キッズファクトリー代表。『石神秀幸ラーメンSELECTION』（双葉社）、『業界最高権威 TRY認定 ラーメン大賞』（講談社）、『ラーメン最強うんちく 石神秀幸』（晋遊舎）、『ソラノイロ 宮﨑千尋のラーメン理論』（柴田書店）などのラーメン本を編集。ラーメンを愛し、「ラーメンの探求マインドは変態であれ、振る舞いは紳士であれ」がモットー。

佐々木 正孝

<h3><span class="strongInContent">日本で生まれた小麦品種「もち小麦」とは…</span></h3>
<p><span class="strongInContent">「この小麦で打った麺の食感は生タコの吸盤のよう！　口中の粘膜と一体化するような食感というか……日本人が好むと言われる麺のもちもち感、その究極を味わえるのが“もち小麦”なんです！」</span></p>
<p>熱く語ってくれたのは東京・駒沢『うどんスナック 松ト麦』店主の井上こんさん。ライターとして活躍していたが、うどん好きが高じて店舗を構え、毎週異なる品種の国産小麦でうどんを打っている。</p>
<p>名うての“うどん変態”も刮目する「もち小麦」。井上さんは&#8217;16年から使い始めたというが、近年は取り入れる飲食店が増えている。特に目立つのはラーメン業界だ。&#8217;22年のTRY（東京ラーメンオブ・ザ・イヤー）では、審査員の総評座談会で「もち小麦入りの麺が増殖中。新店に限らず、名店にももち小麦の波が押し寄せてきています」と言及されたほどだ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>もち小麦の開発秘史、そのエポックメイキングぶりを解説する前に、もち小麦採用店を3連打！　油そば・つけ麺・ラーメンから必食の一杯をセレクトしよう。</p>
<figure id="attachment_318606" aria-describedby="caption-attachment-318606" style="width: 3145px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8a893be9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/98afb8bd59f8e5b4b4aca154bbfff220.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318606" class="wp-caption-text">『うどん手帖 (死ぬまでに一度は食べたい!!全国の名店50+α)』の著書をはじめ、うどん領域でライターとして活躍してきた井上こんさん。うどん・小麦への偏愛から「松ト麦」を開店。うどんのプロデュースやイベントなどで幅広く活躍している</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318607" aria-describedby="caption-attachment-318607" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3610f3b5"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/daa5baeadfe72487a81924e3a8aba8b0.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318607" class="wp-caption-text">&#8217;16年からもち小麦を採用している井上さん。こちらはもち小麦のみで打ったうどん麺。「うどんでは他品種とのブレンドが一般的ですが、もち小麦100％で打った麺の食感は超官能的です！」</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">極太麺をたぐれば、口腔内が「もちもち」で満たされる／MENクライ（浜松町）</span></h3>
<p>まずは、TRY2021年度新人賞「汁なし部門」1位に輝いた「MENクライ」。名店『中華そば 和渦 TOKYO』のネクストブランドとして2021年にオープンした。国産小麦100％使用麺にはもち小麦ブランド「もち姫」をブレンド。醤油・塩をラインナップする「ラーメン」「つけめん」といった主力メニューも強力だが、ここはあえて「油そば」をセレクトしよう。</p>
<p>こちらの油そばは、食感も未体験ゾーン！　創業当初はうどんと見紛うほどに超・極太だった麺は、啜りやすいようにチューング。現在は準・極太といった面持ちだが、箸で運べば口中が「もちもち」の4文字で満たされる、至福のひとときが待つ。不思議なことに、粘度のある食感が前面に出つつ、噛んだり、嚥下したりといったムーブはノンストレス。エアリー寄りのもちもち麺はシュルシュルと胃袋に落ちていく。</p>
<p>上質な背脂と、チャーシュー作成時にとれる豚の燻製油がコクをプラス。濃度ある醤油ダレが極太麺とガシッと絡む。油そばとしてのパンチ力は秀逸だ。220gという麺量ながら、あっという間に完食できるのは間違いなし。もち小麦麺の油そば分野を先導する一品として超おすすめだ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<figure id="attachment_318608" aria-describedby="caption-attachment-318608" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="68526f3b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/90f9eec8b20318774e7a7a0e65e26425.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318608" class="wp-caption-text">「油そば」（900円）。薄切りチャーシューも麺と好マッチング。終盤にはスープを割りスープとして投入し、ひたひたにして味わうもよし</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318609" aria-describedby="caption-attachment-318609" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="66b425b6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/6ff4c31a02eeec219dc41058f3aa608c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318609" class="wp-caption-text">寄ってしげしげ眺めると、平打ちでムッチムチの肌がわかる。これぞ「エロおいしい」麺だ。手切りならではのランダム感が食感にアクセントをつけてくれる</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318610" aria-describedby="caption-attachment-318610" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e646fce8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/f43648f95d7d1eca84e47929bc7f82d1-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318610" class="wp-caption-text">■MENクライ／東京都港区芝1-3-4 山谷ビル1F　営業時間：11:00～14:30、18:00～20:30　定休日：日曜　アクセス：JR山手線ほか浜松町駅より徒歩5分</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="本田麺業 神田（神田）、手打ち 蓮（両国）"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
