネルを合わせる。ところが10~20分で他局に移ってしまう人が少なくない。

最大の欠点は、同じ内容を何度も繰り返し、見ている側が飽きてしまう点だ。また行政の代弁と受け取られる報道に終始したり、送り手の論理が前面に出過ぎて、本当に知りたいことを提示してくれないと感ずる点もある。

今回の一連の報道でも、政府の専門家会議に出席する学者が解説することは多くても、異なる立場の専門家が登場することは少ない。

日テレなど民放のニュースと、この辺りが異なる。

2つの特番の違い

直近の例でいえば、3月14日にテレ朝が『池上彰のニュースそうだったのか!!2時間SP』を放送し、2日後にNHKが『新型コロナウイルス いま あなたの不安は何ですか?』を流した。

前者の視聴率は13.2%、後者は9.2%。同じようなテーマでも、視聴者の数は大きく異なった。

前者では、スタジオに専門家は一人も登場しない。

制作陣が事前に取材した内容を、VTRにまとめるか、池上彰が全て一人でコンパクトに解説した。視聴者の聞きたいことは、スタジオのひな壇に並んだ芸能人が代弁した。

一方NHKの特番では、スタジオのひな壇に専門家や記者が並んだ。事前に集められた視聴者の質問はボードに掲示され、それに従って番組は構成された。

両番組で視聴者が受ける印象は、実はかなり異なっていた。

テレ朝の特番では、専門的な解説はVTRやグラフを多用し、わかりやすく簡潔にまとめられている。しかもそこで発生する次の疑問は、スタジオゲストが代弁した。

ところがNHKの特番では、視聴者の質問にスタジオのゲストが答える。

キャスターが追加の質問をするが、視聴者からの距離が遠く感じる。しかも解説は言葉による説明が多いため、抽象性が高くなると同時に、説明が長くなり勝ちだ。

より正確にきちんと伝えようという姿勢と、視聴者に自分事として分かりやすく伝えようという方針の違いが、視聴率の差となった。

新型コロナウイルスの問題は、残念ながら長期化しそうだ。

同じテーマを各局が何ヵ月にもわたって報道するのは、ごく稀な事例となるだろう。各局が競い合う中で、視聴者に支持される報道が、これまで以上に進化することを願ってやまない。

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  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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