夏も冬も窓が開いたままに?「電車の空調」コロナ対応でどうなる 

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西武鉄道「小手指 車両基地」(埼玉県所沢市)では新型コロナウイルスの蔓延を防ぐために車両を消毒。車窓も開けている。  2020年5月15日  写真:AFP/アフロ

緊急事態宣言が全国で解除された。日本国内で新型コロナウイルスが感染拡大を始めてから3ヵ月が経過し、この間に季節は冬から春へと移り、間もなく暑い夏を迎えようとしている。すでに東京では5月前半だけで最高気温25度を超える「夏日」を10回も記録するなど、早くも猛暑の到来を予感させている。

一部には、気温の上昇とともに「新型コロナウイルスの活動が停滞するのではないか」という期待も見られるが、赤道直下の国々でも感染が拡大している状況を見る限りでは、それは楽観論に過ぎないようだ。私たちは猛暑の中でも、新型コロナウイルスとの戦いを続けていかねばならないらしい。

そうなると、気になってくるのは夏季の通勤電車の冷房事情である。

まずは鉄道の冷房化の歴史を簡単に振り返ろう。古くは戦前に南海電鉄が一部の車両に試験的に冷房を導入したという事例があるが、これは戦争の影響によりわずか2シーズンで取りやめとなった。鉄道車両の本格的な冷房化は1950年代から1960年代にかけて特急車両や新幹線車両から再開され、通勤電車への普及はさらに10年ほど待たねばならなかった。

首都圏の鉄道会社は1970年代に入って車内の冷房化に着手し、1980年代末から1990年代初頭にかけて冷房化を完了した。冷房機の排熱でトンネル内の気温上昇を防ぐために車両の冷房化が遅れた地下鉄でも1996年までに完全冷房化を達成している。

冷房化が達成される前までは、冷房が搭載されていない車両では、人々は窓を開けて外気を取り込むとともに、車内に設置された扇風機でわずかばかりの涼をとっていた。今となっては想像もつかない光景だろう。

電車の車内で冷房が効いているのは、あたりまえのことになった。鉄道各社は新型車両の導入にあわせて順次、冷房能力を強化しており、満員電車でも冷房が足りないという状況は少なくなっている。

近年は夏季の平均気温が上昇しており、毎年のように「酷暑」と呼ばれる暑い夏がやってくる。冷房無しで過ごした場合、熱中症になるリスクが高まると警告されており、もはや私たちの生活は冷房抜きには成り立たないのが実情だ。

そして新型コロナウイルスの時代。

JR東日本や東急電鉄、東京メトロなど首都圏の鉄道各社は現在、ウイルスの感染拡大の原因のひとつとなりうる「密閉」を防ぐため、窓を開けられる電車については窓を開けたまま運行を続けている。

空調装置等により機械的な換気が可能な車両についても、車庫にいる時から電車の窓を開けておき、終電まで窓を開けたまま列車を運行しており、利用者は必要に応じて窓を閉めることができるが、折返し運転時など、乗務員が車内を見回る際に閉じている窓を開けて、できる限り換気を維持する対応をとっている。

鉄道の業界団体「鉄道連絡会」は5月14日、鉄道における新型コロナウイルスの感染防止対策をまとめたガイドライン(鉄軌道事業における新型コロナウイルス感染症対策に関するガイドライン第1版)を策定した。

ここでは「密閉」対策として、車内換気の実施が励行されており、「空調装置等による換気が可能な車両については、当該装置の機能を用いて適切に換気を実施する」とともに「それ以外の車両については、窓を開けることを含めて適切に換気を実施する」としている。

「鉄軌道事業における新型コロナウイルス感染症対策に関するガイドライン第1版」 を読む(PDFが開きます)

これだけ読むと、換気機能を持つ空調装置を搭載しない車両に限って、窓を開けて換気を実施するように読めるが、前出の首都圏の鉄道各社は筆者の取材に対し、

「ガイドライン制定後も出来る限り全ての車両で窓をあけたまま運行する対応を継続する」と回答している。すでに気温が上昇した場合、冷房を実施している路線も多いが、その場合も窓を開けたまま冷房をかけているそうだ。

ただ、猛暑への対応についてはまだ結論を出せずにいるのが実情のようだ。

新型コロナウイルスの感染拡大がいつごろまで続くのか、収束のメドは全くたっていない。緊急事態宣言下では、通常時よりも70~80%減の乗車率とされる通勤電車の乗客が、いつ、どれだけ戻って来るのかも見通しは立っていない。現時点で夏の対応を決めることはできないというのが各社に共通したスタンスだ。

何よりもまず、乗客の安全が第一であり、新型コロナウイルス感染拡大を防止するためには、窓を開けたままの運行を取りやめるわけにはいかない。感染がある程度収まり、ワクチンや治療薬などの対応策の見通しが立つまでは、電車の窓は夏も冬も開いたままだと考えた方がよいだろう。

ただし、夏の前に訪れる梅雨や、夏の集中豪雨の場合、窓を開けたままにしておくと車内に雨が吹き込んでしまうので、必要に応じて窓を閉めるということは十分に考えられる。窓を閉めたとしても機械式の空調装置が車内の換気を行っており、また駅に停車するたびにドアが開くことから、ただちに「密閉」した空間になるということはない。

おそらくマスクを着用したまま電車に乗ることになる夏季に、ムリに窓を開けたままにすることで熱中症を招いてしまっては、医療体制に悪影響を与えるだけだから、必要に応じて窓を閉めるという選択肢もあって然るべきだろう。これらのさじ加減と社会的な合意は、これから調整を進めなければならない新しい課題となる。

いずれにしても、今年の夏は例年以上に憂鬱な季節となりそうだ。

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  • 枝久保達也

    (鉄道ジャーナリスト)埼玉県出身。1982年生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)に11年勤務した後、2017年に独立。東京圏の都市交通を中心に各種媒体で執筆をしている。

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