アカデミー主演賞! ホアキン・フェニックスの怪優ストーリー
「鉄板」とは言われていたが、サプライズが絶対にないとは限らない…。しかし第92回アカデミー賞で主演男優賞を獲得したのは、やはりこの男、ホアキン・フェニックスだった。
ホアキンは「悪もしてきた、利己主義だった、残酷だった、仕事のしにくい人間だった。そんな自分にセカンドチャンスをくれてありがとう」と謝意を示した。
思い返せば、ホアキンが“ジョーカー”役の交渉に入ったと報じられたころから、「ハマり役」の呼び声も高かった。
ご存知の通り、「バットマン」の宿敵であるジョーカーは、最凶・最強の悪役でありながら、ぶっちぎりの人気を誇るキャラクターだ。実写映画ではホアキン以前に、3人の俳優たちが怪演を見せたことで知られる。
『バットマン』(1989年)のジャック・ニコルソン、『ダークナイト』(08年)でヒース・レジャー、『スーサイド・スクワッド』(16年)のジャレッド・レト。とくに『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じたジョーカーは、ヒースの熱演と作品公開前の急逝とが相まって、非常に高い評価を受けることになった。
そんなわけで、大人気のキャラクターだからこそファンの期待も高く、ジョーカー主体の作品となればなおさら、“ベン・アフレックによるバットマン”であってはならなかった。
ここで、ホアキンの素顔に触れておきたいと思う。
新興宗教にはまったヒッピーの両親に育てられ、幼いころから筋金入りのヴィーガンとして生活している。食事にとどまらず、身に着けるものまで、動物由来の素材は使わない。
環境活動家でもあり、つい先日、現地時間の1月10日に、気候変動デモに参加して逮捕されたばかりだ。
若くしてこの世を去った俳優リヴァー・フェニックスの実弟であり、その最愛の兄を目の前で亡くすという強烈な体験から、一時は引きこもり状態になった。
ドン底の状態から抜け出せたのは、俳優業のおかげだ。兄の死後、ブランクを経て映画の仕事を再開すると、その高い演技力で爪痕を残していく。
『グラディエーター』(2000年)の若き皇帝コモドゥス役や『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005年)のカントリー・ミュージシャン、ジョニー・キャッシュ役、『ザ・マスター』(2012年)の青年フレディ・クエル役、さらには『ビューティフル・デイ』(2017年)の元FBI捜査官ジョー役はとくに高評価を得て、権威ある映画賞の俳優賞を授かっている。
こうして正統派な作品で確かな演技力を認められる一方で、本人役で主演した『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年)のため、映画の撮影であることを伏せて2年にわたり奇行を繰り返すなど、実験的な作品にも積極的だ。
役作りのためなら、風貌を大きく変えることも厭わず、『ジョーカー』でもわずかな期間で23キロの減量を達成したことが大きな話題になった。厳しい食事制限による飢餓状態で「気が狂いそうだった」そう。
とはいえ、役にのめりすぎたり、引きずったりすることはないのだという。『ジョーカー』の撮影中も、「カメラがまわっていないときはアーサー(ジョーカー)から素顔のホアキンに戻っていた」と、監督のトッド・フィリップスは語る。
ゴールデン・グローブ賞、全米映画俳優組合賞(SAGアワード)、英国アカデミー賞(BAFTA)、放送映画批評家協会賞(クリティクス・チョイス・アワード)、全米製作者組合賞(PGAアワード)でも、主演男優賞に輝いたホアキンのアーサー。
“ジョーカー”役とホアキンが演じる役柄、その両方のハードルが、ますます上がった。
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- 文:原西香
(はら あきか)海外セレブ情報誌を10年ほど編集・執筆。休刊後、フリーランスライターとして、セレブまわりなどを執筆中