<h3><span class="strongInContent">名店のつけ麺スピンオフは喉越しともちもちの臨界点を追求／本田麺業 神田（神田）</span></h3>
<p>神田駅前すぐ、都心の立地にありながら製麺スペースを備え、店舗で麺を打つ。超多加水のモッチモチ麺を丁寧に手揉みし、特注釜で一気に茹で上げ！　冷水でしっかり締めて提供。流れるようなフローをオープンキッチンで目の当たりにしたら、もち小麦のつけ麺部門で推す「自家製手揉みつけめん」の登場だ。</p>
<p>TRY名店部門の常連としても知られる『麺処ほん田』の3号店として&#8217;23年1月に見参した『本田麺業 神田』。神田ビジネスパーソンを満足させる上質なつけ麺を提供してきたが、創業4ヵ月で麺を一新。当初はビロンビロン、もち小麦のもちもち感をやや強めに感じたが、バージョン2ではややスリムに調整し、つけ麺の持ち味である「喉越し」を意識させる仕上がりに。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>メニュー「上」には、香ばしい大山どりのローストがトッピングされ、麺と合わせて具材の満足度も高い。小麦麺は歯切れの良さとツルッとした喉越しが身上だが、もち小麦は餅のようなソフト感を併せ持つ。もちもちしながら、スルッと喉を落ちていく――HONDAのつけ麺には絶妙なハイブリッド感がある。スープ割りには山椒・生姜の2種を用意。仕上げまですっきりとつけ汁を味わい、もち小麦麺の余韻を感じたい。</p>
<figure id="attachment_318611" aria-describedby="caption-attachment-318611" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="cc65dcfd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/c1737352ef61728694781fbecbe54611.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318611" class="wp-caption-text">「自家製手揉みつけめん 上」（1400円）。つけ汁には煮豚とメンマ、九条ねぎがイン。麺皿には津軽卵じょっぱり味玉、高級国産海苔、そして大山どりの炙りローストがトッピング。セットメニューとしても完成度が高い</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318612" aria-describedby="caption-attachment-318612" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="376495af"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/a12fdb0037ebe46586e230e3f73a59cc.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318612" class="wp-caption-text">小麦の質感を感じるなら、冷水で締めて提供されるつけ麺がベスト。ぷりぷり手揉み麺はライトヘビーなもちもち感。喉越しも上々だ</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318613" aria-describedby="caption-attachment-318613" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8a723a92"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/4d8d0e8687992b85fda54dd2c483fa37.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318613" class="wp-caption-text">■本田麺業 神田／東京都千代田区内神田3-7-8　営業時間：11:00～22:00　定休日：なし　アクセス：JR山手線ほか神田駅より徒歩1分</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">厚い出汁をフィールドにもちもち麺が躍動する！／手打ち 蓮（両国）</span></h3>
<p>&#8217;22年12月に創業、丁寧な仕事で行列をつくる新鋭だ。店名に「手打ち」と冠している通り、林宏樹店主は小麦粉の水回しから切り出しまでオール手作業で手打ち麺を提供している。小麦粉は北海道産の「和華」と、岩手県産のもち小麦「もち姫」をブレンド。</p>
<p>自慢の手打ち麺に合わせるスープは、数種の煮干しと利尻昆布でとった醤油ダレに醤油7種をブレンドした「半生がえし」を合わせたもの。やさしい口当たりながら、奥行きのある味わいがしみる。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>油そばで麺のテクスチャーをフルに体感するのもいい。つけ麺の喉越しも得難い食体験だ。そして、職人が技巧をこらしたスープと合わせることで、もち小麦麺はまた違ったたたずまいを見せてくれる。芳醇な醤油ラーメン、そして重層的な塩ラーメンでもち小麦の個性をフルに味わおう。</p>
<figure id="attachment_318614" aria-describedby="caption-attachment-318614" style="width: 2788px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="22b28625"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/a09048df6d61b4f2107274fb344b4a40.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318614" class="wp-caption-text">「醤油ら～麺」（880円）。なるとがちょこんと乗ったクラシカルな見た目が食欲をそそる。大ぶりのチャーシューの下には魅惑の麺がたゆたう</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318615" aria-describedby="caption-attachment-318615" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8d06a5a8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/88c376edec31c46a9095993c14614eab.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318615" class="wp-caption-text">ファーストインパクトはソフトだが、噛みしめると適度な歯ごたえを返してくれる。すすりともぐもぐ噛みをループしたい無限麺だ</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318616" aria-describedby="caption-attachment-318616" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7c2fff68"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/b100e9abb9311e2aa4e333ab151a654b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318616" class="wp-caption-text">加水率（小麦粉に対する水の割合）は43％前後、季節や湿度によって微調整しており、常に最適な「もちもち」「つるるん」な食感を目指している</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318617" aria-describedby="caption-attachment-318617" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c914e517"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/7567fed392b3194d367205f12c6f6485-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318617" class="wp-caption-text">店内にしつらえられた製麺スペース。製麺機を使わず、すべて手作業で打ち、茹でる前には丁寧に手揉みして麺にウェーブをつける</figcaption></figure>
<div class="expapp-no-provided-scope expapp-no-provided-scope-start"></div>
<p>■手打ち 蓮／東京都墨田区千歳3-16-2 リブリ・イースター菊川1F　営業時間：11:30～14:30（LO）、18:00～20:00（LO）　※日曜・祝日は昼のみ　定休日：月曜・金曜　アクセス：JR総武線ほか両国駅より徒歩8分、都営新宿線・大江戸線森下駅より徒歩6分</p>
<div class="expapp-no-provided-scope expapp-no-provided-scope-end"></div>
<div data-friday-nextpage-lead="「もち小麦」、その開発秘史とは…"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
<h3><span class="strongInContent">日本で誕生した「もち小麦」、その開発秘史とは…</span></h3>
<p>必食のもち小麦麺を取り上げてきたが、もち小麦とはどんな特性を持つのか？　そしていかにして生まれたのか？　再び井上こんさんにご登場いただこう。</p>
<p><span class="strongInContent">「うどんやラーメンなどの麺のもちもち感って、小麦が持つ遺伝子によるんです。A、B、Dの3種のWx（ワキシー）遺伝子が働かない場合、もち小麦になります。この3つの遺伝子を働かなくすることは実に困難だったようです。開発は世界中で行われてきましたが、放射線や化学物質などを用いても、なかなか成功に結びつきませんでした」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>米や大麦、トウモロコシ、粟などイネ科の作物には「もち米」や「もち麦（もち大麦）」といったように、「もち」品種がある。ところが、小麦は近年になるまで「もち」小麦がなかったのだ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p><span class="strongInContent">「農研機構東北農業研究センターの研究者たちが奮闘を重ね、開発に成功したのは&#8217;95年のこと。この取り組みは世界的にも評価され、アメリカ農務省のクレイグ・モリス博士が『小麦栽培8000年（の歴史）の中で2番目に大きなできごと』と評価したほどでした』</span></p>
<p>ちなみに、小麦栽培史で「1番目に大きなできごと」とは、食料危機から世界を救った「緑の革命」の礎となった小麦農林10号の開発。収穫量の大幅アップを実現し、ノーベル平和賞受賞にもつながった。不可能とも言われたもち小麦の発明は、そんな大発明に次ぐ画期的なできごとだという。</p>
<p>そして、もち小麦は開発から約30年を経て麺料理の最前線に到達する。ラーメン店では&#8217;18年に創業した『純手打ち 麺と未来』（下北沢）が火付け役になり、『饗 くろ㐂』（浅草橋）や『ソラノイロ』（麹町）といった名店も着目した。業界のメガトレンドとして手打ち麺・手揉み麺に注目が集まる中、採用店がじわじわ増加。油そば・つけ麺・ラーメンの麺となり、我々の口中粘膜を喜ばせてくれている。</p>
<p>スープの開発が臨界点に達しつつある中、麺の噛みごたえや食感を追求し、丼の完成度を高めようとする職人の挑戦はやむことがない。そこでは、井上さんが「エクストリームもちもち」と評するもち小麦麺は強力な武器になるだろう。今後もさらなる普及、麺のブラッシュアップに期待したい！</p>
<p><span class="strongInContent">「もち小麦のポイントは食感だけではありません。茹で時間が短くなったり、ちょっとした茹で置きにも強いのでロスが少なくなったり、厨房のオペレーションにメリットをもたらす特徴もあります。一時のトレンドとして消費されるのではなく、特性がきちんと伝わり、さらに普及することを願ってやみません」（井上さん）</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>


佐々木正孝

もっちもちムチムチ「もち小麦」麺がラーメンシーンで盛り上がっている。そこで、油そば・つけ麺・ラーメンのジャンルから推しメニューを紹介しつつ、日本農学の先端と職人の奮闘から生まれた新麺の魅力を紹介。

「小麦史8000年2番目に大きなできごと」…話題の” もち小麦”ラーメン、究極もちもち感を味わう

あなたへのオススメ